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利子所得税の効果
公共経済論 I
no.4
麻生良文
内容
• 貯蓄の決定モデル
– 2期間モデル
– 利子率の変化
• 所得効果と代替効果
• 労働所得の経路
– 他のモデル
• 利子課税の効果
– 利子課税の死重損失
• 企業段階での課税の効果
– 投資の決定
– 企業段階での課税
利子所得税の効果
• 貯蓄の決定モデル
– ライフサイクル仮説
• 老後のための貯蓄
• 恒常所得仮説
– 予備的動機
• 所得の不確実性
– 遺産動機
– ここでは,ライフサイクル・モデルを考える
• 利子所得税の効果
– 家計の直面する利子率の変化の効果
– 資本所得に対する課税
• 企業段階での課税(法人税)
貯蓄の決定モデル
C1,C2 第1期,第2期の消費
2期間モデル
W1,W2 第1期,第2期の労働所
得(外生)
効用関数
U (C1 , C2 )
各期の予算制約
S:第1期の貯蓄, r:利子率
生涯の予算制約
C1  S  W1
C2  W2  (1  r ) S
C1 
C2
W
 W1  2
1 r
1 r
生涯の予算制約のもとで効用関数を最大にするようにC1,C2を選ぶ
S=W1-C1で決定
消費・貯蓄生涯所得,利子率に依存
貯蓄の決定モデル(2)
C2
max U (C1 , C2 )
s.t. C1 
C2
W
 W1  2
1 r
1 r
E
C2*
W2
W
1+r
S
C1*
u0
W1
C1
利子率の変化と予算線
利子率の上昇
予算線は点Wを中心に右回りに回転
利子率の下落
予算線は点Wを中心に左回りに回転
C2
利子率の上昇
利子率上昇は代替効果と所得効果をもたらす
利子率上昇の代替効果予算線の傾きが急
に C2が相対的に割安
利子率の低下
現実の世界では流動性制
約が重要かもしれない
点Wで屈折する予算線
W2
W
W1
C1
利子率の変化と予算線(2)
利子率上昇の効果と所得経路
C2
点Wが所得の経路を表す
F
W2がW1に比べて大きいとき
利子率の上昇はマイナスの所得効果
をもたらす
将来の所得をあてに借金をすることが
困難になる借金は大きく減少
Case A
E
W
C2
W
W2=0,またはW2が少ないとき,
C1
利子率の上昇はプラスの所得効果を
もたらす
所得効果,代替効果はC1を増加させる
教科書の2期間モデルの通常の想定
利子率の変化が貯蓄に与える効果は0に近
い?
F
E
Case B
C1
所得効果と代替効果
利子率上昇の効果
Case A
C1
所得効
果
総合
-
+
?
どちらの場合でも代替効果は同じ
所得効果がプラスになるかマイナス
になるかの違い
Case B:借金をする場合
C2
+
+
+
S
+
-
?
Case B
C1
C2
S
Case A: 貯蓄をする場合
代替効
果
代替効
果
所得効
果
総合
+
+
+
?
+
Case B(借金をする場合)では利子
率の上昇によって貯蓄が増加する
(借金が減る)
現実の世界での若年者将来の労
働所得が多CaseBに相当
多期間モデルで考えると,CaseBの
人やCaseAの人(高齢者)が混在し
て,マクロ的貯蓄が決定される
利子所得税の効果(1)
C2
課税前の予算線
課税後の予算線
W2
借金の利払いが課税ベースから控除される場合
借金の利払いが課税ベースから
控除されない場合
1+(1-t)r
W
W1
C1
利子所得税の死重損失
ここではW2=0を仮定
利子所得税の導入
C2
G点が選択される
効用水準はu1に低下
課税前の予算線
IGだけの税収
一括税の税収
H
課税前の均衡
E
I
F
課税後の予算線
死重損失
O
歪みのない一括税を用いる
と
課税後の効用水準がu1にな
るような一括税導入
利子所得税
の税収
G
F点が選択される
HFだけの税収
u0
J
u1
利子所得税のもとで,
GJ=HF–IG だけの税収がっ
社会から失われたと考えら
れるーー>死重損失
C1
W
投資
• 投資の決定
• MPK=c
– MPK:資本の限界生産物
– c:資本コスト(資本1単位あたり賃貸費
用)
MPK
資本コスト
• I=K*(MPK,c)−(1 − d)K-1
• 資本コスト c=q(r+d)
– q:資本財の価格(生産物価格を1とした
場合), r:利子率,d:資本減耗率
•
c
資本ストックの水準の調整費用の存在
– 急激に投資を増やすと余分に費用がか
かる
– 調整費用を明示的に考慮したモデル
MPK
K*
K
資本所得課税の効果
家計の受取利子
• 企業の支払った利子(資本所
得)と家計が最終的に受け取る
利子の間にどれだけ「くさび」が
打ち込まれるかが重要
(1-t)r1
r0
• 家計段階での課税
• 企業段階での課税
r1
• 投資優遇税制が存在すると,
家計段階での課税の効果を打 (1-t)r0
ち消して投資=貯蓄促進的にな
る場合もある。
– ただし,投資促進的な優遇税制は,
異なる産業に異なる影響を与える
場合が多い非効率性
S
E
F
t
I
I’
貯蓄,投資
課税の長期的な効果
• 利子課税の死重損失
– 現在の消費と将来の消費の組合わせについての資源配
分上の損失
– 貯蓄が変化すると,投資が変化して将来の資本ストック
が変化する将来の生産に影響を与える
– 資本蓄積の変化を通じた効果の方がはるかに重要
– 一般的には,貯蓄の増加が将来の産出量の増加をもた
らす
• 所得税,労働所得税,支出税の比較の際にもマクロ的
貯蓄の変化を通じた資本蓄積への影響を議論すること
が重要