日本語學文獻選讀 (大学院) 5月31日(月・一)~ 担当 神作晋一 1 社会言語学 ここでは、「社会言語学」にかかわる ことがらについて検討したいと思い ます。 2 荻野綱男編(2007)『現代日本 語学入門』 P.180~195 1 社会言語学とは 2 言語の多様性 1-1 社会言語学とは/1-2 社会言語学の 研究領域/1-3 研究の内容/1-4 社会言 語学の視点 2-1 社会階層とことば/2-2 性差とことば 3 言語と社会活動 3-1 対人関係認識と丁寧さ/3-2 敬語とポ ライトネス/3-3 発話行為と対人配慮/3-4 言外の意味と丁寧さ 3 社会言語学とは 1-1 1-2 1-3 1-4 社会言語学とは 社会言語学の研究領域 研究の内容 社会言語学の視点 4 1-1 社会言語学とは 社会言語学:言語が実際の社会において 具体的ににどう使われているかを探ろうと する学問 個人やその所属する集団の言語運用や言語 現象を社会とのかかわりでとらえる. 5 1-1 社会言語学とは 従来、言語そのものを純粋に取り出し、分 野(文法、意味、語彙、音韻など)に分けて 研究 ⇒言語の成立や使用に社会や文化の影響 が見られるのは当然 ⇒社会や文化に眼差しを向けた研究の深 化が期待される 6 1-2 社会言語学の研究領域 言語研究のあらゆる分野( ⇒社会とのかか わりを分析に) ⇒社会言語学になりうる 研究者や立場によって(社会言語学の)範囲 の設定は異なる ⇒欧米と日本ではこれまた違う ⇒日本と台湾でも違う 7 1-2 社会言語学の研究領域 8 1-2 社会言語学の研究領域 複数言語使用 ピジン: クレオール 商業取引のための伝達手段として簡略化された 補助言語 複数の言語が接触したときの中間言語が、その 地域の母語となったもの 言語選択 言語維持と消滅 9 1-2 社会言語学の研究領域 語用論: 言葉の民族誌 コンテキストに左右された発話文を扱う(文字通 りではない言語) ethnography 文化・社会における言語の規範・ 規則 会話分析 複数の参与者の中で行われる発話の機能・しく み社会的相互作用 10 1-3 研究の内容 1)方法論 通時的研究:歴史的なもの 共時的研究:ある時代だけ 静的アプローチ: 例:言語使用者の使い分け・意識 動的アプローチ ソシュール 例:場面や相手との相互作用で調整・変化させる 例:仮説検証型と探索型 11 1-3 研究の内容 2)言語変種 地域、年齢、性、社会階層、職業 例:方言、男女差、言葉遣いの階層差 12 1-3 研究の内容 3)言語行動 場面(相手、場所、話題) 相手の反応により使い分けが変化 例:相手との上下関係や親疎関係、心理的な条 件、メディア(電話、メール、手紙など) 例:会話におけるあいづちや繰り返しなど コミュニケーションストラテジー 13 1-3 研究の内容 4)言語生活 生活の中で用いられる言葉の姿や働きを考 える 生活環境の変化 一日の生活時間の中でどこでどのように使用さ れるか 『言語生活』 14 1-3 研究の内容 5)言語接触 異言語間の接触(方言等も含む) 方言使用者と共通語話者との接触 テレビやマスメディアの影響による話者の変化 外来語の使用量や内容 日本でも異言語間の接触 留学生、駐在員、外国人定住者 15 1-3 研究の内容 6)言語変化 言語の変遷を通時的に捉える 方言使用者の(共通語との接触などによる)新たな 言語形式の獲得 外国人定住者・日本人の海外定住者の母語の変 化 母語の保持・継承 例:ブラジルの日系人 16 1-3 研究の内容 7)言語意識 自己や他人の言葉についてのイメージや意識 方言についての意識(劣等意識、愛着、誇り) アイデンティティの問題 差別語:その内容 17 1-3 研究の内容 8)言語習得 第一言語(母語)習得と第二言語の習得過程 の違い 中間言語(目標言語習得過程の言語) 語用論的能力 (文法ルールを越えた使い方) 言語文化的能力 (社会文化を解釈する能力) 18 1-3 研究の内容 9)言語計画 言葉についての人為的な計画 例:国語国字問題、言文一致の推進や標準語の 普及、戦前戦中の海外での日本語普及(大東亜 共栄圏) 例:日本語の使用における将来の計画(敬語の指 針、外来語など) 例:海外や在留の外国人に対する日本語教育の 普及 コースデザイン 19 1-4 社会言語学の視点 言葉の使い方が社会・文化のどの側面と の関係で変化するかを探る 例:話し手が聞き手との関係で話し方を変える 例:同じ相手でも場面で変わる ⇒何らかの基準がある 20 1-4 社会言語学の視点 21 1-4 社会言語学の視点 言語の多様性 ことなる言語がある中での変化や変容 言語と社会活動 マクロな研究:言語生活、言語政策、国字問 題、社会的な動きと関係を持つもの ミクロな研究:人間関係調整(例:敬語、前置き表 現など)や社会規範(例:手紙文の形式)に則った 言語行動 22 言語変種 言語のバラエティ 2.言語の多様性 2-1 社会階層と言葉 2-2 性差とことば 23 2-1 社会階層とことば 社会階層と言語使用 例:ウイリアム・ラボフ(William Labov) 母音直後の〔r〕を発音することが社会的に高 い評価 三種(上層階級、中層階級、下層階級)のデ パートで商品の売場を聞く 24 2-1 社会階層とことば 25 2-1 社会階層とことば 26 2-1 社会階層とことば 27 2-1 社会階層とことば 考察 2度目に入念に発音したときに〔r〕の発音が増える 特に中層階級向けデパートにその上昇 中間層が発音にもっとも敏感 ラボフの研究 アメリカ社会言語学の記念碑的研究 研究方法の確立と発展に大きく寄与 28 2-2 性差とことば 日本語と性差 ジェンダーgender 例:「女房詞」: 例:「郭詞」: 語彙や表現、特殊な環境の女性語 社会文化的な役割、不平等をなくす 男女の差はなくなっているといわれるが… 29 2-2 性差とことば 30 2-2 性差とことば 相対的性差(bodine、1975) どちらか一方に比較的多く使われる 絶対的性差 文末詞「~ぜ」「~ぞ」「~よ」などは男性専用 31 2-2 性差とことば 32 2-2 性差とことば 話し方や会話スタイルのような談話レベル 例:タネン(1992) 男女の話し方の傾向 レポート・トーク(report talk) 公的な場面に代表される話し方 ラポール・トーク(rapport talk) 私的なおしゃべりのように相手のとの調和を重ん ずる話し方 33 2-2 性差とことば どちらが優れているというものではない. (しかし)相互の誤解がもたらされる場合もあ る。 その他の言語変種の研究 若者語、流行語、集団語など 34 3.言語と社会活動 3-1 3-2 3-3 3-4 対人関係認識と丁寧さ 敬語とポライトネス 発話行為と対人配慮 言外の意味と丁寧さ 35 3.言語と社会活動 コミュニケーション 話し手/書き手 と 聞き手/読み手 との間 のやり取りの往還(相互行為)を通して成り立 つ 場面と相手の反応 社会的文化的規範 言語形式以外のさまざまな知識や能力 36 3-1 対人関係認識と丁寧さ 杉戸(1983)メタ言語表現: 自己の言語行動に評価的な言及を行うこと 例:「本来ならばお目にかかって申し上げると ころ、お電話で…」(接触の仕方の不適切) 例「このような席でごあいさつするのはまこと に僭越せんえつでございますが…」(自己の立 場・能力の不適切) 何に配慮すべきと考えていることがわかる 37 3-1 対人関係認識と丁寧さ 丁寧さ(対人関係で重視) 敬語以外 例:「今日はちょっと…」「とっても悪いんだけど …」 例:敬語使用を減らして近づけること 例:敬語使用を続けることで距離を保つ(慇懃 無礼) 対人関係調整のためのストラテジー(言語 使用の方略)としての視点 38 3-2 敬語とポライトネス ポライトネス(politeness) ブラウン&レビンソン(1987) ポジティブ・フェイス(positive face) 他者と親しくなりたい、認められたい ポジティブ・ポライトネス ネガティブ・フェイス(negative face) 他人に邪魔されたくない、立ち入られたくない ネガティブ・ポライトネス 39 3-2 敬語とポライトネス 人間の相互行為の中で常に脅かされる危険 性を持つ フェイス侵害行為(Face Threatening Act,F TA) 40 3-2 敬語とポライトネス 41 3-2 敬語とポライトネス FTAは①が最も強く④が最も弱い. 例〈部屋を散らかしている子どもとそれを片付 けてほしい親〉 ①「片付けなさい!」 ②「いっしょに片付けようか」 ③「時間ができたら一緒にかたづけようか」 ④「最近忙しそうだね」 ⑤しない 42 3-2 敬語とポライトネス ポライトネス行動は親子や友人でもある. 敬語のような上下関係・親疎関係の尺度と は異なる ポジティブ・ポライトネス 「連帯志向への配慮」 近づく ネガティブ・ポライトネス 「距離志向への配慮」 距離を保つ 43 3-3 発話行為と対人配慮 言語行動と目的 「行為」:実質行動 オースチン(Austin1962) 「発話行為」(speech act)ことばを使って達成され る行為) 例「今何時ですか」(質問)←疑問の終助詞 44 3-3 発話行為と対人配慮 同じ疑問文だが… 「間接発話行為」(indirect speech act )文法形 式と発話の意図が異なり、間接的に行為を達成 するような発話行為 例「ペン、貸してくれる?」 ←疑問 <依頼> 例「~を食べませんか」←疑問(否定+か) <勧誘> 例「すみません」←心が澄まない <謝罪> 45 3-3 発話行為と対人配慮 同じ疑問文だが… 「間接発話行為」(indirect speech act )文法形 式と発話の意図が異なり、間接的に行為を達成 するような発話行為 例「ペン、貸してくれる?」 ←疑問 <依頼> 例「~を食べませんか」←疑問(否定+か) <勧誘> 例「すみません」←心が澄まない <謝罪> 46 3-3 発話行為と対人配慮 「間接発話行為」とポライトネス 発話を丁寧にするだけではない 間接発話行為による目的の達成⇒相手のフェイスを 脅かす行為を回避 例:目上の人の荷物を持つ(恩を売る?) 例:荷物をお持ちしましょうか⇒相手の意思を聞く 例「お荷物をお持ちします」⇒自分の意志を述べる ⇒相手の心理的負担を軽減 ネガティブ・ポライトネスのストラテジー 47 3-4 言外の意味と丁寧さ グライス(Grice1975):協調の原理 ①量の公理:Quality ②質の公理:Quantity 真実でないこと、十分な証拠がないことは言わない ③関係の公理:Relation 必要とされる情報を与え、必要以上にはいわない 関連のないことは言わない ④様態の公理:Manner 不明確、曖昧な表現を避け簡潔で順序だてた話し 方をする。 48 3-4 言外の意味と丁寧さ 上司「今日の帰り、一杯どう? 部下「はあ、今日は妻の誕生日なので…」 ①量×:情報が十分でない ②質○:うそは言っていない ※断るためのうそかもしれないが… ③関係×:上司の質問との関連がない ④様態×:不明確 ⇒「協調の原理」に違反する行為が頻発 49 3-4 言外の意味と丁寧さ 上司「今日の帰り、一杯どう? 部下「(Y)はい、お供します」 部下「(N)申し訳ないですが、今日は無理で す」⇒直接的で失礼と感じられる 相手への配慮・丁寧さ > 協調の原理 部下「はあ、今日は妻の誕生日なので…」 ⇒繰り返し使われることで、社会的に慣用化され、 共有された表現となる 50 3-4 言外の意味と丁寧さ 日本語:言外の意味の解釈を相手に委ねる 表現が多い 慣用化された間接的な表現や含意を整理・ 分析 ⇒日本語社会とことばの相互的な影響関係 がわかる。 51 3-4 言外の意味と丁寧さ 影響関係の種類や関係は、社会ごとに異なる ⇒自文化では当然でも他文化では通じないこ ともある。(国、地域、特定の集団など) 他言語との比較で初めて、(日本語の)社会と 言語の関係がわかってくることもある。 52
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