消費者の立場から見た 日本の食糧問題と憲法9条の価値 2008年12月7日 駒澤大学 姉歯 暁 日本の農と食 農・・・輸入増加と生産基盤の衰退 食料・・・食の安全・安定供給(食糧主権) の危機 経済効率と生活・環境問題との対立 国内生産基盤は脆弱 ①農家戸数の減少:265万戸(H7)から196万戸(H17)へ ②基幹的農業従事者の高齢化:65歳以上が57%へ 食料自給率は最低 食料輸入は世界一 自給率は30%台へ ―1億人を超える国の中で最低の自給率 2%の人口で主要食料の10%を輸入 日本は貿易黒字国。農産物はずっと赤字 2006年度の輸入は3410万トン。 うち、農産食品・農産加工食品が7割を占める 日本の農業政策の基本と日米関係 農業政策は生贄(いけにえ)の羊 日本の社会・経済政策は輸出型工業中心 国内農業も大切 ・・・とはいえ、どこまで守りきれるのか? 対処療法になりやすい我が国の農業政策 日本の社会・経済政策は輸出型工業中 心 日米両国の輸入における両者の位置;アメリカは日本の製造業に とって一番のお得意様 (アメリカの輸入上位100品目中、日本が第一位に位置する品 目と占有率) (2007年3月累計) 当国順 位 品目名 3 乗用車(ガソリンエンジン、1500cc超3000cc以下) 31.80% 19 プリンタ・複写機・ファクシミリの部分品・付属品 40.70% 31 テレビジョンカメラ・デジタルカメラ・ビデオカメラレコーダー 39.90% 35 その他の飛行機・ヘリコプターの部品 26.20% 40 ギヤボックス及びその部分品 46.50% 47 乗用車(ガソリンエンジン、1000cc超1500cc以下) 99.90% 日本が1~3位: 31/100品目 (日本の輸入上位100品目中、アメリカが第1位に位置する品目と占有率) 当国順位 品目名 7 その他のIC・LSI 28.10% 17 飛行機(自重15000kg超) 86.40% 20 播種用以外のとうもろこし 94.70% 24 紙巻たばこ(たばこを含有するもの) 81.80% 36 ターボジェット・ターボプロペラの部品 87.20% 42 その他の電気機器(固有の機能を有するもの) 36.30% 44 半導体デバイス又は集積回路製造用の機器 75.70% 49 大豆 79.40% 50 メスリン、その他の小麦 60.50% 51 その他の針・カテーテル・カニューレ等 52.30% 54 けい素(けい素の含有量が99.9%以上のもの) 59.30% 57 その他の飛行機・ヘリコプターの部品 85.20% 61 ターボジェット(推力25kニュートン超) 96.60% 76 血液分画物及び変性免疫産品 42.90% 80 外科用の機器等 43.30% 81 濃縮ウラン、プルトニウム、それらの合金 74.60% 82 元素を電子工業用にドープ処理したもの(円盤状、ウェハー状) 20.40% 84 豚の枝肉・骨付き以外の肉(生鮮・冷蔵のもの) 68.60% 90 その他の機械(固有の機能を有するもの) 21.30% 出所:JETRO貿易統計データベース,http://www3.jetro.go.jp/cgibin/nats/cgibin/search.cgi ア メ リ カ が 一 ~ 三 位 ・ ・ ・ 五 二 品 目 そして、軍事条約の存在が自給率を低下させた。 MSA協定 ★ 1953年 池田・ロバートソン会談 「再軍備の援助を受けることと引き換えに愛国心・自衛のため の自発的な精神を成長させる教育をすすめる ★ 1954年 MSA協定調印 余剰農産物の解決+軍事戦略の貫徹 「防衛予算だけが増え、農林水産関係予算が大幅削減」 「安い小麦が入ってくるーパン食の定着」 「アメリカの余剰農産物と競合しないものだけをつくれ」 「アメリカ産小麦などの販売代金を積み立て軍備増強を」 「学校給食法(1954年)+キッチンカーで日本の食生活大転換 を図る」 日米安保条約 第二条(経済的協力の促進) 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、こ れらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、 並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和 的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国 は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、 また、両国の間の経済的協力を促進する。 国家の基本 1.輸出型工業を中心に据えた経済中心の政策:輸入拡大 2.限界を持った農業政策:自給率の低下は国民の食生活と農民のせい? 「食料・農業・農村基本法」1999年:カロ リー自給率をH22までに45%へ! 「食生活指針」2000年 「『食』と『農』の再生プラン」 2002年 「食品安全基本法」2003年 そして、 食育基本法(2005年6月) <「経済財政運営と構造改革に関する基本方針 2005と同時> 「食育は何のため?」 経済財政運営と構造改革に関する基本方針 2005 平成17年6月 21日・経済財政諮問会議 第3章 新しい躍動の時代を実現するための取組 ー少子高齢化とグローバル化を乗り切るー 5.人間力の強化 さらに、食育基本法に基づき、食育基本計画を 作成するとともに、関係行政機関が連携し、国民運動 として食育を推進する。 いつか来た道 農水省 このままでは危ない ショックな食の話 輸入に依存する日本が直面する問題 安全性のチェック 年間届出件数 約189万件 輸入重量 約3500万トン 安全性のチェックは? 検疫所:31箇所 監視員:314名 検査率:約1割 安全が確保できない水際チェッ ク 1990年日米構造協議 「日米貿易不均衡の主因は日本市場の閉鎖性にあ り。」 24時間以内の通関手続きを約束 日本がWTOやEPAの国際通商交渉で 農産物の関税撤廃を飲むと どうなるのか・・・(農水省試算) 食料自給率は40%から12%へ 国内農業生産:-約3兆6千億円 (現在約8兆5千億円) 国内総生産GDP:-9兆円 (現在504兆円) 就業機会の喪失:-約375万人分 (現在の農林水産業就業者数は281万人程度) 「国境措置を撤廃した場合の国内農業などへの影響試算」2007年2月26日公表 穀物価格はなぜ上がるのか? 開発途上国を中心とする人口増加 BRICS諸国等の経済発展 バイオ燃料向け農産物の需要増加 需給がひっ迫 農地面積の横ばい傾向 面積当たり収量の伸びの鈍化 農産物輸出国による輸出規制の導入 憲法前文 「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、 平和のうちに生存する権利を有することを確認する。 」 日本は水の国・・・ 水資源の枯渇が問題になっているけれ ど・・・ 日本だけは大丈夫??? 他の国はどうなってもいいの??? 製造業を伸ばしてどんどん輸出、 手に入れた金で食べ物を買えばよい 金さえあれば食べ物が買える社会は 持続可能か? 発展途上国は売りたがっている のだから、買うのは世界貢献 金持ち日本でも、 食べ物が手に入らなくなる日 ・ 中国:1997~2005年の間に、小麦の生産が30%減少・・・ 理由は地下水の枯渇 ・ 毎年8億5千2百万人が貧困と飢餓に苦しみ、 500万人以上のこどもたちが死亡・・・ しかし、水がないため、食料生産が出来ない ・ 2025年までに安全な水にアクセスできない人 ・・・30億人 (世界水会議) 「水の国」日本であるはずなのに 水の争奪に巻き込まれる危険性がある 牛丼1杯:水 3703.11リットル コーヒー1杯: 210リットル ハンバーガー1個:999リットル アメリカのセンターピボット(灌漑設備) 資料:東大沖教授 バーチャル・ウオーター 農産物を生産に必要な水の量で計測する 仮想水:427億トン (国内使用量の約8割相 当)を海外から輸入 そのうち、1割は再生不可 能な地下水 中国が食糧輸入国になる日 北京郊外の塩害の様子:2007年9月撮影 農産物の輸入は、土・いのちを輸入 すること ★例えば、ブラジル産牛肉とひきかえに・・・ 無くなった森は 5870万ha(2000年) ★コメを輸入している場合ではない 世界の飢餓人口は ポルトガルの国土 の2倍相当 8億人 ★2030年には 途上国全体で約2億7千万トンの輸入が必要 コメ・・・世界レベルでは、不足 結論 ★車を輸出して金持ちになっても、他国に迷惑を かける日本は大人の国ではない。 ★発展途上国の人々、国内の農家の人々に思いを はせられない想像力の欠如。 ★「食」・「農」の基礎を失っている日本人の生 活は「維持可能」なものではない。 食は人間・社会の基本 Homo Sapiens(ホモ・サピエンス) Sapientiaが語源 「味わう」 「あらゆるものを味わう(探求する)」 「賢明・知恵を有する」生きもの・・・ 食文化の疎外・退歩は 「協働」「批判的意識」「希望」の 喪失から生じている。 協 同:協力し合って自ら食物を作り出す。 批判的意識:食べ物を享受し、吟味し、味わう。 =おいしいもの、安全なもの・・・ 選択には批判が必要。 希 望:よりよい生活が実現できるはず。 人間だけが共同社会のなかで自分達の価値観 にもとづき、批判的意識や欲求、希望を持ち、 食文化を創造していくことができる。 協働の条件は? 農業を続ける基盤の崩壊・減退 経済的価値だけに特化した価値観 「勝ち組」「負け組」・・・ 「働く」という意味の矮小化 協働の条件は消滅寸前 批判的意識を持ちえるか? 批判のための前提条件=自立 ①自然と社会について、できるだけ多くの「知識」を獲得するこ と・・・学ぶ機会の喪失、「知ることが怖い」 ②どんな価値のために生きるのかを自分なりに発見する・・・「勝ち 組」になるために生きる/単一の価値観しか許されない社会 ③価値ある人生を実現するために主体的に生きる・・・棚ぼたを待つ しかない将来の見えない毎日(希望格差社会-山田昌弘氏)現状を維 持するだけで精一杯(「逆らわずにじっとしていよう) ④相手に関心を持つことなしに批判はできない。・・・他人とかかわ ることは怖い。けんかすることはもっと怖い。自分の意見を否定され るのは最高に恐ろしい。 「味わう」資質を育てる条件も 危機的状況 ①「味わう=知恵」の前提条件、基礎学力の不足 ②労働時間の長さと生活時間の短さ ③父母は残業、子どもは塾で「あてがいぶちの食事」へ・・・家族 で一緒に食べる時間が・・・ない ④学校給食の現場では「食」の指導が行える体制がとられている か? そして、希望はあるのか? 自由貿易・経済社会・競争社会がすべてではない ベトナム:輸出用米生産から、果樹、野菜、 家畜、魚などの多角経営への転換へ インド・バングラデシュで、有機農法と家族 経営の復活へ 中国は、自国の食糧保護へ、アフリカと連帯 キューバは有機で野菜を100%自給へ 日本でも、消費者の間に確かな国産への回帰 が・・・。 食糧主権 憲法前文「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専 念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法 則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の 主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務で あると信ずる。」 憲法9条 二度と国民を飢えさせない。 戦争は最大の環境破壊。 自ら決定し、自ら連帯を求める食糧主 権の確立を。 「第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実 に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の 行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄 する。」
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