2013年度 社会保障論 (第1回講義) 経済学部教授 鈴木 亘 社会保障論とは • 社会保障とは、年金、医療、介護、生活保護、 失業対策、少子化対策、保育といった生活の リスク・失敗に備えるためのセーフティーネット の仕組み。 • 最近では、生活保障として、教育や住宅支援 までも含むことがある。 • 本講義では、このうち、狭義の社会保障である 社会保険(年金、医療、介護)を中心に学ぶ。 それ以外のものについては、適宜、話題を提 供。また、貧困問題等は、経済学特殊講義(福 祉経済学)を受講されたい。 授業の目的 • 日本が現在抱える様々な社会保障問題に関 する知識を身につけ、問題解決のためにどう すれば良いのかを経済学的な視点から考察 する。 • 経済学を現実問題に応用して問題を解決す る好例。 • 毎回、この問題に対する基礎知識とともに、 現在政策の現場で議論されている事柄、これ に対する経済学的な考察などを紹介する。 • 企業、公務員、資格取得にも一部有用かも?。 授業に求められる要件 • 社会保障、社会福祉に興味があること。 • 経済学については、基礎的なものしか用いな いので、ミクロ経済学の初歩が分かっていれ ば良い。 • 他学部、他学科の場合には、同時に履修す るか、何か一冊初歩的な本を読めば十分で 有る。参考に進められる本 八田達夫「ミクロ経済学 Expressway」東洋経済新報 社、ISBN-13: 978-4492813027 岩田規久男「ゼミナール ミクロ経済学入門」日経新聞 出版、ISBN-13: 978-4532130305 教科書 • 鈴木 亘「だまされないための年金・医療・介護入門 ―社会保障改革の正しい見方・考え方」東洋経済新 報社、2009年、ISBN-13: 978-4492701232 (成文 堂に入荷、Amazonでも送料無料、大きな書店有り) • 鈴木亘「年金問題は解決できる! 積立方式移行 による抜本改革」日経新聞出版、2012年、ISBN13: 978-4532355180 (成文堂に入荷、Amazonで も送料無料、大きな書店有り) • 講師のHPから、授業で使うレジュメがダウンロード できる(http://www.geocities.jp/kqsmr859/)予め印 刷して持ってくること。 授業のスケジュール • 第1章 社会保障制度の「危機」はなぜ起きるのか(簡 単なたとえ話、実際の少子高齢化の状況 ほか) • 第2章 本当に重要なことを最小限にまとめた社会保 障入門(社会保障制度の存在理由、積立方式と賦課 方式 ほか) • 第3章 年金改革の現状と論点(年金財政の現状、厚 生年金と共済年金の一元化とは何か ほか) • 第4章 医療保険・介護保険改革の現状と論点(将来 の医療保険料はどこまで上昇するのか、生活習慣 病対策はどこまで効果が期待できるのか ほか) • 第5章 最初で最期の社会保障抜本改革(ここまでの まとめ、積立方式への移行とその誤解 ほか) • 日経の本から年金の積立方式移行について具体策。 成績評価 • 試験期間中に試験。 • 教科書、レジュメ、ノート、資料持込可。 • マークシート方式の2択問題を、100問。授業中に 話した内容の全てが試験範囲。冒頭の最近の話 題や、質問時間で学生が質問した内容も含まれる。 • 授業では、授業終了間際に、質問の時間を15分 ほど設ける。その発言は、1回3点の加算をする。 質問は授業に関することでも、その時々のトピック スでも何でも良い。 維持不可能な社会保障財政 社会保障給付費の推移:この20年で倍額に 10 厚生労働省HPより • こうなる原因は、日本の社会保障制度が全て 賦課方式の財政方式をとっているため。 高齢者/現役比率(高齢人口/生産年齢人口)の推移 90.0% 80.0% 70.0% 60.0% 出生中位 (死亡中位) 推計 50.0% 40.0% 出生高位 (死亡中位) 推計 30.0% 20.0% 10.0% 実績値 予測値 0.0% 注)2011年までは実績値、それ以降は厚生労働省(国立社会保障・人口問題研究所)「日本の将来推計人口(平成24年1月推 計)」。 11 ・社会保障費は、今後ますます急増する。 ・社会保障費の1割を賄うに過ぎない消費税:赤字を埋め ても、毎年1兆円増。自動的に消費税率上昇。 ・残りの社会保障費を賄う保険料は、消費税とは別途上昇 してゆく。 単位:兆円 2011 2025 2035 2050 2075 社会保障給付費 107.8 148.9 185.5 249.5 324.2 対国民所得比率 24.9% 28.0% 32.0% 40.0% 45.1% 消費税除く国民負担率* 35.9% 39.0% 43.0% 51.0% 56.1% 消費税率の予測 5% 20~25% 30~40% 消費税含む国民負担率** 38.8% 52.1% 71.3% 注)2011年度は見込み、2025年は政府予測。*消費税以外の租税負担率を一定と仮 定する。**消費税率は2025年で22.5%、2050年で35%と仮定した(予測平均値)。 12 • これが、現在の社会保障制度をそのまま維持し、 社会保障と税の一体改革のバラマキを加えた将 来像。 • 三党合意した「社会保障と税の一体改革」の不誠 実な点は、こうした将来像を一切見せていないこ と。 • そして、とりあえず5%の消費税引き上げとしか、 国民に負担を提示しない。 • これは、金額の書かれていない請求書にサイン を迫られているようなもの。極めて不誠実。 • 本来は、社会保障の将来像と消費税率、国民負 担率について複数の選択肢を示し、そのどれを 選ぶかを国民に問うべき。 13 • このような将来は、当然、持続不可能である。 • これは、北欧諸国の高負担・高福祉社会なの ではない。高負担・低福祉社会の現出である。 • 「消費税を上げないと社会保障は維持不可能 と」。しかし、正確には「消費税を上げても、社 会保障は維持不可能」なのである。 • 非効率で生産性の低い社会保障部門が大きく なれば、それだけ成長率も下がり、さらに高負 担に拍車がかかる。 14 社会保障給付費と消費税引上げ 一体改革の バラマキ 社会保障費 消費税引き上げ 消費税収 現在 将来 15 • 社会保障問題に対する基本認識・基本理念は 、このような極端な高負担社会、世代間不公 平社会を避けるために、 • ①社会保障給付費をできるだけ合理化・効率 化して、負担増をなるべく抑える。新自由主義 ?とやらで、単に「小さな政府」が好みなので、 趣味で削減するのではない。 • ②ただ、給付費効率化だけは限界があるし、 極端な削減は国民も望まない。それならば、 高負担社会に備えて、今からその備え(積立 方式)をしておく必要がある。 16
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