信用リスクの数理モデル 第7章 市場性資産の信用リスク評価

信用リスクの数理モデル
第7章
市場性資産の信用リスク評価
目次
7.1 企業資産価値モデル
7.2 デフォルト過程によるモデル化
7.3 マルコフ連鎖モデル
7.4 クレジット・デリバティブの評価
市場性資産の信用リスク評価
① Structural approach (構造モデル)
⇒資産価値モデル
②Reduced-form approach(外性変数モデル)
⇒Dffie-Singletonモデル、Jarrow-Turnbullモデル
どちらにせよリスク中立確率で考える。
アプローチ①
Structural approach (構造モデル)
企業資産価値モデルとして扱う
• 企業の資産は資本と負債で構成
• 資産が目減りして負債額を下回った時デフォルト
企業価値=資産時価-負債時価
• 代表例として
a. Mertonモデル, Black-Scholesモデル
b. Black-Coxモデル
c. Longstaff-Schwarzモデル
7.1 企業資産価値モデル
前述のa,b,cのモデル。
前提として
 ある企業の時点tにおける資産価値をA(t)とおく。
 デフォルトはA(t)があるしきい値d(t)を下回ったら発生
する。
 満期T,額面Fの割引債を1単位発行
①満期で全額償還した場合F円
②デフォルトはなかったが発行額を償還できない場合は
満期資産価値の定数倍(α1A(t) )
③デフォルトした場合はデフォルト時点τでの資産価値
の定数倍(α2A(τ))
ただしα1、α2は定数
企業資産価値モデルをまとめると・・・
• 資産価値A(t)を確立過程で記述
• リスク中立化法で回収額を評価することで社債の価
格を求める
企業資産価値モデルの問題点
 そもそも企業価値とは何か?
 どのように変動を記述できるのか?
 できたとしてどのように推定するのか?
資産価値モデルのフレームワーク
ある企業の資産価値がリスク中立確率P*に関し
て確率微分方程式
に従っているとする。
はP*に関する標準ブラウン運動
このフレームワークでデフォルト時点τは
で、定式化される。
満期前にデフォルトした場合には回収額を信用リス
クのない割引国債で運用するとすれば...
⇒満期に無事償還
⇒満期までデフォルトしないが償還不可
⇒τでデフォルト。回収額で国債を運用
よって満期におけるペイオフXは
と表わされるのでリスク中立化法によれば、
割引社債の価格は
で与えられる。ただし
以上が企業資産価値モデルの一般的なフレー
ムワーク
満期でのペイオフや割引交際のスポットレートに
仮定を置くことでいくつかのモデルが提案されて
いる。
a. Mertonモデル, Black-Scholesモデル
b. Black-Coxモデル
c. Longstaff-Schwarzモデル
a. MertonモデルとBlack-Scholesモデル
デフォルトは満期において資産価値が額面下
回った時に発生すると考えて、満期におけるペイ
オフを
とおいた。したがってこのモデルでは初到達時
間(7.2)について考える必要がない。
結局、割引債は企業価値の上に書かれたヨーロ
ピアンオプションの評価に帰着される。
また彼らは以下の仮定をおいた。
①割引債のスポットレートは一定
②資産価値A(t)のボラティリティも一定
このとき、(7.1)式から資産価値はリスク中立確
率P*に関して標準ブラウン運動
に従う。
上の枠組みで、ヨーロピアン・プットオプションの
価格は
で与えられ、割引社債の価格は
b.Black-Coxモデル
Black-Coxモデルは、
①割引債のスポットレートは一定
②資産価値A(t)のボラティリティも一定
③デフォルト境界を
と仮定した。
デフォルト境界d(t)は債券の満期に関する減少
関数になっていて、これは企業価値が下がりある
一定水準に近付くと企業資産の所有権を社債保
有者が請求する状況をモデル化したものである。
このモデルでは割引国債の価格は、
となるので、満期におけるペイオフ(7.3)は、
また資産価値A(t)は幾何ブラウン運動(7.5)に従う。
このモデルにおける割引社債の価格を評価する
ために
(7.5)式に伊藤の公式を適用すれば、
さて、与えられたデフォルト境界に対して
であるから
『ファイナンスのための確率過程』の問7.6では
ws
以上から、割引社債の価格は以下のように与えられる。
c.Longstaff-Schwarzモデル
Longstaff-Schwarzは
またデフォルトした時の回収率をδとし、満期の
ペイオフを、
↑払えないのに払うことになっているということ
このモデルでは金利が確率的に変動する。
リスク中立確率に関して資産価値が、確率微分方
程式
この場合、初到達時間(7.2)の分布に閉じた形で
表現できないので割引債を直接求められない。
そこで次のような工夫をした。