READ公開講座、2010年10月30日、東京大学 Comments for Tom Shakespeare and Dan Goodley: from an Economist Perspective Toshiji Kawagoe Future University Hakodate 1. Introduction • 経済学は社会科学の女王 – 障害学研究に応用可能か? • ここで障害学とは「障害の社会モデル」のこと • 障害とは、身体・知的・精神的インペアメントではなく、適切な 配慮の提供がないために社会参加が阻まれたり、不利益を 受ける状態 • マルクス主義と社会構築主義が源泉 • 「近代」経済学は、近代的世界観・個人観に支配 されている – 障害学と経済学は対話可能か? 2. Game theory in economics: a departure from the neoclassical economics • 希少な資源の配分こそが経済の根本問題 • 厚生経済学の基本定理 – 市場は最も効率的な資源配分をもたらす – 市場は分権的に保有されている情報を効率的に集約 できる制度 • 市場原理主義に対する立場 – 効率性と公平性の両立困難性 – 外部性の存在 • 市場は効率的ではなくなる • ゲーム理論的分析の必要性 3. Complementarity and network externality • ネットワーク外部性 – 車イス利用者の地下鉄利用 – アクセス可能な駅の数がnのとき、その便益はn(n-1)/2 (約2乗)となる。 • 補完性 – しかし、駅だけではなく、そこに至るまでの道路やバス もアクセス可能である必要がある • 複数均衡の選択問題 – アクセス可能性におけるネットワーク外部性と補完性 の存在は、複数均衡を導く – アクセス可能性への要求がクリティカル・マスを超えな いと、悪い均衡にとどまる可能性がある。 4. The emergence of prejudice from discrimination: inductive game theory • Kaneko ansd Matsui (1999)のモデル – 偏見から差別を行なうのではなく、差別的行動の観察 から偏見が生まれることを説明する • 人口はA, Bの2つの民族グループに分かれており(Aが多数 派)、祭りの場所1, 2のどちらかを選ぶ • プレーヤーは、各場所でのA, Bの構成比率を見て、友好的 か非友好的な行動を選ぶ • 非友好的な行動の場合、ゼロの利得で、友好的な行動の場 合、友好的な行動を選ぶプレーヤーの数が多いほど利得が 高い。誰も友好的でないと最悪の結果。 • 多数均衡の中に、各グループはそれぞれ別の場所を選び、 そこにいるのが同グループであるかぎり友好的で、一人でも 他のグループがいると非友好的になる、という均衡がある。 • 逆に、この経験の蓄積が他グループへの偏見を帰納的に生 み出す 5. Rationality in economics and market allocation • 自律した合理的個人が経済学の前提 – 現実の人間は決して最適な選択を行なえない • 認知・計算論的限界 • 情報の不確実性 – 制度・ルール・ツールがその限界を補完 • あらゆることに自己決定はできない • 慣習・ルール・ルーティンに従う • 個人が合理的でなくても市場は効率的になりうる – 市場の利用は決して個人の合理性を前提としない • 知性ゼロの取引者モデル – ユニバーサル・デザインは市場原理を応用した戦略 6. Capability approach and HDI (Human Development Index) • Senのケイパビリティ・アプローチ – 人間開発指標(HDI)の基礎 – 帰結主義と効用主義の克服 – 財・サービスの量だけでなく、教育やアクセス可能性 もまた人々の厚生に影響する • テキストデータや点字の提供がなければ、盲の人は読書に よる知識獲得・快楽を得られない – 社会によって生み出された障害の存在を認め、それ を厚生判断に盛り込むことができる – 障害の社会モデルの視点を入れた障害者HDIの必要 性 7. Designing and reforming disability policies • インクルーシブな社会をデザインする障害者政 策に関する研究(東京財団VCASI) • 2010年11月6日公開研究会 • 障害者政策に関する成果 – 自立支援に関して • ダイレクトペイメント、福祉の応能負担は経済学的に正当化 可能 – 所得保障に関して • ベーシックインカムが労働インセンティブに与える影響につい てはなお検討が必要 – アファーマティブ・アクション(積極的差別是正処置) • 肯定的な結果(労働経済)と否定的な結果(学校選択) 7. Designing and reforming disability policies • ダイレクトペイメントの正当化 a b A B aの予算を受けた障害 者が自分で選択した場 合、A点が消費されると する。ここで、他者が障 害者の代わりにB点を 選択すると、 B点はbの 予算で実現できたはず だから、a-bの予算が無 駄になる(非効率的) 8. Reasonable accommodation as public goods • 障害者への合理的配慮の提供 – 費用対効果の関係で、個々の企業や自治体では対 応できない場合がある • 障害のユニバーサルモデルの視点 – 誰もが怪我や病気、事故が原因で障害者になりうる →誰もが潜在的に障害者 • 公共財としての合理的配慮 – ユニバーサリズムの視点からは、障害者への合理的 配慮のための投資は、将来の自分に対する便益とな るので、公共財の性質をもつ – ただし、「フリーライダー」問題への対処が必要 9. Conclusion • 障害学と経済学との対話は進んでいる – 特に、雇用制度、自立支援制度、所得保障制 度の経済学的検討が進んでいる – 障害の社会モデルを反映した障害者HDIの作 成は国際比較に有用 – 合理的配慮の提供を根拠付ける議論がさらに 必要
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