現代地球科学、地球環境史 海保邦夫 教授 担当 (次週以降) • 6/17 生命環境史を研究するための基礎知識 • 6//24 地球環境と生物のイベント:先カンブリア時代 • 7/1、 7/8 今泉教授担当 • 7/15 地球環境と生物のイベント:古生代 • 7/22 地球環境と生物のイベント:中生代 • 7/29 地球環境と生物のイベント:新生代 • 参考書:「掛川武・海保邦夫著 地球と生命:地球環境と生物圏進 化」共立出版 (川内・理薬生協等で購入可) • Web資料:地球システム科学(医歯濃薬/海保) 大気の大循環 地球の大気大循環の仕組みや天気が移 り変わる原因を理解する。 Introduction 地球大気における傾圧不安定波 • 偏西風 • ジェット気流(極前線、亜熱帯) • 寒冷低気圧 大気大循環モデル 北半球視点の傾圧不安定波 赤道が暑く,極が寒いわけ 同じ面積に降り注ぐ日射が, 赤道では多く,極では少ない The Atmosphere Introduction to Meteorology より 地球の穏やかな気候は大気(と海)のおかげ どんどん暑くなるはず どんどん寒くなるはず 地球惑星科学入門(北海道大学出版会)より 大気(や海水)の移動が赤道から極に熱を運び,温度差を解消 (cf. 月の昼間は赤道付近で100℃以上,極で-30~-70℃) ※ 熱の伝わり方: 伝導,放射,対流 の3種類 古典的な大気大循環モデル ハドレー(1735) 下降 下降 フェレル(1855) 上昇 観測に 合わない 偏西風 貿易風 下降 上昇 上昇 小倉義光「一般気象学」より 偏西風 ←現在の観測データ 現在の大気大循環モデル フェレル循環 極循環 ハドレー循環 ※ 中緯度のフェレル循環は経度(東西)方向に平均を取った結 果現れたもので,循環が安定的に存在するわけではない.低気 圧(上昇流を発生させる)が,発達しながら北東に進むのが原因. その原動力が,偏西風(ジェット気流)の蛇行 偏西風の発生 中緯度帯は南北の温度差が激しい →緯度により大気の厚みに違い →同じ高度では,高緯度ほど低圧に →高圧の低緯度から,低圧の高緯度へ向かう力が発生 →高緯度に向かう風が,コリオリ力で曲げられて西向きに 高温 低密度 上空ほど強い 0.5気圧 0.6気圧 低温 高密度 0.7気圧 0.5気圧 0.8気圧 0.9気圧 1気圧 (1024 hPa) 高緯度 低緯度 1気圧 (1024 hPa) 偏西風 コリオリ力(転向力) 反時計回り(北半球)では,進行 方向に対して右向きに曲がる 上空と地表近くの風向き F 2mvsin m:運動する物体の質量 v:物体の運動速度 Ω:自転の角速度(後述) φ:緯度 転向力は緯度により変 化(赤道で0) ・気圧の傾き,コリオリ力,地表との摩擦力が バランスした向きに風が吹く ↓ ・上空では等圧線と平行に(地衡風),地表付 近ではやや北寄りに,西風(偏西風)が吹く ・偏西風の特に強いところがジェット気流 傾圧不安定波動 西に進むだけでは南北の 温度差を解消できない (熱を低緯度から高緯度 へ運べない) →偏西風が蛇行すること で熱を運搬 ジェット気流の特徴 (1)西風 (2)穏やかに蛇行 (3)蛇行パターンの西か ら東 へ移動 (4)南北の温度差 南半球の300 hPaの等圧面高度 の分布 偏西風は時計まわりに循環 北半球視点の850hPaにおける大気温度 (earth.nullschool.net より) 高気圧と低気圧の分布(北半球) 北海道新聞ウェブ 「もっと知りたい」 1月21日版 高気圧と低気圧の分布とジェット気流の流れ ジェット気流の流れと 高気圧と低気圧の分布 ジェット気流では, ・北からの寒気が下降しながら南下 ・南からの暖気が上昇しながら北上 →この動きにより,地上に高気圧と 低気圧が発生 小倉義光「一般気象学」より シュミレーションによる安定度図表 の再現を試みた先行研究 Navier-Stokes方程式:流体の運動を記述する方程式 (ρ:密度、p:圧力、ν:動粘性係数、V:速度、g:重力加速度、Ω:回転速度) 円筒座標系 (山下, 2003) に変換 2次元の流れ関数 (Fein,J.S.,Pfeffer,R.L , 1976) (山下, 回転流体の熱対流不安定性、2003) 円筒座標系 遠心力:rΩ2 ブシネ近似 (山下, 2003) 転向力:2ΩvΘ、2Ωvr シュミレーション 回転水槽実験 回転水槽に入れた水の内側と外側に温度差を与え,ジェ ット気流の蛇行を再現し,その仕組みを理解することが できる。 Ω:角速度 1周を2π(rad)として, 1秒に何rad回転するか。 (ラジアン) 回転流体実験の装置概念図 傾圧不安定波の再現方法 ・回転球上の運動に特有な転向力の作用 →地球を円盤に置き換えて 装置全体(北半球に模す)を左回転させる ・南北の温度差 →温水槽(赤道側)と冷水槽(極側)で温度差を作り 水槽の中の作業流体である水を大気とみなす ・地表面摩擦 (山下, 回転流体の熱対流不安定性、2003) 回転水槽実験 • Charney(1947)とEady(1949) 傾圧不安定の線形安定論 • Fultz(1950) 洗い桶実験 洗い桶の縁を加熱して回転させる • Hide(1953) 地球内部流体核の対流実験 2つの同心円筒の間に水をいれて 外側を加熱、回転 地球大気の現象と似ていた (Fultz, 1959) Method 実験装置 1.寸法 a=0.118[m], b=0.25[m], D=b-a=0.132[m] 2.冷水槽 ホウロウ鉄板製冷水槽を用いた。 内部にシャーベット状の氷を入れた。 3.温水槽 アクリル製(厚さ5mm)で出来ている。 摂氏約40度のお湯を入れた。 測定法 ・表面の流れの動きを見るためにアルミ ニウムの粉末を入れた。 ・温度は放射温度計と赤外カメラで測定した。 Result 波数6 1 2 6 3 5 4 Result 動画 Result 亜熱帯高気圧 Result 寒冷性低気圧 亜熱帯高気圧の渦に比べて 低気圧の渦の速度は速かった 渦の大きさが小さいため Result 蛇行パターンの移動 蛇行パターンが回転方向に 移動することが観察された この実験では 3周で低気圧の部分が移動して 高気圧の部分になる 地球に置き換えると 3日で寒冷性低気圧が通過して 亜熱帯高気圧になる Result ジェット気流 亜熱帯高気圧(右回転渦) 寒冷性低気圧(左回転渦) 挟まれる形でジェット気流 Result 温度分布 波動の種類 温度差+回転+摩擦力 回転流体実験の波動の例(Hide, 1969;D = 4.6cm, d = 15.4cm, DT=9.5℃) (a)定常軸対称、 = 0.34 rad/s、(b)定常波動、 = 1.19 rad/s、波数n = 3、 (c)不規則波動、 = 5.02 rad/s. 1周に要する時間(周期): 2 6.28 18.47 秒 0.34 0.34 回転水槽での傾圧不安定波 転向力によって温度と圧力の勾配が限度を越える →通常の温度対流では追いつかなくなる →より効率的に温度を運ぶために対流の波動が発生 (山下, 回転流体の熱対流不安定性、2003) 地球大気と回転水槽実験装置の相違点 ・内外壁の存在 →その近傍に摩擦層を生じ、角運動量の流れや授受 の点で大きな差異を与えている。 ・スケールの違い 地球と実験機のスケールの差に 依らないパラメーターを抽出す るために物理量からなる無次元 数を導く (W.W.Fowlis and R.Hide,1964) 物理量 • • • • • • • • • • • • 密度ρ[kg m-3] 密度差Δρ[kg m-3] 重力定数g[ms-2] 冷水槽の半径a[m] 実験槽の半径b[m] 水の深さd[m] 回転速度Ω[rad/s] 水の動粘性係数ν[m2s-1] 水の熱拡散率k[m2s-1] 水の比熱c[J kg-1k-1] 温度差ΔT[K] ___ 平均温度 T [K] (W.W.Fowlis and R.Hide,1964) 物理量 • • • • • • • • • • • • 密度ρ[kg m-3] 密度差Δρ[kg m-3] 重力定数g[ms-2] 冷水槽の半径a[m] 実験槽の半径b[m] 水の深さd[m] 回転速度Ω[rad/s] 水の動粘性係数ν[m2s-1] 水の熱拡散率k[m2s-1] 水の比熱c[J kg-1k-1] 温度差ΔT[K] ___ 平均温度 T [K] (W.W.Fowlis and R.Hide,1964) 地球と実験機のスケールの差に 依らないパラメーターを抽出す るため 12個の物理量の組み合わせ からいくつの無次元数ができ るかを調べるために次元解析 を行う。 (W.W.Fowlis and R.Hide,1964) 次元解析(Pi定理) 次元定数を含む互いに独立なn個の物理量 の間に の関係があり、 これらの物理量を構成する基本単位がm個あるとき上の式は の形に導かれる。 また、 のように表せられる。 (Buckingham、On physically similar systems、1914) 物理量の次元 a L 1 M 0 T 0 K 0 b 1 0 0 0 d Ω g Δρ ρ ν k 1 0 1 -3 -3 2 2 0 0 0 1 1 0 0 0 -1 2 0 0 -1 -1 0 0 0 0 0 0 0 ΔT 0 0 0 1 T c 0 2 0 0 0 0 1 -3 パラメーターの次元解析 • 物理量が12個 • 物理量を構成する基本単位がL, M, T, Kの4個 無次元数は8個(=12-4) 無次元数 p 3 = W (b - a ) / 2gd p 5 = 4W (b - a) / n d p6 = n / k p 7 = DT / T p 4 = gdDr / rW (b- a) p 8 = cT / W (b + a) p1 = 2(b - a) / b + a p 2 = d / (b - a) 2 2 2 2 2 2 (Fowlis and Hide, 1964) 5 2 2 2 データ整理:無次元パラメータと現象の関係 熱ロスビー数: gdDT 2D2 4 2 D 5 テーラー数: Ta 2d α:水の熱膨張率 g:重力加速度 ΔT:温度差 ν:水の動粘性係数 D:実験槽の幅(=a-b) 使う物質の性質が異なったり,実物と大きさが違っても,現象を支配 する無次元パラメーターの値が等しければ,同じように見える。 無次元パラメータ • 熱ロズビー数 gdDT D 2 4 D Ta 2 d 5 2 2 • テーラー数 • 基準化された波数 2nD n* ab 実験装置の寸法 お菓子の缶 236 Φ 回転水槽の仕様(1990年作成のもの;学生実験室一階) 熱ロスビー数: 物理定数の値 テーラー数: 重力定数 g 9.8 ms 2 水の熱膨張率 2.1 10 K 水の動粘性係数 1.8 10 6 m 2s 1 (at 0℃) 動粘性係数 ν 4 gdDT 2D2 4 2 D 5 Ta 2d 1 1.3 10 6 m 2s 1 (at 10℃) 1.0 10 6 m 2s 1 (at 20℃) 平均温度での動粘性係数 はグラフからおおよその 値を求まる。 温度 T 安定度図 基準化された波数 2nD n* ab 過去の膨大な実験結果から作られた安定度図 実験条件で決まる熱ロスビー数とテーラー数と実験結果から得られ た基準化した波数(n*)とプロットした図.縦軸は熱ロズビー数、横軸 はテーラー数。波動領域の数字は基準化された波数の数値を示す。 この安定度図は、大型の実験装置によるデータが少ない。その点で いまだ、不正確さが残っているので注意。 無次元数同士の関係式 次元解析より、 p 4 = f2 (p1, p 2, p 3, p 5, p 6, p 7, p 8 ) = f3 ( = 1 , 1 p 5 p 2p 6 A × 1 p 2p 6 p 5 ) (A は係数) 無次元数と安定度図表 A 1 p4 = × p 2p 6 p 5 (A は係数) グラフの傾きより、A=1 1 1 p4 = × p 2p 6 p 5 (W.W.Fowlis and R.Hide,1964) 無次元数と安定度図表 p4 = 1 × 1 p 2p 6 p 5 Þ log p 4 = -log p 2 -log p 6 -log p 5 d p2 = b-a p6 = n k , 定数 n (T) = n 0 exp(-bT) 温度による (βは係数) 無次元数と安定度図表 log p 4 = -log p 2 - log p 6 - log p 5 定数項 温度による項 縦軸との切片は温度による 宿題 •自転する地球が温暖化によって極域と赤道 域の温度差が小さくなると、ジェット気流の 流れはどのように変化し始めるか、考察しな さい。 授業資料入手先URL 現代地球科学・地球環境史 http://www.es.tohoku.ac.jp/JP/private/class/index.html
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