経済情報Ⅱ 「怒りの年金改革 ~社会保障論入門~」 経済学科 准教授 鈴木 亘 本日の予定 • 経済学の一分野である社会保障論。 • 社会保障のトピックスは、医療、年金、介護、 失業保険、生活保護、ホームレス問題、障害 者福祉、児童福祉(保育等)、少子化対策など。 • 今日は、その中で、もっとも大きなトピックスで ある「年金問題」に対する理解を深める。 • 年金制度は、何故、破綻の危機にあるのか、 あるいは損するというのは本当か。どうすれば よいのか。 年金問題に関する最近の話題 • 厚生労働事務次官殺害事件 • 消えた年金記録問題・宙に浮いた年金問題 • 社会保険庁の犯罪(年金改ざん、保険料の 横領) • グリーンピア・サンピアの浪費 • 国民年金の未納・未加入問題 • 無年金者、低年金者 • • • • 年金一元化(共済と厚生年金の合併) 社会保障国民会議 加入期間25年から10年への短縮化 基礎年金の国庫負担率1/3から1/2への引上 げとその財源問題 • 保険料納入への税財源補助方式 1.少子高齢化と社会保障財政の危機 • 簡単なたとえ話 保険料負担 は、月一人当 たり:1万円 2万円 2万5千円 3万3千円 5万円! 10万円!! • 20人の現役で1人の老人(10万円)を支え る・・・保険料5千円 • 10人の現役・・・1万 • 5人の現役・・・2万 • 4人の現役・・・2.5万 • 3人の現役・・・3.3万 • 2人の現役・・・5万 • これではさすがに立ち行かない。10万を8万 にカットすると、4万 • しかしカットされる人々は将来の老人。 19 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 2095 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055 2060 2065 2070 2075 2080 2085 2090 2195 2100 05 2.少子高齢化の現実 90.0% 80.0% 70.0% 60.0% 50.0% 40.0% 中位推計 高位推計 30.0% 20.0% 10.0% 実績値 予測値 0.0% • 15歳から64歳までの勤労可能な年齢の人々 (「生産年齢人口」)に対する65歳以上の「高齢 人口」の比率:高齢者・現役比率 • 国立社会保障・人口問題研究所が公表してい る最新の人口予測(「日本の将来推計人口(平 成18年12月推計)」 • 1950年の高齢者・現役比率は8.3% (12人対1 人)、 1970年には10.2%(約10人対1人) 、1980年に は13.5%(約7.5人対1人)、1994年には20.2% (約5人対1人) 、2000年には25.5%(約4人対 1人)、2008年現在では33.6%(約3人対1人) • 現在はまだ山の4合目にもうすぐ到達 • 特に今後の10年間はかつてないほどの急勾 配。これは、「団塊の世代(戦後のベビーブー ムに生まれた世代)」の大量退職が理由 • 団塊の世代の大量退職 は正念場ではない。 • 2023年には、すでに高齢者・現役比率は 50.2%(2人対1人) • 2040年には67.2%(1.5人対1人)、高齢者・現 役比率のピーク(頂上)である2072年には同 比率は85.7%(1.17人対1人) • 財政危機は今後半世紀以上も続く 3.医療・介護も同じ構造 • 受益と負担の年齢別分布(年金) 3,000 2,6782,639 2,500 2,539 2,244 2,068 2,035 2,000 受益 負担 1,500 1,000 425 510 500 615 744 1,045 966 1,001 929 851 917 273 上 以 歳 89 歳 90 ~ 84 歳 85 ~ 79 歳 80 ~ 74 歳 75 ~ 69 歳 70 ~ 64 歳 65 ~ 59 歳 60 ~ 54 歳 55 ~ 49 歳 50 ~ 44 歳 45 ~ 39 歳 40 ~ 34 歳 35 ~ 29 歳 30 ~ 14 歳 25 ~ 10 15 ~ 19 歳 0 • 医療 500 434 449 450 400 350 318 250 149 150 134 50 248 222 200 73 受益 負担 194 179 94 79 77 55 47 53 67 310 293 278 300 100 345 404 394 383 370 118 147 145 90 103 69 51 30 15 0~ 4 5~ 歳 10 9歳 ~ 15 14歳 ~ 10 19歳 ~ 25 14歳 ~ 30 29歳 ~ 35 34歳 ~ 40 39歳 ~ 45 44歳 ~ 50 49歳 ~ 55 54歳 ~ 60 59歳 ~ 65 64歳 ~ 70 69歳 ~ 75 74歳 ~ 80 79歳 ~ 85 84歳 ~ 90 89歳 歳 以 上 0 5 • 介護 300 275 250 220 200 156 150 130 100 68 63 59 70 66 50 3334 25 24 4 4 4 4 4 27 19 12 4 上 以 歳 90 89 歳 ~ 85 84 歳 ~ 80 79 歳 ~ 75 74 歳 ~ 70 69 歳 ~ 65 64 歳 ~ 60 59 歳 ~ 55 54 歳 ~ 50 49 歳 ~ 45 40 ~ 44 歳 0 受益 負担 • 単年度主義会計。 • 年金同様、医療、介護も、その時の高齢者の 費用を、その時の現役世代が負担するという 構造。 • したがって、少子高齢化が進むと、現役世代 の負担が重くなってゆくことに変わりない。 • つまり、少子高齢化によって影響を受けるの は、年金だけではなく、医療、介護もであり、ト リプルパンチといえる。 4.社会保障財政の将来 社会保障給付費の将来予測 社会保障給付費 対国民所得比(%) うち年金給付費 対国民所得比(%) うち医療保険給付費 対国民所得比(%) うち介護保険給付費 対国民所得比(%) 国民所得 単位:兆円 2006 2011 2015 2025 2035 2050 2075 2100 81.5 95.0 106.0 134.6 167.7 225.6 293.2 339.7 21.7% 21.9% 23.1% 25.3% 28.9% 36.2% 40.8% 39.2% 47.4 54.0 59.0 68.5 84.5 114.6 147.4 169.3 12.6% 12.5% 12.8% 12.9% 14.6% 18.4% 20.5% 19.5% 27.5 32.0 37.0 49.2 60.1 78.8 100.2 115.5 7.3% 7.4% 8.0% 9.3% 10.4% 12.6% 13.9% 13.3% 6.6 9.0 10.0 16.9 23.1 32.3 45.6 54.9 1.8% 2.0% 2.3% 3.2% 4.0% 5.2% 6.3% 6.3% 375.6 433 461 531.2 580.4 624.0 718.5 866.3 注)2006、2011、2015年の数値は、厚生労働省「社会保障の給付と負担の見通し-2006年 (平成18年)5月-」より。それ以降は、筆者による推計。金額は全て名目値。 5.世代間不公平の大きさ 社会保障全体の世代別損得計算 1940年生まれ 1945年生まれ 1950年生まれ 1955年生まれ 1960年生まれ 1965年生まれ 1970年生まれ 1975年生まれ 1980年生まれ 1985年生まれ 1990年生まれ 1995年生まれ 2000年生まれ 2005年生まれ 年金 3,100 1,760 780 250 -200 -590 -970 -1,290 -1,610 -1,880 -2,120 -2,290 -2,420 -2,510 医療 1,450 1,180 930 670 520 380 260 130 -40 -240 -410 -480 -620 -720 単位:万円 介護 300 260 190 130 50 0 -40 -80 -120 -150 -180 -210 -230 -250 全体 4,850 3,210 1,900 1,050 370 -210 -750 -1,250 -1,770 -2,270 -2,710 -2,980 -3,260 -3,490 1940年生まれと 2005年生まれの差 額は、8,340万円 (年金のみでは 5,610万円) 6. 公的年金制度とは • 勤労期に保険料を支払う代わりに、老後に年 金を受給できる仕組み(遺族年金、障害年金 という生命保険という特約付)。 • 職業によって、入っている年金の種類が異な る。サラリーマン:厚生年金、公務員・教員: 共済年金、自営業・農林水産業:国民年金 • 全ての人々の共通する基礎年金が1985年か ら創設されている。 • 国民年金は20歳から保険料を支払う。現在、 月額14,100円。満額の場合で、年金受給額 は月額6万6千円。 • 厚生年金の場合は給料に比例する保険料率。 現在、15.35%。平均的には5万円程度。それ に対する年金受給額は、月額平均17万円。 • ただし、25年の加入をしないと一円も年金を 受け取れないという制限がある。 • 財政規模は、収入支出が厚生年金32兆、国 民年金が5兆、基礎年金勘定が17兆円程度。 • 上がる保険料・・・現在、予定されている保険 料の引上げは、国民年金が月額16,900円ま で、厚生年金が18.30%まで負担引上げ。 • 下がる給付・・・現在、所得代替率(現役の所 得に対する年金額の比率)59.4%から50% までを予定。 • これまでも繰り返し同様の改革を行なってき たことに伴って、世代間の不公平は深刻化。 • 未納・未加入問題の背景には、「損」する年 金の問題。 7.年金の基礎理論 • 年金とは、予想外に長生きをしてしまって、生 活費が枯渇してしまい、老後に悲惨な生活状 態に陥ることを防ぐために存在している「保 険」 • 保険原則からいって、世代間再分配は不要。 保険は同質のリスク集団内にかけられるべき もの。保険にはそもそも損得は無い。 • 保険の原則から言って、積立が本来あるべき • 公的部門で運営されるべき理由 • 所得内再分配を行なわなければいけないか らではなく、民間よりもうまく運営できるから • 世代間所得再分配を行なわなければ成らな いからでもない。 • 逆選択(アドバース・セレクション) • モラルハザード:ありとキリギリス • だからといって、運営主体自体が公的主体で 無ければならない理由にはならない。 積立方式と賦課方式 創設期の 高齢者⇒ 高齢期 第1期世代⇒ 現役期 高齢期 第2期世代⇒ 現役期 高齢期 第3期世代⇒ 現役期 第1期 第2期 第3期 高齢期 第4期 創設期の 高齢者⇒ 高齢期 第1期世代⇒ 現役期 高齢期 第2期世代⇒ 現役期 高齢期 第3期世代⇒ 現役期 第1期 第2期 第3期 高齢期 第4期 • 賦課方式こそ、少子高齢化で負担増、世代間 不公平が生まれる諸悪の根源。 • これに対して、積立方式では、互いの世代の 依存関係が無いために、賦課方式で生まれ る問題が発生しない。 • 少子高齢化が進む中で、まさにうってつけの 財政方式であるといえる。 8.年金財政の歴史 • 1941年に設立された労働者年金制度 • 1944年に厚生年金制度となる • 設立当初は、積立方式で始まった。戦時公債 消化のため。 • 1973年福祉元年以降の大盤振る舞いによっ て、賦課方式の年金に移行してしまった。 第1期世代⇒ 現役期 高齢期 第2期世代⇒ 現役期 高齢期 第3期世代⇒ 現役時代 第1期 第2期 第3期 高齢期 第4期 賦課方式の政治経済学 • 賦課方式になった理由1:社会保険のパラ ドックス 1100万円 1000万円 利子率 現役期 高齢期 人口成長率 1000万円 現役期 • 賦課方式になった理由2:積立金は埋蔵金 • 賦課方式に移行してしまえば、これまで積み 上がっていた多額の積立金は、賦課方式の 年金の運営にとって必要なものではない。 • 宙に浮いた資金として、政治家や官僚にとっ て大変な魅力。 • 賦課方式であるからといって勝手に使ってい いものではない。 • 賦課方式から抜け出せない政治経済学 • 「人口成長率>利子率」 から「人口成長率< 利子率」 へ • 積立金を使ってしまっているので、積立方式 に移行するには、もう一度調達しなおさなけ ればならない。 • 責任の問題や、高齢者に不人気の政策⇒官 僚や政治家が積立方式移行に反対する理由。 年金問題の解決策 • 賦課方式から積立方式への移行こそが急務 • しかし、「真っ白なキャンバスに今から新しく絵 を描くように」積立方式を選ぶことはできず、現 在の賦課方式の「清算」をしてからしか積立方 式に切りかえられない。 • 2重の負担問題とは • この2重の負担があるために積立方式移行は 現実的ではなく、一度、賦課方式を選択した以 上は積立方式に戻ることはできないという専 門家の主張 ⇒それはウソ。 国の負債 ③ 高齢期 賦課方式 ① ② 改革期の世代⇒ 現役期 高齢期 積立方式 現役期 高齢期 現役期 高齢期 将来の世代にわたっ て、少しずつの負担 現在の積立金を活用すれば、国債発行も必要ない。
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