mediastudies20141211

メディア社会文化論
2014/12/11
担当 後藤嘉宏
(筑波大・春日エリア教員)
• 次は8.放送の章・・・
まず、
• 本題に入る前に(結構本題と被る)、放送を4
つの観点から、他のメディアと比較
放送と他のメディアを比較する観点
1)広告依存度の高さ(民放のみだが)の問題
2)公平性の問題
3)事件(あるいは話題というべきか)の発生源
としての側面の問題(報道に対する制作の比重
の強さ)
4)下請け依存度の高さ
広告収入と放送
• 全く商業性のないNHK
• 広告収入だけで成り立っている民放
→非常に対照的
メディア相互の広告収入依存①
• 本・・・広告・零か、あっても自社出版物のみ
(8の倍数による余りのみが広告スペース)
• 雑誌・・・ある程度広告収入依存(『文藝春秋』
3億円/1号)
• 新聞・・・かなり依存(「2007年の日本の新聞
広告費は9462億円と、総広告費の13.5%。朝
日新聞社の広告収入はその約6分の1に相
当」)http://www.asahi.com/shimbun/honsya/j/ad.html
メディア相互の広告収入依存②
• ネット情報・・・それ自体が広告的なものと、そ
うでないもの双方。そうでないものも広告をバ
ナー等で出しているものなど様々である。
• しかし純粋に無料でかつ広告が出ていないも
のでも、ネットでは「売名」「広報」という広い意
味での「広告」はなされていると思われる。
• 大学のウェブページも受験生と研究費集めと
いう広告塔の意味も。
メディア相互の広告収入依存③
• 民放・・・全面的依存
• NHK・・・零依存(一応・・・)
なぜ広告依存は歪むか?
• スポンサーを批判(刺激)するような、記事や
番組を作れない
• 直接スポンサーを批判せずとも、政府等が放
送に不満→スポンサーに圧力→テレビ局はそ
の意見を飲まざるを得ない
• 視聴率などの売れ行きの数字が一人歩き
本の売れ行きだって数字では?1/2
• 視聴率至上主義=本の売れ行き至上主義?
• 基本は同じ、しかし・・・
• 本は売れなかったとしても、その本の出版費
用が回収できないのみ。会社の評価も下げな
い。ベストセラー倒産という言葉もあり、ベスト
セラーも必ずしも歓迎されない
本の売れ行きだって数字では?2/2
• 本はロングセラーが初期投資の必要のない
美味しい商品になる(古い定番の薬同様、コ
ピーすれば高い値段で売れる)。評価さえさ
れれば良書が報われる世界
• 他方、テレビの視聴率向上は広告単価を上
げるし、低下はスポンサーの撤退に・・・次に
響く。
公平性の問題
• 放送のfairness doctrine公平原則・公正原則
• 国民の共有財産としての電波・・・これを分け与
えるのが免許制
• Fairな放送をするという条件で、総務大臣が免許
を与える
• Fairでなければ免許剥奪も
• ←fairを基準にすべきなのに、政府の意向に反し
たものを牽制する武器に使う懸念もあるが
公平性について他のメディアとの比較
• 放送・・・厳密な公平性。ただし政府の方に多
少顔を向けざるを得ない。
• 新聞・・・自主的な公平性(不偏不当性)。ただ
し社による色はあり。
• 出版・・・公平性は標榜しないし、期待もされ
ない。
• ネット・・・放送と通信の境界と位置づけられる。
しかし公平性無視、基本保守的な意見が強
い。
事件(イベント)の発生源①
• 新聞のところで、
《新聞社の事業部=事件の発生源、ニュー
ス枯れ対策、ある種のやらせ》と申し上げた
• しかし考えてみればテレビは報道<制作
(今は「報道番組制作」という言い方も結構
あるが)
事件(イベント)の発生源②
• 制作の仕事・・・ドラマ、アニメ、バラエティ、ワ
イドショー、クイズ番組、スポーツ中継を作
る・・・時代の空気を伝えるが、外の事件を伝
えるのではない
• 基本的に自分たちが「事件・イベント」を制作
• 新聞社の脇役だった事業部や文芸部(新聞
小説等)の業務・・・テレビでは主役
事件(イベント)の発生源③
• 新聞、書籍など他の既存メディアとの差別化
の必要性
• 普及の当初は一家に一台だった・・・色々な
世代、性別の家族のメンバーが共通して興味
をもてるもの・・・娯楽的内容
→当然セグメント化している現代社会では、こ
の家族の娯楽という理由は弱まっても当然では
あるが・・・
事件(イベント)の発生源④
• ・・・マクルーハンのテレビへの肯定的評価も、
このような娯楽メディアとしての現状に理解が
あってのことなのか。
下請け依存度の高さと
メディア比較①
• テレビ局は制作部門を独立させたり、制作を
制作会社に外注する傾向に。
• Cf.出版①本づくり
「制作」に相当する「原稿書き」・・・作家先生に
外注 「印刷」「製本」・・・専門業者に外注
• 出版②雑誌づくり
「原稿書き」・・・記者と外部のフリーランス
半々か。文芸誌なら作家先生
下請け依存度の高さと
メディア比較②
• とはいえ、いずれの出版も編集プロダクション
依存の部分増えている。
• 新聞・・・記事はほとんど記者。印刷も内部。
ただし通信社依存等の問題も。(新聞の自己
完結・丸抱えと対比的というかここのみ矛盾)
• ネット・・・ニュース系ブログであっても記事は
ほとんど新聞社系のを引用。情報源としては
既存メディアに寄生。依拠しつつ、「マスゴミ」
と揶揄って批判する
8.放送
8.1新聞と放送
8.1.1機能面での比較
新聞の機能
1)事実の報道機能
2)言論批判機能
• それら以外は新聞社の事業部の仕事と・・・こ
れはあえていえば娯楽機能
• テレビはこの娯楽機能の比重が大きい
• 新聞社事業部の展開するスポーツイベント、
展覧会・・・教養・娯楽機能として捉えうる。
• そのような教養・娯楽機能が、「事実の報道」
と「言論・批判機能」といった、ジャーナリズム
機能と同程度に(あるいはそれ以上に)重視
されるのが、テレビ
• 実際、芸能ジャーナリズムにとってはそれが
事実の報道の対象となる
8.1.2制度面での比較・・・公平原則
• 新聞社は政府の介入を防ぐために「丸抱え」
の体制
• 放送局は制度上、政府の介入を許す(公平
原則ゆえに)・・・免許制・・・制度上は免許が
更新されない可能性を常に持ち続けている
• しかしCATVにまで、放送法の適用範囲とす
る・・・異論も(電波の稀少性という根拠
が・・・?)
公平原則と放送・通信の垣根
• 通信に放送が融合しつつあるのが、現代のメ
ディア状況・・・例 ワンセグ
• 通信は基本的に通信の秘密が守られ、それ
は言論の自由よりも一層、制限されてはいけ
ない領域(このあたり今年度既に説明)
• 通信と放送の融合・・・今まで通信を放送の規
制の網に(ネットでの誹謗中傷)・・・今後、公
平原則をテレビに緩めるのか。
公平原則と資本持ち合い・系列①
• 公平原則との絡みで、民法テレビ局は資本の
持ち合いが制限される。
• しかし現実には二つの局面で系列化
1)キー局とネット局
2)新聞社とキー局
公平原則と資本持ち合い・系列②
• 在京キー局と地方ネット局との系列化(取材・
報道網)
• JNN(TBS系列)・・・全国28のネット局(1998年
及び2010年のデータ)
• NNN(NTV(日テレ))・・・30
• FNN(CX(フジ))・・・28
• ANN(テレ朝)・・・26
• TXN(TX(テレビ東京))・・・6
公平原則と資本持ち合い・系列③
• 系列局への排他協定(JNNの例)
• 「加盟局は「JNNニュース」(JNNのタイトルの
つくニュース番組)については、必ず同時ネッ
ト放送を行うこと。」
• 「加盟局はニュース素材を加盟局のみに配信
し、他系列局には一切、配信しないこと。」
公平原則と資本持ち合い・系列④
• キー局と全国紙5紙の提携関係(資本参加・取
材協力・人的交流)
• 毎日新聞 TBS・・・元々はTBSの方が子会社だっ
たが、毎日の経営危機等で逆に
• 読売新聞 日テレ・・・かつては巨人戦のホーム
ゲームの独占中継。保守の読売の系列企業の
割には、政府への批判的な論評もある。
• サンケイ フジテレビ・・・フジサンケイグループ。
ライブドアのニッポン放送株取得問題で話題に。
フジは保守反動のサンケイの系列会社である
が、政治よりは面白さを追求している。
公平原則と資本持ち合い・系列⑤
• 朝日とテレ朝(すでに申し上げた)
• 日経とテレビ東京
• キー局とネット局は人的交流や資本関係でな
いが、番組がほとんど同じ・・・影響は強い
• キー局と新聞社の関係は、資本関係、人事
の関係に及ぶ・・・政治色には一貫性がない
←資本の無方向性のなさるワザ
8.1.3収益構造面での比較①
• 比較そのものは、前段の前振りで言っている
のでNHKを中心に
• NHK・・・受信料収入によって成り立っている
• NOT国営放送 BUT公共放送(似てはいるが)
• 税金が財政基盤ではない
• 政府寄りではなく、かといって商品としての情
報を売るのでもない。「公共性」を重視する
収益構造面での比較②
• 税金で運営されていないし、広告も流してい
ないNHK・・・政府に対しても、資本家に対して
も、一定の距離を保ち、中立性を保持でき
る・・・公共性の由来(cfハーバーマスの公共
性)
• 公であり、私的な利益と反しつつ、国家や政
府ではない領域・・・「社会」「市民社会」
収益構造面での比較③
• 受信料支払い拒否の連続・・・政府は、NHK受
信料を税金の形で納めさせたらと
・・・対するNHK側、その意見に抵抗
• 受信料収入に頼っているNHK・・・公共的な、
あるいは、いいかえると社会的な問題に関わ
る事柄についての放送が多い(多かった)
• 広告収入に依存している民放・・・視聴率が稼
げる娯楽的内容の放送が多い
収益構造面での比較④
• これが逆にいうと、授業レポートでNHKに反撥
する声が大きい理由にも
• 広告収入に頼る民放→娯楽性高い→楽しい
→なのに無料
• 受信料に頼ればよいNHK→お堅い。つまらな
い→なのに有料(もっとも後藤はNHKの回し者
ではありません。ワンセグにも受信料というの
は行き過ぎでは?とも)
では、商品性って悪いのか?1/8
商品の肯定的側面
• 一定の水準にあるものが商品に
• アマチュアに対するプロフェッショナル
• お金を払って見聞きするに価するもの=商品
• 我々の論文だって紀要や学会誌は商品では
ないが、本は商品で、文系は本を書いて評価
される大学も多い。
では、商品性って悪いのか?2/8
商品の否定的側面
• 利潤を増やす。資本の増大に役立つ。しかし
資本は無方向。(前々回位にやった内容)
• 売れなくたって優れているもの、優れていなく
ても価値のあるものがある。・・・多元的な価
値
• このような多元性を一元的な価値に変えてし
まう
では、商品性って悪いのか?3/8
• 真善美の価値
一致?それぞれの距離も
真実・虚偽、善・不善、美醜・・・本来、それぞ
れに固有の論理(振り分けの基準)
• あとの二つでのマトリックスを想起せよ。
{美しく不善}な人と{醜く善なる}人
前者が社会でもてる→皆が好む→商品価値
あるとされる→メディアに多く露出できる
では、商品性って悪いのか?4/8
• テレビは悪役以外、基本的に美男美女で構
成される。少なくとも、ドラマの世界は現実世
界より遙かにイケメン美女揃い。
• {美しく不善}な人>>>{醜く善なる}人とい
う価値付け 幼少より刷り込まれる
• あるいは美しい人は善、醜い人は悪という先
入観をいだくように
• 悪役=不細工の配役ゆえ
では、商品性って悪いのか?5/8
• そして価値=価値あることでありかつ価格が
高いことでもある
• 心理学の実験では・・・
• テレビで美しさを追求するように仕向けられる
→美しいものを欲しがる→価値あるものは高
い
→お金を至上と考える価値観も埋め込まれる
では、商品性って悪いのか?6/8
• お金を稼いで広告に出た「美しい」(美味しい・
面白い)商品を買いましょうと仕向けられる
• こういった循環が民放でのコミュニケーション
• ルックスがよく弁が立つ政治家が人気に
• 内容よりはプレゼンの善し悪しで勝負。(どこ
かの大学の卒論審査?)
• (もちろんマクルーハン流にはプレゼン=メ
ディアでそれがメッセージ=内容であるが)
では、商品性って悪いのか?7/8
中身(言葉)の力で勝負するという民主主義の
基本理念への脅威
〔別の側面から〕
• 時代を先導する偉人・・・一部の支援者・多く
の周囲の無理解
• 偉人の模倣者・追随者・・・多くの人々が理解
• 前者は商品社会だと報われず、後者のみが
良い思いを
では、商品性って悪いのか?8/8
• ゴッホの絵・・・現代で数億円、当人は二束三
文で売っていた絵が。
• 分かりやすさ、耳当たりの良さは大事
• だけどそれのみを重視する社会は、新たな活
力はないし、一元的で不健全
結論→商品性には一長一短ありというか一長
三短ある。
NHKの娯楽志向
• 受信料が当たり前のように支払われた時
代・・・NHKは視聴率を気にせず
• 受信料を支払わない人が増えた時代(「うち、
NHK見ていないし・・・」)・・・NHKも視聴率、気
にするように
• 中途半端な柔らかさ。民放で売れたタレント
(森田一義、等)を毒抜きして使う(一番みっと
もない)
8.1.4内容面での新聞(及びその他
のメディア)との比較
(前振りで述べたが)
• ワイドショウのような娯楽的な芸能・スポーツ
関係の「報道」の比重も強いし、さらにドラマ
やバラエティ(これはワイドショウ等にも被る
概念であろうが)、音楽・歌番組などの自分た
ちで作り上げる番組も多い。・・・報道ではな
いが社会を映す鏡
• 民放ではニュースそのものがバラエティ化
→自分たち自身が情報の仲介者というより発信
源である部分が新聞に較べて遙かに強い
C.W.ライトのマス・メディアの4つの機能
1)環境監視活動 ニュース
2)社会的調整活動 編集・解説・指示
3)文化の伝承
4)娯楽機能
• 後藤将之の新聞の二つの機能のうちの
事実の報道機能は1)環境監視活動に
言論・批判機能は2)社会的調整活動に相
当
• テレビ(放送)の教養記事や番組は3)文化
の伝承であるし、標準語化とかいう意味なら
全てのコンテンツが該当
• そして4)の娯楽機能がテレビに強い
ユルゲン・ハーバーマス
『公共性の構造転換』
(今年度は既に説明済み)
ハバーマスの議論
• 公共圏参与資格が「教養と財産」
• 「財産」・・・私的利潤に囚われて発言しないた
めの基盤→これを敷衍すると
1)経営基盤のしっかりしたメディアであるほど、
利潤に囚われた言説をしない
2)広告収入依存のメディアほど、利潤に囚わ
れた発言をする
ハーバーマス流の公共性を巡る諸メディアの比較
• NHK・・・もっとも公共性が高い
• 本・・・大抵は自社広告が少し載るのみで、次に
公共性が高い
• 新聞・・・本に次ぐ
• 雑誌・・・様々で、本に近いレベルまで広告の少
ないものもあるが、ファッション誌のように広告依
存、記事そのものも広告的なものの方が多い
• 民放・・・最も公共性がない
• NHK、民法、二種類の放送が、公共性という
観点で諸メディア並べると、両極に。
まとめ①
• メディアの特性の違いが色々。
• 下手なメディアミックス戦略のように、それぞ
れをきちんと翻訳し移動できる訳ではない。
• 「メディアはメッセージ」であるから。
• 共通感覚論で申し上げたように、それぞれの
感覚配分(五感の配分比率)で、ものの見え
方は変わりうる
• メディア相互で五感の配分も違えば、商品性
まとめ②
• の割合も違うし、客観性の有無も違うし、速報
性・遅報性も違うし、空間的広がり(水平性・
フロー)を目指すか時間的な広がりを目指す
か(垂直性・ストック)も違う
• アランのいうようにそれぞれの芸術(通常は
感覚を特化したもの)に固有の見方があるよ
うに、メディアにもそれぞれの固有のとらえ方
=翻訳不可能性
まとめ③
• 結局各々のメディアなりの真実
• 捉える角度による相違がそれぞれある(いず
れも嘘ではないという意味では真実・でも絶
対ではない)ということはメディア内だけでなく
、メディア相互についてこそいえよう。
• NIEのような同一メディア内での相互比較以
上に、メディアリテラシー向上のためには、メ
ディア相互の同じ事象へのとらえ方の比較が
必要。