介護保険財政運営の 今後のあり方について 学習院大学経済学部 鈴木 亘 介護保険財政の特徴 • • • • 年金でいう賦課方式である。 公費負担割合が著しく高い。 医療や年金以上に、高齢化の影響大きい。 →少子高齢化が進む中においては、財政運 営が厳しくなることは、設立当初から明白。現 在の状況は「予定されていたもの」である。 • →しかも、自治体による措置への先祖がえり、 総量規制、介護人材不足など、財政問題が別 の副作用を派生している。 • 世代間不公平の問題も将来は問題視。 図表 1-5 介護保険の受益と負担の年齢別分布 (組合健保加入者男性、被扶養者分を考慮) 単位:千円(年額) 300 275 250 220 200 156 150 130 100 68 63 59 70 66 50 25 4 4 4 4 3334 27 24 4 19 12 4 注)鈴木亘(2006)より。 上 以 90 歳 89 歳 85 ~ 84 歳 80 ~ 79 歳 75 ~ 74 歳 70 ~ 69 歳 65 ~ 64 歳 60 ~ 59 歳 55 ~ 54 歳 50 ~ 49 歳 45 ~ 40 ~ 44 歳 0 受益 負担 図表 1-6 社会保障給付費の将来予測 単位:兆円 社会保障給付費 対国民所得比(%) うち年金給付費 対国民所得比(%) うち医療保険給付費 対国民所得比(%) うち介護保険給付費 対国民所得比(%) 国民所得 2006 2011 2015 2025 2035 2050 2075 2100 81.5 95.0 106.0 134.6 167.7 225.6 293.2 339.7 21.7% 21.9% 23.1% 25.3% 28.9% 36.2% 40.8% 39.2% 47.4 54.0 59.0 68.5 84.5 114.6 147.4 169.3 12.6% 12.5% 12.8% 12.9% 14.6% 18.4% 20.5% 19.5% 27.5 32.0 37.0 49.2 60.1 78.8 100.2 115.5 7.3% 7.4% 8.0% 9.3% 10.4% 12.6% 13.9% 13.3% 6.6 9.0 10.0 16.9 23.1 32.3 45.6 54.9 1.8% 2.0% 2.3% 3.2% 4.0% 5.2% 6.3% 6.3% 375.6 433 461 531.2 580.4 624.0 718.5 866.3 注)2006、2011、2015 年の数値は、厚生労働省「社会保障の給付と負担の見通し-2006 年(平成 18 年)5 月-」よ り。それ以降は、筆者による推計。金額は全て名目値。 図表 4-2 介護保険料の将来予測 2008年 2015年 2025年 2035年 2050年 2075年 2100年 1号保険料額(月額、円) 国民年金満額に対する比率 2号保険料率(健保組合) 注)筆者による試算 4,090 5,710 9,024 12,210 18,519 39,096 66,079 6.2% 8.2% 11.7% 14.5% 18.6% 29.9% 38.4% 1.1% 1.4% 1.9% 2.3% 2.6% 3.1% 3.1% 図表 1-7 社会保障全体の世代別損得計算 単位:万円 1940年生まれ 1945年生まれ 1950年生まれ 1955年生まれ 1960年生まれ 1965年生まれ 1970年生まれ 1975年生まれ 1980年生まれ 1985年生まれ 1990年生まれ 1995年生まれ 2000年生まれ 2005年生まれ 年金 3,100 1,760 780 250 -200 -590 -970 -1,290 -1,610 -1,880 -2,120 -2,290 -2,420 -2,510 医療 1,450 1,180 930 670 520 380 260 130 -40 -240 -410 -480 -620 -720 介護 300 260 190 130 50 0 -40 -80 -120 -150 -180 -210 -230 -250 全体 4,850 3,210 1,900 1,050 370 -210 -750 -1,250 -1,770 -2,270 -2,710 -2,980 -3,260 -3,490 1940年生まれと 2005年生まれの 差額は、8,340万 円 (年金のみでは 5,610万円) 注)5章で用いている最新の各財政予測モデルに基づく筆者試算値。計算方法の詳細は、鈴木亘(2006)を参照。厚生年 金・健保組合加入者(男性、配偶者あり)のケース。 介護保険財政に積立勘定を • 早い時点で行き詰まる介護保険財政 • 給付抑制も直ぐに限界になる • →今後なるべく早い時点で、積立勘定を入れ る必要がある。積立制度を導入することによ り、少子高齢化の進展に備えることができる。 • 理論的には、完全に移行する必要は無い(技 術革新などのリスクもあるため)ので、まずは 一部導入でどうか。 図表 5-9 介護保険の保険料率の推移 % 8.00 7.00 6.00 5.00 賦課方式 4.00 3.00 2.00 1.00 20 08 20 13 20 18 20 23 20 28 20 33 20 38 20 43 20 48 20 53 20 58 20 63 20 68 20 73 20 78 20 83 20 88 20 93 20 98 21 03 0.00 注)介護保険財政モデルにより、筆者試算。 積立方式 2104 2100 2096 2092 2088 2084 2080 2076 2072 2068 2064 2060 2056 2052 2048 2044 2040 2036 2032 2028 2024 2020 2016 2012 2008 図表 5-10 介護保険の積立金の推移 兆円 250 200 積立方式移 行 150 100 初めから積 立方式の ケース 50 0 注)介護保険財政モデルにより、筆者試算。2005 年時点での割引現在価値に直している。 現実的な改革案 • しかしながら、後期高齢者医療制度導入時の 混乱をみても、保険料引き上げに対する抵抗 は大きい。 • 介護保険を運営する自治体も、保険料引き 上げには非常にセンシティブ。 • 保険料を上げずに、積立勘定を作る方法が ある。 • ①給付カットを早めに行なう。具体的には、2 割の自己負担引上げは早晩不可避。不可避 であれば、早く実行する。 • ②要支援、要介護度の低い人々への介護保 険外化か、自己負担引き上げ。 • ③20歳からの保険料徴収。賦課方式では、 20歳は介護リスクが少ないので保険加入を 勧める理由に乏しかったが、積立導入により 正当性が増す。 • →給付カットで、保険料を本来引下げられる が、それをせずにいると、自動的に積立勘定 が作られることになる。 自己負担増にはMSA (医療貯蓄口座)導入 • 自己負担引き上げの抵抗には、MSAで対処 する。 • 労使折半で、将来の自己負担分・保険外部 分の支払いに当てるための貯蓄勘定を作る。 • できれば、医療と供にやる方が効果的である し、前例(シンガポール、アメリカ)がある。 • 遠い将来要介護状態になる現在の勤労者達 は、十分に貯蓄を積み立てる時間がある。 • 一方で、現在の高齢者には、インセンティブを 付けて、金融資産をMSAに供出してもらう。 • もともと、普通の高齢者(貧困世帯以外)は、 介護保険開始前、介護・医療用の予備的貯蓄 割合が非常に多かった。介護保険開始により、 この予備的貯蓄が浮いている。 • 実は、地域的な介護ネットワークも壊してし まった部分があった(甑島など)。 • 具体的には、相続税無税、利子課税無税、上 乗せ金(財源は、保険の給付抑制で浮いた公 費)、家族間残高融通、高額再保険化、年金 保険転用などをインセンティブにする。低所得 者向けのMSAは公的に作る(財源は同様)。 • シンガポールのメディシールド、メディシールド プラス、低所得者用のメディファンド 。 混合介護の導入 • 自己負担分を広げる対策としては、財政投入額の 上限を決めた上で、それ以上の部分を自由化する 混合介護という手もある。 • 自由価格=薬の卸値、介護報酬単価=薬価基準と いう使い分け。 • 財政にひきづられる価格規制が緩むので、今回の 人材不足問題のような問題がおきにくくなる。サービ ス次第で価格が上昇するので、業者が切磋琢磨・ 進歩する動機を持つ。 • MSA導入で納得が得られやすくなる。 自治体の権限強化の問題 • 元々、保険者機能強化は理論的に指示され ない。 • 負の競争が起きるメカニズムがある。 • 総量規制は暴力的手段。裁量も大きすぎる。 • 自治体ごとに介護保険運営することの合理 性は本当にあるか。 • 医療のようなリスク構造調整をする余地。
© Copyright 2024 ExpyDoc