レジュメ

医療制度とその改革
①医療保険制度成立のストーリー
社会保険設立の歴史的経緯1(若年人口+高成長社会のケース)
高度経済成長+
若年人口社会
保険料支払い能力の増加
中小企業
自営業・農林水産業
豊かな政府財
政
公費による財政
援助
公費
公費
国民皆保険の達成
大
企
業
公
務
員
社会保険設立の歴史的経緯2(高齢人口+低成長社会のケース)
低成長
+少子高齢社会
保険料支払い能力の低下
中小企業
大
企
業
自営業・農林水産業
政府の
緊縮財政
保険間での助け
合いの指示
公費による財政負担
財 政 調 整 制 度
公 費
財政負担減のための規制強化
公
務
員
①日本の医療保険制度の概要
• 医療サービスに対する公的な医療保険制度。
保険料を支払う代わりに、医療サービスを受
けたときに、自己負担を除く部分を保険が負
担してくれる制度。
• 日本は、1961年から国民皆保険制度をとっ
ており、日本に居住する全ての人々が医療
保険に強制加入する制度。
• 例外は生活保護者(医療扶助)。また、保険
料滞納や申告漏れで保険証を持たない人々
も存在しているが、法律的には国保などに属
することになっている。
• 特徴は、制度が分立していることと、複雑な財
政調整と国庫負担導入が伴うこと。
• 「組合」とは健康保険組合(健保組合)
• 「政管」とは、政府管掌健康保険(政管健保)。
• 2008年10月から 「全国健康保険協会管掌健
康保険」(協会けんぽ): 13%が公費負担
• 「共済」は、共済組合健康保険(共済健保)
• 「国保」は、国民健康保険制度(国保) :50%
が公費負担
医療制度の仕組み
組合
政管
共済
国保
退 職 者 医 療 制 度
老 人 保 健 制 度
組合
協会
共済
国保
前 期 高 齢 者 医 療 制 度
後 期 高 齢 者 医 療 制 度
• (被用者保険)
• 被用者保険とはサラリーマンの保険。組合、政
管、共済。
• 被用者保険の対象事業所は、常用雇用5人以
上の事業所もしくは5人未満の法人事業所。組
合を作らなくても、政管に加入すればよい。
• 基準を満たさないパートタイム労働者や短時
間労働者は加入させなくてもよい。
• 被扶養者については保険料負担は無い。
• (国保)
• 保険料と保険税。
• 保険料負担は、①所得割(収入に応じて徴収)、
②資産割(固定資産税に応じて徴収)、③平等
割(世帯ごとに徴収)、④均等割(世帯内の被
保険者数に応じて徴収)、①②を応能割、③④
を応益割と呼ぶ。
• 4種類を市町村裁量で組み合わせる。所得割
と均等割が入っていれば、3種類でも2種類で
もよい。
• 老健制度⇒後期高齢者医療制度へ
– 狙いは財政調整、自己負担の復活、検診健康指導
– 老健による老人医療費は12兆円、国民医療費の
1/3
– 老健拠出金算定の仕組み
退職者医療制度⇒前期高齢者医療制度へ
•
•
•
•
国保の中にある退職者用の医療制度。
1984年に創設。
60-75歳までの対象者で、被用者保険のOB。
保険料(税)を納付するがそれで不足する分を被用者保
険が共同で負担。
• 公費負担はない。
• (1)保険給付の範囲
• 医療保険の保険給付の中心は、現物給付(療養の
給付)。
• 保険の適用外の医療(美容整形、出産、眼鏡、補聴
器、研究段階の先端医療、特殊な歯科補綴、町の薬
局で買う大衆薬(OTC))
• 混合診療の禁止
• 1984年から特定療養費制度が創設される(①差額
ベット代、②前歯部の金属材料差額 、③金属床総義
歯、④200床以上の病院についての初診
• ⑤200床以上の病院についての再診、⑥予約診療、
⑦診療時間外診療
• ⑧治験に関する診療 、⑨う触患者の指導管理、⑪
入院期間が180日をこえる入院 ななど)
• (2)患者の一部負担
• ・現在は老人を除く自己負担は3割に統一(た
だし、0-3歳は2割)
• 老人(70歳以上)は、70-74歳が2割、75歳以
上が原則1割(一定以上所得者は3割)。
• 老人医療は1973年から1983年まで無料。83
年の老人健康法施行以来は、定額の一部負
担を導入。2002年から定率負担(1割または2
割)を導入。
• 高額医療費制度
• (3)出来高払いと包括払い
– 出来高払い・・・治療をすればするほど医療費がか
かる制度、一般的
– 包括払い・・・疾病により一定額以上は払わないと
する仕組み。老人医療(外総診)や一部の医療(マ
ルメ)などで実施している(た)。日本の場合、選択
性であることが問題。近い概念に見込み払い。
– 2003年から全国82病院で、急性期入院医療につ
いて1日あたりの包括化制度、包括評価(DPC)が
始まっている。1日単位、検査の外来か、回転率上
昇などにより、むしろ医療費は増加している。
• (4)診療報酬点数表⇒価格統制
– 保険診療の料金表、保険へ請求するレセプトもこ
れを元に計算される。
– 1点10円。
• (5)中医協
– 診療報酬点数表を決める審議会
– 支払い側8名、診療側8名(医師会、薬科医師会、
薬剤師会)、公益委員4名の構成。推薦制度があり
医師会の勢力が強いことから、委員会決定の見直
しが予定されている。
• ○薬価基準
–
–
–
–
薬の料金表は薬価基準
1万2000点が収載
市場価格と薬価の差額は薬価差益
日本は薬価差益が大きいことが問題であった。現在は、相
次ぐ改革で、2年に一度の薬価差益解消が図られている。
• ○審査払い
– レセプトの審査機関は、社会保険診療報酬支払基金(被用
者保険グループ、47都道府県に支部)、国民健康保険団
体連合会(国保、都道府県に1つ)が実施。国保連合会は、
介護保険も審査。
– レセプトの情報開示・・・1997年から本人や遺族が開示請
求をすれば開示。
2003( 15)
2001( 13)
1999( 11)
1997( 9)
1995( 7)
1993( 5)
1991( 3)
1989(平成元)
1987( 62)
1985( 60)
1983( 58)
1981( 56)
1979( 54)
1977( 52)
1975( 50)
1973( 48)
1971( 46)
1969( 44)
1967( 42)
1965( 40)
1963( 38)
1961( 36)
1959( 34)
1957( 32)
1955( 30)
1953( 28)
1951(昭和26)
②日本の医療保険制度の現状と問題
医療費/国民所得比
8.00
7.00
6.00
5.00
4.00
3.00
2.00
1.00
社会保障給付費の将来予測
社会保障給付費
対国民所得比(%)
うち年金給付費
対国民所得比(%)
うち医療保険給付費
対国民所得比(%)
うち介護保険給付費
対国民所得比(%)
国民所得
2006
2011
2015
2025
2035
2050
2075
2100
81.5
95.0
106.0
134.6
167.7
225.6
293.2
339.7
21.7%
21.9%
23.1%
25.3%
28.9%
36.2%
40.8%
39.2%
47.4
54.0
59.0
68.5
84.5
114.6
147.4
169.3
12.6%
12.5%
12.8%
12.9%
14.6%
18.4%
20.5%
19.5%
27.5
32.0
37.0
49.2
60.1
78.8
100.2
115.5
7.3%
7.4%
8.0%
9.3%
10.4%
12.6%
13.9%
13.3%
6.6
9.0
10.0
16.9
23.1
32.3
45.6
54.9
1.8%
2.0%
2.3%
3.2%
4.0%
5.2%
6.3%
6.3%
375.6
433
461
531.2
580.4
624.0
718.5
866.3
医療保険料の将来予測
2008年 2015年 2025年 2035年 2050年 2075年 2100年
後期高齢者医療制度保険料額(月額、円)
国民年金満額に対する比率
保険料率(健保組合)
6,200
6,974
8,594
10,591
14,489
24,426
41,177
9.4%
10.0%
11.1%
12.5%
14.6%
18.7%
23.9%
7.5%
8.1%
8.7%
9.6%
11.2%
12.1%
11.7%
図1 1人当り医療保険給付費・保険料の年齢別分布
(2004年予算ベース、組合健保被保険者、被扶養者分を考慮)
500
434 449
450
400
350
318
248
222
147
145
15
5
90以上
30
80~84
75~79
51
85~89
103
69
70~74
65~69
90
60~64歳
45~49歳
94
40~44歳
10~14歳
79
15~19歳
5~9歳
67
77
10~14歳
0
53
15~19歳
0
47
10~14歳
0
0~4歳
55
15~19歳
73
100
118
50~54歳
149
150 134
受給
保険料
194
179
200
310
293
55~59歳
250
0
404
394 383
278
300
50
345
370
社会保障全体の世代別損得計算
1940年生まれ
1945年生まれ
1950年生まれ
1955年生まれ
1960年生まれ
1965年生まれ
1970年生まれ
1975年生まれ
1980年生まれ
1985年生まれ
1990年生まれ
1995年生まれ
2000年生まれ
2005年生まれ
年金
3,100
1,760
780
250
-200
-590
-970
-1,290
-1,610
-1,880
-2,120
-2,290
-2,420
-2,510
医療
1,450
1,180
930
670
520
380
260
130
-40
-240
-410
-480
-620
-720
介護
300
260
190
130
50
0
-40
-80
-120
-150
-180
-210
-230
-250
全体
4,850
3,210
1,900
1,050
370
-210
-750
-1,250
-1,770
-2,270
-2,710
-2,980
-3,260
-3,490
1940年生まれと
2005年生まれの差
額は、8,340万円
(年金のみでは
5,610万円)
③これまでの医療制度改革とその評価
• 2002年改正の概要
• 自己負担率の引上げ(幼児・高齢者を除き原
則7割に)
• 高額療養費療養費自己負担限度額見直し
• 薬剤一部負担金制度廃止
• 保険料の見直し(総報酬制、政管保険料引き
上げ)
• 高齢者医療制度の対象年齢の引き上げ(70歳
を段階的に75歳に)
• 高齢者患者の一部負担引き上げ(1割)
• 自己負担限度額見直し
• 公費負担の重点化(老人医療について5割へ
引き上げ)
• 診療報酬・薬価基準等の見直し
• 自己負担率引上げ⇒一時的な効果しか持ちえ
ない。トレンドは変えられない。
800,000,000
750,000,000
700,000,000
650,000,000
600,000,000
550,000,000
500,000,000
平成8年
平成10年
平成12年
平成9年
平成11年
450,000,000
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
診療報酬引下げの効果
• 「三方一両損」として、 -2.7%の引き下げ。
• 内訳は、薬剤や医療材料価格が-1.4%、それを
除く診療報酬本体が-1.3%。本体部分が引き下
げられたのは初めて。
• 医師会の緊急レセプト調査(平成14年6月)で
は1日あたり医療費は、昨年比ー4%、特に影響が
深刻な整形外科はー7.0%の落ち込み、医療機関
経営に深刻な影響とされた。
• しかし、改定が恒常的な効果をもったのかどう
かについては、懐疑的な見方(鈴木・鈴木・八
代,2003)
• 医師誘発需要が存在するのであれば、その後の
患者あたり医療費はその後引き上げられ、診療
報酬改定の効果は相殺されるはず。
• ところが、効果を検証することは難しい。10月に
は老健の自己負担や年齢引き上げ改革が入り、
純粋な効果が見れない。また、景気要因や高齢
化要因など様々な要因が影響してしまい、マクロ
データでは検証が困難である。
• そこで、個票レセプトデータを用いて、いろいろな
要因をコントロールした上で、純粋に医師誘発需
要の存在を検証する。
0.04
0.02
0
-0.02
-0.04
全体
-0.06
-0.08
-0.1
分
3月
分
2月
分
1月
分
12
月
分
11
月
分
10
月
分
9月
分
8月
分
7月
分
6月
分
5月
4月
分
-0.12
• 2006年改正
①中長期的な医療費抑制策
・保険者の検診・保健事業の義務付けによる生
活習慣病患者・予備軍の減少
・在宅医療の促進・病床転換による平均在院日
数の短縮を実施。
・数値目標の実効性を担保するために、都道府
県に医療費適正化計画を策定させて実績評
価を行い、達成状況に応じて、被保険者には
後期高齢者医療支援金加算・減額による動機
付け。
②短期的な医療費抑制策
・高齢者の患者負担見直しとして、70-74歳は1
割から2割へ自己負担率が引き上げ
・現役並みの高所得を持つ高齢者の自己負担
率が3割に引き上げ。
・高額療養費の上限を引き上げ
・療養型病床の入院患者からのホテルコスト徴
収・食費負担引き上げが実施。
③都道府県別の保険者再編・統合
・政管健保の都道府県単位化
・年齢格差・所得格差のリスク構造調整
・市町村国保については都道府県単位での保
険運営を推進するために、都道府県内の市
町村の拠出による共同事業の拡充を行う。
④高齢者独立医療保険制度の創設
・75歳以上の後期高齢者について独立した医療
制度を創設する。財源は、高齢者保険料1割、
医療保険からの支援金(後期高齢者医療支
援金)4割、公費5割。
・前期高齢者財政調整
問題点
• 試算の医療費抑制策が「対策の効果があると
して」計算されている。
• 生活習慣病の予防・コントロールは、医療費引
き下げ要因にはならない。
• 患者に対して生活習慣病対策を実施するイン
センティブが存在せず、保険者へのインセン
ティブも限定的(後期高齢者、前期高齢者財政
調整のため、保険者は生活習慣病対策に努
力をしてもしなくても財政に影響しないことから、
保険者に対策のインセンティブが存在しな
い。 )
• 国保・高齢者独立医療保険における平均在院
日数の減少という目標についても、後述する医
師誘発需要のために、医療費抑制につながる
とは思われない。
• 短期的な医療費抑制策として打ち出された高
齢者の自己負担率の部分的引き上げである
が、実はこうした対策は医療費に対してワン
ショットの水準変化があるだけ
• 平均在院日数の短縮についても、現在行われている
医療費包括化(DPC)対象病院の動向を見る限り、
それが医療費抑制につながっていない、回転率を上
げて単価の高い入院初期の医療費を稼いだり、入院
外での医療費を高めたりするからである。
• 国保については、診療報酬明細書(レセプト)一件に
つき三十万円以上の高額医療費を共同事業拡大に
よって無条件に再保険で財政調整してしまうことに
なった。これでは、財政負担となるある程度高額の生
活習慣医療費は、財政調整によって保険者の負担と
はならないから、さらに努力の動機を殺ぐことになる。
④医師不足問題への対処
• マクロ的に不確かな医師不足
• 病院勤務医の不足、特に、過疎地を初めとす
る地方病院や、産科や小児科において勤務
医不足は顕著
• 医療崩壊、立ち去り型サボタージュ
• 勤務医と開業医の違い
• 市場経済では医師不足は発生し得ない
• 医師不足の原因
• ①近年急速に高まったとされる医療へ「安全
要求」と、それに伴う医療訴訟や医師の逮捕
の増加
• ②「コンビニ受診」といわれる安易な夜間の受
診増加や、高齢者達の病院志向の高まり
• ③診療報酬の引下げ
•
S1
診療価格
供給曲線(S0)
E1
E2
P1
P0
A
②
①
E0
④
③
B
D1
需要曲線(D0)
QA
Q0
患者数の超過需要=医師不足
QB
患者数
S1
D1
診療価格
P1
A
P0
B
C
QC
D
QB
QA
医師不足
QD
患者数