特許戦略論 第3回 特許戦略における数量的法則 2006年2月18日 久野敦司 (特許戦略工学分科会オーガナイザ) 戦略のイメージに合うフリー素材の動画gifを、http://www.atjp.net からダウンロードして活用しています。 1 (C) Copyright 2006 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved 法則に基づいた特許戦略は強固 • 特許権侵害訴訟判決などの統計分析から得られる 統計的法則 • 特許戦争の数理モデルから得られる法則 • 特許業務から得られる経験則 法則+戦略思考が特許戦略においても必要 法則を考慮して、特許戦力の配置や各種活動を行な うことが、特許戦略の成功確率を向上させる。 2 侵害訴訟判決からみた統計的法則 法則1: 侵害訴訟での特許権者の勝率= 約30% (1) 1件の特許での攻撃であれば、70%の確率で防御できる ことを意味している。 (2) 2件の特許での攻撃を防御できる確率は、0.7×0.7= 0.49 (3) 3件の特許での攻撃を防御できる確率は、 0.7×0.7×0.7=0.35 (4) 4件の特許での攻撃を防御できる確率は、 0.7×0.7×0.7×0.7=0.24 3 法則2: 28%が特許無効で敗訴している 法則3: 44%が非侵害で敗訴している 注) 上記では、特許無効と非侵害の両方の理由での敗訴の場合10%を ダブルカウントしています。 上記の確率からすると、特許権で攻撃を受けた場合、まずは非侵 害との論の成否を検討し、その後に無効の論の成否を検討した 方が、コストの節約になる。 ただし、非侵害との論が、非常に細かな専門的な議論となりそう な場合には、無効との論を先に出して、権利範囲を狭めさせ、侵 害論のポイントを変えるという策も必要。 4 法則4: 侵害訴訟に3件以上の特許が用いられることは ほとんどない。 1件 2件 3件 4件以上 83% 16% 1% 0% • 3件以上の特許権での攻撃は、訴訟に至らずに解決している 場合がほとんどであることを示している。 • 必勝を期すなら、3件以上の特許権が必要であるとも言える。 • これは、3件以上の特許権での攻撃を防御できる可能性が約 30%以下となることとも、整合する。 5 訴訟に活用される特許での 主要請求項の構成要素数 • • • 最大の構成要素数 最小の構成要素数 平均の構成要素数 13個 1個 6個 侵害訴訟に使われた特許の請求項の構成要素数 14 構成要素数 12 10 8 6 4 2 0 1 5 9 13 17 21 25 29 33 37 41 45 49 53 57 61 65 69 73 77 81 85 89 93 97 事件 6 法則5: 侵害訴訟には構成要素が7個以下程 度の特許が活用される場合が多い。 • 構成要素数が7個以下の特許は、攻撃に用 いられる可能性が高い(約70%)ことを示す。 • すなわち、他社特許調査においては、構成要 素数が7個以下の特許の優先順位を上げて 調査することで、一定の調査パワー内で、高 いリスクの特許の見逃しを少なくできる。 7 出願から訴訟提起までの年数 25 年数 20 15 10 5 0 1 8 15 22 29 36 43 50 57 事件 64 71 78 85 92 99 法則6: 出願から5年未満の新しいものも、出願から20年程度の古い ものも、訴訟提起には用いられているので、古い特許であるからと、 軽視することはできない。 8 特許戦争の数理モデルから得られる法則 法則7:特許リスク比方程式 (riskBA/riskAB) = (SA/SB)×(rBA/rAB) riskBA: B社の特許によるA社の特許リスク riskAB: A社の特許によるB社の特許リスク SA: A社の売上高 SB: B社の売上高 rBA: A社の売上高のうちで、B社の特許権にカバーされる割合 rAB: B社の売上高のうちで、A社の特許権にカバーされる割合 ここで、簡単のために、個々の特許権の侵害発見性や理解容易性を無視して、B社の特許権によるA社 の特許リスクをriskBAとし、A社の特許権によるB社の特許リスクriskABとすると、次式が成立する。 riskBA = SA×rBA riskAB = SB×rAB rBAは、B社の特許権の数PBが多いほど大きくなり、A社の製品種類数HAが多いほど小さくなる傾向が ある。 rABは、A社の特許権の数PAが多いほど大きくなり、B社の製品種類数HBが多いほど小さくなる傾向が ある。 製品種類数が少なく、売上高の大きな企業は、特許リスク比が自社に不利となる。 売り上げ規模の小さな事業を多数抱える企業は、特許リスク比が有利となる。 9 特許パワーに関する経験則 1. アイデア100件の中で特許出願されるものは、 1件から5件の間。 2. 特許出願100件の中で権利化されるものは、 30件から60件の間。 3. 特許権100件の中で権利行使しようという検討対象となる ものは、1件から5件の間。 4. 権利行使した特許権100件の中で、実際にロイヤリティを 稼いだり、何らかの契約にまでいき事業貢献できるのは、 20件から50件の間 10 組織パワーに関する経験則 1. 技術論,法律論,プロジェクト管理を細部まで行 なう特許権活用プロジェクトを並列実行可能な 件数は、一人あたり2件から5件 2. 一つの特許権活用プロジェクトで、メンバー数が 増えることで実行速度が向上するのは、メンバー 数が5名程度まで。 3. 500人に一人というレベルの優秀な発明者は、発 明をほとんどしない技術者の1000倍の確率で基 本発明を行なえる。 11 情報パワーに関する経験則 • 100件の自社特許権があれば、権利範囲が 広く、理解と侵害発見が容易で、回避困難な 上位10件の特許の主請求項を覚えることが、 効果的な特許戦略の早道である。 • 他社製品情報の収集と処理にかける時間と コストを、自社製品情報の収集と処理にかけ る時間とコストの5倍程度にすることが、効果 的な特許戦略には必要である。 12
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