特許戦略論 第2回 2005年1月22日 久野敦司 (特許戦略工学分科会オーガナイザ) 戦略のイメージに合うフリー素材の動画gifを、http://www.atjp.net からダウンロードして活用しています。 (1)基本特許取得の戦略 (2)技術進化の法則の体得と特許出願戦略の実行 (3)基本発明の抽出方法 (4)基本発明の創作手法の例 (5)獲得した基本特許の抽出 1 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved 基本特許取得の戦略 教訓1:事業と特許の時間的ギャップをなくす! 特許業務のスピードと、事業のスピードは大きく異なる。特許業務のスピードは遅いの で、権利活用期が少なくとも成長前夜に間に合うようにするための工夫が必要。 状態 事 業 領 域 成長前夜での特許権活用 はシェア獲得において非常 に重要 成長期 飽和期 衰退期 成長前夜 権利活用期 揺籃期 事業と特許の 事 業 化 前 アイデア 発生 商品開発 時間的ギャップ 中間処理期 技術開発 出願、審査前 通常の事業と特許のプロセスの関係 時間 2 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved 教訓2: 技術開発よりも先行して特許出願する! 事 業 領 域 事 業 化 前 事業と特許のプロセスの理想的な時間関係 状態 成長期 飽和期 衰退期 成長前夜 揺籃期 商品開発 技術開発 中間処理期 権利活用期 ・ アイデアの発生は技術開発よりも数年は先行 させる。 ・ 技術開発テーマは、自社の特許出願の中から 選べるようにする。 ・ 商品開発の動向、事業の揺籃期の業界動向 を見ながら特許の中間処理をする。 ・ 事業の成長前夜には特許権が成立している ようにする。 ・ 出願後20年の期間において、権利活用期の 割合を増大させる。 出願、審査前 アイデア 発生 時間 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved 3 教訓3: 技術進化および商品進化のルートを認識し、数年後の主戦場を 予測し、そこに特許出願を先行して行なう。 顧客満足の軸 ユビキタス端末 携帯電話 技術軸 進化の過程で、新たなカテゴリーの商品となり、技術軸や顧客 満足の軸が全く変わる事があることを認識しなければならない。 4 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved 技術進化の法則の体得と特許出願戦略の実行 教訓4: 技術進化の法則に基づいた発明計画と、発明計画に基づいた体系的な 発明実行と特許出願が、有効な特許戦略の基礎となる。 技術進化の法則の例: ● 設計者による人間社会模倣の法則: 情報処理システムの設計者は、無意識に人間または人間社会の情報処理の方法や、 人間社会の組織原理をまねて情報処理システムを設計している。 したがって、情報処理システムは人間社会の進化を後追いする傾向がある。 ● 優勢な価値観による技術選択の法則: 企業での技術開発では、様々な方式の技術が設計者やその上位の管理層で評価され、 選択されている。したがって、その時点での価値観が、技術選択に大きな影響を与えて いる。 例:環境保護が価値あることであるとの認識が広がると、その方向の技術進化が様々 な分野の製品で発生する。 5 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved 教訓5: 技術進化の法則と発想力豊富な人材による発明計画と、発明計画に基 づいた体系的で特許化可能な発明実行が、有効な特許戦略の基礎となる。 技術進化の法則 権利活用でき やすい発明分野 に関する知識 発想力豊富な人材 知財メンバーによる 発明戦略の企画 公知技術の 知識 発明計画書 発想力豊富な 人材 緻密な思考の できる人材 体系的で、特許化 可能な発明実行 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved 6 発生した発明からの基本発明抽出の方法 1. 「発明の目的」の徹底追求 発明の目的を徹底的に追求する。 (1) なぜ、その目的を設定する必要があるのかを追求 (2) 本当の目的はそれなのかを追求 (3) 目的の概念を上位概念方向にたどったり、横方向や下方向にたどって、 適切な目的を設定する。 2. 「解決手段」の徹底追求 目的の設定が終わったら、解決手段としての発明を、目的を基礎に論理的に分 析していく。すなわち、その目的からみて、その発明の方式では、Aという場合に は目的が達成できないとか、その発明は暗黙のうちにBの成立を前提としている のではないか、もしかしたら、Bが成立するということが発明の本質ではないのか とか、その目的を達成するためには、他の方式が考えられる、そうすると、あなた の発明と、別方式の共通する原理にこそ、本質があるのではないかとか、さまざ まな観点で質疑応答をしながら、発明の本質を抽出していきます。 7 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved 基本発明の創作手法の例 具体的なアイデアから、そのアイデアの基盤にある原理や価値観を抽出して、基本 発明創作の出発点とする方法 ステップ1. 基本発明の題材としてのたたき台のアイデアを設 定する。 これは、何も自分の発明や、自社の特許出願である必要もない。他社の公開特許 公報を題材にしても良い。まず、題材の発明は何を解決するものなのか、発明の目 的を抽出する。公報に記載されているので、それを抽出するだけでもまずは良い。ま たは、例えばAさんのアイデアであれば、Aさんにその発明の目的をヒアリングする。 ステップ2. 「発明の目的」から、技術分野を抽出する。 設定した発明の目的は、どのような技術分野や応用分野の中のものであるのかを、 自問自答したり、討議して抽出する。 8 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved ステップ3. その技術分野が社会与える価値と、技術進化の ストーリの考察 その技術分野は、どんな価値を社会に与えているのか、そして、社会はこの技術分 野でどのような要求の方向に向かうのかをマクロに考える。そして、その技術分野の 価値の実現の上で、現在考えている発明の目的は、どのような技術進化のストーリ のもとで発生したのかを想像して、グラフ構造で記述してみる。想像できにくい場合 には、その技術分野の他の公開公報を分析して、グラフ構造にまとめてみることでも 良い。 顧客満足の軸 技術軸 9 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved ステップ4. 技術進化のストーリから多くの「発明の目的」を 設定し、解決手段のしてのアイデアを創作し、それらから基 本発明を抽出する (1) 見えてきた「発明の目的」を達成する手段を考察する。 (2) 考察して得られた手段が、従来にない発想や新しい原理や新しい価値観に 基づいて従来技術を組み合わせたものであれば、その手段が基本発明になる可 能性が高い。 (3) 代替手段がないかどうか、その発明を起点として多くの発明や応用分野が 発想できそうかどうかをチェックして、答えがYesであれば、基本発明とする。 10 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved 獲得した基本特許の抽出 多くの企業において、知的財産権部門の役割は最近、大きく変わりつつあります。 知的財産権を行使して実施料収入を得るというプロフィットセンターの役割を担おう とする方向と、経営戦略の立案部門の一部となろうとする方向の2つに分かれると 思います。 この両方とも、知的財産権部門の組織目標をそのように設定するだけでなく、知的 財産権部門に、技術の目利きが必要となります。権利行使をして実施料収入を稼 ぐためには、侵害品を摘発する嗅覚とでも言えるものが必要です。自社の特許権 の中でどれが基本特許と言えるものであるかを認識し、自社の基本特許を侵害し そうな他社製品の情報に接すると、それがピーンと来るようでないといけません。 さらに、侵害の匂いがすると感じたら、本当に侵害しているかどうかを確認するため の費用を拠出する決断が可能なマネージメントも必要です。この部分は、組織をつ くり、人員をはりつけただけでは達成できないレベルです。 要は、現場のやる気と、現場のやる気を支えリスク管理の裏打ちのもとでリスクに 挑戦する度胸のある経営判断が必要です。 11 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved 経営戦略の立案部門としての知的財産権部門に求められるものは、技術進化の 法則を実体験から感じ、身につけている人材です。 このような人材は、知的財産権部門で、技術者との対話の中から、技術者が主張 する発明の本質を請求項という形で表現するという訓練を長年にわたって繰り返し、 さらに、パテントマップを作成しては、パテントマップに基づいて、どこからもまだ特 許出願がされていないが、必ず重要になるという技術分野を狙っては特許出願計 画を作成して、技術者の発明を誘導し、特許出願をするという経験を積み重ねて、 初めて現れるものです。 技術進化の法則性を体験として実感し、感得した人材でなければ、経営戦略に役 立つ技術戦略を立案できないと考えます。単に、世の中に出回っている技術系雑 誌での技術予測記事、学者のコメントなどを、要領よくプレゼンテーション資料にま とめるだけのレベルで終わってしまわないようにすることが肝要です。 12 (C) Copyright 2005 久野敦司( E-mail: [email protected] )All rights reserved
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