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知財と社会
デジタル時代の著作権とオープン化
野口祐子
渡辺智暁
第2回 講義
「著作権基礎 1」
2014.4.17
担当:野口
(*本資料のライセンスについては、最後のページをご覧下さい。)
本日の献立
・著作物とは
・著作権の対象となる行為とは
保護される対象は?
• 「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表
現したものであって、文芸、学術、美術又は
音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法
2条1項1号)
保護されないもの
• 事実・アイディアは保護しない
– 真実は皆の共有財産だから
– もしも独占されると社会が混乱する
• たとえば、スクープ記事の内容
• たとえば、簡単な表現
• たとえば、文字
クイズ
• 「吾輩は猫である」
• 「古池や かわずとびこむ 水の音」
• フォント
デザインフォント
• ヤギ・ボールド事件(東
京高裁昭和58年4月2
6日無体集15巻1号340
頁)
• “ヤギ・ボールド”等のデ
ザイン書体が書体見本
集に無断掲載された
フォントは保護されない
• 文字は、元来、情報伝達のための実用的記号(の一
種)であるところ、デザイン書体は、かかる事実を前
提に情報伝達という実用的機能をにない、かつ、当
該機能を果すために使用される記号としての文字
に、美的形象を付与すべくデザインしたもの
• したがって著作物性を有しない
論文のアイディア
• 数学論文野川グループ事件控訴審(大阪高判
平成6年2月25日判時1500号180頁)
• X(原告)とY(被告)は、脳波の実験的及び理論
的解析に関し共同研究。その後Yが、昭和55年、
同58年に単独名義等で第一論文、第二論文を
学術雑誌に発表
• Xは、前記研究論文や学会発表論文の著作権を
Yとの間で共有している、との前提に立って、第
一論文、第二論文はXのこれらの権利を侵害す
ると主張
アイディアは保護されない
• 数学に関する著作物の著作権者は、そこで提示した命題の
解明過程及びこれを説明するために使用した方程式につい
ては、著作権法上の保護を受けることができない…。一般に、
科学についての出版の目的は、それに含まれる実用的知見
を一般に伝達し、他の学者等をして、これを更に展開する機
会を与えるところにあるが、この展開が著作権侵害となると
すれば、右の目的は達せられないことになり、科学に属する
学問分野である数学に関しても、その著作物に表現された、
方程式の展開を含む命題の解明過程などを前提にして、更
にそれを発展させることができないことになる。このような解
明過程は、その著作物の思想(アイデア)そのもの(であり)
著作権法上の著作物に該当しない…。
ありふれた表現
• ラストメッセージin最終号事件(東京地判平成7年12月
18日判時1567号126頁)
• Y(被告)は、X(原告)らが発行していた各種雑誌の最終
号の表紙や、休廃刊に際し編集部等から読者宛に書か
れた文章等(本件記事)を複製し、これらを休廃刊の年
毎にまとめ、写真製版の方法により印刷した『ラストメッ
セージ in 最終号』との書籍を発行した。
• これに対し、Xらは、同書籍において文章(本件記事)を
複製した行為はXらの著作権を侵害するものであるとし
て、同書籍の差止め及び損害賠償を求めた。
判例の基準
• ある著作が著作物と認められるためには、そ
れが思想又は感情を創作的に表現したもの
であることが必要であり(著作権法二条一項
一号)、誰が著作しても同様の表現となるよう
なありふれた表現のものは、創作性を欠き著
作物とは認められない。
では、以下は?
【実例・1】
• (雑誌名)は今号で休刊といたします。ご協力いただ
きました○○学会はじめ執筆者の方々、ご愛読いた
だきました読者の皆様に厚く御礼申し上げます。
【実例・2】
• 創刊以来、読者の皆様のご声援をうけてまい
りましたが、本誌は今月号をもって休刊いた
します。これまでのご愛読ありがとうございま
した。しばらくの充電期間をおき、まったく新し
い形で再出発いたします。
【実例・3】
「おしらせ」
いつも「なかよしデラックス」をご愛読いただきまして
ありがとうございます。「なかデラ」の愛称で15年間
にわたって、みなさまのご声援をいただいてまいり
ましたが、この号をもちまして、ひとまず休刊させて
いただくこととなりました。
今後は増刊「るんるん」をよりいっそう充実した雑誌
に育てていきたいと考えております。「なかよし」本
誌とともにご愛読くださいますようお願い申し上げま
す。
【実例・4】
「(雑誌名)休刊のお知らせ」
小誌は、昭和○○年に野菜と健康の情報誌「(雑誌名)」とし
て創刊し、その理念に多くのかたがたより深いご賛意と共感
をたまわり、厚いご支援の中で現在に至りました。
しかしながら、このたび突然ではございますが、諸般の事情に
より本号(四月号)をもちまして休刊の止むなきに至りました。
創刊以来五年の永きにわたりご愛読いただきました読者の皆
様、またお力添えをいただきました諸先生に、ここにあらため
まして心より御礼申し上げますとともに、不本意ながら休刊
の運びとなりましたことを、深くお詫びいたします。
いずれ、再スタートの機をかたく心に誓う所存でございますの
で、なにとぞ事情をご賢察のうえ、ご理解たまわりますよう伏
してお願い申し上げます。
【実例・5】
「あたたかいご声援をありがとう」
昨今の日本経済の下でギアマガジンは、新しい編集
コンセプトで再出発を余儀なくされました。皆様のア
ンケートでも新しいコンセプトの商品情報誌をという
ご意見をたくさんいただいております。ギアマガジン
が再び店頭に並ぶことをご期待いただき、今号が最
終号となります。
長い間のご愛読、ありがとうございました。
【実例・6】「休刊のお知らせ」
東京地方の桜の開花が待たれる、昨年の3月23日、
ニューシングルの人たちが心地よく住まうことをテーマにした
ライフスタイルの提案しとして「NESPA」が誕生しました。
創刊号を読んでくださった方から、
“本屋さんで見て気に入ったので買ってしまいました。がんばっ
てください。”という激励のハガキから、
“内容をもう少し充実させてください”というお叱りの言葉まで、
いろいろなご意見をお寄せくださいました。
それ以来、毎号毎号、ハガキが増え続けました。
皆様の思いを込めたハガキは、今でも大切に保管してあります。
いつかまた、皆様とお逢いできる日のために、貴重な資料とし
て私たちの財産にさせていただきます。
1年と2ヶ月間の短いお付き合いでしたが、
「NESPA」ご愛読、本当にありがとうございました。
ありふれた内容は
アイディアと同じ(判例)
• 当該雑誌は今号限りで休刊又は廃刊となる旨の告知、
読者等に対する感謝の念あるいはお詫びの表明、休刊
又は廃刊となるのは残念である旨の感情の表明が本件
記事の内容となることは常識上当然であり、また、当該
雑誌のこれまでの編集方針の骨子、休廃刊後の再発行
や新雑誌発行等の予定の説明をすること、同社の関連
雑誌を引き続き愛読してほしい旨要望することも営業上
当然のことであるから、これら五つの内容をありふれた
表現で記述しているにすぎないものは、創作性を欠くも
のとして著作物であると認めることはできない。
短い表現
• 読売新聞記事見出し事件(知財高判平成17
年10月6日未登載)
• 本件は、X(原告)が運営するインターネットの
ウェブサイトに掲載されたニュース記事の見
出し(「YOL見出し」)の著作物性が争われた
事案である。
【著作物性が問題となった見出しの例】
• いじめ苦?都内のマンションで中3男子が飛び降り
自殺
• 「喫煙死」1時間に560人
• マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売
• ホームレスがアベックと口論?銃撃で重傷
• 男女3人でトンネルに「弱そうな」男性拉致
• スポーツ飲料、トラックごと盗む・・被害1億円7人逮
捕
• E・Fさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験
• 「創作的に表現したもの」というためには、筆
者の何らかの個性が発揮されていれば足り
るのであって、厳密な意味で、独創性が発揮
されたものであることまでは必要ない。他方、
言語から構成される作品において、ごく短い
ものであったり、表現形式に制約があるため、
他の表現が想定できない場合や、表現が平
凡かつありふれたものである場合には、筆者
の個性が現れていないものとして、創作的な
表現であると解することはできない。
• YOL見出しは、YOL記事中の言葉をそのまま
用いたり、これを短縮した表現やごく短い修
飾語を付加したものにすぎないことが認めら
れ、これらの事実に照らすならば、YOL見出し
は、YOL記事で記載された事実を抜きだして
記述したものと解すべきであり、著作権法10
条2項所定の「事実の伝達にすぎない雑報及
び時事の報道」(著作権法10条2項)に該当
するものと認められる。
著作権法で
規制される行為は?
原則
• 「コピー」(複製)はNG
• 「インターネットにUP,配信」はNG
• 「アクセス」(=見たり聴いたり読んだりするだ
け)ならOK
• 社会の役に立つ行為は例外的にOK
以下はどうでしょうか?
O 絵画を見る
O 小説を読む
O ミッキーマウスの描かれたTシャツを着て外を歩く
O パーティやお祝いの席で家族が歌を歌う
O アマチュアのミュージシャンとして無料・無償で歌を歌う
O プロのミュージシャンが報酬をもらって歌を歌う
O 自分が歌を歌ったものをYouTubeにアップロードして公開する
O 音楽のCDをテレビでかける
O 先生が授業中にCDをかける
O 先生が美術の授業で絵を見せる
O 先生が美術の授業で見せた絵の入った教材をHPで公開する
O ウェブページをプリントアウトする
O そのプリントアウトを誰かにあげる
O 浮世絵美術館で写真をとる
O 現代アートの写真をとる
O 論文の中で
O 他人の書いた小説を貸し出す(有料)
•小説の一部を引用する
「著作権」の構造
著作者の権利
著作権(財産権)
(著作権)
著作権
著作者人格権
著作隣接権
実演家
レコード製作者
放送事業者
の権利
例えば、CD音源に含まれる権利は
•
•
•
•
•
作詞家の権利
作曲家の権利
実演家(アーティスト)の権利
レコード会社の権利
放送されると、放送局の権利
例えば、映画に含まれる著作物は
• 原作(漫画・小説)
• 脚本
• 映像(監督・衣装・CG)
→契約により映画製作者(スポンサー)に一元
帰属可能
• 音楽
– 既存曲の場合には別途保護
– オリジナル曲の場合には映画の著作物に吸収さ
れる場合も
日本著作権法の権利
• 著作権(財産権)
– 複製権(サーバー、HD、キャッシュ。自分で書き直した場合
も含まれる)
– 公衆送信(1対多、送信可能かを含む)
– 翻案(改変、リミックス、自分)
– 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利
– 頒布権(映画)
– 譲渡権(映画以外)、貸与権
– その他、上映権、上演権、演奏権、口述権、展示権
• 著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)
結局ほとんどの行為が
著作権の対象になっている
=原則は(許諾なしに)利用禁止
原則を貫くと、
社会的に意味のある利用が
阻害される
そこで、例外規定
• 個別の例外規定を要件ごとに規定されている
• 有名なものとしては
– 私的複製(30条)
– 引用(32条)
– 教室での利用(35条)
– 非営利での上演等(38条)
原則禁止の中で小さな例外の窓
30条 私的複製
• 著作権の目的となっている著作物(以下この
款において単に「著作物」という。)は
• 個人的に又は家庭内その他これに準ずる限
られた範囲内において使用する こと(以下
「私的使用」という。)を目的とするときは、…
• その使用する者が複製することができる。
では、以下は私的使用?
• 自分のパソコンに音楽CDをコピー
• その音楽をCD-ROMを焼いて、友達にあげたら?
• パソコンのハードディスクの代わりに、レンタルサー
バにコピーしたら?
• 結局「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限
られた範囲内」とは?という問題
ただし、以下の場合は除外
• 公衆の用に供されている複製機器を用いて
行う場合(ダビング・サービス)
– ただし、「当分の間…専ら文書又は図画の複製に
供するものを含まない」(経過措置)
• DRMを回避して行う場合
• いわゆる、違法ダウンロード
– 著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル
方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合
いわゆる「自炊」サービス
• 書籍をスキャンしてPDF化するサービス
• 2011年12月、訴訟に発展
• 「作品は血を分けた子供と同然で、見ず知らずの人に利用さ
れ、 知らないところで利益が出るのは許せない。裁断された
本は正視に耐えられない 」
vs
• 「読者が購入した本の使いかたは自由」「電子書籍市場が立
ち上がらないから自助努力」
色んな自炊形態
• 書籍を送ると、裁断+スキャンしてくれる
• 裁断機とスキャナーを店頭で利用させる
• 裁断済書籍とスキャナーを利用させるサービス
• (派生形として)裁断済みの本をヤフオクで販売する
ユーザー
引用(32条)
• 公表された著作物は、引用して利用すること
ができる。
• この場合において、その引用は、
– 公正な慣行に合致するものであり、
– 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な
範囲内で行なわれるものでなければならない。
• 実際には、判例で様々に解釈されている
しかし、実際には…
(1) 引用する著作物が「公表」されていること
(2) 引用が公正な慣行に合致すること
– ①引用する必要性が認められること(諸説あり)
– ②出所明示を履行していること
– ③引用する著作物の同一性保持権を遵守していること
(すなわち、著作者の「意に反する改変」を行っていないこ
と)
– ④その他、当該著作物が属する業界・学術分野における
引用の慣行に従っていること
(3) 引用がその目的上正当な範囲内で行われ
たこと
– ①明瞭区別性:引用著作物と被引用著作物とが
明瞭に区別できること
– ②主従関係 :引用著作物が主、被引用著作物
が従の関係にあること
• ネットでよく見る「引用」は、この要件を満たさ
ないものが多数
近年の批判
• 条文に書いていない要件を、裁判所がどんど
ん追加するのはおかしいのでは?
• もっと、フレキシブルに運用すべきでは?
• 批判をうけて、「美術鑑定書事件」が登場、注
目を浴びている
引用の「フェア・ユース化」?
• 他人の著作物を利用する側の利用の目的の
ほか,その方法や態様,利用される著作物の
種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼ
す影響の有無・程度などを総合考慮するべき
• 美術鑑定書の裏に、絵画のカラーコピーを貼
るのは、「引用」であり合法
– 極めて一般的な慣行。むしろ、有用。
– 別に流通しないから、権利者に経済的損失なし
例外規定の問題点
• 常にアップデートが必要
• 立法に時間がかかる(平均して3年以上?)
• 一定の限られた声しか反映されない
• 限定的な条件の例外規定が増加して、パッチ
ワーク状態に
• 難解で素人には読めない
– 小学生、中学生に理解できるか?
平成21年改正著作権法の例外規定
• (送信可能化された情報の送信元識別符号の検索等のための複製等)
第四十七条の六 公衆からの求めに応じ、送信可能化された情報に係る
送信元識別符号(自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記
号その他の符 号をいう。以下この条において同じ。)を検索し、及びその結
果を提供することを業として行う者(当該事業の一部を行う者を含み、送信
可能化された情報の収 集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行う
者に限る。)は、当該検索及びその結果の提供を行うために必要と認められ
る限度において、送信可能化された著作物(当該著作物に係る自動公衆送
信について受信者を識別するための情報の入力を求めることその他の受信
を制限するための手段が講じられている場合にあつては、当該自動公衆送
信の受信について当該手段を講じた者の承諾を得たものに限る。)について、
記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的 著作物の記録を含
む。)を行い、及び公衆からの求めに応じ、当該求めに関する送信可能化さ
れた情報に係る送信元識別符号の提供と併せて、当該記録媒体に記 録さ
れた当該著作物の複製物(当該著作物に係る当該二次的著作物の複製物
を含む。以下この条において「検索結果提供用記録」という。)のうち当該送
信元識 別符号に係るものを用いて自動公衆送信(送信可能化を含む。)を
行うことができる。ただし、当該検索結果提供用記録に係る著作物に係る送
信可能化が著作権 を侵害するものであること(国外で行われた送信可能化
にあつては、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであ
ること)を知つたときは、そ の後は、当該検索結果提供用記録を用いた自動
公衆送信(送信可能化を含む。)を行つてはならない。
続きはフェア・ユース論で
本資料のライセンスについて
この資料を 2 種類のライセンスで提供し、利用者が選べるようにするために、利用許
諾に関する注意書きを以下に記し ます。
・ この資料は、 CC-BY 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/ ) でライ
センスされています。
・ この資料は、 CC-BY-SA 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.1/jp/ )
でライセンスされています。
なお参考までに、本作品のタイトルは「著作権入門 I 文化を支えるインセンティブ制
度をどう設計するか?」で、原著作者と許諾者は渡辺智暁です。本作 品に係る著
作権表示はなく、免責に関する注意書きもなく、許諾者が本作品に添付するよう
指定した URI もありません。
そこで、例えば、CC-BYライセンスで要求されるクレジット等の表示の義務を満たすに
は、次のような類の表示をすればよいということになります:
「著作権入門 I 文化を支えるインセンティブ制度をどう設計するか?」 by 渡辺智暁
この資料は、 CC-BY 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/ ) でライセ
ンスされています。