文献ゼミ 2005/09/08(Tue) 造林早坂直樹 Microbial characteristics of soils on a latitudinal transect in Siberia シベリア地域における緯度横断的な 土壌微生物特性 Global Change Biology (2003) 9,1106~1117 HANA ANTRU C KOVÁ* , MICHAEL I. BIRD , YEVGENIY N. KALASCHNIKOV§, MILAN GRUND*, DANA ELHOTTOVÁ , MILOSLAV IMEK* , SERGEY GRIGORYEV¶, GERD GLEIXNER**, ALMUT ARNETH**, ERNST-DETLEF SCHULZE** and JON LLOYD** 調査地 研南 究北 地1 を0 設0 0 置k m に 8 ヶ 所 の 北半球高緯度地域の研究背景 ・ ロシアシベリア地域の針葉樹林帯は、全 世界の冷温帯の60%を占めている (Dixon et al,1994) ・ 森林土壌の下層には永久凍土が存在 ・ 地球上の土壌有機体炭素量(SOC)の大 部分を占めている (Rozhkov et al,1996 Schulze et al,1999) 高緯度地域の炭素収支の重要性 1.氷期の後、陸域が植生で覆われて来ている 以来広範囲に炭素が固定・蓄積されて来ている 2.高緯度地域は温暖化の影響を強く受けると 指摘されており、また降雨量も減少している 高緯度生態系での炭素収支の解明が求められる 生態系の炭素収支 ・植物は光合成により大気中のCO2を吸 収・蓄積している。 ・植物の呼吸に加え、土壌からは土壌微 生物の働きなどにより大気中にCO2が放 出されている →現在このバランスが崩れ温暖化が懸念され る! ツンドラ土壌での先行研究 ・土壌微生物活性が高まれば、土壌からのCO2の放 出量が増加する ・寒冷地域の土壌微生物は低温に適応して生活して いる ・寒冷地微生物は成長に最適な温度は20℃以下で あり、それ以上は相対的に呼吸量が大きくなる ☆しかしこれらの事例に対する研究例が少なく詳細 がはっきりしていない 研究の目標 1.土壌の微生物特性が気候、植生、土壌 粒子組成(土性)などにより、どのような影 響を受けるかの把握 2.土壌中での温度の変化による微生物の 成長量と呼吸量の評価 流域の土壌粒子について <粒子の大きさ> 粘土 シルト 細砂 粗砂 粒径 0.002 堆積 遠く 0.02 0.2 礫(れき) 2.0 (mm) 近く Material & Method ← Fig.1 ・ 土壌サンプルはエニ セイ川流域の8ヶ所か ら採取された ・ 流域にはPinus優占 林、針葉樹混交タイガ、 ツンドラ地帯と様々な 植生が見られる ・ 流域の土壌粒子は多 様に分布 土壌の採取と処理 ・各地点においては3種類のサンプル採取 →この3種のデータを総合して平均を算出 ・リターや地衣類は除去し、腐食層と鉱物 質土壌を採土缶により採取 ・C/N比は実験室内で元素分析器(NCアナ ライザー)で分析 ・土壌のpHはガラス電極を用いて測定 統計分析 直接傾度分析により <説明変数> 環境要因~植生タイプ、各地点の緯度 土質 ~pH、粒径、有機体炭素量(SO C) <応答変数> 土壌の微生物特性~DHA、腐植層・鉱物層 の呼吸速度、Nの無機化 Result 土壌微生物に影響を与える因子 <2軸のグラフで多変量 解析を実施> →2軸はそれぞれ63% と20%のバラツキを 説明している。 この図から、土壌の粒 子直径(Texture)と SOCが土壌微生物に 大きな影響をもたらす 因子であると分かる 土壌呼吸の温度依存性 <Fig.4> 温度の上昇により土壌呼吸が、 ・指数関数的増加 →Po、Ba、Kh2(シルト土壌) ・直線的増加 →Na、Kra(砂質~粒が粗めな土壌) ☆土壌のTextureが決定要因として作用 土壌微生物量の温度依存性 <Fig.5> 温度の上昇により微生物量は、 ・Na、Zoのような砂質で粗い土壌 →ΔCの値が大きく、微生物量が増加 ※ただ、この2つは元から微生物が豊富(Table.4) ・Kh1、Kh2のようなシルト質土壌 →10℃以上ではΔCの値は負 ツンドラ地帯なため低温に適応している可能性 土壌微生物の成長率(NGR) <Fig.6> Kh1とKh2の2地点は、他の地点と明確に 異なる挙動を示している →5℃以上の温度でこの2地点は成長率が 負の値を示す ☆この2地点がツンドラ気候による低温に 適応している可能性 炭素無機化速度の温度依存 <Fig.7> ・炭素の無機化速度(ΔCMIN)はKh1とKh2を除く すべての地点で温度の上昇に伴って上昇してい た ・Zo,Naなどの粒子の粗い地点では無機化速度 が小さかった ・Cminが1を超えるということは、無機化速度が炭 素の蓄積速度を上回ることを示している まとめ 植生による微生物活性への影響 Table.3,4によると、 土壌微生物活性 Kh1(ツンドラ地帯)<Kh2(タイガ地帯) 腐植層、鉱物質層いづれにおいても <原因> ・ツンドラ地帯の土壌中には難分解性のリ グニンやタンニンなどが多い ・タイガ地帯はリターの不均一性が大きい →樹種が多様であるため、幅広い分解者が活性化 土壌微生物の温度依存性 Fig.5より 最北のKh1、Kh2のおいて、地温が10℃を超 えると土壌微生物に負の成長量が見られた <原因> 1.土壌微生物が低温に適応している 2.地温の上昇により死滅する 3.ストレスに対抗するための代謝に細胞内の貯蔵 物質を使うため、成長への投資量が減る 気候による土壌微生物活性への影響 Table.3によると、 エニセイ川を南下するにしたがって、腐食 層の厚みとSOC(土壌有機体炭素量)の値 は小さくなっていた <原因> 北部は寒冷な気候のためリターの分解速 度が低くなると思われる 結論! Fig.4にも示されるように、シベリアのような 高緯度地域において、気温の上昇は土壌 微生物活性を高めることになる。 現在の化石燃料の大量消費によるCO2濃度の上 昇による地球規模での気温の上昇は、土壌微生 物からのCO2の放出をもたらすことが予測される
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