さいたま市民医療センター 消化器科 中島嘉之先生

閉塞性胆管炎を呈した膵疾患の1例
さいたま市民医療センター
消化器科 中島嘉之
症 例
81歳, 男性.
主訴:
食欲低下.
既往歴: 外傷性くも膜下出血
硬膜下血腫除去術
家族歴: 特記すべきこと無し.
現病歴
平成4年9月に黄疸出現.近医にて腫瘤形成性膵炎
による閉塞性黄疸の診断でPTBD施行され減黄.その
後ERBD留置にて経過観察となっていた.
平成9年にERBD閉塞による黄疸が再燃するものの
抜去のみで経過観察となっていた.
その後も胆管炎を繰り返し,近医にて抗生剤による
治療が行われていたが,ステント留置を薦められ,平
成21年9月に当科紹介受診となった.
外来にて精査予定であったが,10月上旬に食欲低下
を主訴に来院され,肝機能異常を指摘されたため入院
となった.
入院時現症
BP132/68mmHg,HR82/min,BT36.3℃
眼瞼結膜:貧血なし,軽度黄疸あり
胸部:呼吸音清,心音整,心雑音なし
腹部:平坦・軟,腸雑音正常,圧痛なし
四肢末梢:足背動脈両側触知,冷感あり
表在リンパ節触知せず
入院時検査所見
WBC
Neut
Ly
RBC
Hb
Ht
Plt
TP
Alb
T-Bil
D-Bil
AST
ALT
ALP
AMY
4000
63.3
26.2
385
12.0
35.7
17.7
8.8
3.1
2.3
1.1
306
251
2370
89
/μl
%
%
*104/μl
g/dl
%
*104/μl
g/dl
g/dl
mg/dl
mg/dl
IU/l
IU/l
IU/l
IU/l
(2009.10.7)
γ-GTP
LDH
T-Chol
BUN
Cr
CRP
BS
PT-sec
PT-INR
913
260
175
13.9
0.70
0.78
126
11.8
99.4
IU/l
IU/l
mg/dl
mg/dl
mg/dl
mg/dl
mg/dl
CEA
CA19-9
リパーゼ
PSTI
3.8 μg/ml
81.9 μg/ml
14
9.7
腹部CT
(2009.9.25)
腹部CT
(2009.9.25)
MRCP
(2009.9.25)
膵胆管造影
(2009.10.15)
病理所見
赤血球を背景に異型性の無い円柱上皮細胞
の小集塊の出現
鑑別診断
肝門部胆管癌
硬化性胆管炎
自己免疫性膵炎関連胆管炎
鑑別診断
肝門部胆管癌
画像上は否定できないが,黄疸を呈するに至ったほどの胆管癌の経過に
しては長すぎる
硬化性胆管炎
自己免疫性膵炎関連胆管炎
硬化性胆管炎とIgG4関連胆管炎との鑑別は画像上困難であるが,PSCと
すれば高齢発症と考えられる点,入院時には膵炎を認めなかったものの,
腫瘤形成性膵炎(?)の既往を認めることなどから,自己免疫性膵炎関連胆
管炎と判断した.
自己免疫系検査
IgG4
1260mg/dl
ANA
×40
治療経過
UDCA600mg
PSL20mg
UDCA300mg
PSL15mg
PSL10mg
γ-GTP
500
AST
100
ALT
0
ERCP
15
30
(Days)
臨床経過
CT,MRCPにて胆管癌が疑われたが,経過が非常に長
く,IgG4高値であることからIgG4関連胆管炎と考えられ
ERCPを施行した.
肝門部に狭窄があり,左胆管は造影されたが右胆管は
造影されなかった.狭窄部から擦過細胞診を行ったが,
腫瘍細胞は認められなかった.
IgG4関連自己免疫性胆管炎の診断にてPSLの投与を
開始したところ,肝機能が速やかに改善した.
まとめ

自己免疫性膵炎に続発したものと考えられるIgG4
関連胆管炎を経験した.

肝門部の胆管に限局した狭窄であったため,胆管
癌との鑑別が困難であった.

硬化性胆管炎との鑑別に,IgG4の計測が有用で
あった.

肝障害に対してPSLが著効した.
結 語
原発性硬化性胆管炎(PSC)は本邦ではまれな胆道疾患で
ある.欧米では若年者に多く,炎症性腸疾患の罹患率が高い.
一方,本邦のPSC全国調査によると若年者と中高年の二峰
性の年齢分布を示し,中高年のPSCでは膵炎(自己免疫性膵
炎)の合併例が多いことが分かり,中高年のPSCは古典的
PSCではなく,自己免疫性膵炎に関連したIgG4関連の硬化性
胆管炎が含まれていることが報告されている.
IgG4関連硬化性胆管炎は,膵炎を合併して発症する症例が
多いとされるが,膵炎消退後に異時性に発症する症例や,膵
炎の合併がなく胆管炎のみで発症する症例もあり,そのよう
な症例ではPSCとの鑑別に慎重に行う必要がある.