反証の論理的構造

反証の論理的構造
反証ということは、あらゆる事実的言明に関して生じ
うる。
 しかし、ここでは法則言明が反証されるという場合を
例として考えていきたい。(反証の典型的事例を構
成しているから。科学にとってショッキングな場合も
多い。)
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法則言明の要件
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普遍言明であること:全称言明
数量的普遍:限定された領域内の枚挙可能なすべての対象。「我が家にある
すべての釘はさびている。」原理的に、対象の一つ一つに固有名詞をつける
ことができる。有限数の単称言明の連言に還元可能。

厳密普遍:時と場所を選ばず、原理的に無限に存在すると考えられる対象の
すべてについて主張される。特定の対象にのみあてはまるのではない。有限
数の単称言明の連言に還元不可能。
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例:落下の法則
x
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1 2
gt  v0 t  h0
2
宇宙空間のあらゆるとき、あらゆる場所(領域)において妥当すると主張して
いる。
法則言明の例:「すべてのカラスは黒い」
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この言明を反証(否定)するためには何を言えばよいのか?
「すべてのカラスは黒い」の否定言明: 「黒くないカラスが存在する」(存
在言明)を主張する。
つまり、真正面から衝突する存在言明を主張すればよいということになる。
∀x(Cx→Bx) 全称言明(法則言明の一般的形式)
¬∀x(Cx→Bx) その否定言明
∃x(Cx∧¬ Bx) 存在言明への変形
存在言明は、ただあるものが存在することを言っているだけで、それがど
こに〔場所)いつ(時間)存在したかを規定する限定句(時空領域の規定)
はない。
存在言明
ポパーの言葉遣いについて
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法則言明:厳密普遍言明
存在言明:純粋存在言明
厳密普遍言明は、純粋非存在言明とも呼ばれる。
「すべてのカラスは黒い」 ≡ 「黒くないカラスは存在しない」
したがって、純粋非存在言明を反証するためには、それと矛
盾するところの純粋存在言明を言い立てればよいということ
になる。
では、存在言明はどこから導かれてくるのかという問題が残
る。
存在言明はどこから出てくるのか
──図式的に──
存在言明 (法則言明の反証に用いる)
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↑↑
 観察〔基礎〕言明 (科学者集団による認定)
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↑↑
 知覚言明 (観察者個々人の知覚像)
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観察〔基礎〕言明についての補足
ポパーの考える観察〔基礎〕言明
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特定の時と場所において生じる公的に観察可能な出来事を
述べる言明。
例:「1930年に、ニューヨーク動物園に白いカラスが存在し
た」
この言明に関しては、だれが観察したのかという観察者は現
れてこない。だれが観察したのかは問題ではない。
ともかく、科学者集団によって、 1930年に、ニューヨーク動
物園に白いカラスが存在したと認定されたときに、観察〔基
礎〕言明が生まれる。
科学者集団はこの言明は公的に追認可能であると考えてい
る。
観察〔基礎〕言明についての補足
出来事と事象
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出来事:特定の時と場所において生じる
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時空領域k1において雷が生じた。
時空領域k2において雷が生じた。
などなど
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事象:特定の時と場所への言及を除いて、現象その
ものを考える。
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雷という現象そのもの。
観察〔基礎〕言明についての補足
観察〔基礎〕言明と観察者との関係
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存在言明は事象の存在を述べている。:白いカラスというも
のが存在する。
観察者は出来事を報告する。:何月何日どこそこに白いカラ
スが存在する。
観察〔基礎〕言明は、「われわれ(わたくし)は、……を観察した」という
構造になっておらず、端的に「……である」という構造になっており、
「われわれ(特定の観察者集団)」とか「わたくし」という言葉は除去さ
れている。
これは、観察〔基礎〕言明が原理上、誰にでも通用する(他者による追
認可能性)を主張しているものと解釈されるべきであろう。科学の公
共性
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観察〔基礎〕言明から時空領域への言及を除くことによって
存在言明を導出できる(存在汎化)。
観察〔基礎〕言明についての補足
出来事と観察者
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観察者は出来事の一部を知覚し、そこから仮説的
に出来事をまとめ上げる。
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わたくしは時空領域Kで窓に光が走るのを見た。
わたくしは時空領域Kでドドーという音を聞いた。などなど。
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ここから、雷という出来事があったと仮説的に構成
する。
 しかし、本当は夜間にトラックが通ったのを誤認した
だけかもしれない。
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知覚についての補足
知覚もまた仮説的に構成される。
知覚像は感覚器官が作り出す非言語的な仮説であ
る。
 例:昆虫が知覚する世界は、人間の目が描くような
色彩豊かな世界ではない。あるいは、カニの目が捉
えた世界(像)。あるいは、感覚器官とみなすことの
できるレーダーが描き出す像。超音波による診断像。
 感覚器官はそれに独特な仕方で世界の一部を捉え
る。
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知覚についての補足
普遍概念の経験超越性
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さまざまな知覚像が概念のもとで仮説的に統合される。
例:
私は、あそこの樹木に黒いものが引っかかっているのを知覚した。
その黒いものが「カァー」という鳴き声をあげるのを聞いた〔知覚した〕。
私は、嘴も足も見ていないのにあそこの樹木にはカラスが止まっていると主張す
る(考える)。
私が知覚〔経験〕したのは、黒いという色と「カァー」という鳴き声だけであるにもか
かわらず、カラスであると仮説的に認定することによって、石でも投げたら、それ
は飛んでいくだろうという準法則的な振る舞いまでも予測している。
カラスという概念は、私の知覚〔経験〕の範囲をこえて〔超越して〕対象の準法則
的な振る舞いを記述している。
じっさいには、概念が先にあって、それがさまざまな知覚像を統合している。部分
的な知覚像から概念へ飛躍しているのだといってもよい。帰納が生じているわけ
ではない。