ポリ塩化ビフェニルを製造した者及びポリ塩化

「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」
まえがきの構造化検討
アイデアクラフト 開米瑞浩
http://ideacraft.jp
本書の目的
本書は、環境省による「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」の
「まえがき」を題材に、「長文を分解整理・構造化してわかりやすく書き
直す」というワークを行ったサンプルです。
原文は下記URLからダウンロード可能です。
http://www.env.go.jp/recycle/poly/plan/191018.pdf
Copyright(c) 2014, アイデアクラフト Kaimai Mizuhiro
かなりの長文、どうしましょう?
「まえがき」をそのまま引用すると下記のようになります。
読もうという気を失わせるようなかなりの長文ですが、
なんとか整理・構造化してみましょう。
ポリ塩化ビフェニルは、化学的に安定している、熱により分解しにくい、
絶縁性が良い、沸点が高い、不燃性であるなどの性質を有する物質
であり、熱媒体、トランス及びコンデ
ンサ用の絶縁油、感圧複写紙等幅広い分野で使用されてきた。我が
国では、これまで、約59,000トンのポリ塩化ビフェニルが生産され、
このうち約54,000トンが国内で使用された。
昭和41年以降、世界各地の魚類や鳥類の体内からポリ塩化ビフェニ
ルが検出されるなど、ポリ塩化ビフェニルによる汚染が地球全体にま
で及んでいることが明らかになってき
た。また、我が国では、昭和43年に食用油の製造過程において熱媒
体として使用されたポリ塩化ビフェニルが混入し、健康被害を発生させ
たカネミ油症事件が起きた。その後、
様々な生物や母乳等からも検出され、ポリ塩化ビフェニルによる汚染
が問題となった。このような状況を踏まえ、昭和47年からは、ポリ塩化
ビフェニルの新たな製造はなく
なり、さらに、昭和48年10月に制定された化学物質の審査及び製造
等の規制に関する法律(昭和48年法律第117号)に基づき、昭和49
年6月からは、その製造、輸入等が事実上禁止となった。
その後、我が国においては、高圧トランス及び高圧コンデンサを始め
としたポリ塩化ビフェニル廃棄物について、その処理体制の整備が著
しく停滞していたため、長期にわたり
処分がなされず、事業者において保管が行われてきたが、処分のめ
どが立たないまま長期にわたる保管が継続する中で、ポリ塩化ビフェ
ニル廃棄物の紛失等が発生し、環境汚染の進行が懸念される状況と
なっている。
ポリ塩化ビフェニルは、人の健康及び生活環境に係る被害を生ずるおそれがある物
質であり、その難分解性、高蓄積性、大気や移動性の生物種を介して長距離を移動
するという性質から、将来の世代にわたり、地球規模の環境汚染をもたらすもので
ある。国際的には、ポリ塩化ビフェニル等の残留性有機汚染物質による環境汚染を
防止するため、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約が平成13年5月
に採択された。我が国は、平成14年7月の同条約締結の国会承認を経て、翌8月
に加入した。この条約では、ポリ塩化ビフェニルに関し、平成37年までの使用の全
廃、平成40年までの適正な処分などが定められている。
このような状況において、ポリ塩化ビフェニルによる環境汚染を防止し、将来にわ
たって国民の健康を保護し、生活環境の保全を図るためには、ポリ塩化ビフェニル
廃棄物の処分を先送りしてこのまま長期にわたって保管を継続することは適当では
なく、その処理体制を速やかに整備し、確実かつ適正な処理を推進することが必要
不可欠となっている。このためには、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の早期の処理につ
いて広く国民の理解が醸成されるとともに、その事業活動に伴ってポリ塩化ビフェニ
ル廃棄物を保管する事業者(以下「保管事業者」という。)、ポリ塩化ビフェニルを製
造した者及びポリ塩化ビフェニルが使用されている製品(以下「使用製品」という。)
を製造した者(以下「製造者等」という。)、国、都道府県及び市町村が、この問題を
解決するという確固たる意思をもって、それぞれの責務を果たさなければならない。
この基本計画は、このような認識の下、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の確実かつ適正
な処理を総合的かつ計画的に推進するため、必要な事項を定めるものである。
なお、本計画は、5年ごとに見直しを行うほか、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の処理体
制の整備状況等を勘案して必要な見直しを行うこととする。
出典:ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画
http://www.env.go.jp/recycle/poly/plan/191018.pdf
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大筋のストーリー
原文をざっと読んだところ、論理的にはおおむね下記のような構造化
ができそうです。「性質」を元にして①~④の結果や結論を語る、ある
種の因果関係の構造です。
①
PCBにはこんな
性質があります
こんな用途に使われてきました
②
環境中でこんな挙動をします
③
その結果、こんな弊害が
起こる可能性があります
④
そこでこのような
対策が必要です
実際には①~④の相互間の関係もありますが、それは後回しにして
まず「性質」と①~④を個別に見てみましょう
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【1】 PCBの性質
PCBの性質として重要なポイントは、下記7項目です。
化学的に安定
熱で分解しにくい
電気絶縁性が良い
工業用素材としてのメリット
沸点が高い
不燃性
高蓄積性
環境にとってのデメリット
毒性
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【2】 PCBの用途
PCBはそのメリットを活かして多様な用途に使われてきました。
電気絶縁性が良い
電力機器用絶縁油
化学的に安定
塗料
不燃性
熱で分解しにくい
熱交換器用熱媒体
沸点が高い
潤滑油
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多
様
な
用
途
【3】 環境中での挙動と弊害
一方、その高蓄積性と毒性により健康被害が起きる恐れがあります
多様な用途があった
社会の至る所で使われている
これが生物の棲む
環境中に放出されると
高蓄積性
毒性
生物濃縮が起こり
健康被害をもたらしうる
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【4】 実際の被害状況
実際の健康被害またはその危険を示唆する状況があります
カネミ油症事件
1968年に熱媒体として使われていたPCBが食用油に
混入して起きた健康被害事件
生物からのPCB検出
世界各地の魚類や鳥類の体内からポリ塩化ビフェニル
が検出されている
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【5】 対策方針
健康被害を防ぐための対策方針のポイントは以下3点です
方針
状況
現状評価
PCBの
新規製造禁止
昭和40年代末で
製造・輸入とも
中止(禁止)済み
○ 完了
既存のPCBは
無害化処理
処理体制の整備は
遅れている
× 停滞
各事業者にて
保管されているが、
管理体制に不安がある
× 不良
無害化処理を
行うまでは
厳重に管理する
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【6】 今後求められる対応とは
今後はこのような対応が求められます
(↓下記内容を整理すべきですが、ここは省略します)
このような状況において、ポリ塩化ビフェニルによる環境汚染を防止し、将来にわたっ
て国民の健康を保護し、生活環境の保全を図るためには、ポリ塩化ビフェニル廃棄物
の処分を先送りしてこのまま長期にわたって保管を継続することは適当ではなく、その
処理体制を速やかに整備し、確実かつ適正な処理を推進することが必要不可欠となっ
ている。このためには、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の早期の処理について広く国民の理
解が醸成されるとともに、その事業活動に伴ってポリ塩化ビフェニル廃棄物を保管する
事業者(以下「保管事業者」という。)、ポリ塩化ビフェニルを製造した者及びポリ塩化ビ
フェニルが使用されている製品(以下「使用製品」という。)を製造した者(以下「製造者
等」という。)、
国、都道府県及び市町村が、この問題を解決するという確固たる意思をもって、それぞ
れの責務を果たさなければならない。
この基本計画は、このような認識の下、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の確実かつ適正な
処
理を総合的かつ計画的に推進するため、必要な事項を定めるものである。
なお、本計画は、5年ごとに見直しを行うほか、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の処理体制
の整備状況等を勘案して必要な見直しを行うこととする
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以上、【1】~【6】で、「まえがき」原文を整
理した要約資料の例を示しました。
では、この後は、それぞれのページから
いったいどんな教訓を読み取れるか、どん
な応用ができるかなどを解説します。
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解説1
「大筋のストーリー」は、原文をざっと読んでアタリをつけます。
「ざっと読む」だけでは見当がつかない場合は、地道に分解・分類を
して考えます。
①
PCBにはこんな
性質があります
②
こんな用途に使われてきました
環境中でこんな挙動をします
③
その結果、こんな弊害が
起こる可能性があります
④
そこでこのような
対策が必要です
ある程度長文読解に慣れていないとここは難しいので、
自分では難しい場合は得意そうな人に聞いてみましょう。
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解説2
「【1】PCBの性質」 の大半は原文冒頭に書かれていますが、「高蓄
積性」のように後半に出てくるものもあります。
文書のあちこちに散らばっている「同種の情報」を見つけ出すことは
重要なので注意深く読んでください。
化学的に安定
熱で分解しにくい
電気絶縁性が良い
工業用素材としてのメリット
沸点が高い
なお、情報の列挙が4項目以上
になると読者の注意力が落ちてく
るので、5項目以上あるときはさ
らに分類できないか考えてくださ
い。
不燃性
高蓄積性
毒性
環境にとってのデメリット
分類してラベルをつけるとわかり
やすくなります。
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解説3
「【2】 PCBの用途」のページでは性質と用途の関係を書きました。
「性質」が複数あって、そのそれぞれが別な用途に役立つ、というの
ケースはよくあります。その関係を表現するための工夫をしたのが
下記チャートです。
なお、原文ではこのあたりはあまり説明されていませんが、あったほ
うがPCB問題についての理解が深まるため、補いました。
PCBはそのメリットを活かして多様な用途に使われてきました。
電気絶縁性が良い
電力機器用絶縁油
化学的に安定
塗料
不燃性
熱で分解しにくい
熱交換器用熱媒体
沸点が高い
潤滑油
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多
様
な
用
途
解説4
「【3】 環境中での挙動と弊害」 は、やや複雑な因果関係がある
ケースです。矢印で因果関係をたどれるようにします。
一方、その高蓄積性と毒性により健康被害が起きる恐れがあります
多様な用途があった
社会の至る所で使われている
これが生物の棲む
環境中に放出されると
高蓄積性
毒性
生物濃縮が起こり
健康被害をもたらしうる
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解説5
「【5】 対策方針」 のページでは、抽象化した「方針」、具体的な「状
況」、それに対する「現状評価」に分けることで、理解がしやすくなり
ます。このパターンもよく出てきます。
健康被害を防ぐための対策方針のポイントは以下3点です
方針
状況
現状評価
PCBの
新規製造禁止
昭和40年代末で
製造・輸入とも
中止(禁止)済み
○ 完了
既存のPCBは
無害化処理
処理体制の整備は
遅れている
× 停滞
各事業者にて
保管されているが、
管理体制に不安がある
× 不良
無害化処理を
行うまでは
厳重に管理する
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業務紹介
アイデアクラフトでは、このような
「実業務に使われている長文」を使って
情報の構造化を行うワークショップを行うことで
社員の「情報整理能力・説明力」を向上させたい
という会社のために、個別のワークショップ開催を引き受けておりま
す。
詳しくは、下記お問い合わせ方法をご覧の上、お問い合わせくださ
い。
お問い合わせページ
http://ideacraft.jp/cms/main-contact.html
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