「板寄せ方式」値決め方法の解説 (・・・をネタにした、情報の構造化・見える化事例) 本書は、「板寄せ」の仕組みについて他所で解説を 読んでもわからなかった方だけ、読んでください。 アイデアクラフト 開米瑞浩 http://ideacraft.jp Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 本書の目的 本書は、「理解しにくい複雑な情報も、きちんと構造化・見え る化すると格段に理解しやすくなる」ということを示す一つの 実例として制作しました。 従って、実は「板寄せ方式」の解説そのものを目的とする文 書ではありませんが、それを求めて読んでいただくこと自体 は問題ありません。 本書末尾に、この事例の「構造化・見える化のポイント」 を解説しています。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト ことのはじまり(1) 私、開米瑞浩は「複雑な情報をわかりやすく構造化して説明 する」のが得意な文書化コンサルタントです。 そんな私がある日、ある知人に、こんなことを聞かれました。 開米さん、「板寄せ方式」 って どういう仕組みかわかりますか? 板寄せ方式というのは、株式市場において寄付前に始値を 決めるための方法です。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト ことのはじまり(2) そこで改めて「板寄せ方式」について調べてみたところ、 「ああ、これはいかにも分かりにくい話だ・・・」 ということが 容易に予想できるものでした。実際、株取引初心者だという 知人は「よくわからない」 と言うのでした。 そこで、私が代わって解説してみます。 なお、株取引の基本についての説明はしませんので、 以下の内容は基本的な知識があることが前提です。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 表記法(1) これは株の板情報を表すために一般的に使われている表記法です。 売り注文 値段 買い注文 成行 100 400 102 1100 101 300 100 99 500 98 200 97 700 成行 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 現実の場中ではこの 「成行買い100株」は 一瞬で売り注文100 円300株のうちの 100株と約定して消 えます。 原則 これから、板寄せ方式を理解するために役に立つ、2つの原則について 説明します。 1) 同値約定の原則 2) 「安・高」優先の原則 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 原則1: 同値約定の原則 売りと買いで同値の注文がある場合は、その値段で約定します。 売り注文 値段 買い注文 成行 400 102 1100 101 300 100 200 99 500 98 200 97 700 成行 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト この状態では売り 200株と買い200株 が約定し、売り100株 の注文が残る 原則2: 「安・高」 優先の原則 複数の値段で売り・買いが錯綜している場合は、「安い売り注文」と「高い 買い注文」が優先的に約定します。 売り注文 値段 買い注文 成行 400 102 ① 300 1100 101 ② 200 300 100 500 ③ 100 99 500 98 200 成行 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト まず①で300株、② で200株、③で100株 約定し、 100円で 200株の売り注文が 残ります 「板寄せ」のスタートとゴール 「板寄せ」は「始値を決める」ための作業です。 スタート 売り注文 値段 成行 400 102 1100 101 500 500 1200 ゴール 買い注文 1400 売り注文 値段 買い注文 成行 板寄せ 400 102 200 1100 101 100 300 300 100 99 400 99 400 98 200 98 200 成行 成行 板寄せのスタート時は、同じ値 段に売りと買いが交錯し、成行 注文も存在する状態 板寄せを終えると、成行注文はすべ て約定し、指値注文はある値段を境 に高値では売り注文、安値では買い 注文のみが残っている Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」作業の表記法 以下、板寄せ作業を表記するために下記の表記法を使うことにします。 売り注文 約定予定 (売り) 値段 約定予定 (買い) 成行 買い注文 1400 400 102 1100 101 200 500 100 300 500 99 400 98 200 1200 成行 売り、買い注文と値段の間に「約定予定」欄を作り、板寄せで約定させる 注文はこの「約定予定」欄に移動させることで、作業を「見える化」します。 では、実際の進行を見てみましょう。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」作業(1) 板寄せではまずすべての成行注文を約定させます。 売り注文 約定予定 (売り) 値段 約定予定 (買い) 成行 買い注文 1400 400 102 1100 101 200 500 100 300 500 99 400 98 200 1200 成行 成行の買いが1400に対して売りが1200なので売りが200足りません。 そこで99円の指し値売り500のうちの200を合わせて「約定予定」とします。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」作業(2) (1)の結果です。すべての成行注文を「約定予定」に移動しました。 売り注文 約定予定 (売り) 値段 約定予定 (買い) 成行 1400 買い注文 400 102 1100 101 200 500 100 300 99 400 98 200 300 200 1200 成行 「約定予定」欄の売り株数合計と買い株数合計の数字は一致します(ど ちらも1400)。 この段階ではまだ始値が決まっていませんので、まだ約定はしていませ ん。あくまでも「始値が決まったら約定させる予定」ということです。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」作業(3) 残った指し値注文を「安・高」優先の原則に従って約定予定に移します。 売り注文 約定予定 (売り) 値段 約定予定 (買い) 成行 1400 買い注文 400 102 1100 101 200 500 100 300 99 400 98 200 300 200 1200 成行 99円の売り200と101円の買い200を約定予定に移動します。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」作業(4) (3)の結果です。 売り注文 約定予定 (売り) 値段 約定予定 (買い) 成行 1400 買い注文 400 102 1100 101 500 100 300 99 400 98 200 100 400 1200 200 成行 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」作業(5) 引き続き「安・高」優先で板寄せを続けます。 売り注文 約定予定 (売り) 値段 約定予定 (買い) 成行 1400 買い注文 400 102 1100 101 500 100 300 99 400 98 200 100 400 1200 200 成行 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」作業(6) (5)の結果です。 売り注文 約定予定 (売り) 値段 約定予定 (買い) 成行 1400 400 102 1100 101 200 500 100 100 500 1200 買い注文 200 99 400 98 200 成行 これでついに、「売りと買い、両方の注文が残っている値段」 は 100円だけになりました。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」作業(7) 「同値約定の原則」により、100円の売りと買いを200株約定させます。 売り注文 約定予定 (売り) 値段 約定予定 (買い) 成行 1400 400 102 1100 101 200 100 100 買い注文 200 500 500 1200 99 400 98 200 成行 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」作業(8) (7)の結果です。これで約定値段が確定します。 売り注文 約定予定 (売り) 値段 約定予定 (買い) 成行 1400 400 102 1100 101 200 100 100 300 200 200 500 1200 買い注文 99 400 98 200 成行 ここで初めて売り・買いが同値になり、約定値段が100円に確定します。 そしてこの 「100円」 が始値になります。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」作業(9) 「約定予定」のすべての注文を「始値」で約定させます。 売り注文 約定予定 (売り) 値段 約定予定 (買い) 成行 1400 400 102 1100 101 200 100 100 300 200 200 500 1200 買い注文 99 400 98 200 成行 売りと買いのすべての「約定予定」の注文を、始値として決まった100円 で約定させます。 →これで板寄せ完了です Copyright(c) 2014, アイデアクラフト そもそもなぜ「板寄せ」はわかりにくい? 板寄せの基本的な仕組みは以上で把握できたことと思いますが、 そもそもなぜ「板寄せ」はわかりにくいのでしょうか? その大きな理由は以下の2つです。 時間軸に沿って状態が変わる仕組みである 最終確定するまでの「保留」がある ということにあります。たいていの人は、複数の要素が時間経過とともに 変化していく様子を言葉だけで理解するのは苦手なものです。また、約 定値段が最後まで確定しないという「保留」があるのも、理解を困難にす る要因です。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 本書の解説で工夫したこと そこで本書では以下の工夫を行いました。 時間軸を細かく分解し、「変化」を一度に一つだ け見せるようにした 「約定予定」欄を設けて、何を「保留」しているの かを記憶に頼らず把握できるように見える化した 「スタート」と「ゴール」を明示して、何に向かって の作業なのかイメージが沸くようにした Copyright(c) 2014, アイデアクラフト 「板寄せ」という名前に関連づける 最後に、「板寄せ」という名前に関連づけてその作業を説明すると、記憶 に残りやすくなります。たとえば、こういう説明を加えます。 「板寄せ」では、2つの「寄せ」を行います。 第1に、「注文」を「約定予定」欄に寄せること。 第2に、最終的な約定値段(=始値)に向かって 値段を寄せることです。 適切な構造化をするとこの種の視覚に訴える説明も出来ることが多く、 理解を深め記憶を定着させる上で有益です。 Copyright(c) 2014, アイデアクラフト
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