日本近海における海洋生物の危機 ~現状と取り組み、その展望~

Group 6-B 「環境変化による動物たちへの影響」
日本近海における海洋生物の危機
Members
121292 米良花香
121558 田村未央
121239 小井土美香
121299 三浦香織
121324 村上静香
121486 清水朋子
121605 土屋由美
121672 吉住早百合
~現状と取り組み、未来への展望~
地球が誕生して46億年。生命が誕生して38億年。最初の生命が生まれたのは海であった。
今その海では、人間活動に伴う環境変化により生態系に異変が起きている。我々にできることは何か。
♒具体的な生物への影響♒
我々のグループは3種の生物に調査対象を絞った。それらに起きている現象、その社会的影響、対する取り組みと問題点、そして我々の提案を挙げる。
サンゴ礁
エチゼンクラゲ
●現状と原因
●現状と原因
①白化現象:汚水物質との長期間の接触によるストレス、地球温暖化
日本近海において大量発生
※エチゼンクラゲとは?
による水温上昇、海面上昇などにより珊瑚が共生藻である褐虫藻を失い、
透明なサンゴ組織を通して白い骨格が見え、その状態が長く続くことで死滅
してしまう現象
※褐虫藻とは?
サンゴの細胞内に共生する藻。珊瑚に色を与え、光合成によりエネル
ギーを昼間、珊瑚に栄養素として供給するため、光を遮られると珊瑚の栄養
限が消失。この藻は突発的な温度変化に弱く、珊瑚生息の適温とされる海
水温25℃~29℃から2℃程の上昇または、30℃超えで珊瑚から抜け出す
*原因
‐温室効果ガスによる海面上昇やエルニーニョ現象の頻度の増加、降
水量や海流の変化、水温上昇など
②オニヒトデの大量発生
※オニヒトデとは?
サンゴを食い荒らす。サンゴを食べる際、自分の胃をからだの下側にあ
る口から外に出して、直接消化吸収する。1匹のオニヒトデは1年間に5~13
㎡のサンゴを食べる(下図2参照)
東シナ海、黄海、渤海、日本海にかけて分布する大型のクラゲで、傘の
直径が2m、重さ150kgに及ぶものもいる。体の90%以上が水で出来ている
*原因
‐中国沿海の環境変化
→急速な中国の近代化に伴う生活・工業排水の海へ大量流出さによ
る、中国沿海の水質汚濁
→海水中のプランクトンが急増、これを餌とするエチゼンクラゲが大
量発生していると考えられている
→大量発生したエチゼンクラゲが対馬海流によって流され、日本
沿岸に漂着する(エチゼンクラゲの輸送ルート図1参照)
‐魚類の乱獲、地球温暖化に伴う水温上昇、開発による自然海岸の消
滅などによる生態系の変化によって、海洋の魚の数が減少し、その分エチ
ゼンクラゲが増加しているとも言われている
図1:エチゼンクラゲの輸送ルート
*原因
‐自然現象説:大発生と沈静化をくり返すオニヒトデの性質による
‐生態系の人的撹乱:海水の富栄養化、天敵生物や、生態系のバラン
スを保つ上で重要な役割を果たす生物の乱獲(オニヒトデを捕食する生物
の減少-ex.カワハギやハタの仲間)
●社会的影響
●社会的影響
‐天然の防波堤の喪失
‐教育の場の喪失
‐伝統的文化の喪失:サンゴを用いた産業の喪失など
‐エチゼンクラゲの大量発生に伴う生態系の変化→魚の減少→プランクト
ンの増加→エチゼンクラゲの大量発生…という悪循環
‐沿岸周辺住民が日常生活を営むことが困難
アサリ
●現状と原因
アサリの漁獲量減少
※なぜアサリなのか?
日本におけるアサリの漁獲量は二枚貝の中で最も多い
(1970年代半ばまでは全国で年間12~16万トンの間で安定)
→1985年以降,九州および瀬戸内海における漁獲の著しい低下
→1997年の漁獲量:全国で4万トン程度に減少
→瀬戸内海における2001年の漁獲量2820トン
=1985年の最大漁獲量,45023トンの6%にまで低下
*原因
‐干潟(アサリの好む汽水状態)の減少:人間による干拓や埋立、地球
温暖化による海面上昇
‐地球温暖化による海面上昇によって南方のアサリ捕食者(ナルトビエ
イやツメタガイなど)の流入
‐稚貝が定着する底質環境の悪化:生活排水や、海苔の養殖で艶出し
に使用される薬品が原因で底質がヘドロ化=酸素の欠乏
‐乱獲:漁業関係者の知識不足による稚貝の獲り過ぎ
●社会的影響
‐海水の浄化作用の欠乏:アサリ1個体につき1時間に1ℓの海水を濾過
→水質の悪化によるプランクトンの大発生
→死骸が海底部に堆積
→バクテリアの分解による海底付近の無酸素状態
→二枚貝の窒息死という悪循環
‐伝統的文化の崩壊:海岸付近住民の食生活の変化や伝統行事(潮干狩
りなど)の喪失
‐輸入に頼る傾向:中国や北朝鮮との関係
→現在4割を北朝鮮から輸入。日本が北朝鮮への制裁を求める一方で貴
重な貿易相手となる矛盾点
=他国から悪評価を受ける危険性
←ナルビトエイ
共通する社会的影響として…
図2:サンゴを捕食するオニヒトデ
◎観光資源の減少 例:東京湾における
漁獲量の推移
◎教育の場の喪失 (出典:素敵な宇宙船地球号
第544回 10/12/08)
◎漁獲量の減少が挙げられる。
ツメタガイ→
サンゴ礁
●現在行われている取り組みと問題点
①オニヒトデの駆除
エチゼンクラゲ
●現在行われている取り組みと問題点
アサリ
●現在行われている取り組みと問題点
①エチゼンクラゲの利用価値研究
①食害生物の駆除
*方法:サンゴ保全団体、自治体などによる駆除
*現状
‐1990年代後半~2003年までに、沖縄島周辺及び本州南西部で頻繁に
大発生。その都度駆除している。
*課題
‐コスト:1300万個体のオニヒトデを駆除した時点で経費は6億円
‐オニヒトデの駆除に関する意見の二分
‐オニヒトデもサンゴ礁生態系の一員では?
‐自然状態ではないので駆除に問題は無いのでは?
*現状
‐保湿力に着目し、砂漠緑化のための肥料としての利用(研究段階では
成功)
‐魚の餌や人間の食料としての利用
‐希少タンパク質の一種であるムチンの発見→医薬品や健康維持製品、
化粧品等への転用への期待
*課題
‐研究に時間がかかる
‐研究費用の増大、また成功しても成分抽出のために更なる経費拡大
*方法:市民に協力を呼びかけ、漁場全域でツメタガイの卵塊駆除
*現状:一時的に数は減るが、輸入するアサリの中に混ざっていることも
あるため、またすぐ増加してしまう→際限無し
②サンゴ移植
②エチゼンクラゲの駆除
③沖合の砂の人工的散布(覆砂)
*方法
‐無性生殖法…天然サンゴを採取し移植用断片に育成、移植先に固定
‐有性生殖法…卵や幼生を採取し養育、放流
*現状
‐2000年以前の試みで成功例わずか
*課題
‐コスト…種苗の生産・購入、器具、人件費、モニタリング等
‐技術…調査研究、修復、移植するサンゴの種の鑑定、移植後の管理等
‐制度…特別採捕許可→陸上養殖には漁業権は不要だが,海面養殖に
は特定区画漁業権が必要
※都市再生プロジェクトの一環としての東京湾での取り組み
‐東京湾、大阪湾、伊勢湾の三大湾における海洋環境の再生への取り組み
‐広域にわたる長期的な取り組み
・効果が発現するのに長い時間がかかる
=最短でも10年以上の視野で捉え行動計画を立てる必要がある
・各海域で終結するのではなく湾全体の取り組み
・沿岸の地域だけでなく内陸との連携も必要
‐行政機関、NPO、市民、企業等の多様な主体の参加・連携の下に推進
*プロジェクトの成果
‐平成18年第1回中間評価 ⇒ 汚濁は改善されつつある
⇔年間を通して底生生物が生息できる」という目標は達成されていない状況
‐サンゴの移植活動のみ=再び死滅する
という悪循環
→政府による工業用水・生活排水の流
出に対する課税
‐アサリが自然繁殖できるような干潟が
存在しなければ持続的な漁獲量上昇は
望めない
→WWFジャパンの干潟再生プロジェクト
‐エチゼンクラゲ大量発生を防止するた
めには中国側の協力が必要不可欠
→「東京都の都市再生プログラム」をモ
デルとして中国側に提示してはどうか?
♒海洋環境の根本的な改善のための取り組み♒
森林と干潟の自然機能の利用
具 ●森林:「緑のダム」(水源涵養機能=多面的な公益的機能)
体 ‐洪水の緩和:降水量が多いときに、大量の水が一斉に河川に流れ込むことを防ぐ
的 ‐水資源の安定供給:地下水をゆっくりと流出させ、人間生活に必要な水の確保を可能化
に ‐水質の浄化:土壌や植物の根がフィルターの働き
出典:東京湾再生推進会議
事後対策と根本的解決は環境問題に取り組む上でどちらも重要である。しかし、歴史の中で我々
人類が常に目先の利益や解決を優先してきたことを考えると、今後も事後対策を繰り返すばかりで
結局は根本から問題を解決できないままになってしまうのではないか。『持続可能性』という大きな
テーマが今後の課題として挙げられると我々は考える。
1) GREENPEACE Japan <http://www.greenpeace.or.jp/>
2) WWF Japan <http://www.wwf.or.jp/>
3) 京都府立海洋センター 『アサリの減耗要因と対策』
<http://www.pref.kyoto.jp/kaiyo/resources/1240793538609.pdf>
4) 東北区水産研究所
<http://tnfri.fra.affrc.go.jp/event/20061107asari.html>
*現状:その場だけ貝の繁殖率が高くなった。
*課題:人的環境であり、2,3年すると元に戻ってしまうため、持続可能な
環境づくりが必要
→長期的に持続可能な対策、つまり根本的に海洋環境を変える、
元あった状態に戻すような対策が必要である。
♒結論―考え♒
参考文献
*現状:漁獲量は多少向上したが、成貝へと変態するときに大量死するこ
とが多い
*課題:コストと人員が必要の割に生産性が小さい。成貝となっても死亡し
ないための研究・対策が必要
共通する問題点として…◎事後対策であることが挙げられる
…
*実際とられた対策
‐下水処理施設の整備・普及・高度処理の促進
‐森林の整備や河川・海の直接浄化(浮遊ゴミの回収、ヘドロの除去など)
‐浅場・海浜の再生・創造
‐水質調査などによるモニタリング
*現状
‐ボランティア団体や漁師による活動
‐漁業に特殊な網を導入してクラゲの水揚げ率低下を図る
*課題
‐駆除し続けることにも限界がある
②アサリの稚貝放流
5) 都市再生本部 東京湾再生推進会議 『海の再生に向けた取組』
<http://www.toshisaisei.go.jp/06report/pdf/16.pdf >
6) 独立行政法人 理化学研究所 『ムチンの発見』
<http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2007/070601/detail.html>
7) 日本サンゴ礁学会 <http://wwwsoc.nii.ac.jp/jcrs/>
8) 本川達雄 『サンゴとサンゴ礁のはなし』 中央公論新社 2008
→雨などに含まれる混入物(窒素・リンなど)を吸着し浄化する
※土譲生物による水質浄化
落葉・枯枝が腐った有機物を、土壌の中で多様な生物が有機物を分解
ex.ミミズ、クモ、ワムシ、藍藻、珪藻、バクテリア
→生成物の栄養塩類(窒素・リンなど)を樹木が根から吸収
→窒素やリン、およびその化合物はプランクトンの餌
=河川に流出すると河川水・海水の富栄養化
=プランクトンの異常発生
=森林が必要不可欠
●干潟:干潟に棲む水生生物による水質浄化
-「堆積物食者」…干潟に堆積した有機物(デトリタス)を分解する生物
→穴を掘ることによって砂泥の深い所にまで酸素が供給される
→共生する好気性バクテリアにより有機物の分解が更に進められる
出典:ECOみやざき環境保全
ex. ゴカイ類・カニ類・エビ類など砂泥の中に棲む底生生物
-「濾過食者」…植物プランクトンや縣濁物(生物の死骸などが分解される過程で出る有機物の塊)を濾
過して食べる生物
ex.アサリ・カキなどの二枚貝、アマモ、アオサ
*具体的に…
- 地球・人間環境フォーラムによる調査・研究 ⇒ 福島県松川浦に存在する窒素の量とだいたい同じ量
の窒素を、アサリとカキがたった一日で吸収していることが判明