髄膜炎菌性髄膜炎

髄膜炎菌性髄膜炎
Epidemic cerebrospinal meningitis
Meningococcal meningitis
一、
概 念
化膿性髄膜炎のなかで髄膜炎菌を起炎菌
とする疾患を髄膜炎菌性髄膜炎という。髄膜炎
を起こす病原性細菌はいくつか知られている
が、大規模な流行性の髄膜炎の起炎菌は髄
膜炎菌のみであることから、流行性髄膜炎とも
よばれる。
 髄膜炎菌 ( Neisseria meningitidis ) はヒトの上気
道に生息 (保菌) している細菌であり,小児およ
び若年成人に時に髄膜炎 を起こし,希に敗血症
を引き起こす。敗血症は髄膜炎よりさらに重篤で
ある。抗菌剤の治療が行われない場合はほぼ
全例が死亡すると考えられる。発症早期にアン
ピシリンなどの静注が行えば,救命率は高い。
ワクチンがあるが,一部の型に対してのみであり,
また効果は余り持続しないため,流行地での流
行時に主に使用される。
二、 病 原 学
1.分類
グラム陰性の双球菌。Neisseria 属。Neisseria
属には多くの種があるが,ヒトに病原性を示す
のは髄膜炎菌 ( N. meningitidis ) およびリン菌
( N. gonorrhoeae )のみである。ヒトの上気道に
は非病原性のナイセリア ( Neisseria )が多数生
息している。患者のみならず、健常者の鼻咽頭
からも分離される。人以外からは分離されず、
自然界の条件では生存不可能である。
2.形態及び特性
・微好気性菌であり,ただし,重要なのは炭酸ガ
スであり,通常の大気で炭酸ガスを2-10%にす
ると増殖する。増殖には湿度が高いことが必要。
・菌種内での菌群分類が数種の方法で行われ
ているが,主なものは莢膜多糖体の抗原性の
違いによる分類である。
 グラム陰性の球菌であるが,菌は腎臓型をして
おり,これが2個集まった双球菌状に観察される
ものが多い。好中球に貪食されても容易には死
滅しない。ただし,乾燥状態では容易に死滅す
る。(リン菌と同様)
髄膜炎菌のグラム染色像
三、 疫 学
 伝染源:患者とキャリア
ヒト以外には保有動物は確認されておらず,
環境からも検出されない。
 伝染経路:
ヒトの上気道 (鼻咽頭) に生息しており,菌
は保菌者の上気道からの飛沫により伝搬する。
 感受性
 特徴
四、メカニズム
細菌の
付着と
侵入
免疫力強い
免疫力弱い
もっと弱い
毒力強い
細菌が殺され、発症しない
細菌が繁殖 キャリア、上呼吸系感染
短期菌血症(多い)
敗血症 化膿性脳膜炎(少ない)
Endotoxinによる微小循環障害が発症機序である。
ショック型
血液循環と凝血障害
劇症型
脳膜炎型
脳の微小循環障害とも致す
五、 臨 床 症 状
潜伏期:2-3日。時に10日に及ぶとされている
普通型(90%)
劇症型
軽型
三種類わけられている
(慢性敗血症型?)
1.普通型
1)上呼吸系の炎症期
2)敗血症期
発熱、頭痛、皮膚の点状出血斑もしくは紫斑
3)脳膜炎期
ひどい頭痛、嘔吐、意識障害、脳膜刺激症
4)回復期
2、劇症型
 ショック型
循環不全
脳膜刺激症は稀、DICがよく見られる
 脳膜炎型
脳実質損害は主な特徴
脳水腫、ヘルニアの症状
 混合型
六、 検
査
1、血Rt:WBC上昇
2、髄液
外観は混濁。糖量は減少し,蛋白量は増加する。
(化膿性髄膜炎の所見)
3、細菌学の検査
咽頭、うっ血点、髄液と血液から
4、免疫学の検査
七、 診断と鑑別
 Confirmed case
Neisseria meningitidis が検出
 Presumptive case
グラム陰性の双球菌が検出
 Probable case
抗原試験(+)、培養(-)
八、 治 療
1、抗菌剤
もちろん,髄液に移行の良い抗菌剤が使用される。
第一選択薬としてpenicillin Gが、第二選択薬としては
chloramphenicolが推奨されている。また一般に髄膜炎
の初期治療に用いられるcefotaxime (CTX)、
ceftriaxone(CTRX)、cefuroximineは髄膜炎菌にも優れ
た抗菌力を発揮するので、菌の検査結果を待たずして
CTX、CTRXをpenicillin Gと併用すれば起炎菌に対して
広範囲な効果を現し、早期治療の助けとなる。
2、ショック対策
1)液体の補足とacidosisの改善
2)atropine
3)ホルモン
4)ジギタリス、心不全の治療
5)DICの治療: heparin
3、脳膜炎治療
脳水腫:mannitol
呼吸不全:
九、 予 防
 ワクチンがある。このワクチンはA, C, Y, W135の
群に有効である。しかし,B群には無効であるこ
と,効果の持続性があまりない (効果は数年間と
されている)ことから一般に広くは用いられない。
 患者と接している人々の感染率は一般の人々に
対してかなり高くなるため、ワクチン以外の予防
法として抗生物質の予防投与が推奨されている。