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Reminiscence Therapy for
elderly with dementia
認知症高齢者に対する回想法
Faculty of Health Science
Department of Rehabilitation
Occupational Therapy Course
NIHON FUKUSHI UNIVERSITY
日本福祉大学 健康科学部 作業療法学科
Shuji Kijima
来島 修志
こどもの頃
どんなことして遊
びましたか?
回想法は,昔を思い出す きっ
かけをつくるお手伝い
回想法ってなんでしょう?
• 回想:かつて経験したことを再認感情を伴っ
て再生すること,過去のことを思いめぐらすこ
と(広辞苑第5版)ごく自然
• 過去を思い出し,その思い出を語ったり,書
いたり,他者と共有することを通して,懐かし
んだり楽しんだり,といった何らかの効果や意
義を生むもの
• 回想法:回想のきっかけをつくり,より回想し
やすく,より語りやすく,相互交流しやすくなる
よう促していく介入方法
高齢の方々にとっては?
• 楽しい同窓会,自分史作り,三世代交流
Robert N. Butler(1963年)
• 自然に起こる心理的過程
• 過去の未解決の課題を再度とらえ直す
• 自己受容を促す積極的な役割をもつもの
Erikson, E.H.(1959,1986年)
• 老年期の課題:自己統合
• 人生は山あり谷ありと知る過程そのものが生
きる力を生み出す
認知症をもつ方々にとっては?
•
•
•
•
•
あ~そうそう,わかる!
あ~懐かしい!
こんな話を喜んで聞いてもらえてうれしい!
みんなと一緒,ひとりじゃない!
不安を忘れる安心と充実の一時!
☆残存機能を発揮し,脳が活性化され,
安心できる人間関係や居場所がもてる
認知症進行予防,行動障害の改善・予防
記憶と回想の特徴
• 記憶:陳述記憶と手続き記憶
• 陳述記憶:出来事記憶と意味記憶
• 出来事記憶(生活記憶):自伝的記憶と
社会的出来事の記憶
※自伝的記憶は自己が主役
※認知系+運動系+辺縁系
• 即時記憶⇒近時記憶⇒遠隔記憶
• 出来事記憶の読み出し:再生ではなく再構成
• 手続き記憶+出来事記憶+意味記憶⇒心理的自己
回想法の治療構造
場の設定
会話,テーマ,昔の生活道具,語り
日時の設定
リーダーの質問態度・方法
集団の成員構成
集団操作
【集団力動】
回想法のすすめ方
① テーマ,道具,ツールの活用
*興味をもって,じっくり,実演も
*回想法キットの利用
*テレビ回想法,パソコン回想法
回
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
テーマ
自己紹介,出生地ふるさと
名前の由来
小学校の思い出
遊び
おやつ
お手伝い
戦争
戦後
兄弟
お盆
旅の思い出
茶話会“会を振り返って”
使用道具
ふるさと自慢の品々
家族集合写真
昔の教科書,卒業写真
お手玉,紙風船
麦こうせん,練り飴
一升枡
出征兵士/学童疎開の写真
「りんごの唄」音楽 C D
兄弟の写真
送り火用松脂木,野菜の馬
日本地図
お茶セット
DMAS得点の変化
DMAS18-24
DMAS 1-17
8
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
7
6
5
4
3
2
1
0
BEFORE
AFTER
BEFORE
AFTER
“Reminiscence navigation program:
nostalgic stories on TV”
リーダー
コ・リーダー
コ・リーダー
テレビ回想法~懐かしい話~
“Reminiscence navigation program:
nostalgic stories on TV”
•
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•
玉子ごはん,納豆ごはん,ぬかみそ漬けの巻
お洗濯,お掃除の巻
小学校の思い出の巻
男の子の遊び,女の子の遊びの巻
ふるさとはどちらですかの巻
映画館の思い出の巻
女の身だしなみ,戦中戦後の暮らし~結婚式の巻
地方限定版(沖縄,高知,師勝,大正村,北海道など)
中等度~重度痴呆のお年寄り向け
対象と方法
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•
•
介護老人保健施設に入所中の痴呆性高齢者でHachinskiの脳虚血ス
コア4点以下である11名,平均年齢81.6歳を対象とした
介入方法は,1回1時間,週2回,3ヶ月間,全24回実施した
事前に研修を受けた介護職員,作業療法士,言語療法士らスタッフ4
人が担当した
内容は,小学校,家事,お手伝い,遊び,戦中・戦後,季節の風物,
郷土料理などの思い出をテーマに,毎回前半は各テーマに沿った回
想を促すビデオ(テレビ回想法)を見ながら,後半は各テーマに沿っ
た懐かしい物品を用いて回想を展開した
介入群
対照群
男性(人)
1
2
女性(人)
10
9
人数(人)
11
11
年齢(歳)
81.6±6.3
84.3±6.1
HDS-R(点)
9.5±3.4
7.7±4.9
HDS-R得点の比較
P<0.05
12
10
8
介入群Subjects
対照群Control
6
4
2
0
Pre
Post
NMスケール得点の比較
P<0.05
35
30
25
20
介入群Subjects
対照群Control
15
10
5
0
Pre
Post
NMスケール下位項目得点の比較
10
P<0.05
9
8
7
NMスケール【会話
Communication】
NMスケール【見当識
Orientation】
6
5
4
3
2
1
0
Pre
Post
N-ADL得点の比較
P<0.05
40
35
30
25
介入群Subjects
対照群Control
20
15
10
5
0
Pre
Post
結果① 訓練継続記録の変化
4
3.5
3
A. プログラムへの参加意欲
2.5
B. 対話の様子
2
C. 回想内容の発展性
D. 回想,発言内容の質
1.5
E. プログラム中の満足度
1
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
A. プログラムへの参加意欲:1回目-6回目*,6回目-12回目* ,1回目-12回目* *
B. 対話の様子:1回目-6回目* * ,1回目-12回目* *
C. 回想内容の発展性:1回目-6回目* * ,1回目-12回目* *
D. 回想,発言内容の質:1回目-6回目* ,1回目-12回目* *
E. プログラム中の満足度:1回目-6回目* * ,1回目-12回目* *
*:p<0.05 ,* *:p<0.01 ,n=14
結果② パソコン回想法の効果評価
ADL合計得点
(/50点)
(/30点)
17.5
NMスケール合計得点
34.5
34.0
p =0.044 (n=27)
p =0.001 (n=27)
33.5
17.0
33.0
32.5
16.5
32.0
31.5
31.0
16.0
前
前
後
(/10点)
NMスケール下位項目得点
8.5
周辺症状合計得点
6.0
8.0
5.0
後
会話
p =0.013 (n=27)
7.5
4.0
記銘・記憶
p =0.034 (n=27)
7.0
p =0.031 (n=27)
3.0
6.5
2.0
6.0
1.0
関心・意欲・交流
p =0.008 (n=27)
5.5
0.0
前
後
前
後
回想法のすすめ方
~ 会話や回想が困難な方に対して ~
*マンツーマンで
*個人の馴染みの物品やアルバムを使って
*手続き記憶を活用
回想法のすすめ方
② リーダーの役割
*傾聴,聞き方:開いて閉じてまた開く
*教えてもらい感謝する
*集団相互交流の引き出し方
「グループ回想法」の場と集団
コ・リーダー
コ・リーダー
リーダー
集団相互交流の引き出し方
参加者の語りから学ぶ
「子どもの頃はどんなことをして遊びましたか?」
“私は遊びに行けなかった…子守りをしなけれ
ばならないので.それでも遊びに行きたくて
しょうがないので,弟をおんぶしたまま遊びに
行った…遊び場はお寺の境内.みんなと縄
跳びをした.背中の弟は舌を噛まなかったか
なぁ,ハウッ!と言って…”
参加者の語りから学ぶ
~想像してみましょう~
小学校一年生の頃でしょうか? 確かに
弟をおぶったまま縄跳びを跳ばれたの
でしょう.
~その当時,舌を噛まないかねぇ...と心配
しながら跳んでいたでしょうか?
~それでは舌を噛まなかったろうかと,い
つ心配しているのでしょうか?
現在(今)ですよね!
回想法は過去を再現するだけでは
ない,昔を振り返って今どう感じるか
が大事,これが再認なのです
過去と現在と未来をつなぐ!
過去を回想することによって,現在
の自分が豊かになり,さらに未来に
向けて力をもつことができる
回想法の意義
回想すること自体心地よい満足の得られる楽
しい活動
人前で話すことによって人生の主人公として
の自分を受け入れてもらえる
人に伝え今に活かされる伝承の役割を発揮
する社会参加の機会となる
回想し人生を捉え直すことによって今の生活
が生き生きとなり,これからの生き方が変わ
る可能性がある
まとめ:手段としての回想法
脳活性化リハビリテーションの一環
遠隔記憶であるところの出来事記憶 (生活
記憶),特に自伝的記憶を用いる
感情を引き出すことにより,セラピストや仲間
との共感による関係性を作り出す
手続き記憶を用い,作業に結びつけ, 役割
を明確にする
再構成により人格,自己を立て直す
高齢者の尊厳を支えるケア
尊厳の回復
してあげる
「与える」ケア
役割発揮
(教える,伝える)
受け身
与えられる
「受け取る」ケア
主役
参考・引用文献
・ 野村豊子:回想法とライフレヴュー.中央法規出版,1998
・ 来島修志:回想法の効果的な進め方.
高齢者けあVol.7.No.1~4,日総研出版,2003
・ 来島修志:痴呆性高齢者を活性化させる「作業回想法」
の実践とその効果.痴呆介護Vol5.No.3:49~54,
日総研出版,2004
・ 来島修志:なじみの懐かしい道具を用いて「わかる」世界
を設定しスタッフに教え伝えることで「できる」世界を演出
する.GPnetVol.54.No.4:35~40,厚生科学研究所,2007
・ 遠藤英俊,NPOシルバー総合研究所編著:地域回想法
ハンドブック」:河出書房新社,2007
・ 特集:認知症高齢者への回想法の実践.来島修志他:
GPnet Vol.55.No.2,厚生科学研究所,2008