中国の医薬品市場と医薬行政 -12期5カ年計画(2011年~2015年)の影響- 北京日豊泰達国際医薬科技有限公司 正田 豊 自己紹介 正田 豊(Masada Yutaka) 1948年5月11日生 1972 新潟大学理学部生物学科 卒業 山之内製薬 入社 1993 仙台支店 郡山営業所長 1998 東京第一支店 中央営業所長 2001 医薬開発部長 2002 山之内製薬(中国)有限公司 総経理 兼営業本部長 就任 2006 アステラス製薬(中国)有限公司 副董事長 総経理 退任 アステラス製薬 退職 2007 北京日豊泰達国際医薬科技有限公司 董事長 兼 総経理 就任 現在に至る 顧問(委員) 中日医学科技交流協会 北京市投資推進局 遼寧(本渓)医薬産業開発区 遼寧省桓仁県経済開発区 中国健康促進基金会 健康産業連盟専門委員会委員 今日のお話しのテーマ 医療制度改革の流れ 12期5カ年計画の影響 制度変更 市場変化 対応策 医療制度改革の流れ 医療保険制度の充実 医薬品許認可制度の改善 GMP制度の改定 薬価制度の見直し 抗生物質の処方管理 医薬分業への移行 基本薬物制度の充実 医療保険制度の充実 国民皆保険(2007年大幅に保険制度充実)を目指し 2011年カバー率95%を超える 都市部の医療保険 「都市労働者基本医療保険」 仕事に従事している人とその家族 約 2.2億人をカバー 「都市住民基本医療保険」 2007年から実施 年金生活者など仕事に従事していない人を包 含 約1.8億人をカバー 農民工(出稼ぎ農民)にも医療保険適応 農村部の医療保険 「新型農村医療保険」 2007年から実施 農村に住む約 8.8 億人の農民をカバーした。 医薬品許認可制度の改善 2006年SFDA内部の不正を摘発 それまでの審査の 見直しを実施 1万件以上の申請が取り下げられた 不正を防止する為、SFDAを衛生部の監督下に戻し、 内部の審査体制の改革を進める ・ 申請受付日時 審査状況をインターネット上に表示 ・ 受付審査担当部署の一貫審査制から、専門部門ごとに 審査をして、多くの人が監視できる体制への移行 ・ データ捏造など不正行為があれば、即 審査を取り下げ 中国のガイドラインに忠実に審査 ・ ガイドラインにない項目の審査官の裁量決済が難しくなり、 逆に時間と説明の手間が掛かる様になり、評判は良くない GMP制度の改定 GMP制度は1988年導入、1992年、1998年と改定 ・ 1997年にGMP認証制度導入、 ・ 2004年無認証工場の生産禁止 2010年改定のGMP制度は無菌製剤を中心に実施 制度の内容は大変厳しく欧米レベルを要求している ・ 新しい工場には、即適応 ・ 現行の工場には5年の猶予 ・ SFDAの試算で2010年版GMPの実施費用2千5百億元 ⇒ 相当な企業負担 導入期間5年で年間5百億元 年間500億元=09年業界の総利益額 薬価制度の見直し 現行の医薬品価格の決め方の矛盾から生ずる 悪循環を断ち切る ・ メーカー提出の原価積み上げ方式の価格申請で、実際 の工場出荷価格の20~30倍の価格が承認されている ・ 特許が切れた製品をオリジナル製品として優遇した価格 の設定を許可して、入札制度でも優遇扱いをしてる ・ 高い価格は多くの利益空間を生み、それらがリベートと して病院・医療関係者に渡り、不必要な薬が使用される ・ 徹底した薬価引き下げを実施して、リベート財源を断つ 現行薬価制度 「国家基本医療保険医薬品償還価格」 価格の種類 公定価格 政府制定価格 特徴 医療保険償還内容 NDRCが最高小売価格を制定 全国統一価格 全額償還 地方政府物価局が5%の範囲で調整可能価格 一定比率自己負担(償還率は (国家基本医薬品リスト甲類) 指導価格 地方政府が決める) (国家基本医薬品リスト乙類) 特定価格 政府制定価格 NDRCが最高小売価格を制定 全国統一価格 収載されていなければ全額自 己負担 (予防接種、ワクチン等) 指導価格 基本医療保険医薬品リストに NDRCが最高小売価格を制定する (画期的な新医薬品等) 市場調整 単独価格 上記公定価格に同意できない、単独価格を申 請 上記医薬品の分類ごとの規定 自由価格 企業が自由に設定できる価格 全額自己負担 価格 自由価格 (医療保険対象外の医薬品) 抗生物質の処方管理 抗生物質の乱用を防ぐ目的で実施 抗生物質で分類し処方管理 非制限類:一般の医師 研修受講 試験合格 制限類:中級以上技術資格有医師 研修 試験合格 特殊類:高級以上技術資格有医師 研修 試験合格 特殊薬管理者の許可が必要 外来使用不可 ・ 病院採用品目制限 3級病院50種以下 2級病院35種以下 同じ一般名の注射剤・経口剤とも 2種類まで ・ 総量規制 入院の抗生物質の使用率60%以下 外来の処方比率 20%以下 ・ 医薬分業への移行 病院の経営と薬からの利益を分離する目的 ・ 病院は薬の購入価格に15%の上乗価格で患者さんに 請求する事が認められている(病院の薬価差利益) ・ 15%の利益が薬の乱用に繋がる(科室売り上げノルマ) モデルケースを設定して実証中 ・ 一回目の実証では3カ月でギブアップ ・ 本来病院に入るべき資金を政府が支援する形で実証中 技術料アップと処方管理料等 別財源の検討 ・ 病院経営の収入構造を変える施策を検討している。この 段階で、流通会社(卸)の活用も視野にある模様 基本薬物制度の充実 「国家基本薬物制度」の定義 ・基本薬物リストの制定、生産供給、購入配送、合理使用、価 格管理、支払報償、品質監督、モニター評価等多数の面に 対して有効的に管理を実施する制度である。 「国家基本薬物リスト」収載薬の選定の原則 ・予防と治療に必要性が高い 安全性・有効性の確立 価格 が安い 使用簡便 臨床第一選択薬 幅広く提供可能 12期5カ年計画 2011年中国政府は次期中期計画(12期5カ年計画)で バイオ医薬産業を国家の基幹産業に育成すると発表 政府方針 一 高度先進技術のバイオ医薬産業を育成し、中国発 の大型 新薬開発を進める。 。 一 世界の工場から、世界の市場、世界の研究機関の 中心へ 一 人材の育成 大学・研究機関を充実させ優秀な人材の育成 ・海外の人材招聘 一 新しい製品・技術の開発と導入 基盤を整備し原材料輸出から付加価値の高い 製品輸出へ転換 目的達成の為多くの充実した支援政策 12期5カ年計画の影響(1) 国内産業の育成 ・ ・ ・ ・ 研究開発型製薬会社の創製 開発途上の製品の導入支援 世界水準の生産技術・設備の導入 人材の育成(国立研究機関の民間製薬会社へ移管) 輸入製品の制限 ・ 完成品輸入の許認可のハードルを高くする ・ ジェネリック製品の輸入の必要性はない 輸入→国内生産への移行の推進 12期5カ年計画の影響(2) 業界の商習慣の改革 ・ 薬に伴う金銭授受(リベート)を無くす ・ 流通を簡素化(2次・3次代理店を廃止)し、単価を下げる ・ 既得権益を無くす 管理システムの構築 ・ 人事院における医薬代表(MR)の職種認定の検討 医薬代表の資格制度化 ・ 薬の販売価格申請制度の申請枠の基準を検討 (事実上価格許可制に) 12期5カ年計画の影響(3) 政府主導の支援政策 ・ バイオ医薬は重点発展分野に入る、2020年までバイオ 医薬強国を目指す ・ バイオ医薬技術企業に対し減税(研究費用50%免税、 所得税15%まで下げる) ・ 第十二期五ヶ年計画(2011-15年)期間中、バイオ新薬の 開発に400億元資金を投入の予定 地方政府の支援政策 ・ 支援内容:育成管理システムの完備、支援資金の調達 ・ 資源と資金を集中して重点企業を支援する。 制度変化(1) 医療保険償還リストの価格 基本薬物リスト収載品は「一品一規一社」のルール適応 一社生産会社のみ入札参加 この生産企業は独占的に製品を省・地域に供給する ・ 製品供給能力を持つ大企業が製品供給会社に成る ・ 基本薬物リストに入れば、競争力が高まる 基本薬物リストの製品を増やす 現在約300種類の基本薬物リストに700種類を追加する 制度変化(2) 価格申請制度 現行価格申請制度は、原価積み上げ型で企業が独自に 申請価格を決定し、この価格が事実上の承認価格になった 出荷価格(輸入価格)に、積み上げ幅を設置 工場出荷価格(輸入価格)の価格帯別に積み上げ可能額を 設定しその枠内で販売価格を申請する 例 工場出荷価格 上乗せ価格幅 10元以下 30% 10~40元 20%+1元 40~200元 15%+3元 制度変化(3) 医療保険償還価格の市場調整価格の廃止 特許が無くなった製品をオリジナル製品とし、市場調整 価格として、特別枠を作り優遇している。 勿論入札に関してもオリジナル製品枠で価格競争から優遇 されている。 ・ 国内製薬会社から強い不満 ・ 外国企業はこの制度を利用して有利に販売している ・ 将来的にこの制度の廃止を目指している 市場変化 2007年 新型農村医療保険の本格的スタート ・国産メーカーの追い風 ・市場の棲分け→外資メーカーにもプラス 2011年 医療保険償還リスト見直し効果 ・新規リスト収載効果(外資メーカー) ・大幅な価格引き下げと抗生物質処方 制限の影響(主に国産メーカー) 2012年 全体の成長率は17%台の予想 ・抗生物質処方制限と価格引き下げ 中国市場説明 中国病院構成 ・ 規模で分類(ベット数等) 3級 2級 1級 ・ 質で分類(診療科・教授数等)甲 乙 丙 ・ 3級甲 2級甲の市場が高度先進医療を提供している 市場の構成 ・ 1級市場:3級甲 2級甲の市場を指す ・ 2級市場:3級乙・丙 2級乙 1級病院 ・ 3級市場:農村医療機関 社区病院 医薬品使用範囲 ・ 全ての医薬品が平等に使用されない 2・3級市場では、乙表の薬品の使用限度が設定されている 40% 中国病院市場の年度別成長率 07-08CHPA急速に成長(IMS資料よ り) 31.5% 30% MAT Growth 26.0% 27.5% 20.4% 20% 20.6% 16.8% 14.4% 21.2% 20.1% 17.5% 16.6% 14.8% 10% 0% MAT2Q06 MAT2Q07 MAT2Q08 LOCAL MAT2Q09 JV+IMPORT MAT2Q10 CHPA MAT2Q11 中国病院市場における11年第二四半期 MATデータ 約3200億元(IMS資料より) 350,000 中国の企業は継続的に中国病院市場の販売をリードする LOCAL 300,000 JV+IMPORT 320,641 CHPA MAT RMB (million) 81,238 250,000 25 200,000 150,000 99,834 239,403 100,000 50,000 29,410 3 70,424 7 75 0 MAT2Q05 MAT2Q06 MAT2Q07 MAT2Q08 MAT2Q09 MAT2Q10 MAT2Q11 市場変化の予測 2015年まで15%台の成長率に ・ 基本薬物リストの拡大(300→1000種類)に伴い医療費 全体の医薬品比率引き下げによる費用の低減 ・ 医療提供範囲の拡大が見込める 但し1級市場(3級甲・2級甲病院)伸び悩み 2・3級市場活況(3・2級乙・1級・社区病院) ・ 医療機関の2極分化 3級病院と地域(社区)病院の成長と2級病院の衰退 健康管理事業の発展 ・ 健康診断・ドック・癌検診など 健康管理事業の拡大 医療器械・診断薬分野の躍進 対応策 既に中国に拠点を持っている企業 成長のポイント ・ 新薬を速やかに市場投入し優位な販売価格を取得 ・ 成長市場(2・3級市場)への参入が出来るか・・・ ・ 市場環境の変化への対応 市場調整価格で販売している製品の価格交渉 販売製品が基本薬物リストに収載された場合 商習慣の変化が起こった場合のマーケティング戦略 対応策 中国事業の展開を考えている企業 ・ 自販体制を引くには、最低3品目以上の導出製品が必要 ・ 特許製品(国際特許だけでなく中国国内特許の必要)を 有する企業は、提携会社(販売・生産)を通して展開 ・ 特許が切れてしまった製品の場合、中国での販売状況を 調査して、現地生産(技術移転)を基本に提携会社を選定 ・ ジェネリック製品は基本的に完成品輸入は難しい状況 現地生産(技術移転)を基本に基本薬物リスト入札に参加 対応策 有力な製品を開発中のベンチャー企業 中国政府の指導で研究開発型製薬会社を目指す 国内大手製薬会社との連携チャンスが激増する ・ 中国企業と共同研究(合弁企業設立も可能) 政府の強力な支援が得られる ・ 中国国内での独占販売権を付与する事で資金調達が 可能 まとめ 中国の医療改革は政府(国務院)の肝入り政策 国民が注目している 人気取り政策 ・ 方向性は不変、速度は早い、有効な対策は少ない ・ 商習慣(リベート等)の改革 兵糧攻め(薬価を下げ)でリベートに必要な空間を無くす ・ 底辺医療の底上げ より多くの薬品が使用できるように基本薬物リスト見直し ・ 拡大する医薬品市場の利益を国内還流 国内医薬品産業を育成し、雇用の拡大と税収増加 中国ビジネスのポイント 早い意志決定 ・ 中国経営者の意思決定スピードに遅れない ・ 検討時間が必要な時は時間軸を正確に示す 正確な情報 ・ 大切な政策変更等は 事前に必ず情報が出ている 確かな人脈 ・ コアな人脈に繋がる事 信頼される人格 ・ 中国の人に人として尊敬される人材を投入する事 地下にはこんなお宝が眠っています。 貴方の会社は中国企業と力を合わせ 一緒に井戸を掘ってみませんか? 謝謝
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