「系統化」から「現代化」へ 2. 系統化学習の時代/1960年代. 生活単元学習は、ややもすれば生活経験に振り 回されて、数理の系統や論理性が見失われ、指 導の焦点があいまいになってしまったというのが 、当時の批判の代表的なものであった。 そこで文部省は、1956(昭和31)年教育課程 審議会に対して、国民の教育水準を高めること を目指して、「小学校・中学校教育課程の改善に ついて」を諮問した。 改訂の方針ー中学校数学科ー 小学校算数の内容に系統性を持たせ、内容の 充実。(注:小数・分数の四則は小学校で完成な ど) 基本的理解や技能が十分に身に付くようにする とともに実測、実証などを重視し、実践的な活用 の能力を高める。 生徒の能力、特性に応ずる学習。生徒の進路の 差に応ずる学習。 教育課程の基準として 「学習指導要領」の告示 1958(昭和33)年10月中学校の学習指導要領が告示 された。 教育課程の国家基準が明確にされ、その法律的な拘束 力が明らかにされた。 昭和22年や昭和26年の学習指導要領は目標、内容、 方法の全般にわたって記述されていたが、 この学習指導要領から目標と内容のみが記述され、指 導方法については「指導書」や「指導資料」に分割して取 り上げらるようになった。 中学校数学科の目標ー系統学習ー 1958(昭和33)年改定、1962年度から実施 1 数量や図形に関する基礎的な概念や原理・法則の理解を深め、より 進んだ数学的な考え方や処理のしかたを生み出す能力を伸ばす。 2 数量、図形に関して、基礎的な知識の習得と基礎的な技能の習熟 を図り、それらを的確かつ能率的に活用できるようにする。 3 数学的な用語や記号を用いることの意義について理解を深め、それ らによって、数量、図形についての性質や関係を簡潔、明確に表現 したり、思考を進めたりする能力を伸ばす。 4 ものごとを数学的にとられ、その解決の見通しをつける能力を伸ば すとともに、確かな根拠から筋道を立てて考えていく能力や態度を 養う。 5 数学が生活に役立つことや、数学と科学・技術との関係などを知ら せ、数学を積極的に活用する態度を養う。 中学校数学科の目標ー系統学習ー 1958(昭和33)年改定、1962年度から実施 1 数量や図形に関する基礎的な概念や原理・法則の理解を深め、より 進んだ数学的な考え方や処理のしかたを生み出す能力を伸ばす。 2 数量、図形に関して、基礎的な知識の習得と基礎的な技能の習熟 を図り、それらを的確かつ能率的に活用できるようにする。 3 数学的な用語や記号を用いることの意義について理解を深め、それ らによって、数量、図形についての性質や関係を簡潔、明確に表現 したり、思考を進めたりする能力を伸ばす。 4 ものごとを数学的にとられ、その解決の見通しをつける能力を伸ば すとともに、確かな根拠から筋道を立てて考えていく能力や態度を 養う。 5 数学が生活に役立つことや、数学と科学・技術との関係などを知ら せ、数学を積極的に活用する態度を養う。 内容領域の設定 小学校の内容は: A.数と計算 B.量と測定 C.数量関係D.図形の4領域 中学校の内容は: A.数 B.式 C.数量関係 D.計量 E.図形の5領域 内容が系統的、段階的に配置。 1958年改訂/学習内容 中学1年 中学2年 中学3年 A.数 四則の相互関係・法則、約 数と倍数、正・負の数、近 似値 四則計算の習熟 数の平方根 B.式 文字を用いて関係や法則 を式に表す、文字の値を 逆算で 文字と式、単項式、多 項式の四則 乗法公式の利用 C.数量 比および比例式、関係をグ ラフや式で表す 関係 式とグラフ、比例、反 比例と一次の関係 二次関数のグラフ、グラ フにより二次方程式を解 く D.計量 測定と誤差、単位系とメー トル法 縮図と測定 三角比とその利用 E.図形 基本的な作図、直線図形 の間の関係、空間と平面 、回転と対象 図形の合同・相似、 図形と論証 三平方の定理、円周角 と中心角の関係 選択数学と高度成長への対応 必修数学: 中学1、2年→140時間(週4時間) 中学3年 → 105時間(週3時間) 選択教科としての数学: 中学3年 → 70時間(週2時間) 選択の数学の内容: 二次方程式、連立三元一次方程式、二次関数、軌跡・作 図、三角比など(高度) 高校数学:1960(昭35)年改訂、1963年度から施行(1/2) 「系統化」の時代 •「数学I」(5単位)必修 1 数とその計算:整式と分数式(因数分解を含む)、無理式 2 方程式と不等式:二次方程式(根の公式、判別式、複素数とその四則)、いろいろな方程 式(分 数・無理・高次・連立方程式)、不等式(一次・二次の不等式) 3 関数とそのグラフ:二次・分数・無理関数、三角函数(一般角の三角関数、弧度法)、指 数関数、 対数関数(対数、対数計算、計算尺の原理) 4 平面図形と式:座標、直線の方程式、円の方程式、不等式と領域 5 空間図形:直線、平面などの関係(二面角、三垂線の定理、投影図)、空間座標 6 数学と論証:公理・定理・証明、命題とその逆、証明の方法 •「数学IIA」 4単位 1 計算法:近似値、誤差、近似式、表や図による計算(計算図表)、簡単な実験式(対数 方眼紙) 2 確率と統計:確率(順列と組合せ、確率の意味、確率の計算)、統計(標準偏差、推測 統計の考 え) 3 数列と極限:等比・等差数列、数列の極限、関数の極限 4 微分法と積分法:導関数とその計算(微分係数、導関数の計算)、導関数の簡単な応用、 不定積 分とその応用、定積分とその簡単な応用 •高校数学:1960(昭35)年改訂、1963年度から施行(1/2)「系統化」の時代 高校数学:1960(昭35)年改訂、1963年度から施行(2/2) 「系統化」の時代 •「数学IIB」(5単位) 1 順列と組合せ:場合の数、順列と組合せ、二項定理 2 数列と級数:等比・等差数列、その他の数列(一般項がn2,n3程度とする)、無限等比 級 数 3 三角函数とベクトル:三角形の応用(正弦・余弦定理、三角形の面積)、加法定理(複 素数の極形式を含む)、ベクトル(ベクトルの意味、加法、減法、実数との乗法、内積) 4 図形と座標:二次関数(楕円・双曲線・放物線の標準形の方程式)、曲線の表し方(媒 介変数、極形式) 5 微分法:微分係数、導関数とその計算(和・差・積の導関数)、導関数の応用(接線、 関数値の増減、速度など) 6 積分法:積分の意味、積分の計算、積分の応用(面積、体積、速度など) •「数学III」(5単位) 1 微分法とその応用:関数の極限、導関数とその計算(関数の商合成関数の導関数な ど)、 導関数の応用(曲線の凹凸、加速度など、近似式) 2 積分法とその応用:積分の計算(置換・部分積分)、積分の応用(面積、体積、道のり など、微分方程式の意味) 3 確率と統計:確率の意味、確率の計算、分布(平均と散らばり、二項分布、正規分布)、 標本調査 進学率の急増と学力低下 1958年の高校進学者→53% (就職者は41%、その 他14%) 1962(昭和37)年→ 64% 1969(昭和44)年→ 79% 高校進学率の急増 選択数学が平等の精神に反する。 難しい内容で生徒の大半が落ちこぼれる。 学力低下の問題の提起 数学教育の国際動向 :現代化のきっかけ 科学技術の革新、それに伴う社会構造の変化に対応できるように、 学校教育を改革しなければならないという気運が1960年代のアメ リカやヨ−ロッパ各国で高まっていた。 それに、1957年10月のソビエトの人口衛星スプ−トニク打ち上げ 成功が、アメリカの数学教育改革に一層拍車をかける結果になった 。 数学教育については、1959年にフランスのロワイモンで開催され たOEEC(欧州経済協力機構、1961年にOECDと改称)のセミナ− と、その報告書「学校数学における新しい考え」(1961年)に、その 現代化運動の発端を見ることができる。 学校数学の改革についての提案 OEEC:「学校数学における新しい考え」1961年 スト−ン(アメリカ、Stone,M.)は、「今はカリキュラムの転 換期であり、現代数学の非常な発展と科学が数学に著し く依存しているので、中等数学教育の現代化の精神と新 しい内容を注入する絶好の機会である」 デュドネ(フランス、Dieudonne,J.)は、「特に中等数学教 育からユ−クリッド幾何を追放(Euclid must go!)して、 ベクトル幾何を行なうべきである」 「学校数学における新しい考え」 報告書から a.中等学校段階で、思考の明確さ、簡潔さや統合的な見方を育成する ために、集合と論理に関する新しい記号(∪、∩、⊂、 0、〜等)を導入 する必要がある。 b.算術、代数の展開は、幾何の演えき的なパタ−ンを用い、代数的構 造の公理的な扱いに集約する必要がある。 c.公理的構造としてのユ−クリット幾何の内容を大幅に修正・削除する 必要がある。 d.関数としての三角関数、不確定事象を科学する確率・統計を導入す る必要がある。 日本数学教育学会の動き 日本数学教育学会は、1963(昭和38)年「数学教育課 程委員会」を設置し、「小・中・高・大を通じての数学教育 の現代化を目指して、数学教育の革新運動を推進する ために、数学教育の世界的動向を調査・研究した。 また、数学教育の基礎的・科学的研究を進め、小・中・ 高・大を通じて一貫した算数・数学科教育課程を作成す る」ことを目的にして活動を続けた。 その成果は、「数学教育の現代化」(日本数学教育会編、 1970年)にまとめられた。」 現代化の学習指導要領 一方、文部省では、教育課程審議会の答 申(1968年)に基づき、 世界の数学教育現代化を考慮した中学校 学習指導要領を、 1969(昭和44)年4月に告示し、1972 (昭和47)年から全面実施された。」 中学校の数学科の総括目標 「事象を数理的にとらえ、論理的に考え、統合的、発展的 に考察し、処理する能力と態度を育成する。」 内容構成(5つの領域) A 数・式 B 関数 C 図形 D 確率・統計 E 集合・論理 中学校数学科の特徴 a.関数領域の新設と計量領域の削除 b.確率・統計領域の新設 c.集合・論理の領域の新設 d.集合の基本的な概念や用語・記号が導入 e.数のもつ集合の構造の概念、剰余系の導入 f.関数を対応で定義 g.図形の変換の考え、位相的な見方などの新しい 念を導入 h.不等式の追加 i.関数概念の明確化」 概 次回:数学教育の現代化 1970年代の数学教育
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