中国におけるコンバージェンスの特徴

監査基準の国際的な調和に
おける日本と中国の特徴
報告者 謝 少敏
於中部大学経営情報学部
2006年8月1日
構 成
1、はじめに
2、監査基準の体系的な特徴
2-1 体系上の共通点
2-2 体系上の相違点
3、監査基準のコンバージェンスにおける特徴
3-1 中国におけるコンバージェンスの特徴
3-2 日本におけるコンバージェンスの特徴
4、むすび
中国における監査基準の整備

2004年2月 監査基準委員会設立

2005年5月 体系的な監査基準を整備決定

2006年2月 48の監査・保証基準を公表

2007年1月 新基準を施行
資料1を参照
入手先:CICPA公式サイトから無料ダウンロード
http://www.cicpa.org.cn/ReadNews.asp?ID=7
308&BigClassName=323&SmallClassName=
日本における監査基準の整備
監査基準委員会を設置

1992年

2002年1月 「監査基準の改訂に関する意見
書」公表、10年ぶりに「監査基準」を改訂

2005年5月 監査実務の国際的調和を図る
ため「監査基準」を改訂

2006年3月 監査基準委員会報告書第27号
から第34号公表(制定/改訂)
監査基準書の入手
「監査基準」、「中間監査基準」:金融庁公式
サイトhttp://www.fsa.go.jp/news/
例
http://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/singi/f20051028-8/01.pdf
 監査実務指針:「JICPAジャーナル」、JICPA
の著作物として有料販売(紙媒体1件につき
3000円)

報告目的
日本と中国の監査基準の体系および基本原
則の内容について分析し、両国が監査基準の
整備において国際監査基準への統合という課
題に対してどのように対応してきたかを検討し、
それぞれの監査基準の国際的調和化の特徴を
示してみる。
体系上の共通点

リスク基準

背景
リスク基準
中国
日本
第1121号------历史财务信息审计的质量控制
(Quality Control for Audits of Historical Financial
Information)
第32号「監査業務における
品質管理」
第1201号------计划审计工作(Planning an Audit)
第27号「監査計画」
第1211号------了解被审计单位及其环境并评估重大
错报风险(Understanding the Entity and Its
Environment and Assessing the Risks of Material
Misstatement)
第29号「企業とその環境
の理解及び重要な虚偽表
示リスクの評価」
第1231号------针对评估的重大错报风险实施的程序
(Procedures in Response to Assessed Risks of
Material Misstatement)
第30号「評価したリスク
に対応する監査人の手
続」
第1301号------审计证据(Audit Evidence)
第31号「監査証拠」
第5101号------业务质量控制(Quality Control for
Professional Work)
品質基準書第1号「監査
事務所における品質管
理」
背景

経営破綻により顕著した不正会計

監査失敗の原因
-米国
-日本
-中国
経営破綻
米国:Enron、 WorldCom事件
 日本:2004年10月 西武鉄道有価証券報告
書 の虚偽記載
2005年4月 カネボウ巨額粉飾決算
 中国: 2001年8月 銀広夏、麦科特事件
2001年10月 藍田事件
2005年4月 科竜事件

Largest Bankruptcy Filings
(1980 to Present)
Company
1. WorldCom
Assets(Billions) When Filed
$101.9
July, 2002
2. Enron
$63.4
3. Texaco
$35.9
4. Financial Corp of America $33.9
Dec., 2001
April, 1987
Sept., 1988
5. Global Crossing
6. Adelphia
7. PG&E
$25.5
$24.4
$21.5
Jan., 2002
June, 2002
April, 2001
8. MCorp
9. Kmart
10. NTL
$20.2
$17.0
$16.8
March,1989
Jan., 2002
May, 2002
銀広夏実業株式会社事件

不正の手法
―財務関連の文書,証憑,資料の偽造および隠蔽を行った。
―出資契約に関する係争とその敗訴事実をいっさい開示せず,会社に
重大な事象が起こった場合に義務付けられる臨時報告も行わなかった。
―新株発行で調達した資金の一部を,募集の際に示したプロジェクトに
投入せずに取締役会経費等の名目で流用した。
―架空の売上高を水増しして計上し,かつ費用を実際の費用より過小
計上し,架空の利益をでっち上げた。

監査失敗の原因
―監査独立性
― 監査人の専門的能力
SEC Enforcements
Audit Deficiencies
Sufficiency of Audit Evidence
Exercise Due Professional Care
Professional Skepticism
Applying GAAP
Non-routine transactions
Over relying on Inquiry
Management Estimates
Receivables
Related Parties, Internal Control
Percentage
80%
71%
60%
49%
44%
40%
36%
29%
27%, 24%
日本の見解
企業会計審議会. 平成17年7月20日.監査基
準及び中間監査基準の改訂並びに監査に関
する品質管理基準の設定について(公開草
案):
 最近、証券取引法上のディスクロージャーを
めぐり不適正な事例が相次ぎ、公認会計士
監査をめぐっても監査法人の審査体制や内
部管理体制など監査の品質管理に関連する
非違事例が発生している 。

中国の見解
CICPA.2005年9月21日.独立監査基準の整
備に関する報告 :
 企業の組織構成および経営活動が複雑にな
り、グローバル化と科学技術の影響が深くま
で及び、会計上の判断と見積りが複雑になる
につれて、企業に財務上の不正に走らせる
動機と圧力が大きくなり、公認会計士が面す
る監査リスクもますます大きくなる 。

体系上の相違点

統計データ

原因
統計データ
基準書
国際
中国
日本
保証業務基準(枠組み)
1
1
意見書あり
監査基準書
32
41
2
監査実務書
8
0
25
監査基準書・実務書の計
40
41
27
レビュー業務基準
2
1
0
関連業務基準
4
4
0
品質基準
1
1
1
原因

監査基準の体系

監査基準の設定主体
-中国
-日本
監査基準の改訂に関する意見書

企業会計基準審議会.平成14年1月25日:

諸外国のように各項目ごとに個々の基準を設けると
いう形式は採らず、一つの基準とする形式は維持す
ることとしたが、…

監査基準という一つの枠組みの中で、一般基準、実
施基準及び報告基準の区分とした。

実施基準及び報告基準について基本原則を置くと
ともに、項目を区分して基準化する方法を採った。
中国の監査・保証基準体系
保証業務
基準
監査業務
基準
レビュー業務
基準
関連業務
基準
品質基準
監査基準委員会
中国公認会計士協会(the Chinese Institute
of Certified Public Accountants:CICPA) 理
事会に所属する専門委員会
 メンバーの構成:
政府関係者11名 公認会計士10名
CICPA秘書処1名 証券業界1名
企業1名 会計・監査学者6名
法律専門家1名 計31名

MISSION

監査基準制定計画の審議

監査基準意見徴収案の審議

監査基準草案の審議と許可
PRO監査基準委員会

CICPA監査基準小委員会が草案を提出

財政部による設立した国内専門家グローブ
と国外専門家グローブにより審議

財政部により公表
設定プロセス

国内専門家グローブを監査基準委員会に吸
収

国外専門家グローブのみ

2回にわたって意見徴収

財政部によって公表
監査基準の体系

第1101号------财务报表审计的目标和一般原则

第1101号~第1152号(7) 基本事項

第1201号~第1231号(5) 監査計画とリスク評価

第1301号~第1341号(12) 監査の実施

第1401号~第1421号(3) 他の監査任等の利用

第1501号~第1521号(4) 監査報告

第1601号~第1633号(9) 特殊業務
日本監査基準の設定主体


「監査基準」、「中間監査基準」:内閣府金融庁企業
会計審議会監査部会
実務指針:日本公認会計士協会(the Japanese
Institute of Certified Public Accountants:JICPA)
各委員会
-監査基準委員会
-監査・保証委員会
-IT委員会
-銀行等監査特別委員会
監査実務指針の体系

110~180(8) 基本事項

210~260(6) 監査計画とリスク評価

310~380(11) 監査の実施

410~430(3) 他の監査任等の利用

510~520(2) 監査報告

610~618(5) その他(特殊業務)
コンバージェンスの定義

コンバージェンスとは、世界的に使用される
単一の監査基準を開発するためにIAASBと
各国の基準設定主体者が協力することを意
味する。
目的と一般原則の比較

資料2を参照
中国におけるコンバージェンスの様子

国際監査基準のなかにブラック・レターで記
載されている一般原則を導入していること

国際監査基準のなかにグレー・レターで記載
されている内容については、整備前の監査基
準で取り上げられていなかった新しい概念の
定義や説明を受け入れていること
中国におけるコンバージェンスの原則

中国の実情に適合している基本原則及び必
要な手続きについては、直接導入すること

監査基準への理解を資するために必要な展
開、繋がり、補充と説明を行うこと
中国におけるコンバージェンスの特徴

基本原則及び必要な手続きならびに必要最
小限の概念に限定したもので、国際監査基
準を逐語訳してそのまま導入しない。
日本におけるコンバージェンスの様子

「監査実務の中に慣習として発達したものの
なかから、一般に公正妥当と認められたとこ
ろを帰納要約した原則であって」という性格か
ら、定義や説明は一切ないこと

実施基準の一般原則としてリスク・アプローチ
に基づく監査の仕組みを明確に示されており、
論理的に優れていること
日本におけるコンバージェンスの様子

監査リスクについて別項目で監査基準委員会報告
書第28号「監査リスク」においてまとめており、逐語
訳的に近いものになっていること

監査基準委員会報告書第28号「監査リスク」だけで
はなく、その他のリスク・モデル関係の基準にも同様
な特徴が見られること
日本におけるコンバージェンスの特徴

形式的に独自性を維持しながら、導入となっ
た内容については逐語訳に近いものにしてそ
のまま導入する。
例

二重責任や合理的保証は監査の目的に示
すに留まり、十分に明示していないこと
中国の自己評価
国際監査基準の基本的な原則およびコアー手続を
十分に採用しており、監査の目的と原則、リスクの評
価と対応、監査証拠の獲得と分析、監査結論の形成
と報告、公認会計士監査責任の設定など、重要な面
において国際監査基準との一致を保っている 。
劉仲藜.2006年2月15日.中国会計監査基準公布会における講演.
http://www.cicpa.org.cn/ReadNews.asp?ID=7156&BigClassName=7
0&SmallClassName=
日本の自己評価
わが国の会計・監査基準は、1997年以降の
各種基準の策定、導入、2001年の「企業会計
基準委員会」設立、2003年の公認会計士法改
正等により、国際的に遜色ない水準にまで整備
された。こうした状況について、広く市場関係者
に周知すべきである。
(社)日本経済団体連合会. 2003年10月21日.会計
基準に関する国際的協調を求める
中国の場合

実質上は基本的な原則及びコアー手続を先導するような内
容である。
体系上では国際監査・保証基準との一致を図ったため、「全
世界に次のことについて明確なシグナルを送った。すなわち、
中国の国民及び会計職業は透明性、品質及び高水準の職
業基準に向けて努力している。」
Speech by Mr. Graham Ward, IFAC President on China
Release Ceremony . 2006年2月15日.
http://www.cicpa.org.cn/ReadNews.asp?ID=7162&BigClass
Name=70&SmallClassName=

日本の場合

導入した項目については、基本的に国際監
査基準の逐語訳をそのまま日本の実務指針
にするという幅の狭いコンバージェンスの仕
方を取っている。

一つの基準とする形式を維持しているため、
監査基準の体系そのものから国際監査・保
証基準へのコンバージェンスの度合いを測定
しにくいし、理解も得られにくい。
インプット的とアウトプット

監査基準の国際的調和については、国際監
査基準を自国の監査基準として受け入れると
いうインプット的なコンバージェンスと一般に
理解されている。

監査基準の国際的調和には自国の監査実務
の透明度及び品質ならびに監査基準の水準
に対しての理解をえるというアウトプットの意
味も持っている。
レジェンド問題
1999年3月期決算から、日本企業が英文で任意に作
成するアニュアルリポート(年次報告書)に含まれる英
文財務諸表に対する監査報告書に、「日本基準により
作成された財務諸表であり、国際基準とは異なる」な
どの警句が付記されている問題。
警句は世界的な4大監査法人の方針として提携先
の日本国内監査法人に指示されている。
レジェンドの意味

レジェンドそのものは、日本基準を否定するも
のではないと思う。

日本基準に対する理解がない場合、レジェン
ドは警告として捉える可能性がある。
監査基準の外観的役割

監査基準は、単に公認会計士監査の最大公
約数的な実務を基準化したものではなく、一
般の人々が監査の質を判断する際の拠り所
でもある。

監査基準のこのような外観的な役割を考えて
みれば、監査基準の形式のコンバージェンス
も必要ではないかと思う。
特殊性と一般性

基本的な原則やコアー手続は一般性を有するため、
コンバージェンスしやすいと思う。

具体的な実務指針は国の特殊性を強く反映するも
のであり、簡単にコンバージェンスできるか。

「2005年中国上場企業財務諸表不正と監査
を透視」
http://business.sohu.com/20060213/n24180143
1.shtml
財務諸表不正を透視
悪意的な不正と善意的な不正
 現金をめぐる不正
 常識はずれの不正
 収益不正:架空の売上高、期末調整による繰
り延べまたは繰り越し
 費用不正:費用の過少計上、期末調整による
繰り延べ、費用の資本化

監査を透視

多くの不正はキャッシュ・フロー分析だけで発
覚できること

ほとんどの不正は証憑の偽造を特徴とするこ
と

戦略分析、業種分析、企業分析、リスク評価
は行わなくても不正を見つけること

リスク・アプローチより帳簿検査は効率?
実務指針のコンバージェンス
ガイドラインの公表は6月から8月に延期した。
 ガイドラインには国際監査基準のグレー・レ
ター部分を多く盛りいれると思う。
 中国の場合、Enronのように数字を弄ぶこと
による不正ではなく、現金を用いる不正、常
識はずれな不正が多いというような状況のな
かで、実務のコンバージェンスがこれからの
課題である。
