マウスにおけるセラミドホスホエタノールアミンの生合成を 触媒する酵素の

Journal of Lipid Research Volume 56, 2015
Functional characterization of enzymes catalyzing
ceramide phosphoethanolamine biosynthesis in mice
Andreas Bickert , 1, * Christina Ginkel , 1, * Matthijs Kol , † Katharina vom Dorp , § Holger Jastrow , **
Joachim Degen , * René L. Jacobs , †† Dennis E. Vance , §§ Elke Winterhager , *** Xian-Cheng Jiang , †††
Peter Dörmann , § Pentti Somerharju , §§§ Joost C. M. Holthuis , 2,† and Klaus Willecke 2, *
マウスにおけるセラミドホスホエタノールアミンの生合成を
触媒する酵素の機能評価
2015.4.20 ゼミ
D2 友永奈美
本論文を選んだ背景
CPE
Functional characterization of enzymes catalyzing
ceramide phosphoethanolamine biosynthesis in mice
スフィンゴイド塩基
O-
H2 N
O
P
OH
O
n
NH
ホスホ O
エタノールアミン
O
C H3
CPEはスフィンゴミエリン合成酵素によって作られる
脂肪酸
R
セラミド
CAEP
スフィンゴイド塩基
O-
H2 N
P
OH
O
C-P結合
アミノエチル
ホスホン酸
(AEP)
・AEPをラットに尾静脈注射したところ
(LIPIDS, 1972)
肝臓に取り込まれた
n
NH
C H3
・AEPはラット肝中脂質に取り込まれた
(農化, 1975)
O
O
R
脂肪酸
・AEPはヒト組織にも分布していた
(Biochem. Biophys. Acta, 1971)
セラミド
<これまでの実験結果>
CAEP
AEP
スフィンゴイド塩基
脂肪酸
小腸粗酵素
検出
AEP
スフィンゴイド塩基
脂肪酸
背景
SMSrはセラミドとホスファチジルエタノールアミンからCPEの合成を触媒する
『セラミド –基礎と応用-』 P51より
・CPEは昆虫などに多く認められている(J. Biol. Chem., 2013)が、哺乳動物生体内での詳細は不明
・細胞膜においてSMS2はスフィンゴミエリンとCPEの両方を作る二機能性酵素であることを確認し
SMSrは小胞体においてCPEを合成する単機能を持つことがわかっている(J. Lipid Res., 2009)
・培養細胞においてSMSrを失活させると小胞体のセラミド量が増加し、小胞体やゴルジ体の構造を
壊し、ミトコンドリアのアポトーシスを誘導することが認められた(J. Cell Biol., 2009)
SMSrがセラミド量を管理する重要な役割を持ち、CPEも関与するのではないか?
マウス生体内におけるCPEやSMSrの分布と、SMSrを不活性化
した場合のCPE及びセラミド合成量への影響を調べた
.
マウス各組織におけるCPE、SMの分布 (Fig. 1)
N=4, 平均値±標準誤差
CPE量はきわめて少なかった(SMに比べると1/300~1/1500)
CPEが多く検出されたのは脳と精巣だった
LC-MS分析
・プローブ:ESI
・カラムオーブン:60℃
・カラム:BEH-C18 1.0×150mm
・流速:0.13mL/min
・移動相A:10mMギ酸アンモニウム, 1%アンモニア水 in アセニト/水 (60:40)
移動相B:10mMギ酸アンモニウム, 1%アンモニア水 in 2-プロパノール/アセニト (90:10)
・グラジエント条件
Time (min) 0
A (%)
60
B (%)
40
10 14 16 19
30 0
0 60
70 100 100 40
肝臓におけるPEMTによるCPE代謝の可能性 (Fig. 1)
肝臓において、CPEの段階的なメチル化によるSM合成経路が仮定されている
(Malgat et al., 1986, J. Lipid Res.、Muehlenberg et al., 1972, J. Biochem.)
OH2 N
O
P
OH
O
n
NH
CPE
PEMT
O
O
メチル化
C H3
R
-50%
(ホスファチジルエタノールアミン
N-メチルトランスフェラーゼ)
SM
肝臓中のCPEが少ないのは
PEMTがCPEを基質とした可能
性が考えられた
×20
GFP:レポーター遺伝子、緑色蛍光タンパク質
N=3, 平均値±標準誤差
*p<0.05、**P<0.005、***P<0.001
マウスにおいてSMSrが触媒するCPE合成 (Fig. 2)
これまでの研究において、著者らはヒトとショ
ウジョウバエのSMSrがCPE合成活性を持つこ
とを確認した (J. Cell Biol., 2009)
内在性CPE合成活性がない出芽酵母に
SMSrを発現させ、溶解した液とNBD-Cer
をインキュベートした
セラミドの蛍光標識が
CPEに取り込まれた
SMSr D348E (348番目残基の変異によ
って失活させたSMSr)を発現させた場合
セラミドの蛍光標識がCPE
に取り込まれなかった
SMSrはCPE合成酵素で
あることが確認された
SMSrはセラミドとホスファチジルエタノ
NBD:蛍光標識
ールアミンからCPEの合成を触媒する
TLC2回展開(一次元)
アセトン展開→クロ/メタ/アンモニア水 (50:25:6 v/v/v)
LC-MS/MS
.
SMSr変異マウスの作成 (Fig. 3)
相同組み換え確認のため
相同組み換え模式図
ネオマイシン耐性遺伝子
LacZレポーター遺伝子
PCR、サザンブロットで確認した
D348Eに特徴的
野生型に特徴的
D348E対立遺伝子から作った433bpのPCR単位複製配列を
MfeI(制限酵素)が特定の部位で切って320bpと113bpがで
ネオマイシン耐性遺伝子に特徴的 きたことから点突然変異が成されていることが確認できた
β-ガラクトシダーゼをコードするLacZ
レポーター遺伝子をSMSr遺伝子に導
入し、発現を確認した
マウスSMSrは広範に発現する (Fig. 4)
前脳
小脳
精巣
膵臓
皮質
プルキンエ
顆粒
細胞層
細胞層
ランゲル
ハンス島
精細管
海馬
外分泌
細胞
海馬歯状目
神経領域に特に分布
神経細胞核とその周辺
精原細胞の核
外分泌細胞で顕著
腎臓
心臓
皮質
房室結室
腎皮質管状構造で顕著
門脈域
特に房室結節の心筋細胞核
肝臓
広範
.
SMSr、SMSrD348E、SMSrNT-eGFPの形態予想図 (Fig. 5)
細胞質
小胞体膜
小胞体内腔
アスパラギン酸
C末端タンパク
レポーター遺伝子
緑色蛍光タンパク
グルタミン酸
マウスにおけるSMSrタンパク質の各組織への発現 (Fig. 5)
V5タグ付きhSMSr(49.6kDa)を過剰発現させた酵母の溶解液をイムノブロット
→V5タグを標的とする抗体と同様にSMSr抗体によって認識された
用意したSMSr抗体はSMSrを検出することが確認できたので、
各組織でのSMSr発現を確認するために使用した
ポンソーS
(ローディングコントロール)
ネガティブコントロール:SMSrdelEx6
マウスの脳及び肝臓においてSMSrとSMS2を不活性化
したときのCPEとSM合成への影響 (Fig. 6)
マウスの脳及び肝臓のミクロソームをNBD-Cerとインキュベートし生成物をTLC分析した
脳においてSMSrを不活性化させると
CPE合成が抑制された
肝臓においてSMSr単一変異ではCPE合成が
若干抑制され、SMS2も組み合わせて不活性
化させるとCPE合成がさらに抑制された
SMSrはマウス脳における主要なCPE合成酵素
である可能性が示唆された
NBD:蛍光標識
SMS2:SMとCPE合成
SMSr:CPE合成
.
マウスの脳及び肝臓においてSMSrとSMS2を不活性化
したときのCPE合成への影響 (Fig. 7)
N=3-4, 平均値±標準誤差
*p<0.05、**P<0.005、***P<0.001
SMSrを不活性化することで短鎖(C18, C20)
CPEが野生型に比べて40~60%減少した
脳における主要なCPE合成酵素はSMSrで
ある可能性
LC-MS分析
SMS2:SMとCPE合成
SMSr:CPE合成
マウスの脳及び肝臓においてSMSrとSMS2を不活性化
したときのSM合成への影響 (Fig. 7)
N=3-4, 平均値±標準誤差
*p<0.05、**P<0.005、***P<0.001
SMS2を不活性化することでSMが野生型に
比べて有意に減少した
LC-MS分析
SMS2:SMとCPE合成
SMSr:CPE合成
マウスの脳及び肝臓においてSMSrとSMS2を不活性化
したときのセラミド合成への影響 (Fig. 7)
N=3-4, 平均値±標準誤差
*p<0.05、**P<0.005、***P<0.001
HeLa細胞やショウジョウバエ
の細胞においてSMSrを不活
性化させると、小胞体のセラ
ミド量が増加した
(J. Cell Biol., 2009)
SMSrを不活性化してもセラミド量に
LC-MS分析
大きな変化はなかった
SMS2:SMとCPE合成
SMSr:CPE合成
マウスの脳及び肝臓においてSMSrとSMS2を不活性化
したときのヘキソシルセラミド合成への影響 (Fig. 7)
N=3-4, 平均値±標準誤差
*p<0.05、**P<0.005、***P<0.001
HeLa細胞やショウジョウバエ
の細胞においてSMSrを不活
性化させると、小胞体のヘキ
ソシルセラミド量が増加した
(J. Cell Biol., 2009)
SMSrを不活性化してもヘキソシルセラミド量
LC-MS分析
に大きな変化はなかった
SMS2:SMとCPE合成
SMSr:CPE合成
.
マウスの肝細胞及び海馬神経細胞の電子顕微鏡写真
(Fig. 8)
HeLa細胞やショウジョ
ウバエの細胞において
SMSrを不活性化させる
と、小胞体出口部位の
断片化やゴルジ複合体
の構造的崩壊が認めら
れた
(J. Cell Biol., 2009)
G:ゴルジ体
GV:
ゴルジ小胞
核膜孔
粗面小胞体
脂肪滴
核
ミトコンドリア
核小体
グリコーゲン
顆粒
毛細胆管
ニッスル小体
N=4
SMSrを不活性化してもマウスの脳や肝臓の構造に影響を与えなかった
.
まとめ
生体内においても、SMSrは広範に発現しており
CPE合成活性を持つことを確認した
マウスにおいてSMSrを不活性化させる(Fig. 5)とセラミド量
や細胞の構造に影響を与えず(Fig. 7, 8)に
主に脳におけるCPE生合成が抑制されることが示された
(Fig. 6, 7)
・肝臓におけるCPEは、肝臓特異的なメチルトランスフェラーゼ(PEMT)による
SM合成経路の前駆体として使われる可能性が示唆された(Fig. 1)
肝臓にSMSrとSMS2が発現している(Fig. 4)にも関わらず、CPE量が他の
組織に比べとても少ないことの説明となるかもしれない
・マウスにおいてSMSrとSMS2を組み合わせて不活性化すると、
肝臓や脳のCPE量は減少するが、枯渇はしなかった(Fig. 6, 7)