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漁業管理と沿岸環境保全
:コ・マネジメント論からの一考察
横浜国立大学
牧野光琢
http://risk.kan.ynu.ac.jp/makino/
2004漁業経済学会
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本発表の流れ
1.所有権制度の意義
2.コ・マネジメント論の紹介
3.漁業管理から沿岸環境保全へ
:流域圏管理
4.今後の研究課題
2004漁業経済学会
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1.1 所有権制度の意義

近代国家 (代議制民主主義と自由市場経済)
の制度的基盤:近代市民法三原則
所有権の絶対性、私的自治、過失責任

この仮定の下で最適解が達成されうる条件を
考察したのが新古典派経済学
環境管理に応用
2004漁業経済学会
・環境財・サービスに対する所有権・市
場の創設、またはピグー税。
・MSY理論に基づくITQ、または課税
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1.2 伝統的環境/資源管理論の限界




政治理念:利用に関しては自由競争、しかし管理自体はトッ
プダウン(牧野・坂本2003)。今後環境保全では、利害関係者や
市民の主体的参画が必須(リオ宣言、オーフス条約、etc.)
技術的制約:所有権の設定自体が無理( e.g.大変動生物
資源)、サービスや機能自体が十分に明確でなく権利の客体
となりえない(e.g.生態系)
政策の費用対効果: ∴環境に係る全ての財貨・サービスに
近代市民法(ローマ法)的な意味での所有権と市場の創設、
あるいは課税を行うのは非現実的。
制度の柔軟性:順応的な環境保全・資源管理を行うには、柔
軟な意思決定制度が必要→自主協定の積極的活用。
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2.1 コモンズとは

コモンズ(commons):社会的共通基盤としての
自然環境・資源の共同管理制度、および共同管
理の対象である資源そのもの (Ostrom et al.1999、
宇沢ら 1994、井上真 2001)

もともとは、近代以前のイギリスでの牧草管理

日本における入会に近い

ローマ法的な、分割所有としての共有を前提とし
ない。所謂ゲルマン法の総有(ギールケ、近藤、我妻)
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2.2 代替的アプローチとしての
コ・マネジメント論





コモンズの管理論の一つ
→コ・マネジメント(共同管理)論
定義:管理に関する権限と責任が政府と地域共同
体との間で共有されているような制度的・組織的枠
組み(権利とルール)の集合
問題意識:コモンズ管理の意思決定過程から地域
共同体を除外すると、管理制度の正当性と実効性
が損なわれる(Regulatory legitimacy).
目的:意思決定の民主化と、管理の実効性向上
利点:トップダウンではない。執行性が高い (取締
費用が低い)。また、順応的管理に適している。
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2.3.コ・マネジメント論から見た日本の漁
業管理制度とその限界

日本の漁業管理制度は、コ・マネジメントが長年機能
した例の一つ(Pomeroy & Berkes 1997)。民主的意思決
定過程、階層的調整機構、自主協定、入会など。
→しかし意思決定に参加する利害関係者が一部に限
られている。
今後、沿岸生態系という公共的性格の高い資源の管
理や、海洋性レクリエーションとの利用調整を考える上
では、現行漁業制度は実質上不当な意思決定権限を
漁業者らに付与する恐れ。漁業はあくまで公物の共同
利用の一形態(特許)→長期的には一般使用の法的利
益を認めざるを得ない(牧野2002)。
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3.1 漁業管理から環境保全へ

ではどうすればよいのか?→沿岸環境保全の中での漁業の
位置づけを考察するには、流域圏管理に注目することが有効
1)漁業にとっての重要性:漁獲量と共に質的にも安
全な動物性蛋白質を持続的に供給しうるような水産
資源管理→陸上起源汚染との関係も考慮した、流域
圏単位での物質循環に着目した考察
2)環境保全との位置づけ:流域圏での様々な社会・
経済活動に関わる広範な利害関係者の参加・調整
がなければ管理は不可能→環境保全という制度的
枠組みの中での漁業制度の相対化が可能。
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3.2 今後の漁業権・漁業許可
現在の漁業権の性格:(牧野2001、牧野2002)
1)資源の保護・培養を内在的制約としつつ、
2)特定の水面において特定の漁業を営む制限物権であり、
3)沿岸海域の利用秩序形成において中心的権限を有している

・今後の漁業権・許可の性格
1)に環境保全を含める代わりに 3)の側面を正当化または強
化するか、あるいは3)を適切な水準まで低下させるか。
今後の漁業権・許可の法的性格は、沿岸環境保全主
体としての中心的役割をその内在的制約に含めるとい
う考え方と、あくまで食料生産としての水産動植物採捕
行為の法的優位性に制限するという考え方との間に位
置付けることになる
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4.1 今後明らかにすべきこと

現行漁業制度と、沿岸環境保全や流域圏管
理はどのように位置づけられるべきか、そし
てそこで漁業権・許可はどのような法的性格
を有するべきか。
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4.2 具体的な研究課題
1)公物利用産業としての漁業:沿岸域の多面的な利用を
合理的に調整していく上で、漁業権・許可の海面利用、
及び生態系サービス利用に関する法的性質。あくまで
公物の共同利用の一形態としての漁業。
2)流域圏管理の一担い手としての漁業:沿岸域の汚染防
止のために、陸上を含めた一般市民や他産業とどのよ
うな関係を構築するべきか、対策費用はどのように分担
されるか。
3)流域圏の終点としての漁業:陸上の人為活動に起因す
る沿岸域汚染が漁業に質・量的リスクをもたらす場合に、
漁業権は汚染者に対しどのような物権的請求権を有す
るのか。
4)食料生産者としての漁業:特に水産物の健康リスクに
関し、消費者に対しどのような生産者責任を負うべきか。
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文献
• 井上真 2001、自然資源の共同管理制度としてのコモンズ、「コモンズの社
会学(井上真・宮内泰介編)」、新曜社、東京.
• 牧野光琢 2001、戦後漁業権制度改革の立法過程、社会システム研究、
Vol.4、61-75.
• 牧野光琢 2002、漁業権の法的性格と遊漁、地域漁業研究、Vol.42(2)、
25-42.
• 牧野光琢・坂本亘 2003、日本の水産資源管理理念の沿革と国際的特徴、
日本水産学会誌、Vol.69(3)、368-375.
• Ostrom E., Burger J., Field C.B., Norgard R.B. & Policansky D. 1999,
Revisiting the Commons, Science, Vol. 284, 278-282.
• Pomeroy R.S. & Berkes F. 1997、Two to Tango: The Role of
Government in Fisheries Co-Management, Marine Policy, Vol.21(5),
465-480.
• 宇沢弘文・茂木愛一郎(編) 1994、「社会的共通資本」、東京大学出版会、
東京.
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なぜ漁業による水面支配が問題か

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

海は公物の公共用物。生態系サービスも、水面自
体も公物である。
元来,公物の管理関係に民法理論ではなく公物法
理論が適用される理由の一つは,公益的見地から
公物に対して様々な拘束を課すことを通じて一般公
衆による使用を確保する為
そもそも何故本来の公物の使用形態である一般使
用に何の法的保護も与えられず、一方で最も特殊
な使用形態である特別使用(特許)のみが保護され
るのか、という不満は当然(反射的利益論の克服)
また、漁業権・許可さえ放棄させれば開発が可能と
いう、開発の免罪符に堕する可能性。
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内在的制約に環境保全を含めるという方
向性で検討するべきという根拠
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海の地域的且つ通年の情報を最も有している。
海を生業の場とする主体とレジャーとする主体の違
いは認めるべき。
水産基本法における多面的機能。
環境保全という役割も担うことで漁業が産業として
生き残ることが、食料安全保障という政治的課題に
照らしても得策。
しかし、あくまで公物の共同利用形態のひとつであ
るから、沿岸環境保全においても全面的な権限が
付与されるのではなく、物権性、食料生産産業、等
の漁業の特殊性を考慮しつつその内容を考察。
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