地球温暖化が冷害リスクに 及ぼす影響 ー生育ステージの変化に着目し てー 岩手大学農学部作物学研究室 下野裕之 冷害発生のメカニズム 夏の低温 7~8月(夏) 穂ばらみ期=感 受性が最大 花粉形成阻害 感受性部位は穂 開花受粉時に健全な花粉 数が不足 正常 不受精(不稔) 甚大な被害 不稔 冷害への感受性は大きく変化 無処理 収量( g/ pl) 1 2 ℃4日間 22 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 出穂前日数(低温処理開始時) 0 Hayase et al., ( 1 9 6 9 ) 日本作物学会紀事 3 8 : 7 0 6 - 7 1 1. 地球温暖化と冷害 1.気温推移 2.栽培スケジュール 3.出穂前進の効果 (1)過去 (2)将来 地球温暖化と冷害 1.気温推移 2.栽培スケジュール 3.出穂前進の効果 (1)過去 (2)将来 年平均気温は全地点で上昇傾向 (過去70年間,1937-2006) 20 18 16 14 12 10 8 6 4 1937 札幌 1947 旭川 八戸 1957 盛岡 仙台 1967 秋田 酒田 1977 福島 1987 富山 水戸 1997 神戸 高知 鹿児島 下野(2008)日本作物学会 紀事 77: 489-497. 地域により夏の昇温トレンドが異な る 昇温量(℃/100年) 5 2.8 2.9 2.4 2.5 2.3 1.8 平均値(全地点) 0.6 0.9 1.9 2.3 2.1 2.3 4 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 7 -1 8 9 10 11 12 札幌 旭川 八戸 盛岡 仙台 秋田 酒田 福島 水戸 富山 神戸 高知 鹿児島 月 下野(2008)日本作物学会紀事 77: 489-497. 北日本では夏は昇温していない 4 昇温量(℃/100年) 7月 8月 3 2 1 鹿児島 高知 神戸 富山 水戸 福島 酒田 秋田 仙台 盛岡 八戸 旭川 -1 札幌 0 下野(2008)日本作物学会紀事 77: 489-497. 1.まとめ:過去の気温推移 (なぜ温暖化していても冷害が発生?) ●夏の気温が上昇していない。 地球温暖化と冷害 1.気温推移 2.栽培スケジュール 3.出穂前進の効果 (1)過去 (2)将来 寒冷地のコメ生産は温度が制限 (わずかな変動が冷害を引き起こす) 4.安全な生殖成長期間 30 25 22℃以上 2.成熟晩限 1.移植早限 20 15 3.栽培可能期間 12℃以上 盛岡の平年気温℃ (1979~2008) 10 5 0 1月1日 -5 2月20日 4月11日 5月31日 7月20日 9月8日 10月28日 12月17日 解析データ:過去46年(1961~2006),4地点(札幌,青森,盛岡,仙台)の日平均気温。 移植早限は10年あたり1~2日早 まっている 5 月2 7 日 5 月2 2 日 5 月1 7 日 移植早限 5 月1 2 日 5 月7 日 5 月2 日 4 月2 7 日 4 月2 2 日 4 月1 7 日 ● ▲ ■ × 4 月1 2 日 4 月7 日 4 月2 日 1960 1970 1980 1990 年次 2000 北海道 青森 岩手 宮城 2010 Shimono et al. (2010) Field Crops Research.118:126-134 実測の移植日は東北地方では1980 年までは早まるがその後は変化なし 6 月6 日 6 月1 日 実測移植日 5 月2 7 日 5 月2 2 日 5 月1 7 日 ● ▲ ■ × 5 月1 2 日 5 月7 日 5 月2 日 1960 1970 1980 1990 2000 北海道 青森 岩手 宮城 2010 年次 Shimono et al. (2010) 解析データ:作物統計 Field Crops Research.118:126-134 成熟晩限は10年あたり2~3日遅 くなっている 1 1 月1 3 日 成熟晩限 1 1 月3 日 1 0 月2 4 日 1 0 月1 4 日 1 0 月4 日 ● ▲ ■ × 9 月2 4 日 9 月1 4 日 1960 1970 1980 1990 年次 2000 北海道 青森 岩手 宮城 2010 Shimono et al. (2010) Field Crops Research.118:126-134 実測の収穫期は一定の傾向がな いが,近年,早まる傾向 1 0 月2 9 日 1 0 月2 4 日 実測収穫期 1 0 月1 9 日 1 0 月1 4 日 1 0 月9 日 1 0 月4 日 9 月2 9 日 9 月2 4 日 ● ▲ ■ × 9 月1 9 日 9 月1 4 日 9 月9 日 1960 1970 1980 1990 年次 解析データ:作物統計 2000 北海道 青森 岩手 宮城 2010 Shimono et al. (2010) Field Crops Research.118:126-134 実測の生育日数と可能生育日数の差 (可能-実測)は広がりつつある 70 北海道 60 y = 0.0158x2 - 62.33x + 61470 R 2 = 0.1503 60 50 50 40 40 30 30 10 10 60 y = 0.0253x2 - 99.979x + 98879 R 2 = 0.196 20 20 0 1950 青森 1960 岩手 50 1970 1980 1990 2000 0 1950 2010 -10 80 y = 0.0324x2 - 128.32x + 127229 R 2 = 0.1881 1960 宮城 70 1970 1980 1990 2000 2010 y = 0.0527x2 - 209.26x + 207632 R 2 = 0.3152 60 40 50 30 40 20 30 10 20 0 1950 -10 -20 1960 1970 1980 1990 2000 Shimono et al. (2010) Field Crops Research.118:126-134 2010 10 0 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 温度資源を評価するパラメータ (安全な生殖成長期間) 4 安全な生殖成長期間 (冷害回避) 30 22℃以上 (30日間平均) 25 20 15 10 5 0 1月1日 -5 2月20日 4月11日 5月31日 7月20日 9月8日 10月28日 12月17日 安全な生殖成長期間には一定の 傾向がない 安全な生殖成長期間( 日) 90 80 70 60 50 40 30 ● ▲ ■ × 20 10 0 1960 1970 1980 1990 2000 北海道 青森 岩手 宮城 2010 年次 Shimono et al. (2010) Field Crops Research.118:126-134 2.まとめ:栽培スケジュール ●生育全体の期間については,前後に広く 設定でき,生産性向上の可能性あり. ●その一方,冷害発生に関わる生殖成長 期については大きな向上がない. 延長された栽培可能期間を有効に利用し,冷害 の危険性を軽減する作期の策定が必要。 地球温暖化と冷害 1.気温推移 2.栽培スケジュール 3.出穂前進の効果 (1)過去 (2)将来 出穂日は10年あたり1日早くなっ ている(北海道は2日) 8月30日 ● ▲ ■ × 北海道 青森 岩手 宮城 出穂日 8月20日 8月10日 7月31日 7月21日 1960 1970 1980 1990 2000 2010 Year Shimono (in press) Agricultural, Ecosystems & Environment 潜在的な冷害リスクを出穂の 早まりで高めている 冷害による潜在的な減収率(%) 穂ばらみ期の気温(℃) 28 35 30 冷害による潜在的な減収率(%) 穂ばらみ期の気温(℃) 26 24 22 20 18 1960 25 20 15 10 5 1970 1980 1990 Year 穂ばらみ期=出穂15~5日前 減収率は,穂ばらみ期の冷却度と作況指 数より換算 2000 2010 0 1960 1970 1980 1990 2000 2010 Year ● ▲ ■ × 北海道 青森 岩手 宮城 Shimono (in press) Agricultural, Ecosystems & Environment 3(1).まとめ:将来予測 ●春の昇温による出穂の早まりは,穂ば らみ期の気温を低下させ,冷害リスクを 高めている 地球温暖化と冷害 1.気温推移 2.栽培スケジュール 3.出穂前進の効果 (1)過去 (2)将来 将来予測:モデル解析 シナリオ 1.通常 2.春のみ昇温する場合 1~3℃の気温上昇(春=5~6月,夏=7~8月) モデル ●発育モデル 葉齢進展モデル(有効積算温度),神田ら(2000,2002) ●冷害モデル 冷却度(20℃以下の気温の20℃からの差分を幼穂形成から出穂期ま で積算,℃・日),内島ら(1970),Shimonoら(2005) データ 盛岡,八戸,仙台の過去17年間(1980~2007)の日平均 気温(計51データセット) 冷害強度は春のみの昇温により 1℃あたり16%増加 冷却度の相対増加率 1 .6 y = 0 .1 6 2 6 x + 1 R 2 = 0 .9 7 4 4 1 .5 1 .4 1 .3 1 .2 1 .1 1 0 1 2 3 春の気温上昇(℃) 下野(2008)日本作物学会紀事 77: 489-497. 3(2)まとめ:モデル解析 通常 春のみ昇温 冷害感受期 26 26 24 24 22 22 冷害 20 限界 20 18 18 16 16 14 5月20日 14 5月20日 6月9日 6月29日 7月19日 栄養成長 8月8日 生殖成長 8月28日 9月17日 登熟期 6月9日 6月29日 7月19日 8月8日 8月28日 9月17日 栄養成長 生殖成長 登熟期 現在までのように,夏の昇温がなく,春の昇温が進行すると仮 定した場合,品種,栽培方法を適正化しないと,発育ステージ の前倒しにより,冷害危険期に低温に会う頻度を高めてしまう 下野(2008)日本作物学会紀事 ことが示唆された。 77: 489-497. 結論:将来予測 ●春の昇温が生育ステージの前倒しさせ 冷害リスクを増大させる可能性。 近い将来の地球温暖化は北日本のイネの 冷害の解決につながらない可能性 潜在収量低下と冷却度 (穂ばらみ期)の関係 1.4 y = -0.008648x + 1 R2 = 0.2609 相対収量(作況指数/100) 1.2 1 0.8 ● ▲ ■ × 0.6 0.4 北海道 青森 岩手 宮城 0.2 0 0 10 20 冷却度(oC d) 30 40 Shimono (in press) Agricultural, Ecosystems & Environment
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