知的財産と社会 デジタル時代の著作権とオープン化 野口 祐子 渡辺 智暁 第2回講義 担当: 野口祐子 前回の復習(1) 情報の二つの対立力学 • 「情報」を「知識」や「メッセージ」と捉えると – できるだけ広く、自由に • 「情報」を「財」と捉えると – 囲い込み、権利者のコントロール、市場 • どうバランスを取るか? 前回の復習(2) • ほとんどのコンテンツは著作物である – 著作権がないのは… • アイディア・事実 • ありふれた表現など 、限られた情報のみ • 著作物の「利用」には、原則、許諾必要 – 複製、公衆送信など、ほとんどの行為が著作権 でカバーされている – レコード会社や実演家、放送事業者などに著作 隣接権がある 「著作権」の構造 著作者の権利 著作権(財産権) (著作権) 著作権 著作者人格権 著作隣接権 実演家 レコード製作者 放送事業者 の権利 今日のトピック • 「原則」は、著作物の利用に許諾が必要。で は、「例外」として許諾が要らない場合とは? – 例外規定 – 裁定制度 • 利用することで「違法」とされるのは誰か? (いわゆる、主体論・間接侵害論) 例外規定について 例外規定 • 個別の例外規定を要件ごとに規定されている • 有名なものとしては – 私的複製(30条) – 引用(32条) – 教室での利用(35条) – 非営利での上演等(38条) 原則禁止の中で小さな例外の窓 30条 私的複製 • 著作権の目的となっている著作物(以下この 款において単に「著作物」という。)は • 個人的に又は家庭内その他これに準ずる限 られた範囲内において使用する こと(以下 「私的使用」という。)を目的とするときは、… • その使用する者が複製することができる。 では、以下は私的使用? • 自分のパソコンに音楽CDをコピー • その音楽をCD-ROMを焼いて、友達にあげたら? • パソコンのハードディスクの代わりに、レンタルサー バにコピーしたら? • 結局「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限 られた範囲内」とは?という問題 ただし、以下の場合は除外 • 公衆の用に供されている複製機器を用いて 行う場合(ダビング・サービス) – ただし、「当分の間…専ら文書又は図画の複製に 供するものを含まない」(経過措置) • DRMを回避して行う場合 • いわゆる、違法ダウンロード – 著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル 方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合 いわゆる「自炊」サービス • 書籍をスキャンしてPDF化するサービス • 2011年12月、訴訟に発展 • 「作品は血を分けた子供と同然で、見ず知らずの人に利用さ れ、 知らないところで利益が出るのは許せない。裁断された 本は正視に耐えられない 」 vs • 「読者が購入した本の使いかたは自由」「電子書籍市場が立 ち上がらないから自助努力」 色んな自炊形態 • 書籍を送ると、裁断+スキャンしてくれる • 裁断機とスキャナーを店頭で利用させる • 裁断済書籍とスキャナーを利用させるサービス • (派生形として)裁断済みの本をヤフオクで販売する ユーザー 引用(32条) • 公表された著作物は、引用して利用すること ができる。 • この場合において、その引用は、 – 公正な慣行に合致するものであり、 – 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な 範囲内で行なわれるものでなければならない。 • 実際には、判例で様々に解釈されている しかし、実際には… (1) 引用する著作物が「公表」されていること (2) 引用が公正な慣行に合致すること – ①引用する必要性が認められること(諸説あり) – ②出所明示を履行していること – ③引用する著作物の同一性保持権を遵守していること (すなわち、著作者の「意に反する改変」を行っていないこ と) – ④その他、当該著作物が属する業界・学術分野における 引用の慣行に従っていること (3) 引用がその目的上正当な範囲内で行われ たこと – ①明瞭区別性:引用著作物と被引用著作物とが 明瞭に区別できること – ②主従関係 :引用著作物が主、被引用著作物 が従の関係にあること • ネットでよく見る「引用」は、この要件を満たさ ないものが多数 近年の批判 • 条文に書いていない要件を、裁判所がどんど ん追加するのはおかしいのでは? • もっと、フレキシブルに運用すべきでは? • 批判をうけて、「美術鑑定書事件」が登場、注 目を浴びている 引用の「フェア・ユース化」? • 他人の著作物を利用する側の利用の目的の ほか,その方法や態様,利用される著作物の 種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼ す影響の有無・程度などを総合考慮するべき • 美術鑑定書の裏に、絵画のカラーコピーを貼 るのは、「引用」であり合法 – 極めて一般的な慣行。むしろ、有用。 – 別に流通しないから、権利者に経済的損失なし 例外規定の問題点 • • • • 常にアップデートが必要 立法に時間がかかる(平均して3年以上?) 一定の限られた声しか反映されない 限定的な条件の例外規定が増加して、パッチ ワーク状態に • 難解で素人には読めない – 小学生、中学生に理解できるか? 平成21年改正著作権法の例外規定 • (送信可能化された情報の送信元識別符号の検索等のための複製等) 第四十七条の六 公衆からの求めに応じ、送信可能化された情報に係る 送信元識別符号(自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記 号その他の符 号をいう。以下この条において同じ。)を検索し、及びその結 果を提供することを業として行う者(当該事業の一部を行う者を含み、送信 可能化された情報の収 集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行 う者に限る。)は、当該検索及びその結果の提供を行うために必要と認めら れる限度において、送信可能化された著作物(当該著作物に係る自動公衆 送信について受信者を識別するための情報の入力を求めることその他の受 信を制限するための手段が講じられている場合にあつては、当該自動公衆 送信の受信について当該手段を講じた者の承諾を得たものに限る。)につ いて、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的 著作物の記 録を含む。)を行い、及び公衆からの求めに応じ、当該求めに関する送信可 能化された情報に係る送信元識別符号の提供と併せて、当該記録媒体に 記 録された当該著作物の複製物(当該著作物に係る当該二次的著作物の 複製物を含む。以下この条において「検索結果提供用記録」という。)のうち 当該送信元識 別符号に係るものを用いて自動公衆送信(送信可能化を含 む。)を行うことができる。ただし、当該検索結果提供用記録に係る著作物に 係る送信可能化が著作権 を侵害するものであること(国外で行われた送信 可能化にあつては、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきも のであること)を知つたときは、そ の後は、当該検索結果提供用記録を用い た自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行つてはならない。 続きはフェア・ユース論で 裁定制度 裁定制度(67条) • 公表された著作物、又は相当期間にわたり公衆に 提供され、若しくは提示されている事実が明らかで ある著作物は、 • 著作権者の不明その他の理由により相当な努力 を 払つてもその著作権者と連絡することができない場 合…は、 • 文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の 額に相当するものとして文化庁長官が定める額の 補償金を著作権者のために供託して、 • その裁定に係る利用方法により利用することができ る。 どうして「権利者不明」なのか? • 著作権は、登録などしなくても自動で権利が 発生する(無方式主義) – そのため、権利者データベースが不在 – Cf. 特許権・商標権などは、特許庁に出願して初 めて権利が発生する =登録がないなら、権利がない、といえる • しかも、著作者の死後50年存続=相続発生 – 相続人を特定するのは、とても困難 • いまや、世界中で問題になっている問題 裁定制度のバランス • 権利者が不明ということは、どんなに努力し ても許諾が取れない=合法に使えない、とい うこと – これは、経済学でいう「市場の失敗」 – 不可能を強いるのはおかしい • 裁定制度での利用を安易に認めると、許諾を 前提としている建前がなし崩しになってしまう – そこで、ある程度の要件が必要 実際の裁定制度は… • 現実にはほとんど利用されていない – 「相当な努力 を払つてもその著作権者と連絡すること ができない場合」のハードルが高い • 文化庁の見解では… 単に時間や 経費を要するからとか、捜すべき著作権者の人数が 多いからというのは、捜す手間を軽減する理由にはなりません。 • この調査費がまかなえないため、そもそも申請で きない人が多数 たとえば… • 国立国会図書館の近代デジ タルライブラリー • 著作権調査対象約72,000名 • 保護期間満了約20,000名 • 許諾を得た著者は約300名 • 著作権者連絡先不明の約 38,000名の著者について、 文化庁長官の裁定 • 07年度、著作権者の調査と 電子化費用は8100万円。こ の予算では1万冊ちょっとし か公開できない 裁定制度 • 平成21年改正で多少軽減 • 現在は、以下の3つを全て行う必要あり 実績 昨年の授業スライドより:増田雅史さん作成 著作権は誰が利用しているのか? ~主体論・間接侵害論~ 著作物を「利用」しているのは誰? • 簡単なようで、実は難しい問題。 – とくに、サービスが絡む場合… • 権利者の「一網打尽にしたい」気持ち vs • サービス業者の「個人の利用をサポート」した い気持ち 雑誌閲覧サービス Corseka • サイトで雑誌を定価購入すると、そのデー タを専用 のビューワー(DRMつき)で閲覧でき、配送料を支 払えば現物が宅配される仕組み • 「ユーザーが購入した雑誌をスキャンして電子化す ることは、個人利用の範囲。我々はそれを代行して いる。電子データも購入者以外閲覧できず、ダウン ロード などもできない仕様」 • 出版社から抗議が殺到し、2009年10月7日の サービスインから1週間でサービス停止 これは「直接侵害」 • 雑誌データを電子化してサーバーにいれたの は誰? • 雑誌データを発信しているのは誰か? • 全て、サービス提供者 – よって、サービス提供者が「複製」「公衆送信」を 自分でやっている では、YouTubeは? • 動画をサーバーにアップしたのは誰? 答え:ユーザー • では、動画を発信しているのは誰? 答え:ユーザー (サーバー提供者は「発信者」ではない) • 権利者は、YouTubeには削除要請ができる のみ。 権利者の中には… • YouTubeにアップしているユーザーをひとり ひとり訴えるのは大変 • YouTubeが、自分のユーザーを全部取り締 まってくれればいいのに…? • YouTube自体がなくなればいいのに…?? そこで「間接侵害」 • 直接侵害をしているユーザーを助けているサービス 業者を「間接侵害」している人として一網打尽にしよ う!という考え方 • たとえば、米国では長く認められている • しかし、合法にも違法にも使えるサービスをユー ザーが違法に使ったからといって、サービス業者が 責任を問われたのでは不公平な場合も – 世の中から全部包丁がなくなったらどうなるか? • そこで、その要件をめぐって激しい争いが展開 米国の著作権間接侵害規定 • 寄与侵害責任(Contributory Infringement) – ユーザーの侵害を知っており、かつ、かかる侵害を誘 発しまたは実質的に貢献した • 代位責任(Vicarious Liability) – ユーザーの侵害を防止できた – ユーザーの著作権侵害行為から何らかの経済的利益 を得ている場合 – ユーザーの侵害を知っていることは要件ではない • Grokster判決 – その製品の特徴や、その製品が侵害目的に利用され るかもしれないという認識を超えて、著作権侵害を促進 することに向けられた言動がある場合 Sony判決(1984) • 464 U.S. 417 (1984) • VTRをめぐる訴訟。テレビ録画を防止したい映画会 社がソニーを提訴。5対4でSonyが勝利 • 間接侵害規定は、権利者の効率的な救済と、第三 者が侵害と本質的に関係の無い行為を行う自由と のバランスをとらなければならない • 複製機器の販売は、他の商品の販売と同様に、合 法的な目的のために広く用いられるものであれば、 寄与侵害を構成しない。それは、単に「非侵害とな る実質的な使用」(“substantial noninfringing uses”)をすることのできるものに過ぎない • 無料テレビを家庭内で非商用目的でタイム・シフトす る(time-shifting)ことはフェア・ユースにあたる その後の映画業界の ビジネスモデル • 映画会社は、家でのダビングの阻止をあきら める • 同時に、家庭のビデオデッキを使った積極的 なビジネスモデルを展開(セルビデオ、レンタ ルビデオ) • 今や、ビデオグラム・ビジネスは映画館の興 行収入よりも上 – 2009年の興行収入 2,060億3500万円 – 2009年のビデオグラム収入 3,261億円 P2Pファイル交換ソフトの登場 Napsterのしくみ 音楽ファイルは、ユーザー間で直接やり取りされる。 Napsterは、ファイル名の管理とIPアドレスの送信をしていた A&M Records v. Napster, 239 F.3d 1004 (9th Circuit, 2001) • ファイルの複製・送信をしていなくても、 Napsterは違法 – 著作権を侵害することを知りつつ、ユーザによる 侵害行為を奨励、幇助した(寄与侵害) – ファイル名を通じて、ユーザーの行為を管理でき たし、経済的利益もあった(代位侵害) • Space-shiftingであるからフェア・ユース? (Sony判決の基準に照らして) → No さらに厄介なP2P ~Grokster • 完全なバイラル方式のP2P • ソフトウェアの開発者は、ソフトウェアをアップロード するのみ • あとは、ユーザーが自由にソフトウェアをダウンロー ドし、ファイル交換 • セントラルサーバーなどはなく、ファイル交換に Groksterは一切関与していない • したがって、ファイルの内容も知らないし、「管理支 配」もない? Grokster訴訟(米国最高裁) • MGM Studios Inc. v. Grokster, Ltd., 545 U.S. 913 (U.S. 2005) • 著作権保護により創作を支援することと、著作権侵害の責任 が成立する場面を限定することにより技術的なイノベーショ ンを促進することのバランスをとることが重要である • デバイス(ソフトウェアを含む)の配布にあたり、明示的な表 現または侵害を助長するような積極的手段をとることによっ て、著作権侵害を促進する目的があると認められる場合に は、(そのデバイスに合法的な利用方法があったとしても)そ のデバイスを利用した第三者の行為について責任を負う。た だし、単に第三者がそのデバイスを使って侵害行為を行って いることを知っている だけでは足りない 日本での著作権に関する 間接侵害規定 • 現在、明文規定は存在しない(Cf.特許法) • 立法の議論はずっと続いている • その間、裁判所は、「誰が本当の利用者か」 という質問で、しばしば、サービス提供者を 「利用主体」と判断してきた。 萌芽:カラオケ法理 • 最高裁判所判決 昭和63年3月15日 クラブ キャッツアイ事件 • カラオケスナック店で、客に有料でカラオケ機 器を利用させていた。 • 歌唱(著作権侵害)するのは客であり、カラオ ケスナックは機器を提供しているのみである から、直接侵害者ではない • しかし、最高裁は… • 客は,上告人らと無関係に歌唱しているわけではな く,1.上告人らの従業員による歌唱の勧誘,上告人 らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲, 上告 人らの設置したカラオケ装置の従業員による 操作を通じて,上告人らの管理のもとに歌唱してい るものと解され,他方,2.上告人らは,客の歌唱を も店の営業 政策の一環として取り入れ,これを利用 していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成 し,かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上 の利益を増大させることを意図していたというべきで あって,前記のような客による歌唱も,著作権法上 の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しう るものである • ①管理支配要件、②営利目的要件、の二つが柱 ファイルローグ訴訟 (日本版Napster訴訟) • サービス・プロバイダが、主体か否かについては、 (1)サービス・プロバイダの行為の内容・性質、 (2)利用者のする送信可能化状態に対するサービ ス・プロバイダの管理・支配の程度、 (3)サービス・プロバイダの行為によって受ける利 益の状況等を総合斟酌して判断すべき • 本件では… – 違法行為が可能であり、その割合が極めて高い(96.7%) (サービスの性質) – 著作権侵害に必要不可欠な行為をどの程度行っている か(管理支配性) – 将来有料化する計画の有無、広告収入を得ることのでき る可能性(被告の利益) • よって、サービス・プロバイダが直接責任を負うべき クラウド・コンピューティングと 「まねき」「ロクラク」最高裁判例 クラウド時代になって… • 「家庭内」でPCのハードディスクに保存する のではなく、クラウド上のスペースに保存 • それは「家庭内またはそれに準ずる範囲」な のか? – 従来は、他者と共有できないならOKとされていた – 例:ストレージサービス • ところが、2007年… MYUTA判決 • 東京地判平成19.5.25 判例時報1979号 100頁 • 事案:ユーザがCD音源をパソコンで携帯再 生用ファイルに変換してサーバにアップ。事 前に登録した自分の携帯電話に転送できる サービス。 • サーバでの複製主体は、ユーザかサービス 業者か? • 結論:サービス業者である MYUTA判決の射程 • 東京地裁判事の解説(平成19年度主要民事 判例解説262頁)によれば… – 本件判決は、事例判決であり、ストレージサーバ とパソコンとが紐付されて1対1の関係にあるスト レージサービス一般における行為の主体性の判 断が必ずしも同じになるとはいえない – 本件ではユーザ個人では技術的に相当困難なこ と(CD音源を携帯で聴けるようにする)を可能に した点が一般のストレージサービスとは異なる 考察 • 一般人が容易にできないことを可能にしたことは罪 か? – 日本におけるイノベーション政策は? • 買ったCDをパソコンで変換し、自分でケーブルでつ ないでiPhoneに転送するのと何が経済的に異なる のか? • 既存の市場を脅かすことの功罪 – 時代が変化する時、旧サービスは常に脅かされる? – 既存のマーケット(着メロ・着うた等)は保護されるべき? – 新サービスの登場が社会の進歩に貢献する? でも、東京地裁の判決だし… (と、淡い期待) 2011年、「まねロク」最高裁判決 • 2件の重要な最高裁判例 – まねきTV事件、最判平成23.1.18民集65巻1号 121頁、判例時報2103号124頁 – ロクラクII事件、最判平成23.1.20民集65巻1号 399頁、判例時報2103号128頁 • 日本で受信したテレビ番組を海外へ送信し、 または複製させるサービス事業者が、著作物 の利用主体であると判断された事例(合法と した控訴審の知財高裁判決を破棄) • 利用がそのユーザ限りでも違法とされた事例 まねきTV事件 • 事案:インターネットを通じてテレビ番組を視 聴地域外で視聴可能にする転送装置(ベー スステーション)を、サービス提供会社がユー ザから預かって維持・管理していた • 争点:テレビ番組を送信しているのは、ユー ザか、サービス提供会社か? • 知財高裁:そもそも、単一の機器にあてて送 信するのは自動公衆送信ではないから、公 衆送信権の侵害ではない • cf.「公衆」送信のみが違法 まねきTV事件 • 最高裁の判断 – 送信主体はサービス提供会社である – ユーザは公衆である – したがって、ベースステーションは自動公衆送信 装置であり、会社の行為は公衆送信行為である • キーポイント:送信主体は「当該装置が受信 者からの求めに応じ情報を自動的に送信す ることができる状態を作り出す行為を行う者」 =「装置に情報を入力する者」である まねきTVの射程 • 最高裁調査官の解説(ジュリスト1423号32 頁)によれば… – サーバの設置、管理、運営等だけで、送信主体と なるわけではない – 「装置が情報を送信することができる状態を作出 する者」である。本件では、装置に情報を入力す る者(=テレビアンテナで放送信号を受信して ベースステーションと接続している者) – 本件事案以外の場合について送信主体を判断 するものではない まねきTVの残した課題 • 「公衆」の概念が広いこと – 「公衆」とは不特定または多数(著作権法第2条5項) – 「不特定」とは「行為者との間に個人的な結合関係」のな い人(最高裁調査官解説) – 本件サービスの利用者は、サービス提供者と利用契約を 締結すればいつでも利用できるので、「個人的な結合関 係」はなく、不特定である • この基準に従うと、契約者しかコンテンツが見られな い(コンテンツの共有がない)場合でも、サービス提 供者の行為は常に「公衆」向けとなる • この点は、クラウド・サービスの検討でも大きな課題 となる(文化庁クラウド報告書22ページ参照) ロクラクII事件 • 事案:インターネットを通じてテレビ番組を視聴地域 外で視聴可能にするため、番組を録画して転送する 装置を、サービス提供会社がユーザから預かって 維持・管理していた • 争点:テレビ番組を複製しているのは、ユーザか、 サービス提供会社か? • 知財高裁:複製主体はユーザである。サービス提供 会社は、利用者の複製を容易にする環境を提供し ているにすぎず、そのことで合法なユーザの私的使 用が違法なものに転化するものではない ロクラクII事件 • 最高裁の判断 – 複製の主体は「複製の対象、方法、複製への関 与の内容、程度等の諸要素」を考慮して判断 – サービス提供者は、複製を容易にする環境を整 備しているにとどまらず、その管理・支配下にお いて、放送を受信して複製機器に入力するという、 複製の実現における枢要な行為をしている – ユーザが録画の指示をしていても、入力行為が なければ複製することはおよそ不可能 – したがって、サービス提供者が複製主体であると いうに十分 ロクラクIIの射程 • 最高裁調査官の解説(ジュリスト1423号38頁)によ れば… – 当該事件の事例に対するものに限定され、広く 一般化する趣旨ではない – 複製の実現について因果関係のある行為がす べて枢要な行為であるとか、因果関係のある行 為をしたものが複製の主体となるといっているも のではない 金築裁判官補足意見 • 法律の行為主体を判断するにおいては、単に物理 的、自然的に観察するだけでは足りず、社会的、経 済的側面をも含め総合的に観察すべきもの • その際、考慮されるべき要素は、行為類型によって 変わりうる • 「カラオケ法理」のもとで「管理・支配」と「利益の帰 属」の2要素を固定的に考慮するのは不適切。多く の場合に重要な要素というにすぎない(管理・支配 の要件のほうが重要で、利益の帰属は必須でない) • 本件では、放送の受信、入力という過程を誰が管理 支配しているかが極めて重要。録画の指示をユー ザがしている点のみに重点を置くべきでない 「カラオケ法理」の運命は? • 物理的・自然的行為のみを見るのではなく、 規範的に主体を認定する、というカラオケ法 理の基本理念は追認された • 具体的な要件として、利用行為の「管理・支 配」と「利益の帰属」の2要件に常に限定され るものではない • 2要件のうち「管理・支配」のほうが重要 • ほかの事例でどのような要素が注目されるの かは未知数な面も残された
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