国際キリスト教大学 公開講座 2009年10月24日 (於 三鷹ネットワーク大学) 世界の識字問題 千葉杲弘 国際基督教大学 教育研究所 名前、ニックネームと性格 杲 東 杳 果弘? 晃弘? 呆弘 X どらえもんとチバエモン 五右衛門#CHIBA-AIMANT 花さかじじい=ドリームじいちゃん 識字問題 I. 文字の出現と文明の始まり 1. 人類最初の文字 シュメール語(楔形文字BC3500) その後メソポタミアに誕生した都市国家と文字: アッカド語、アッシリア語,エラム語、アラム語 ヒッタイト語、フリル語、ヘブライ語、ウガリト語 2. エジプト:初期王朝時代の出現とヒエログリフの誕生 (BC3100)神聖文字(象形文字)700の基本文字 文字の重視と書記の社会的地位 3. ウガリト語 最初の表音文字(メソポタミア) アルファベットの起源 4. 黄河文明(慇時代:BC 1400)初期の漢字の出現 甲骨文 II. 古代文字の果たした役割 1 動物図像、人間図像,物の図像の組み合わせで氏族 の紋章・標識として発達 (慇) 2 作物の収穫量や保存量の記録 (メソポタミア) 3 都市国家首長の支配、権力の象徴(メソポタミア) 4 支配の正当性を示すための神のお告げ、祈り、占い 支配者の系図と王朝史 5 宗教行事、掟と法制、文学、詩歌、教育 6 学問、科学、建築、暦の発展(ヒエログリフ) 7 文字を通した社会や国家の支配構造の出現 8 広域の交易、通商、交流、航海術 9 遠征と軍事指令 III. 文字の普及 1.表音文字の出現と文字のユニバーサル化 ーウガリト語、 ーヒエロティックとデモティック(民衆文字) =アルファベットの起源、パピルスの発明 ーフェニキア人の通商を通してエーゲ海諸地域に浸透 ーギリシャ語アルファベット形成に貢献 ーギリシャ文明のローマ帝国に対する強い文化的影響と ラテン語の発達 ー共和政治と一般市民教育の普及(主に都市) ーローマ帝国の拡大とキリスト教の普及 =パックス・ロマナとラテン文明の発達、 ラテン語=中世ヨーロッパの唯一の普遍的公用語 ー中世=文字文明の衰退 2. 他の地域 ー黄河文明:秦の始皇帝(BC212ー3) 文字の統一:焚書坑儒 篆書と隷書 紙の発明 ーインダス文明:インダス文字の衰退と インド・アーリア語族の進出BC1200ー1000 バラモン教 世界最古の文献=べーダ文献の成立 アショカ王とダルマ(法)による統治 サンスクリット(梵語)の誕生 ーイスラム教の普及とアラビア語 古典アラビヤ語=イスラム諸国の共通宗教用語 3.文字を中心とした歴史の時代区分 ー人類の誕生から古代文明の成立まで=無文字時代 (500万年からBC3500年頃まで) ー古代文明の成立と権力者の専有物としての文字文明時代 ー古代文字の消滅と新しい文字文化の台頭 ーラテン語、古典イスラム語とアラビア語、中国語、 ー中世ヨーロッパ=文字文化の衰退 ールネサンス(14ー15世紀)と宗教改革(16ー17世紀) ー人間的主体性、地方言語の文字文化 ー近代国家成立:文字の市民社会への浸透 ーアメリカ合衆国憲法、フランス革命、産業革命 帝国主義国家と国家主権、公教育制度の国家管理 国語の概念の成立 4.国家政策としての識字 ー共産主義政権の誕生とレーニンの識字令(1919) ー社会主義共産主義国家への影響 識字政策を国家主要政策の最重要課題とする ブルガリア(1944)ベトナム(1945) ポーランド(1949ー51) ルーマニア、ユーゴスラビア(1955) ー社会主義国家以外の識字運動 インドネシア(1960)バハサ・インドネシア 国語化政策と国家統一 イラン(1960年代初期)Army of Knowledge 軍の協力の下に識字を通した遊牧民族の国家統合 ブラジル(1960年代初期)パウロ・フレーレ Literacy through conscientization 5.識字についての国際的認識の高まり 識字の重要性についてのユネスコの国際的役割 ーユネスコの誕生とFundamental Education (1945-58) ーアフリカ旧植民地の独立と開発の重要性(1960年以降) ー開発に対する教育の役割についての認識の変化 ー弱者に対する国際社会の認識の変化と格差是正の必要性 ー人類史初めての非識字撲滅の世界教育大臣会議(1965) 人権としての識字と発展のための機能的識字の概念の論争 ーFunctional Literacy の優位性の確立 ー世界識字実験計画(1965ー72) ーユネスコ第2回世界成人会議(1972、東京) 生涯教育の基礎としての識字 開発のための識字 ーペルセポリス国際識字シンポジューム(1975) 人間の解放と全人的発達、エンパワーメント識字開発戦略 6. Education for All(EFA) 識字振興のための国際協力 ーユネスコ:第2次中期計画(1984ー89) 初等教育の普遍化と識字振興政策のドッキング 人権と開発のための識字 ー1990年:国際識字年 ジョムティアン会議 New vision: Minimum Essential Learning Needs Formal, Non-formal, and Informal Educationの連携 国際的パートナーシップ ー2000年:ダカール宣言と国連ミレニアム開発目標 ー市民社会の台頭とNGOの活躍 ーUN International Literacy Decade(2003-2012) ーUN Decade of Education for sustainable Development (ESD) (2005-2014) 7. 2000年Dakar行動枠組み 1.包括的な幼児教育の拡充と改善 2.2015年までに全ての子供が良質で無償の初等教育を 終了することが出来るようにする 3.適切な学習,生活技能プログラムへのアクセス 4.2015年までに成人 特に女性の識字率を50%向上する 5.2005年までに初等中等教育の男女格差を解消 2015年までに全ての男女格差を是正し、女子の 基礎教育への平等なアクセスと学習成果を確保する 6.2015年までに学習成果の測定を改善する 8. ミレニアム開発目標(MDG) 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 極度の貧困と飢餓の撲滅 Universal Primary Education by 2015 男女平等と女性の地位の強化 乳幼児死亡率の削減 妊産婦の健康の改善 HIV/AIDs, Malaria,他の疾病との戦い 環境の持続可能性の確保 開発のためのグローバルなパートナーシッ プの推進 (学校教育のみで識字について触れられていない) IV. 世界の言語事情 1.世界の言語の分布(全言語数6,528) ヨーロッパ 3% アメリカ 15% アフリカ 31% 太平洋 21% アジア 30% 2.使用言語の多い国 パプアニューギニア 850 インドネシア 670 ナイジェリア 410 インド 380 カメルーン 270 オーストラリア 250 メキシコ 240 3.使用されている言語が100以上ある国 旧ザイール タンザニア ブラジル エチオピア フィリピン チャド 旧ソ連 バヌアツ マレーシア 中央アフリカ共和国 アメリカ合衆国 ミャンマー 中国 ネパール スーダン 4.一般日本人の言語感覚 日本語 外国語(英語) 多言語社会の言語事情 母語、国語、公用語、行政用語、 教育用語、地域・通商語、 少数民族言語、 国際コミュニケーション言語 教育言語、識字言語の選択の問題 5.世界で母語として使われている言語 トップ20(単位100万人) 1 2 3 4 北京語 726 英語 427 スペイン語 266 ヒンディー語 182 (ウルドゥー語を含 223) 5 アラビア語 181 6 ポルトガル語 165 7 ベンガル語 162 8 ロシア語 158 9 日本語 124 10 ドイツ語 121 11 フランス語 116 12 ジャワ語 75 13 コリアン 66 14 イタリア語 65 (標準イタリア語)( 40) 15 パンジャブ語 60 (東西) 16 マラーティー語 58 17 ベトナム語 57 18 テルグ語 55 19 トルコ語 53 20 タミル語 49 V. 識字の現状 (15歳以上) 1.識字率 (2000ー2006) 識字率 世界 アラブ地域 中央・東ヨーロッパ 中央アジア 東アジア・太平洋 中南米 南西アジア アフリカ 西ヨーロッパ 非識字者数 84% 775,894,000 72% 57,798 ,000 97% 8,235,000 99% 784,000 93% 112,637,000 91% 36,946,000 64% 392,725,000 62% 161,088,000 99% 5,682,000 2. 1000万人以上非識字者のいる国 2000/6年 インド 270,058,000 中国 73,232,000 バングラデッシュ 48,392,000 パキスタン 47,060,000 ナイジェリア 23,451,000 エチオピア 28,859,000 インドネシア 14,772,000 エジプト 14,213,000 ブラジル 14,242,000 イラン 8,133,000 コンゴR.D 10,486,000 1990年 272,279,000 181,331,000 41,606,000 41,368,000 23,296,000 18,993,000 23,800,000 17,432,000 17,336,000 11,506,000 3. 50%以下の識字率の国(2000ー2006) マリ チャド ブルキナファッソ アフガニスタン ギ二ー ニジェール エチオピア シエラレオネ ベニン セネガル モザンビーク 象牙海岸 中央アフリカ共和国 全体 女子 23% 26% 26% 28% 29% 30% 36% 37% 40% 42% 44% 49% 49% 16% 13% 18% 13% 18% 16% 23% 16% 27% 32% 32% 39% 33% 4. 小学校非就学児数(1999ー2006) 1999 (000) 2006 (000) 世界 103、222 途上国 99、877 アラブ地域 7、980 アフリカ 45、021 南西アジア 36、618 東アジア・太平洋 75、117 6、079 9、535 3、522 2、631 中南米 71、911 5、708 35、156 18、203 VI. 識字の複雑な諸問題 1.識字は、単なる教育問題ではなく、文明発展の要因でもある 2.はじめは権力と都市に集中 古代は読み書きはPrestige 3.象形、具象から,表音,記号化,抽象化へ 4.社会,文化の発展、広域化は口承文化だけでは維持できなくなる 5. 文字:祭司、政治,経済、行政,軍事、学問、科学,文化の全域に 不可欠となる 6.非識字者の主流からの疎外と社会問題化:貧困、下層化、隔離、差別、 迷信、社会停滞、人権問題、犯罪 7. 政治の問題であるとともに,Political will の欠如、識字と社会の民主化 は密接に関連 8. 言語問題と識字言語の選択:母語、国語,公用語、地域語、通商語、 教育語 言語政策の重要性、グローバル化と国際言語 9.識字言語と人間の価値観、社会性、態度,社会規範との関係 言語と文化的アイデンティティー,意識化 10. 経済、 雇用と識字、経済発展の要因 11. 主流文化への同化か 稀少文化の保護,伝統の保持か 12. 識字教育と学校教育の違い、専門性の欠如,財政的困難、識字教育の 目的と動機付け。 VII. 現代社会における非識字の問題と危険性 非識字と教育格差 ー自己学習、生涯学習への不適応 −新知識、情報の習得、理解が困難 ー行動範囲の制約 ー人間的成長の限界 ー教育の重要性の認識の欠如 −非識字の社会的再生産 社会経済的変化への不適応 −イノベーション、革新への抵抗勢力 −伝統固守的個性とと社会勢力 ー諸分野における格差の増大と社会的停滞 −資格社会における疎外と非雇用、社会的Marginalization ー貧困と低購買力 −国内国際基準の無理解と不法行為 政治的、外部からの煽動、宣伝.Manipulation への無防備 −犯罪とテロ行為 −国際的伝染病 ー新しい社会コードの無理解と社会参加の限界 VIII.非識字問題への挑戦:NGOの役割 1.政府や主要国際機関の学校教育への集中と識字に対する 無関心:POLITICAL WILL の必要性 ー小学校教育の拡充だけで識字問題の解決は不可能! ー非就学児と大量のドロップアウト=成人非識字者集団の予備軍 ー成人非識字者の子供の教育への無理解と非識字の再生産 ー小学校教材は成人非識字者の学習には不適切 2.学習者の多角的ニーズと関心の把握と柔軟な対応 3.時代の要請を察知し、識字教育の内容やアプローチを適合 特に文化の多様性や環境問題の重視、温暖化対策、資源の 有効利用、疾病や伝染病対策等 4.草の根の学習意欲の促進、村落の活性化、生きる喜びと 人間の誇り、人権の尊重、生活の質と収入の向上、 5.日本の寺子屋や公民館の経験の活用 6.国際協力を通した日本社会の共生意識の醸成とグローバル な責任の自覚:日本の若者の参加
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