診療の場以外での患者との関わり

24
診療の場以外での患者との関わり
ま
眞
み
ず
水
ひ
飛
か
る
翔
地域医療病院である新潟県立柿崎病院で働き始
格別である。ここ数年、当院以外にも民謡流しに
めてもう4年目になる。ここで働き始めたときに
参加する団体が増えてきている。楽しく踊ってい
は余裕もなく、数多くの外来患者や入院患者の対
る我々の姿が周りの人々の気持ちを盛り立ててい
応を何とかこなしている状況であったが、長くこ
るところが少なからずあるのだろう。やはり、祭
の地域と関わることで少しずつ余裕も出てきた。
りは見ているよりも参加したほうが楽しいのだか
診療の中で、これまで拾い上げることのできな
ら。今後は参加するだけではなく、より完成度の
かった患者やその家族との雑談の重要性にも気付
高い踊りを地域住民に披露することが当院の役割
くことができるようになってきた。そういった中
かもしれない。
で、当院で行っている取組みを紹介するとともに、
地域住民との関わりとして、他にも当院では年
診療の場とは別の面でいかにして患者と関わって
に4回地域住民を対象に講演会を行っている。糖
いけるのか考えていきたい。
尿病や高血圧など身近な話題をテーマに2時間程
まず、当院の理念は、
「患者さんの立場に立っ
度の話をするもので、毎回多くの方に参加しても
た良質な医療を提供し、地域住民の健康維持・増
らっている。その際に、血圧などの測定やお薬相
進に貢献します」というもので、当院の取り組み
談などの場を設けることで患者とスタッフの距離
は基本的にこの理念に基づいたものになる。当院
感を近づけようと試みてもいる。ありがたいこと
のような地域医療病院の特色の一つとして、地域
に毎回好評で、定期外来中にも参加して良かった
住民との密接な関わりがある。その中でも当院が
という声が多く聞かれる。こういった企画の重要
力を入れている行事に「お引上げ商工まつり」が
な点としては、これまで医療機関を受診しなかっ
ある。毎年6月に行われる親鸞聖人の遺徳を偲ぶ
た方の受診を促すことと考えている。講演をきっ
約300年の伝統を持つ祭りである。聖人ゆかりの
かけに自分の健康を見直してもらい、早めの受診
浄福寺や浄善寺の境内を中心に大通りが歩行者天
を心がけていくことが地域全体の健康寿命の延長
国となり、通りの両側に100以上の露店が軒を連
につながる。実際に講演会の後で、話を聞いて自
ねるのである。祭りの最後の夜は民謡流しで締め
身の体調が気になったと言って病院を受診する方
くくられる。この民謡流しには数年前から当院も
も多く、講演会の効果について身を以て体験して
参加しており、院長や看護部長を始め、毎年30人
いる。
また、
講演会が患者同士の交流の場にもなっ
を超えるスタッフが本気で踊っている。民謡流し
ているという声も聞かれ、嬉しく感じている。
の1週間前から毎日1時間程度の練習を行い、一
お引上げ商工祭りや講演会は院外で行う活動で
体感を高めている。当日は約1時間30分の長丁場
あるが、当院では院内でも特徴的な活動を行って
ではあるが、祭りの雰囲気がそうさせるのか、誰
いる。年に2回、夏と冬に患者向けに職員による
も弱音をはかない。当然翌日は筋肉痛である。恐
ハンドベル演奏や、近隣の方のオカリナ演奏、合
らく、踊っているときに患者から掛けられる「柿
唱などを行っている。入院患者の多くは一緒に
崎病院頑張って!」
「先生、
、
踊りにキレがなくなっ
歌ったり、手を叩いたりと楽しんでいる。冬の演
ているよ!」といった激励がスタッフに力を与え
奏会の後にはサンタクロースに扮した院長に職員
るのだろう。踊り終わった後に飲むビールはまた
が引き続いて病棟内でサンタクロース回診を行っ
新潟県医師会報 H28.6 № 795
25
ている。サンタクロース回診では入院患者1人1
いきたい。
人に職員手作りのメッセージカードが渡される。
当院のような地域医療病院では、専門の科以外
この時期の入院患者は、院長サンタクロースから
の患者は診ないといったことはできず、最終的に
の激励の言葉を受けて他の時期よりも早く元気に
大病院に送るような専門性の高い患者であっても
なる傾向がある。この回診に関しては院長や看護
まずは診療することになる。そのため、患者から
部長など、立場が上の人ほどモチベーションが高
得られる情報というものは、どんなものであって
い傾向にあり、今後はスタッフ全体が如何に楽し
も我々にとって大きな意味を持つ。地域医療とい
んでいくかが重要な課題となっている。
うものは、病院スタッフのみならず、地域住民の
診療の場以外での患者との関わりの中で大きな
協力があって初めて成り立つ。当院のいくつかの
特徴として、我々が白衣ではないということが挙
取組みは元々地域住民との関わりを密にするため
げられる。白衣高血圧という言葉があるくらいで
に行っていたが、それによって患者から得られる
あり、患者は白衣そのものに少なからず警戒感を
ものは最終的には我々のメリットになっていく。
覚えるものなのかもしれない。診察の場ではわか
地域のおいしいお店、ここでしか飲めないお酒、
らなかった患者の一面を、祭りや講演会といった
渋滞を避けられる抜け道・・・その全てが診療に重
場では知ることができる。他者の違った一面を知
要かと言ったらそうではないかもしれないが、患
るためには、自分自身が普段と違った一面を見せ
者から教えてもらった全ての情報が私の宝であ
る必要がある。こういった機会が増えるほど周囲
る。病気だけを見ていては患者の本質を知ること
の人々は我々を身近に感じてくれ、頼ってくれる
はできない。地域病院である当院は患者を看取る
ようになると考えている。こういった働きかけの
ことが多く、そのときに多くの家族に「柿崎病院
成果の1つとして、当院には地域住民による院内
で最期を迎えられてよかった」と言っていただけ
ボランティアの方々がいる。主に患者の案内や車
る。その言葉は本当にありがたいもので、患者と
椅子利用者の介助、花の水替えや屋外の草取りな
密に関わってきたからこそいただけたものだと考
どの協力をしていただいている。こういった方々
えている。地域に信頼される病院を目指して、柿
も当院の取り組みに共感して、力を貸してくれて
崎病院は今後も地域住民を大切にしていく。
いる。地域医療病院ならではの特色であり、ボラ
(県立柿崎病院)
ンティアの方々とも力を合わせて病院を良くして
新潟県医師会報 H28.6 № 795