認知症の新しい臨床学、病態学

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綜 説
認知症の新しい臨床学、
病態学
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野
小 野 寺 理
1.認知症理解の変貌
神経症状が示されるとする考えである。従来神経
従来認知症は、脳の運動系、感覚系以外の機能
学は、この機能局在説に基づき体系づけを行って
に関する慢性の障害として捉えられてきた。これ
きた。これは静的かつ点的な捉え方といえる。し
らの複雑な機能について、
局所解剖学との関連で、
かし、脳は各機能拠点が別々に活動するわけでは
その症状のカテゴリー化が試みられ、それに応じ
なく、各機能拠点間で繋がりを持ち、ひとつの大
て、疾患の分類がなされてきた。これは特定の臨
きな機能単位として活動する。この考え方は、先
床系には特定の病理的、生化学的背景があるとす
の考え方を、より広げ面として、ネットワークと
る仮説に基づき疾患の原因を解明しようとする物
して脳機能を捉えるといえる。さらに、ヒトの脳
であった。この試みは、混沌とした領域で、共通
は、この局所の活動性や、その間の繋がりを、環
する臨床症状を持つ症例を抽出し、その共通項を
境変化に応じて俊敏に変化させる。この活動性の
探る上で、一定の成果を上げてきた。しかし、近
ダイナミズムを動的な脳機能と本稿では定義する。
年の神経学の進歩は、臨床症状と、その生化学的
機能局在に基づく静的な脳機能
な背景の対応が、従来想定されているより緩やか
脳の静的な機能は、情報の整理とアウトプット
であるころを明らかとしてきた。特にパーキンソ
に大別される。情報の整理では、一次情報を解釈
ン病や、筋萎縮性側索硬化症などの運動システム
可能な情報に加工する機能と、その加工した情報
の異常と認知症との間に、従来想定していなかっ
を解釈する機能に分かれる。解釈するためには、
た病態面・臨床面での密接な関連があることが明
比較する情報のストックが必要であり、それが記
らかとなってきている。
憶の一部である。一次情報を処理する経路は、所
認知症の理解は、その原因となる生化学的異常
謂、視覚路、聴覚路といった経路であり、この解
については、近年、収束に向かっている。しかし、
釈時に問題を生じると、幻覚や異常行動となる。
一方、臨床面では、その臨床症状から生化学的背
感覚情報の解釈は、今までの経験との比較が大き
景を正確に予測できないという、臨床診断の限界
な影響を与える。この経験ストックが個人の記憶
が明らかになっている。この点から、認知症を含
である。従来、認知症というと、この記憶に主眼
めた神経変性疾患の臨床的な理解・診断に、大き
が置かれてきた。
な変革のうねりが押し寄せてきている。さらに、
臨床的に良く聞く訴えの一つに“最近物忘れが
ヒトの脳機能には、神経細胞のみでは無く、グリ
多い”
という訴えがある。この訴えを聞いた場合、
ア細胞、さらに微小血管系の関与が重要であるこ
多くの臨床医はアルツハイマー病を疑うであろ
とも明らかとなり、その病態学の理解にも大きな
う。しかし、
この“物忘れ”という言葉がミスリー
変革が押し寄せている。本稿では、これらの認知
ディングである。記憶という言葉には、少なくと
症の新しい側面について紹介したい。
も4つのプロセスが内在している。つまり、記憶
を留める、体系化する、保持する、取り出す、で
2.認知症の臨床学
ある。これらの何れが障害されても、記憶は障害
脳機能は大別して、静的な脳機能と、動的な脳
される。それではよく言われる物忘れとは、この
機能に分けられる。
ここで言う静的な脳機能とは、
プロセスの何処の障害をさすのであろうか?その
脳の局所が特有の機能を持ち、その障害で特有の
前に、まず記憶の種類について整理したい。
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記憶には言語化できる記憶と、出来ない記憶が
憶現象の欠落である。これは本症が海馬を主体と
存在し、それぞれ、宣言記憶と、非宣言記憶と称
することに対応している。一方、前頭側頭型認知
される。宣言記憶には、エピソード記憶と、意味
症は、体系化した記憶の崩壊、混乱である。体系
記憶が存在する。我々は、その場その場の記憶は
化された記憶は分散してストックされるために、
作業記憶として保存するが、その中で、ある程度
特定の記憶が綺麗に抜け落ちるのでは無く、イ
印象深い事象を、その時に特有の特別の事象とし
メージとしては薄れていく、粗になっていく状態
て記憶する。この時、場所のタグが付いた記憶が
ではないだろうか。
エピソード記憶である。そのエピソード記憶から
次に情報のアウトプットであるが、思考として
普遍性のある物を抽出し、体系化し、長期保存が
の内面的なアウトプットと、実際に外界に影響を
可能な形にした記憶が意味記憶である。この両者
及ぼす行動や、言語のアウトプットがある。行動
の移行は、時間系列に沿ったなだらかなものであ
のアウトプットには錐体路系、報酬により学習さ
り、特定できるか、出来ないか、普遍性を持つか、
れる錐体外路系、繰り返しの教師付学習経路であ
持たないかで区別されると考える。意味記憶は、
る小脳系の3系統が存在する。そして、これらの
エピソード記憶を経て形成され、そして、豊富な
アウトプット系は、大脳皮質の各領域と密接な関
意味記憶を持っているほど、エピソード記憶は、
係を持つ。
その入り口から類型化されやすく、その特殊性を
動的な脳機能
失う。一方、意味記憶が無いと、入ってくる一次
前頭側頭型認知症の臨床像の多様性や、アウト
情報の違いのみが強調され、体系化できないとい
プット系と大脳皮質の密接な関係は、従来の単一
う弊害がもたらされる。記憶は、物事の特殊性と
部位による特定の機能障害で脳機能を捉える困難
普遍性の間のバランスの上に成り立っている。
さを指摘している。実際、近年注目されている、
認知症の代名詞と言われるアルツハイマー病
デフォルトモードネットワーク仮説は、脳が定常
は、エピソード記憶の障害である。エピソード記
状態で、複数の箇所がネットワークを形成して活
憶の特徴は、特殊な普遍性のない記憶であり、一
性化しており、このネットワークの乱れが、疾病
回で、繰り返すこと無く覚える必要がある。その
に繋がるとする仮説である。
このような考え方は、
代わり、その細部は、多くの意味記憶で代替され、
明確に、局在機能の単純な集合体として脳機能を
実際とは異なる物となり保管され形成されてい
理解することの限界を示している。さらに後述す
く。一方、意味記憶を形成するためには多くの経
るように、生化学的にも、その局在の概念は以前
験、繰り返しが必要で、エピソード記憶を繰り返
より曖昧となってきている。これらの事実は、複
し、その共通性を抽出しカテゴリー化する努力が
数の脳領域の繋がりを重視し、より俯瞰的に脳機
必要である。エピソード記憶は海馬が重要であり、
能を捉える必要性を示唆している。
一方、意味記憶は大脳に広く分散し、多面的にス
さらに、この脳の活動場所の切り替えは、ヒト
トックされる。つまり意味記憶は冗長性を持ち、
の大脳機能にとって大変重要な機能であることが
ある局所の障害で、全てを失うことが極めて希な
強調されてきている。ヒトは、活動部位を素早く
ことを示唆する。
切り替えて、状況に対応した対応を行っている。
アルツハイマー病の訴えで代表的な“物忘れ”
これを司る機構の一つが、神経活動依存性の血流
は、
“記憶した事”を失ってしまうと言うニュア
再分布機構である。この機構は、必要なところに
ンスを与えるが、起こっていることは、このエピ
必要な血流を供給し、脳の活動に濃淡を付ける。
ソード記憶の障害であり、記憶の入り口としての
この活動依存性血流調節機構は、エネルギーの効
エピソードが形成されない、つまりそもそも覚え
率的な活用、注意の源、活動に伴う熱の分散を図
ていないということである。エピソード記憶は努
る等の面で大変重要な機能であり、人間の精神活
力して記憶するものでは無いので、覚えられない
動のダイナミズムの根源をなしている。しかし、
のでは無く、覚えないという事である。よって忘
従来、この視点での脳機能評価方法は乏しく、主
れるという獲得した物を失うイメージでは無く、
に、静的な脳機能の評価が臨床の現場では重要視
ここで起こっていることは、積極的な前向きの記
されてきた。今後は、この動的な機能を俯瞰的に
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捉える臨床神経学の発達が望まれる。
産生と排泄のバランスが悪いという事に帰結す
る。産生面では、
タンパク質の産生の問題として、
3.認知症の病態学
産生過剰等の量の変化、翻訳後修飾によるタンパ
蓄積するタンパク質毎にシステム選択性がある
ク質の質の変化が引き金となりうる。実際、アミ
この様な認知症を来す疾患と運動系を侵す疾患
ロイド前駆体タンパク質や、αシヌクレインの
の密接な関連の指摘という、新展開は、生化学的
遺伝子を3コピー以上持つ疾患が明らかになって
な発見に裏付けられている。従来、認知症は、特
いる。さらに可能性として、タンパク質を形作る
定のタンパク質が、大脳の特定の領域に蓄積する
RNA の分解機構の障害が背景となる可能性が考
と考えられ、その同定を目的に研究が進められて
えられる。我々は、想像以上に、冗長性のある異
きた。近年の神経学の大きな発展の一つは、この
常 RNA を産生しているが、これらの多くを、タ
点がより明確となり、認知症をはじめとする神経
ンパク質となる前に分解する機構を持っている。
変性疾患で蓄積するタンパク質が同定されたこと
これらの機構が衰えた場合、通常では存在しない
である。同定された主要なタンパク質は5種類に
タ ン パ ク 質 が 蓄 積 す る 可 能 性 が あ る。 加 え て
限られる。驚くべき事に、これらは、他の運動障
DNA の障害の蓄積の可能性がある。神経細胞で
害を来す神経変性疾患にも共通していた。
つまり、
も核酸損傷は頻回に起こり、その修復がなされて
多様な神経変性疾患は、蓄積するタンパク質から
いる。これらの損傷が蓄積することにより、異常
は、僅か5種類に大別されることになる。
蛋白質の産生に繋がる可能性もある。
一方、大脳の臨床症状は、皮質、錐体路、錐体
一方、排泄の面からは、タンパク質の分解機構
外路に大別される。現在の臨床症状に伴い分類さ
の劣化、さらに脳実質外へのこれらタンパク質の
れた神経疾患は、この5種類のタンパク質が、3
排泄機構の劣化の問題が指摘されている。分解機
部門の何処に溜まるかにより規定される。5種類
構としてはユビキチンプロテアソームシステムが
全て皮質の神経細胞に蓄積し、認知症の臨床系を
有名である。実際、これらの蓄積タンパクの一部
示す病型を示す。加えて、各々のタンパク質で、
はユビキチン化されており、通常は、ユビキチン
錐体外路系、錐体路系に蓄積しやすい特性がある。
プロテアソームシステムでの分解を受けると推察
さらに溜まる細胞が、神経系かグリア系かで異な
される。
これらのシステムの分解機能が衰えれば、
り、神経系の場合は、初期には運動系と、認知系
その結果として、
蓄積することは容易に想定できる。
の臨床症状の明確な違いがあるが、進行に伴い、
これに加えて、近年注目されているのが、その
両者はお互いに移行することが明らかとなってき
排泄機構としての脳小血管と、その周囲の空隙で
ている。つまり、何らかの関係性をもって病巣が
ある。
昔から脳にはリンパ系が見出されておらず、
広がることを示唆している。錐体外路系と後頭葉
脳がどのように老廃物を排泄しているか、そのこ
はαシヌクレインが蓄積し、パーキンソン病と
とに関して、
思いをはせる人がいなかった。近年、
レビ - 小体型認知症となる。また錐体路系と前頭
この脳内のリンパ系の候補として、脳の微小循環
側頭葉にはTAR DNA-binding protein 43 kDa
(以
系と、その周囲の血管周囲腔の存在が注目を集め
下 TDP-43)や fused in sarcoma(以下 FUS)が
ている。従来脳の微小循環系は、薬理学的に血液
蓄積し、筋萎縮性側索硬化症と前頭側頭型認知症
脳関門という特殊なシステムを持つ面が注目を集
となる。またグリア系の疾患は、主として、錐体
めてきた。しかし、
脳の微小循環系の持つ役割は、
外路系の症状を示す。これらの生化学的解析が明
これだけでは無いことが明確になってきている。
らかとしてきたことは、従来の認知症の概念を超
その一つが排泄機構としての役割である。実際、
え、関連性の強い脳領域にそって病変が広がって
脳の微小血管系にアミロイドが蓄積し、認知症を
いく一連の疾患群として捉え方、運動系と、認知
来すことはよく知られている。またアルツハイ
系の疾患を明確に分けられない側面を示している。
マー病と脳微小循環系の障害との間に関連がある
何故タンパク質が蓄積するか?
ことが疑われている。一部のアルツハイマー病で
これらのタンパク質が蓄積するメカニズムつい
は、この排泄が滞り、脳内の蓄積を助長するので
ても、知見が集積している。溜まると言うことは、
はないかと想定されている。実際アルツハイマー
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病では髄液中のアミロイドタンパク質が減少して
たない。しかし、局所的脳血流量を実時間で測定
おり、この仮説を支持する。
できるような手法が開発されれば、この機能は、
何故病気が進むのか?
脳全体の機能を測る指標となる可能性がある。神
この病変が、ある法則性を持って脳内に局在す
経活動依存性の血流再分布機能を司っているメカ
る仕組みは、まだ十分には解明されていない。最
ニズムに関しては、ようやく研究が始まったばか
も可能性が高い仮説は、変性したタンパク質が種
りであり、いずれにしれも毛細血管レベルでの血
となって、健常な細胞に伝わり、そこでまた変性
流調節が重要考えられる。この動的な血流調節に
を引き起こすというプリオン仮説である。現在で
寄与するのが、血管壁の周皮細胞であり、平滑筋
はパーキンソン病を引き起こすαシヌクレイン
細胞であると考えられている。
興味深い事に、種々
と、タウに関しては、これを裏付ける実験結果が
の疾患で、これらの変性が指摘されている。これ
蓄積されつつある。一方アミロイドβ、TDP-43、
らの細胞の変性下では、効率よい血流再分布が出
FUS に関しては十分な証拠は無い。このような
来ず、結果として注意の低下、遂行機能の低下を
機序の仮説は興味深い仮説であるが、その感染性
引き起こすと考えられる。骨格筋の老化がサルコ
は極めて低いため、実際のヒト - ヒト間での感染
ペニアとして注目を集めているように、脳の筋肉
が示された例は、パーキンソン病に対する胎児神
である、これらの細胞も老化することは、容易に
経細胞移植例での、移植細胞内でのレビ - 小体の
想定される。小血管の老化は、
これのみでは無く、
みである。今後、この伝播する仕組みと、その伝
前述した排泄の低下も来すと考えられる。
播を押さえる方法が一つの治療方法として提案さ
れてくると考える。
4.我々は認知症を制御出来るのか?
一方で、その始まりの機序がまだ不明である。
新しく神経細胞を入れれば良いのか
興味深い事にパーキンソン病では、腸管周囲の自
この様な新たな知見は、認知症克服への道を開
律神経細胞、もしくは鼻の嗅神経から始まる可能
くのであろうか、先に述べた、産生と分解の経路
性が指摘されている。これらの神経は、外界の刺
を標的とした治療は一つの目安となろう。
一方で、
激に直接接する可能性が高い神経細胞である。こ
再生医療に熱い視線も注がれている。元々、脳で
の事実は、環境要因と神経変性疾患の関連を考察
最も再生能が高いのは海馬である。それに比して
する上で大変興味深い。これらの事実から明らか
他の領域での再生能力は極めて乏しい。海馬での
となったことは、システム選択性が、従来通りの、
再生能力が活発であることにはそれなりの理由が
一つのシステムという考えでは無く、複数のシス
ある。
海馬はエピソード記憶の産生の場所である。
テムに広がるという事実である。この緩やかなシ
この為には、
繰り返しのない刺激で記憶を産生し、
ステム選択性が明らかとしたことは、臨床症状だ
意味記憶への橋渡しを終えた後は、速やかに消去
けで背景とする生化学異常を推定することの困難
し、次のエピソード記憶の産生に備える必要があ
さである。生化学的な機序をターゲットとした根
る。つまり海馬の記憶は、
生得的に、
定常的であっ
本的治療方法が提案された場合、その立証には、
てはいけず、体系化したあとは速やかに消去する
症状のみでは無く、何らかの生化学的マーカーが
必要がある。その為にも、この部位は生まれ変わ
必須で有ることは明らかである。このような生化
り続けることの利点がある。それに比して、意味
学的なマーカーの検索が急務である。
記憶は脳全体に分散して保持される記憶であり、
脳小血管の老化による認知症の可能性
忘れてはいけない記憶である。その意味から、再
これら異常蛋白質の蓄積による細胞障害は、局
生に対して、生理学的に拮抗する機能である。新
所的な脳老化のとらえ方といえる。
それに対して、
たな神経細胞を導入することにより、あらたな意
神経活動依存性の血流再分布障害は、今まで注目
味記憶を形成していくことは可能ではあると思う
されてこなかったが、老化や疾病に伴う、脳機能
が、その再構築にはかなりの時間を必要とするこ
の低下として注目に値する。これは頭の切り替え
とを覚悟する必要があろう。一方でエピソード記
や、注意等に密接に関与する能力といえる。我々
憶障害に対しては有効な手段となる可能性は内在
は、現在、この機能を定量的に評価する方法を持
している。しかし、もし、このような試みが成功
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したとしても、今想定されている機序からは、挿
ある。しかし、脳機能には、この多様な機能全体
入した神経細胞に、異常が引き起こされる可能性
を俯瞰できる臨床体系がいまだ形成されていな
が想定される。つまり、移植医療の成否は、再教
い。しかし、認知症は、決して、単独で存在する
育と、異常の拡散の各々のスピードのせめぎ合い
ものでは無く、脳全体の緩徐に進行する機能不全
で規定され、その正否は、現時点では不明瞭と言
としての見方が必要である。来たるべき時代に、
わざるを得ない。
脳の静的、動的脳機能を、俯瞰的に評価できる新
脳小血管を守る
たな評価軸の設定が望まれる。
一方、動的な脳機能と排泄系を司る脳の微小循
環系を守るとする考え方がある。これは一部の患
文献
者さんには確実に効果を上げる可能性がある。従
本稿は、通常の論文の形式では無く、今までの
来、小血管の保護を目的として、降圧療法がなさ
知見を集約して、出来るだけ解りやすい言葉で伝
れてきた。この治療は確かに小血管の老化を防い
えることを試みた。参考文献として下記の物を列
できたことが推察される。実際脳出血の減少は、
挙させていただく。
そのことを意味する。今後は、その分子病態を解
1)Buzsáki G, Moser EI : Memory, navigation
明し、降圧のみならず、分子病態にあった、脳小
and theta rhythm in the hippocampal-
血管の保護治療を模索することも重要であろう。
entorhinal system. Nat Nerosci 2013 ; 16 :
認知症に対する抜本的医療の問題点
130-138.
最後に、もしこれら認知症に対する早期介入療
2)Dubois B, Feldman HH, Jacova C, et al :
法が開始された場合の倫理的問題点について考察
Revising the definition of Alzheimer's
したい。確実な早期介入療法が提案できていない
disease : a new lexicon. Lancet Neurol 2010 ;
状態では、誰に検査を行い、いつ介入するかは、
9 : 1118-1127.
大変大きな倫理問題を内在する。さらに、
本症は、
基本的には加齢による疾病であり、加齢による脳
3)Budson AE, Price BH. : Memory dysfunction.
N Engl J Med 2005 ; 352 : 692-699.
機能の低下に関する医療費を、何処まで国が負担
4)Angot E, Steiner JA, Hansen C, et al : Are
していくか。加えて、介入が可能となった場合、
synucleinopathies prion-like disorders?.
その伸びた寿命に社会としてどのように対峙して
Lancet Neurol 2010 ; 11 : 1128-1138.
いくのかという問題がある。加えて、認知症患者
5)Hill RA, Tong L, Yuan P et al : Regional
の一部は、脳のみでは無く、骨や、多臓器に複合
Blood Flow in the Normal and Ischemic
的な疾患を内在している、バランスのとれた個体
Brain Is Controlled by Arteriolar Smooth
としての統合的な医療をどのように提案していけ
Muscle Cell Contractility and Not by
るか、医療の選択肢や社会の複雑化と共に、社会
Capillary Pericytes. Neuron 2015 ; 87 : 95-
として、認知症医療に何を求めて、どのような解
110.
決策を提案できるのか、認知症医療の治療に向け
6)Hall CN, Reynell C, Gesslein B, et al :
た研究は、このような社会面の問題と共に検討さ
Capillary pericytes regulate cerebral blood
れて行くべきと考えている。
flow in health and disease. Nature 2014 ;
従来神経学では、特定の臨床系には特定の生化
508 : 55-60.
学的背景があると考える信念に基づき、その解明
7)Jucker M, Walker LC : Self-propagation of
が行われてきた。しかし、他の臓器では、その病
pathogenic protein aggregates in
態の生化学的背景に拘わらず、その臓器の総体と
neurodegenerative diseases. Nature 2013 ;
しての機能を評価し、治療方法の開発が行われて
501 : 45-51.
きた。その背景にはその臓器の機能の最終的なア
8)Louveau A, Smirnov I, Keyes TJ , et al :
ウトプットを評価する方法が発達してきたことに
Structural and functional features of central
ある。例えば、心臓の駆出率であり、呼吸器の血
nervous system lymphatic vessels. Nature
中酸素濃度、腎臓のクレアチニンクリアランスで
2015 ; 523 : 337-341.
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