論説 平成26・27年度日医委員会答申を受けて その1

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論 説
平成26・27年度日医委員会答申を受けて
その1
日本医師会には多数の委員会が設置されており、概ね2年ごとに報告書または答申を作成している。
それらの文書の中から、会員に重要と思われるポイントを当医師会の担当理事にまとめてもらい、毎号
3ないし4編ずつ本会報に掲載する。原文は日本医師会ホームページ「メンバーズルーム」で閲覧可能
である。
地域医療対策委員会
-地域医療構想
(ビジョン)
・第7次医療計画に向けての医師会の役割について-
前地域保健部担当理事 高
木
顯
平成20年6月、社会保障国民会議サービス保障
医療を論議していくことが重要と主張し現在の地
(医療・介護・福祉)分科会は「中間とりまとめ」
域医療構想の原型となった。地域医療構想は下記
を発表して急性期病院への資源の集中投入を打ち
の考えの下に各都道府県が策定に当たり、医師会
出し、国も病床機能の分化・連携に向けて急性期
は中心的役割を担う。
病床群を認定するとの提案があった。日本医師会
・‌地域医療構想は、2025年の医療需要を推測し、
はこれに反対し、急性期から慢性期まで切れ目な
地域に必要とされる病床機能の充実に向けて医
く医療を提供すべきと主張し、四病院団体協議会
療機関による自主的な転換・収れんを目指した
と共に出した対案により、各医療機関が自主的に
制度であり、病床削減のための制度ではない。
病床機能を報告する仕組み「病床機能報告制度」
・‌地域医療のあるべき姿は、全国一律に決まるべ
が、平成26年度から創設された。また、平成22年
きものではなく、実情に応じて地域ごとに設計
12月、社会保障に関する有識者検討会は、
「都道
できるようにする必要がある。そして、地域の
府県ごとに、関係団体や行政が客観的データに基
実情を最も理解しているのは地域の医師会で
づき協議し、地域医療の在り方をデザインする。
ある。
地域資源を効率的に活用しながら、相互の機能分
・‌地 域医療構想調整会議(※1)は、地域の医
担によって、地域医療のネットワーク化を実現す
療提供状況を把握し、必要とされる医療を過不
る」との提言を行った。その後、日本医師会は平
足なく提供できる環境作りのための話し合いの
成25年4月19日、社会保障制度改革国民会議にお
場である。
いて、医療提供体制については、各地域における
・‌各都道府県の構想策定においては、
「構想で示
将来の性別、年齢階級別の人口構成や有病率等か
される数値は4つの機能(※2)ごとの需要(患
ら医療ニーズを予測し、予測された医療ニーズを
者数)の推測値であり、医療提供側のための参
もとに日本医師会、国、都道府県医師会と都道府
考値である。これを目標に行政が施策を進める
県行政、郡市区医師会、市区町村、関係者が地域
ものではない」ことを明記する必要がある。
新潟県医師会報 H28.7 № 796
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地域医療構想による機能分化と連携を進めるた
※1‌ 各都道府県の各構想区域に設置される調
めには、診療報酬の裏付けと医療従事者の確保は
整協議会
必要不可欠である。日本医師会は、
「どの機能を選
※2‌ 病床の4区分で高度急性期、急性期、回
択しても医療経営が成り立つ診療報酬を確保する」
復期、慢性期をいう
ことを目指すと明言しており、
確実な実現を求めたい。
医事法関係検討委員会
-医師法第21条の規定の見直しについて-
広報部担当理事 内
山
政
二
医師法第21条及び同第33条の2に対する改正案
査の端緒を得ることを容易にする必要から定めら
の提言
れた条文である。現行医師法第21条を下記のよう
医師法第21条は、殺人、傷害致死などの暴力犯、
に改めるとともに届出義務違反に対する罰則規定
死体損壊、堕胎等の故意犯など重大刑事犯罪の捜
を削除することを提言する。
【医師法第21条】
現行条文:医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、
二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。
↓
改正案
「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して犯罪と関係ある異状があると認めたとき
○‌
は、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。
」
○同第33条の2(罰則)から第21条違反を削除
【保健師助産師看護師法第41条】
現行条文:助産師は、妊娠四月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、二十四時間
以内に所轄警察署にその旨を届け出なければならない。
↓
改正案
○‌
「助産師は、妊娠四月以上の死産児を検案して犯罪と関係ある異状があると認めたときは、
二十四時間以内に所轄警察署にその旨を届け出なければならない。
」
○同第45条(罰則)から第41条違反を削除
医師法全体の見直しの必要
理を含めた医師法全体の見直し作業およびさらに
現行医師法が制定されてから、まもなく70年に
は、生命・身体傷害を伴う医療事故全てに業務上
なろうとしている。この間医師の業務を巡る環境
過失致死罪を適用することの相当性(例えば過失
の変化は著しく、多数の条文が再検討の時期にき
の程度が重くない事案を親告罪とする工夫なども
ている。当委員会は、この機会に政府に対して、
含めて)につき、時代にあった法律改正作業を一
次の段階として、死亡診断、死体検案の概念の整
刻も早く開始することを強く希求するものである。
新潟県医師会報 H28.7 № 796
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救急災害医療対策委員会
救急医療部担当理事 塚 田 芳 久
二つのテーマで諮問され、小池県医師会副会長
教育やスポーツ分野の救急教育など、社会の理解
が中心となり答申がなされた。現実的、具体的提
や協力を得る活動も加えられている。今後注目さ
案であり、大いに参考になる内容である。
れる救急医療として、事態対処医療と呼ばれるテ
Ⅰ.地域包括ケアシステムにおける救急医療のあ
ロや犯罪時の救急を紹介している。
り方~メディカルコントロール体制の強化~
Ⅱ.指定公共機関としての日本医師会のあり方
高齢化の進む日本に、シームレスな在宅医療・
日本医師会はこれまでの活動が評価され、2014
介護を行き渡らせるため
「地域包括ケアシステム」
年8月に災害対策基本法上の「指定公共機関」と
が施策導入される。一方、日常的ケアの中で医療
なった。防災予防・応急・復旧等に対し内閣総理
が必要となれば、シームレスな医療連携が必要と
大臣が指定したものである。指定されると、災害
なる。包括ケアシステムを水平連携と考え、医療
に際し中央防災会議等から指示や協力要請があ
連携は垂直連携と考え答申書が作られている。垂
る。要請に備え2014年4月には「公益財団法人 直連携にはフリーアクセスを利用した個人受診よ
日本医師会 防災業務計画」や「JMAT 要綱」
り、「かかりつけ医」による包括ケア連携を重要
を策定している。
視し、地域包括ケアシステムの一環とする円滑・
指定公共機関となったことにより、日本医師会
効率的な体制整備を提案している。
は日頃から、①国の災害対策関係機関への積極的
メディカルコントロール体制を広義に解釈する
な参画、②内閣府、総務省、国土交通省、防衛省
と、
「救急搬送体制に限らず、救急医療やその後
等の災害対策関係機関との連携強化、③災害時の
の医療、地域連携や地域包括ケアシステムにおけ
情報収集、情報共有能力の強化に努めることとし
る、安全で適切な医療や介護の提供のための医師
ている。
の統括体制で、医療に携わるあらゆる職種を対象
さらに今後の災害対策として、南海トラフ巨大
とする」
「医療統括体制」
が定義できるとしている。
地震や首都直下型地震等の大規模震災や、2020年
医療統括体制には地域医師会のイニシアティブが
東京オリンピック・パラリンピックを見据えた集
欠かせず、地域密着型の中小病院の存在意義が大
団災害対策や、他の医療関係チーム等との連携な
きくなると述べている。
医療統括体制により
「時々
どを想定した準備を行っている。
入院、ほぼ在宅」が実現可能としている。
他には災害の国際的協定「災害時の医療・救護
医療統括体制の具体的整備には、かかりつけ医
支援における医師の派遣と支援体制における相互
を中心とした地域協議が不可欠とされ、救急搬送
承認に関する日本医師会と各国医師会との間の協
体制強化には民間病院の救急搬送車活用など、施
定」いわゆる iJMAT 構想を取りまとめている。
設入所者の医療適応にはリビングウィル確認など
日本医師会は東日本大震災の中長期医療支援とし
具体的提案をしている。また、救急医療適応の検
て、災害関連死の未然防止、仮設住宅孤独死対策、
討の際には、JRC 蘇生ガイドライン2015にある
心のケアなどを目的に JMAT Ⅱを長期派遣して
倫理・法的課題を参考とすべきと追記してある。
いる。しかし、災害医療小委員会(小池哲雄委員
消防の救急搬送体制強化には、救急救命士の業務
長・新潟県医師会副会長)による経年調査では、
場所制限緩和や救急搬送有料化や指導救命士育
行政においては災害医療に対する意識低下や支援
成・活用などが課題に挙げられている。さらに救
弱体化の傾向があり、対応策が求められる。
急医療参加者の増加には、学校における心肺蘇生
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学校保健委員会
-児童生徒等の健康支援の仕組みの更なる検討-
学校保健部担当理事 石
田
央
はじめに
片方は上から文部科学省-都道府県教育委員会-
日本医師会では、ほぼ2年毎に歴代会長により
郡市区町村教育委員会、もう片方に日本医師会-
傘下の「学校保健委員会」
(現:衛藤隆委員長他
都道府県医師会-郡市区医師会となる。左右の支
20名)にその時々の要請や変化をふまえ、学校保
柱を結合させる踏み桟(足をかけるところ)とし
健の課題についてテーマを絞り諮問がなされてき
て、学校保健会や連絡協議といった組織が存在す
た。ここでなされる答申は歴史的に「学校保健安
る。ハシゴを立てている土台は学校でありその中
全法」及び「学校保健安全法施行規則」の改正に
心は児童生徒である。図の中の各番号にしたがっ
影響を与えてきた事実もありその重大性が認識さ
て、その機能や働きを解説する。
れている。前回「これからの学校健診と健康教育」
(1)都道府県支援組織の構築・関係者連携
について諮問がなされたが、これを検討する中で
国から発信された情報は左のハシゴの支柱に
「学校医以外の医師が参画できる制度の確立」が
沿って都道府県教育委員会に伝達され、右の支柱
緊急の課題であると認識された。前回の答申を受
に沿って日本医師会を経由して都道府県医師会に
けて、今期の諮問は「児童生徒等の健康支援の仕
伝達される。都道府県レベルでは学校保健会、三
組みの更なる検討」についてであった。前回の答
師会、教育委員会が支援組織として存在する。こ
申をさらに深化し、
具体化することが求められた。
れらが運営協議会のような形で支援組織相互の連
特にその中で、1.実効性ある仕組みづくり、2.
携を図り、郡市区町村から情報を集め、各地区の事
学校保健を担う学校医の取り組みの推進と資質の
情に応じて対応方針の協議に当たるのが役割である。
向上の2点が重点課題であると考えられた。
(2)専門医の登録
1.実効性ある仕組みづくり
「子供の健康守る地域専門家連携事業
(文科省)」
Ⅰ 最近の学校を取り巻く環境の変化
に基づき各地で専門医派遣事業が展開されている。
最近の学校を取り巻く状況はいじめ・不登校を
(3‌)都道府県の支援組織と郡市区の支援組織の
はじめとするメンタルヘルス問題、運動・活動の
連携
二極化、アレルギー疾患、氾濫するメディアの影響
都道府県支援組織と郡市区の支援組織の関係性
など多岐にわたっており学校医だけでは対処できな
を確保する。
い健康問題が多くなり、専門医の参画が求められて
(4)郡市区の支援組織の構築
いる。環境の変化に応じて法の改正(学校保健安
都道府県から郡市区教育委員会や医師会に情報
全法施行規則の一部改正、地方教育行政の組織及
がもたらされる。支援組織を構築するのは郡市区教
び運営に関する法律の一部改正、文部科学省設置
育委員会、教職員、郡市区三師会学校担当者、保護
法の一部改正等)
もなされスポーツ庁が新設された。
者である。支援組織は支援の具体的内容を検討実行
Ⅱ 健康支援の仕組みの更なる検討
する。健診に例をとれば教育委員会、養護教諭部会、
1‌)「児童生徒等の健康支援の更なる検討」の
医師会が具体的な実施方法、事後措置、結果報告の
図解(図1)※学校委員会答申の図表2
仕方などを事前に検討し各学校や学校医へ通知する。
2)仕組みの説明
今回の答申で学校保健委員会は健康支援の仕組
(5‌)郡市区の支援組織と学校・学校保健委員会
の連携
みを示す図(図1)を完成させた。この図はハシ
郡市区の支援組織で検討された内容のうち学
ゴをイメージすると考えやすい。ハシゴの支柱の
校・支援団体、保護者が共有する事項は学校保健
新潟県医師会報 H28.7 № 796
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会を経由して伝達可能となる。その後各学校保健
委員会でさらに具体的検討される。
2.‌学校保健を担う学校医の取り組みの推進と資
質の向上
(6)学校現場での学校保健活動の実行
学校医がカバーしなければならない範囲は非常
学校保健委員会で児童・生徒の健康問題を取り扱う。
に広く、質の向上が必要である。
(7)学校医の学校訪問
研修会への参加義務や指定・認定学校医制度(大
学校医は日頃から学校を訪問し実態を踏まえて
阪府、京都府、奈良県、徳島県、鳥取県で行われ
指導・助言を行う。
ている)が必要である。
以上、図示したような構造のもと各団体組織が
学校医は日常的に学校を訪問し常に養護教諭など
機能を果たし、連携を図れば、児童生徒の健康支
と情報共有を図り、学校保健委員会などに参加する
援は軌道に乗るものと考える。
だけでなく立案に参画し、学校保健活動を専門家の
以上が図1の説明である。
立場から評価し、改善点などを助言する必要がある。
図1 児童生徒等の健康支援の仕組み
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