データ収集・入力の負担を軽減する 工夫と他部門との連携の図り方

特集 病棟単位でできる・すべき“評価指標データ”
のマネジメントへの活かし方
DiNQL事業への参加意義を病棟師長・部署全体に理解させる!
データ収集・入力の負担を軽減する
工夫と他部門との連携の図り方
徳島赤十字病院 看護部 看護副部長/がん看護専門看護師
町田美佳
1987年小松島赤十字看護専門学校卒業。同年,小松島赤十
字病院(現・徳島赤十字病院)入職。2004年看護係長に就
任,2009年看護師長に就任。2012年徳島大学大学院保健
科学教育部卒業。同年,日本看護協会専門看護師(がん看護
分野)取得。2014年より現職、緩和ケア専従看護師を兼任。
DiNQL事業への取り組み
病棟管理をしている師長自身が最も把握し
以前から当院ホームページでは,新規褥瘡
である。これまでにも何らかの形で自部署の
発生率など8項目のナーシング・インディケー
評価は行ってきているはずであり,同じ行う
ターを公開しており,DiNQL事業には2012年
のであれば,より効果的で信頼性のあるツー
の試行事業に1病棟が参加した。その後,3病
ルを用いる方が有効である。そのツールの一
棟,8病棟と増やし,2016年度にはICU・救
つがDiNQLである。筆者は,DiNQLの具体的
命センターを含む全10病棟の参加となった。
な意義について,師長・係長合同研修会で次
当院は,平均在院日数8.7日,新入院患者
のように話した。
数40.6人/日,病床利用率(在院患者延べ数)
90.0%(2015年度)のDPCⅡ群の急性期病
自部署の重要な評価場面で
DiNQLを活用(図1)
院である。毎日ベッドコントロールから始ま
当院では,各部署のデータ分析結果を発表
る忙しい師長業務の上に,DiNQLのデータ収
する機会が年2回あり,SWOT分析で現状把
集が加わる負担感から,「データ収集・入力
握をする時のデータとして,DiNQLが活用で
に精いっぱいで,とても活用までいかない」
きるとアピールした。
と,入力そのものが目的のように思う時期も
一つは3月の師長会議で,自部署のSWOT
あった。多忙な中で参加病棟を増やしてきた
分析で明らかになった「強み・弱み・機会・
経験から,最も重要なのは「DiNQLのメリッ
脅威」から,次年度の課題を発表している。
トを師長に理解してもらうこと」であり,同
もう一つは,院長が司会をする毎月の部門別
時に,データ収集・入力に伴う負担を軽減す
ることが必須であると実感している。
DiNQLの意義を理解する
DiNQLの必要性を理解することが重要と言
われても,実際にどのように説明すれば良い
のだろうか。筆者は,自病院にぴったり合っ
たDiNQLの具体的な活用場面をとらえること
たいことは,自部署の日々の看護実践の評価
図1 ● 定期的に入力するDiNQLデータを
SWOT分析や看護目標・評価に活用する
年度末のSWOT分析
DiNQL
構造
病棟目標決定
部門別戦略会議
4半期の病棟目標評価
過程
結果
がコツであると考える。
ナースマネジャー 看護師長のアクション! Vol.18 No.4
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図2 ● DiNQLと目標管理との連動
戦略会議で,各部門の課長や師長が自部署の
データ分析から経営戦略を発表している。経
営参画について他部門に納得してもらえるプ
レゼンテーションをするには客観的データが
求められるため,DiNQLの活用が有効である
と考える。
①自部署のベンチマーク評価が分かる
SWOT分析で毎年データを重ねても,自部
看護職は,目標のつながりの中で,質の高い看護
を目指して,日々研鑽に励んでいる
病棟としてDiNQL事業に参加する目的を,目標と
結び付けながらスタッフに明確に説明する
DiNQLへの取り組みやベンチマーク結果を活用し
て,仕事や目標達成に対するスタッフの動機付け
を図る
病院
目標
看護部
目標
病棟
目標
個人
目標
署の過去と比較した増減や傾向しか分からず,
自部署の強みがはっきりしなかった。例えば
いるデータがどれなのかが分かった。これま
褥瘡発生の院内比較では,高齢の骨折患者が
ではすでに院内にある偏ったデータ収集に時
多い整形外科と予定のカテーテル検査が多い
間を掛けてきたが,DiNQLでは質の評価の枠
循環器科では,患者や看護師の背景が異なる
組みで構成された136の統一した指標での比
ため,あまり参考にならなかった。
較ができる。しかも,定期的にデータ入力さ
しかし,DiNQLでは全国3,000以上の参加
れていくのが非常にありがたい。
全病棟と,自部署とよく似た病棟との両方の
目標管理にDiNQLを活用(図1,2)
ベンチマークが分かる。自部署の値と中央
師長がDiNQLをSWOT分析に使うだけでは,
値,最小値,最大値が示されるので,自部署
看護の質は改善されない。なぜなら,師長一人
の強みや弱みを把握することができる。
が頑張っても,看護を日々実践しているのは
②師長が知りたい数値は,院内のどこかにある
スタッフであり,病棟全体で取り組まなければ
DiNQL事業に参加する以前は,2月になる
看護の質の成果には結び付かないからである。
と慌ててデータを集めていた。在院日数や手
病棟目標は,病院理念や看護部理念・目標
術件数,薬剤関連のインシデント件数など,
と,DiNQLのデータから得た自部署の強みや
どの部署もよく似た項目で,それ以外は,各
弱みを照らし合わせて決定する。2015年度は,
師長が気になる項目を独自に収集していた。
当院で新たな目標管理方式を取り入れた年で
例えば,冬にベッド不足で困った年があり,
あり,このタイミングで,目標管理とDiNQLを
入院期間のめどが付けづらい心不全や,転院
掛け合わせる具体例を師長・係長に提案した。
先を探すのが困難な高齢・認知症患者が多い
①DiNQLで取り組む褥瘡の改善の例
という感覚を基に,日誌や帳票から手作業で
全病棟の中でA病棟の「褥瘡推定発生率」
数えてみた。その結果,心不全と高齢・認知
はそれほど高くないが「危険因子評価の実施
症患者の増加によるベッド不足であったと納
割合」が低い評価が出た(図3,4)。さらに,
得したが,アウトカムばかりで改善には結び
類似した病棟と比べて,
「褥瘡推定発生率」と
付かなかった。
10
「危険因子評価の実施割合」が中央値以下で
その後,病名別患者数は診療録管理室で得
あることを確認した(図5,6)。師長は,看
られるというように,データが容易に出る部
護の質向上に向けて,「褥瘡推定発生率を減
署や,手術件数のように企画課が毎月出して
少させるために,危険因子評価の実施割合を
ナースマネジャー 看護師長のアクション! Vol.18 No.4
図3 ● 全病棟中の褥瘡推定発生率
図4 ● 全病棟中の褥瘡に関するレーダーチャート
褥瘡推定発生率
■自病棟 ●他病院
(%)
25.0
(DiNQLベンチマーク結果より)
22.5
褥瘡推定発生 率
20.0
骨突出部の
体圧測定の
実施割合
新規褥瘡の
改善率
17.5
体圧分散
用具
使用割合
15.0
A病棟
12.5
10.0
既に有して
いた褥瘡の
改善率
7.5
5.0
2.5
0.0
0
50 100 150 200 250 300 350 400 450 500(人)
病棟:100床あたり常勤換算看護職員数
図5 ● 類似病棟との褥瘡推定発生率比較
危険因子評価の
実施割合
自病棟 ■
病棟:2014年度褥瘡ケア
研修の参加率
偏差値50 ■
■
図6 ● 類似病棟との褥瘡に関する比較のレーダーチャート
改善点
■自病棟 ●他病院
弱み
(DiNQLベンチマーク結果より)
(%)
2.3
A病棟
褥瘡推定発生率
2.0
最上位
1.8
1.5
褥瘡推定発生率
骨突出部の
体圧測定の
実施割合
強み
新規褥瘡の
改善率
1.3
体圧分散
用具
使用割合
1.0
0.8
0.5
既に有して
いた褥瘡の
改善率
強み
0.3
0.0
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69(人)
病棟:100床あたり常勤換算看護職員数
中央値まで上げる」と,具体的な病棟目標を
設定する。そして,病棟目標を達成するため
危険因子評価の
実施割合
弱み
看護実践での
改善点
自病棟 ■
さらに
伸ばす
病棟:
2014年度褥瘡ケア
研修の参加率
偏差値50 ■
■
最上位
のスタッフの個人目標は,師長との初期面談
を通じて決定していく(図7)
。
また,スタッフ個人の達成評価にもDiNQL
の指標を用いると,病棟目標へのスタッフ個
図7 ● A病棟の2016年度の目標
新規褥瘡が
減少する
目標達成に
DiNQLを活用
師長
人の役割や目標を具体的に数値で示すことが
できる。各スタッフの日々の看護実践の積み重
褥瘡チームへの支援
ねが,個人と病棟全体の成果に数値で反映さ
れて「個人目標達成=病棟目標の達成」とな
り,スタッフのやりがいや達成感につながる。
さらに,これまで具体的でなかったNSTリ
ンクナースに対して病棟での具体的な役割や
目標値を病棟目標と絡めると,リンクナース
DiNQL
指標で
評価
Aリーダー
A係長
スタッフ スタッフ
褥瘡危険
因子に
ついての
勉強会
適切な
マット
選択の確認
Bリーダー
B係長
NST
スタッフ
委員
危険因子
評価の
実施を確認
骨突出部の
体圧測定
自身のモチベーションアップとなり,看護の
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