1/4 ASIA Indicators 定例経済指標レポート 東南アジアの中銀、動くに動けない状況(Asia Weekly (6/20~6/24)) ~主要国の金融政策や英国のEU離脱を巡る国民投票の行方を注視~ 発表日:2016 年 6 月 24 日(金) 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹(03-5221-4522) ○経済指標の振り返り 発表日 指標、イベントなど 結果 コンセンサス 前回 6/20(月) (台湾)5 月輸出受注(前年比) ▲5.8% ▲7.0% ▲11.1% 6/21(火) (香港)5 月消費者物価(前年比) +2.6% +2.6% +2.7% 6/22(水) (タイ)金融政策委員会(政策金利) 1.50% 1.50% 1.50% 3.96% 3.95% 3.97% ▲1.6% ▲0.8% ▲0.5% +1.89% ▲1.20% ▲3.57% 3.00% 3.00% 3.00% 6/24(金) (タイ)5 月輸出(前年比) ▲4.40% ▲3.20% ▲8.00% 5 月輸入(前年比) +0.50% ▲5.00% ▲14.92% +0.9% +1.0% +3.0% (台湾)5 月失業率(季調済) 6/23(木) (シンガポール)5 月消費者物価(前年比) (台湾)5 月鉱工業生産(前年比) (フィリピン)金融政策委員会(翌日物借入金利) (シンガポール)5 月鉱工業生産(前年比) (注)コンセンサスは Bloomberg 及び THOMSON REUTERS 調査。灰色で囲んでいる指標は本レポートで解説を行っています。 [タイ] ~外的要因に基づく影響の可否を見極めるべく、中銀は9会合連続での金利据え置きを決定~ 22 日、タイ銀行は定例の金融政策委員会を開催し、政策金利を9会合連続で 1.50%に据え置く決定を行っ た。会合後に発表された声明文では、今回の決定について「委員1名は参加出来なかったものの、出席委員の 全会一致で決定した」ことが明らかにされた。さらに、先行きの経済について「以前の見通しに沿う形で景気 回復が続くとともに、年後半にかけてインフレ率は目標域に回復する」とし、足下の金融政策についても「緩 和的で景気回復に資する」との見方を示している。なお、足下の同国経済については「公共投資の拡大や観光 セクターの改善を受けて景気拡大が続く一方、民間投資は依然弱く、輸出も予想以上に弱い展開が続いている」 とし、先行きについては「干ばつによる悪影響は後退しつつあるが、海外経済を巡る不透明感や民間部門の景 況感の弱さに伴う下振れリスクがある」とした。その上で、物価については「足下で食料品価格の上昇を理由 にインフレ率が加速しているほか、景気回復を背景にインフレ圧力は高まるものの、年後半にかけては緩やか に目標域に収まる」とした。金融政策については「緩和的で景気回復を促す」としつつ、足下の金融環境につ いては「一部で資金供給が滞るセクターはあるが、全体的にみて企業向け及び家計向け融資は拡大が続いてお り、世界的な低金利環境が長期化するなか、イールドを求める動きが強まっていることを受けて落ち着いてい る」とした。他方、 「主要国の金融政策の方向性や、英国によるEU離脱を巡る国民投票の結果、中国金融市 場の不透明感が同国経済及び金融市場のリスク要因になる」とし、これらの動向を注視する考えを示した。 24 日に発表された5月の輸出額は前年同月比▲4.40%と2ヶ月連続で前年を下回る伸びとなったものの、 前月(同▲8.00%)からマイナス幅は縮小している。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比は3ヶ月 ぶりに拡大に転じているものの、過去2ヶ月に亘って大幅に減少してきたことを勘案すれば、力強さには乏し い。財別では、主力の自動車をはじめとする輸送用機器は堅調な一方、電気機械などの輸出額は頭打ちしてい るほか、コメや天然ゴムをはじめとする農産品の輸出額も低迷が続いている。一方の輸入額は前年同月比+ 0.50%となり、前月(同▲14.92%)から 15 ヶ月ぶりに前年を上回る伸びに転じている。前月比も2ヶ月ぶり 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2/4 に拡大に転じているが、前月に大幅に減少したことを勘案すれば依然として力強さに乏しい展開が続いている。 結果、貿易収支は+15.38 億ドルと前月(+7.21 億ドル)から黒字幅が拡大している。 図 1 TH 政策金利の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [フィリピン] 図 2 TH 貿易動向の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 ~新たな政策金利の下で初となる会合では、物価安定を理由に金利の据え置きを決定~ 23 日、フィリピン中央銀行は定例の金融政策委員会を開催した。同行は先月 16 日、今月3日付で政策金利 についてコリドー方式を採用することを発表しており、短期金利の下限を短期特別預金口座(SDA)の適用 金利とした上でこれを 2.50%に据え置くとともに、コリドーの幅を 100bp と設定した。結果、短期金利の中 央値となる翌日物借入金利は従来の 4.00%からSDA+50bp(=3.00%)に引き下げられるとともに、短期 金利の上限となる翌日物貸出金利も従来の 6.00%からSDA+100bp(=3.50%)に引き下げられている。今 回は新たな政策金利の下で初めて開催された会合となったが、主要政策金利をすべて据え置く決定がなされて おり、預金準備率も同様に 20.00%で据え置かれている。今回の決定について、同行は会合後に発表下声明文 において「インフレが管理可能な水準にあり、今年のインフレ率はインフレ目標(3±1%)の下限付近に留 まり、来年から再来年にかけては上昇するものの中央値付近に留まる」との見方を反映したものとした。なお、 先行きについては「足下の原油相場上昇の影響が懸念されるが、世界経済の減速がインフレ見通しの下振れ圧 力になる」とし、 「気象要因に伴う食料品価格の上昇リスクも後退している」一方、 「電力料金の改定が物価上 昇リスクに繋がる可能性は残る」とした。その上で、世界経済については「下振れリスクが高まっており、景 気は弱含んでいる」との見方を据え置く一方、同国経済については「旺盛な個人消費や民間投資を追い風に堅 調な推移が続いている」とし、先行きについても「公共支出の拡大が内需を押し上げる」との見方を示してい る。他方、 「主要国における金融政策を巡る不透明感に対する政策的な柔軟性が必要になる」との見方を示し ており、状況に応じて柔軟な政策対応に含みを持たせる考えをみせている。 図 3 PH 金融政策の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [台湾] ~輸出受注を巡る動きは一進一退のなか、生産も同様に一進一退の展開が続いている~ 20 日に発表された5月の輸出受注額は前年同月比▲5.8%と 14 ヶ月連続で前年を下回る伸びとなったもの の、前月(同▲11.1%)からマイナス幅は縮小している。なお、当研究所が試算した季節調整値に基づく前月 比でも、前月に大幅に減少した反動も重なり2ヶ月ぶりに増加に転じているものの、増加と減少を繰り返す一 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3/4 進一退の展開が続いている。主力のIT関連や電気機械関連は依然として力強さを欠くなど、全般的に勢いに 乏しい展開が続いている。国・地域別では、最大の輸出先である中国本土向けに底入れの動きが出ているもの の、米国やEU、日本など先進国向けが頭打ちの展開となるなど、輸出の足を引っ張っている。 22 日に発表された5月の失業率(季調済)は 3.96%となり、前月(3.97%)から 0.01pt 改善した。雇用者 数は前月比+0.3 万人と前月(同+0.6 万人)からペースは鈍化したものの拡大基調が続くなか、失業者数は 同▲0.1 万人と前月(同+0.6 万人)から2ヶ月ぶりに減少に転じている。失業者の動向を巡っては、新卒者 については厳しい展開が続く一方、既卒者については底入れの兆しがうかがえる。その一方、景気の先行き不 透明感を反映する形で労働力人口は前月比+0.2 万人と前月(同+1.2 万人)から拡大ペースが鈍化した結果、 労働参加率も 58.76%と前月(58.77%)から 0.01pt 低下しており、このことが失業率の低下に繋がっている。 23 日に発表された5月の鉱工業生産は前年同月比+1.89%となり、前月(同▲3.57%)から 13 ヶ月ぶりに 前年を上回る伸びに転じた。前月比も+2.53%と前月(同▲0.37%)から2ヶ月ぶりに拡大に転じており、足 下において輸出が一進一退の動きをみせるなかで製造業の生産に底入れ感が出ているほか、発電や給水関連な どの公共サービスの動きは堅調な一方、建設需要の弱さを反映して建設関連は依然として力強さを欠く動きを みせており、商品市況の低迷長期化を受けて鉱業部門も弱含んでいる。 図 4 TW 輸出受注額の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 5 TW 雇用環境の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 6 TW 鉱工業生産の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [シンガポール] ~生活必需品を中心に物価上昇圧力が後退しており、インフレ率のマイナス幅が拡大~ 23 日に発表された5月の消費者物価は前年同月比▲1.6%と 19 ヶ月連続でマイナスとなり、前月(同▲0.5%) からマイナス幅も拡大している。前月比も▲0.65%と2ヶ月連続で下落している上、前月(同▲0.05%)から 下落ペースが加速しており、物価上昇圧力は一段と後退している。食肉や果物などの生鮮品のほか、パンなど の加工品についても食料品価格の上昇圧力が後退していることに加え、原油相場の低迷長期化を反映してガス 価格などエネルギー価格も低下しており、生活必需品を中心に物価上昇圧力が後退している。なお、食料品と エネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+1.02%と前月(同+0.82%)から加速しているものの、前 月比は▲0.07%と前月(同▲0.01%)から2ヶ月連続で下落している。通貨SGドル相場の落ち着きを受けて 輸入物価が上昇しにくくなっていることに加え、景気の先行き不透明感を反映する形でサービス物価も上昇し 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 4/4 にくい状況となっており、結果的に全般的な物価上昇圧力の後退に繋がっている。 24 日に発表された5月の鉱工業生産は前年同月比+1.0%となり、前月(同+3.0%)から減速した。前月 比も▲0.34%と前月(同+4.25%)から3ヶ月ぶりに減少に転じており、拡大と減少が交互に現われる一進一 退の展開が続いている。月ごとの生産動向が大きく変わりやすい一方、生産全体に影響を与えるバイオ・医薬 品関連の生産が前月比+3.76%と前月(同+3.22%)から3ヶ月連続で拡大している一方、バイオ・医薬品関 連を除いたベースでは同▲1.48%と前月(同+4.54%)から2ヶ月ぶりに減少に転じたことが全体の下押しに 繋がっている。主力の電気機械関連のほか、化学製品関連など幅広い分野で生産に下押し圧力が掛かっている。 図 7 SG インフレ率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [香港] 図 8 SG 鉱工業生産の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 ~一部でエネルギー価格が上昇するも、生鮮食料品を中心に物価上昇圧力は一段と後退している~ 21 日に発表された5月の消費者物価は前年同月比+2.6%となり、前月(同+2.7%)から減速した。前月 比も▲0.10%と前月(同▲0.97%)から3ヶ月連続で低下しており、このところの原油相場の上昇を背景に一 部でエネルギー価格の上昇基調が強まっている一方、生鮮品を中心に食料品価格の下落基調が続いており、生 活必需品を巡る物価はまちまちの展開となっている。また、タバコ税の増税などの影響が懸念されたものの、 景気の先行きに対する不透明感に加え、中国本土経済の減速などに伴い来訪者数が頭打ちしていることで消費 財を中心に物価上昇圧力は後退している。なお、2007 年以降断続的に実施されている公営住宅を対象とする 賃料減免措置をはじめとする物価支援策の影響を除くと、前年同月比+2.2%と前月(同+2.3%)から加速し ており、前月比も▲0.10%と前月(同▲0.10%)に続いて下落するなど物価上昇圧力は後退している。 図 9 HK インフレ率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 以 上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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