がん対策と自治医大の取り組み 臨床腫瘍部 教授 藤井 博文 がんという疾患が増加し、少子高齢化社会を迎えてきている現在、今後の医療や社会について対策を 講じて行く必要があります。1981 年に死因のトップががんになって以降、国は様々ながん対策を行い、 2006 年には「がん対策基本法」を制定し、 「がん対策基本計画」 、 「がん対策推進基本計画」を基に県単位 での活動が進められてきています。栃木県立では、県立がんセンターを県拠点病院として中心に据え、 拠点病院を 6 か所に、治療中核病院を 9 か所に配置し、がん診療の均てん化を図っています。 自治医科大学附属病院は県南地区のがん診療を担っており、年間約 3000 名の新患がん患者さんが受診 されています。同域内の新小山市民病院、小金井中央病院では人事交流も含めた連携を、県東で地域が ん診療病院の指定を受けている芳賀赤十字病院とも密接な連携を持って地域がん診療を行っています。 さらに、多くの診療所、訪問看護ステーション等の医療機関とも連携を取りながら、診断から看取りま での幅広い医療をそれぞれが役割分担し切れ目のない医療体制の構築を目指しています。 がん治療には、がんに対する治療として手術、放射線治療、薬物療法、症状等を和らげる緩和ケアが あります。これらにおいては、最も実績と根拠のある治療(=ガイドラインに沿った治療)を安全・確 実に実施し、安心して受けていただく体制の基で行っています。それだけでなく、新しい治療を開発し、 確固たる根拠を構築する手段となる臨床試験も盛んに行っており、研究病院としての位置づけにもなっ ています。がんにおいては、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、霊的苦痛による全人的な苦痛を伴 うため、これらを和らげ安心して治療を受け生活できるための体制が必要です。これには高度な専門性 を持った多職種協働によるチーム医療によって行うことでそのニーズに応えており、例えばがん薬物療 法において当院の外来治療センターでは看護師外来や薬剤師外来を設置し、それぞれの職種の特徴と本 質を生かした業務の意味もこめて行っています。当学大学院は文科省の「がんプロフェッショナル養成 プラン」 、「がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン」事業を行っており、これを基盤として、がん 診療を広げて展開して行くための教育も進めています。大学院生のみならず、学生、院内職員、周辺地 域の医療関係者、地域勤務の卒業生の方々を対象に、講義・講演・セミナー等を通じた学ぶ機会を提供 しています。また、患者さんやご家族、一般の方にもがんを知って正しく理解していただくための支援 として、がん相談支援室での活動、がんサロンの運営、CRIMB 活動、公開講座等も行っています。 医療資源が限られてきている中、医療の質と量の要求は莫大になってきます。2025 年は団塊の世代の 方々が全て後期高齢者になる年であり、それまでに地域で支える医療システムとして「地域包括ケアシ ステム」の構築が進められています。当然、頻度の高いがんは、その中に対策を含んでおかなければな りません。そして、このシステムの運用の担い手は皆さんです。「がん対策基本計画」の趣旨は、「がん 患者を含む国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会」を構築とあります。 これを目標に、課題を一つ一つ、自助・互助・公助・共助を持って解決しながら、安心して生活できる 地域社会を皆さんと一緒に作っていくことが、使命の一つと考えています。 ≪講師略歴≫ 氏 名 藤井 博文(ふじい ひろふみ) 学歴及び職歴 1988 年 3 月 昭和大学医学部卒業 1992 年 3 月 昭和大学医学部大学院卒業 1992 年 4 月 昭和大学医学部附属病院 第一内科助手 1992 年 6 月 国立がんセンター東病院 化学療法科 医員 2001 年 4 月 栃木県立がんセンター 薬物療法科 医長 2006 年 4 月 自治医科大学附属病院 臨床腫瘍部 部長・准教授 2008 年 10 月 自治医科大学附属病院 腫瘍センター長・学内教授 2016 年 4 月 自治医科大学附属病院 腫瘍センター長・臨床腫瘍科 教授 代表的著書 入門腫瘍内科学【第 2 版】 頭頸部癌診療ガイドライン【2013 年】 頭頸部がん薬物療法ガイダンス 制吐薬適正使用ガイドライン【2015 年】 消化器癌化学療法【第 4 版】 乳腺腫瘍学【第 2 版】 耳鼻咽喉科・頭頸部外科の治療 (2015-1016) 理解が実践につながるステップアップがん化学療法看護【第 2 版】 新臨床腫瘍学【初版】 抗がん薬の臨床薬理
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