Book Review 書評 化合物命名法 ̶IUPAC 勧告に準拠̶ 第 2 版 日本化学会 命名法専門委員会 編 B5 判,1 色,200 頁,本体価格 1,400 円 化学と生物 ● 日本農芸化学会 本書は,IUPAC 化合物命名法の解説書の最新版である. 化学を探究する研究者にとって,物質(化合物)を正 編集者である日本化学会 命名法専門委員会の意図が「ま しく命名するのは化学の基本である.IUPAC 規則に則り えがき」に記されているので,以下に要約して示す. 命名すれば,一つの化合物には唯一の名称がつけられるの で誰でも同定できる.ただし,化合物の発見の歴史的経緯 1974 年に日本化学会化合物命名小委員会が,正しい もあって,いわゆる慣用名などが許可され,複数の名称が 命名法の普及・啓発を目的に出版した「化合物命名 存在する場合もある.今回の新基準に完全に従えば,正式 法」は改訂を重ね,化学分野の関係者に広く使われ 名称は一つに絞られることになる.いまだ完全に普及して てきた.しかし,IUPAC 勧告がその都度必ずしも取 はいないが,今後徐々に浸透していくことが考えられる. り入れられてきたわけではなく,根本的に手を入れ いずれにしても正しい名称を物質に命名し,きちんと記憶 る必要も出てきたため,2011 年に新しい「化合物命 し理解することは,物質同定の基本であり,本物の科学者 名法̶IUPAC 勧告に準拠」が出版された.この第 2 (化学者)になるための第一歩である.化学分野における 版は,2013 年に IUPAC から出版された有機化学命名 研究者,技術者を目指す若者にとっては,命名法など訓詁 法についての新しい勧告を加えたものである.特に 学的な枝葉末節であり,化学研究の本質とは関係ないと言 2013 勧告では,爆発的な情報の増大に対処するため えるだろうか.筆者は,基本が身についていない者が研究 に, 優 先 IUPAC 名(preferred IUPAC Name; PIN) の本質に迫ることなどありえないと考えている.命名法に と言う概念を導入して優先的に使用することにより 関しても,基本的な部分をきちんと記憶理解しておき,複 一化合物一名称のスタイルを推奨している.正しい 雑な細部は本書のような解説書にアクセスして,常に正し 命名法の基本を手軽にわかりやすく知り,活用する い命名を心がけることが肝要であろう.筆者らが化学を志 のに役立ててもらいたい. した半世紀前とは異なり,ネット社会故にさまざまな情報 詳細な内容については,以下に主要目次の項目の みを示す. 源があるので,各個人がそれぞれ本書を携え勉強する時代 ではないかもしれない.しかしながら,少なくとも研究グ 主要目次: ループに必ず 1 冊を置いて,必要に応じ検索するべき書で 総則/無機化学命名法/有機化学命名法/高分子化 ある. 学命名法/付録:多環化合物の命名,指示水素と付 加水素, (北原 武,東京大学名誉教授) 索引名と IUPAC 名,置 換基の基名表/欧文索引,和文索引 Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 Book Review 化学と生物 Vol. 54, No. 7, 2016 527
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