Title Author(s) Citation Issue Date URL フェライト物質におけるメスバウア効果測定 宮嶋, 直樹 京都大学工学研究科技術部報告集 (2016), 13: 67-68 2016-06 http://hdl.handle.net/2433/215084 Right Type Textversion Article publisher Kyoto University フェライト物質におけるメスバウア効果測定 宮嶋直樹 京都大学工学研究科 フェライト磁石は 1930 年代に発見されて以来、加工のしやすさとコストパフォーマンスの良さ から研究、開発が精力的に行われ、現在では永久磁石の生産重量全体の 95 %を占め、その技術研 究はほぼ完成したと考えられていた。しかしこれまでのフェライト磁石に比べて磁気性能が大幅 に向上した La-Co フェライト磁石の発見後、再び研究対象の材料となり、さらなる磁気性能の向 上について多数発表された。この物質系は結晶構造が複雑であるため、置換元素の振る舞いに対 して定量的な解釈を得る事が難しく、今なお材料として未解明の部分が多い。 メスバウア効果はガンマ線を使った無反跳核共鳴吸収分光法で、磁性体を含め物性研究にも広 く使われている。試料がガンマ線を吸収し、そのスペクトルからアイソマーシフト、内部磁場、 四重極相互作用などの情報が得られ、アイソマーシフト、四重極相互作用からそれぞれ対象原子 の価数、電場勾配などの超微細構造がわかるというすぐれた手法である。 マグネトプランバイト型(M 型)六方晶フェライトの一つである SrO・6Fe2O3 は、遷移金属の コバルトを置換することにより、磁石としての特性を向上させることが知られている[1]。結晶中の 鉄のサイトは5つあるが(八面体位置 12k, 4f2, 2a, 四面体位置 4f1, 三方両錐位置 2b)、コバルト がどの位置に置換されるのかは詳細に解明されていない。次世代におけるさらに高性能な磁石を 開発するためにはコバルトが優先的に置換するサイトを知ることが重要である。この M 型フェラ イトはフェリ磁性であり、磁性を担う鉄原子の磁気モーメントは、12k, 2a, 2b サイトが上向きスピ ンで、4f1, 4f2 サイトが下向きスピンである。したがって、12k, 2a, 2b サイトの磁気モーメントと 4f1, 4f2 サイトの磁気モーメントの差が物質全体の磁化となるので、その差ができるだけ小さくなれば、 強い磁石としての利用が期待できる。 そのため、鉄とは異なる磁気モーメントを持つコバルトで鉄サイトを置換した物質(Sr2+La3+)(Fe3+-Co2+)12O19 のメスバウア測定を実施したところ[2]、文献 3 と同様の結果を得た。それは、 八面体位置の 4f2(加えて、2a の可能性もある)サイトにコバルトが優先的に置換されるというも のである。ラマンスペクトルも同様の結果である[4]。しかし、中性子回折と XAFS の実験では異な る結果を示しており、4f2 と 2b 以外のサイトを優先的に置換すると主張している[5]。さらに、以前 の中性子回折の研究[6]と NMR の研究[3]では、 4f1 サイトに置換されると言うことを示唆している。 この不一致の原因を明らかにするため、コバルトに近い元素であるニッケルを置換した物質系で メスバウア測定を実施することにした。 多結晶試料の Sr1-xLaxNixFe12-xO19 (x ≤ 0.35)は、固相反応法で合成された。57Fe メスバウア分光 は、室温において従来の吸収型法で実施し、使用したガンマ線源は 57Co(Rh)である。鉄原子のサ イトアサインは文献 3 の結果を利用した。 図 1 は、室温における Sr0.8La0.2Ni0.2Fe11.8O19 のメスバウアスペクトルを示したものである。フ ィッティングは5つの異なる鉄サイトで実施した。メスバウアスペクトルはローレンツ関数で近 似することができる[7]。その式は 67 1.000 ( − 0.995 relarive transmission η= Γ 2 Γ ) + 2 で表され、Γは半値幅、E は横軸に相当するド 0.990 0.985 0.980 ップラーシフト、E0 は相互作用による吸収体側 0.975 のシフトである。アイソマーシフト δ、内部磁 -10 -5 0 5 10 Velocity (mm/s) 場 HHF、四重極相互作用 ε などのパラメータを 図 1. 用いて、上式を書き直すと、 室温における Sr0.8La0.2Ni0.2Fe11.8O19 のメスバ ウアスペクトル。点が実験データで線が計算結果。 − − ∙ 1 ∓2 , ± 1.000 Γ + 2 0.995 relative transmission η±= Γ 2 となる。ここで P は遷移確率、g0/g1 は内部磁 場による基底状態と励起状態の分裂幅の比を表 している。 0.990 0.985 0.980 0.975 5つの鉄サイトについてそれぞれ6本の吸収 -10 線の重ね合わせとしてフィッティングを行った -5 0 Velocity (mm/s) 5 図 1 の結果について、5つの異なるサイトに分 図 2. 解した計算結果を図 2 に示す。これらは実験デ 5つの異なるサイトがそれぞれ示されている。 10 図 1 のメスバウアスペクトルの解析結果。 ータとほぼ一致していることが分かる。 2a サイ トにおける二価の鉄の出現の可能性[8]について示唆されているが、今回の解析では無視した。その ようなこともあり、超微細構造パラメータを決定するための解析方法について、必ずしも精度良 く実施できたとは言えない。スペクトルの位置とその強度を正確に計算するためには、さらに詳 細な情報が必要であると考えている。具体的には単結晶を用いた測定、温度変化による測定など を計画している。引き続き研究を推進していく。 References [1] Y. Ogata et al., IEEE Trans. Magn. 35 (1999) 3334, Y. Ogata et al., J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy 50 (2003) 636 (in Japanese). [2] N. Miyajima, H. Nakamura and Y. Kobayashi, unpublished data. [3] G. Wiesinger et al., Phys. Status Solidi A 189 (2002) 499. [4] A. Morel et al., J. Magn. Magn. Mater. 242-245 (2002) 1405. [5] Y. Kobayashi et al., J. Ceram. Soc. Jpn. 119 (2011) 285. [6] J. M. Le Breton et al., Proc. 8th Int. Conf. on Ferrites (Kyoto 2000), p. 199. [7] M. W. Pieper, A. Morel and F. Kools, J. Magn. Magn. Mater. 242-245 (2002) 1408–1410. [8] A. M. Van Diepen and F. K. Lotgering, J. Phys. Chem. Solids 35 (1974) 1641. 68
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