極限環境場での Fe-Ni 合金の磁性 松下 正史 愛媛大学大学院理工学研究科・生産環境工学専攻 Magnetism of Fe-Ni alloys under extreme condition Masafumi Matsushita Department of Mechanical Engineering, Ehime University Fe-Ni 合金系の磁性は圧力、ストレスなどの各種極限場に対し敏感に反応する[1-2]。また、荷 電粒子および中性子照射に磁性が敏感であることが知られており [3-6]、一部のグループにより L1 0 型規則格子の形成が報告されている[3, 4]。本講演では Fe-Ni 合金への中性子、および荷電 粒子ビームの照射効果を中心に紹介する。 放射線、荷電粒子の照射は、医療、半導体産業をはじめ多く実用されている。また、近年は磁 性体をはじめ新たな応用展開を目指した研究も様々な物質系で活発に行われている[7]。各種放 射線、あるいは電子、イオンなどの荷電粒子を物質に入射させると多様な形態のエネルギー、運 動量の移行がおこる。荷電粒子の場合、エネルギーの伝達形態は、ターゲット原子との衝突によ るものと、ターゲット原子の電子を励起することによるものの2種類が考えられる。前者の機構に基 づくエネルギー伝達を核的阻止能(nueclear stopping power, S n )と表し、後者を電子的阻止能 (electronic stopping power, S e)と表す。入射イオンのターゲット物質内でのエネルギーロスは、 dE/dx = S n + S e の形式で表され、E は入射イオンからターゲットへの付与されるエネルギー、x は 距離を表す。 ボーア速度以上に加速されたイオンなど荷電粒子はターゲット物質中に高密度・高エネルギー 状態を局所的かつ極めて短いタイムスケールで形成し、弾性的、電気的過程を通してエネルギー を伝達する。この過程において、圧縮場の形成や knock on、高速変形、また、移行されたエネル ギーによる特異な励起や拡散などが極めて短時間に行われる。その後、固体中での緩和過程を 経て、固体内原子変位(欠陥を含む)が形成される。この固体内原子変位に起因する効果が照射 効果である。したがって、一般的な衝撃や変形による効果とは、タイムスケールとエネルギー・運動 量移行の階層の面で特異であり、その物性に与える効果は統一的には理解されていない。 これまでに Fe-Ni 合金への放射線、荷電粒子の照射の影響はいくつかのグループによって研究 されており、キュリー温度の上昇など強磁性の誘起が報告されている点で一致する。さらに前述の 如く、一部の論文では、L1 0 規則格子の形成が報告されている。 本講演ではこれらの報告について紹介するとともに、他のストレス、高圧などの極限場の効果と 比較、議論する。 参考文献 [1] [2] [3] [4] [5] M. Matsushita, S. Endo, K. Miura, F. Ono, J. Magn. Magn. Mater., 265 (2003) 352–356. P. Gorria, et. al., Phys. Rev. B 80 (2009) 064421. L. Neel, et al., J. Appl. Phys., 35 (1964)873-876. A. Chanberod, J. Laugier, J. M. Penisson, J. Magn. Magn. Mater., 10 (1979) 139-144. Y. Chimi, N. Ishikawa, A. Iwase, F. Ono, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 257 (2007) 388–391. [6] M. Matsushita et al., J. Magn. Magn. Mater., 333 (2013) 13-17. [7] C. Chappert, et. al., Science, 280 (1998) no. 5371 pp. 1919-1922.
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