企業倫理委員会の総括(PDF、4ページ、293KB)

2016 年 6 月 21 日
三菱自動車工業株式会社
企業倫理委員会の総括
1. 企業倫理委員会の位置付け
(1) 設立の経緯
当社はダイムラー・クライスラー社(以下、DC 社)の傘下で 2001 年からターンアラウンド計画に
取り組んでいたが、2003 年度に米国における販売金融問題等から巨額の損失を計上するに至
り、2004 年 4 月に DC 社から追加支援の打ち切りが発表され、重大な経営危機に直面した。
他方、2000 年に組織的なリコール隠しを行っていたとして行政当局、ステークホルダー等をはじ
め社会全般から強い批判を受け、企業の信用・信頼は大幅に低下していた。
加えて 2002 年にふそう製大型トラックの欠陥による 2 件の死亡事故が発生し、刑事事件として
当社元役員が逮捕された。事故の原因となった欠陥についてはリコールの届出がなされたが、
その過程において、2000 年のリコール隠しの調査に不十分な点があり、リコール手続き未了の
積み残し案件が多数あることが判明。2004 年に「2 度目のリコール隠し問題」として社会から激し
い非難を受け、企業としての存続に関わる危機的状況となった。
そのような背景があって、同年 5 月に当社は「信頼回復」を最重要課題とする「事業再生計画」を
策定・公表し、「信頼回復」の切り札の一つとして「企業倫理委員会」(以下、委員会)を掲げ、設
置に至った。
同年 7 月 22 日に開催された第 1 回委員会では詰め掛けた報道陣を前に、冒頭、松田委員長
が挨拶を述べられ、委員会の新設と「社外の目」による提言等の開始を社内外にアピールする
こととなった。
(2) 委員会の役割と特色
委員会の目的は、コンプライアンス確立等を中心に、会社の信頼回復活動全般について、「社
外の目」「世間の常識」の視点からチェック、指導・助言等を行うことにあり、その役割と特色は以
下の通りであった。
① 取締役会の諮問機関として明確に位置付けられている
② 定常組織である
③ 社外の有識者のみで構成されている
④ 取締役会に答申・提言を行うだけでなく、CSR 推進本部への指導・助言を行う役割を担う
⑤ 対象となる信頼回復活動は、品質問題、企業風土に関する事項も含む
⑥ 原則として月 1 回開催する
⑦ 委員会での意見等は、委員会終了の都度、公表するなど透明性のある活動を行う
(3) 活動の概要
委員会においては、2016 年 6 月までの間に 143 回の委員会を開催し、延べ 284 議題を取り扱
った。
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その内訳は以下の通り多岐に渡っており、「社外の目」「世間の常識」の観点から評価や意見を
頂いた。
① リコール問題への対応(30 議題)
② リコール業務プロセス改革と品質向上への取り組み(37 議題)
③ コンプライアンス浸透への取り組み(107 議題)
④ 企業風土の改革をはじめとするその他の取り組み(104 議題)
⑤ 製作所、販売会社の実情視察(6 回)
また、取締役会への諮問機関として、2007 年には「コンプライアンス第一」「安全第一」「お客様
第一」の取り組みについて、答申書の形で当社の取り組みの評価と提言を頂いたほか、松田委
員長には取締役会のオブザーバーとして取締役会に都合のつく限りご出席頂き、ご意見を頂い
た。
加えて、CSR 推進本部が推進する企業倫理・企業風土改革と品質監査について、委員各位の
有する知見や専門知識に基づいて指導・助言や協力・支援を頂いた。
2. リコール問題への対応
(1) 調査の評価と助言
当社は指示改修の洗い出しや新たな市場措置の要否の再精査を行うため、社内のみならず販
売会社から回収した分も含めて数十万件に及ぶ文書を全部門から延べ 4,000 名の社員を動員
して調査した。委員会は、調査現場を訪問して状況を確認するとともに、携わった社員と意見交
換を行った。
また、弁護士を起用した調査とその後の社内処分、元取締役・元執行役員への損害賠償請求
について助言を頂き、2005 年 3 月に行った会社の決定・公表をサポート頂くとともに、公表に際
して委員長コメントとして委員会の評価等を公表頂いた。
(2) 信頼回復活動への提言
社内外に向けて信頼回復のメッセージを継続的に発信すること、社員が事故を忘れず、風化さ
せないためにメモリアルデーを設定することなどを提言頂き、後者は「安全への誓いの日」として
実現し、今日に至るまで継続している。
(3) マスコミ対応・消費者団体との意見交換の場の提供
委員会の議事終了後は、当社取り組みに対する委員会の評価や助言内容を委員長コメントとし
て都度、プレスリリースしている。また、これ以外にも経済誌などの取材にも応え、当社の再生活
動の現状等を社外に対してご紹介頂いた。
この他にも、CSR 推進本部と消費者問題の有識者の意見交換の場の設定や、消費者団体によ
る岡崎地区研究開発・生産施設見学を 2 度に渡り開催し、消費者の立場から忌憚のない意見を
頂く貴重な機会をご提供頂いた。
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3. コンプライアンスの浸透
(1) 体制や活動内容への助言
企業倫理担当役員やコンプライアンス・オフィサー、コードリーダーといった、当社のコンプライ
アンスの要となる体制や、当社のコンプライアンス浸透活動をまとめた「企業倫理実践プログラム」
について様々な助言を頂いてきた。その他には、「三菱自動車行動基準」の全面改訂(2007 年)
に当たっては、検討段階から積極的に関与し、指導・助言を頂いたほか、CSR 推進本部が主催
するコンプライアンス・オフィサー会議には委員にオブザーバーとしてご出席頂き、指導や社外
の視点からの助言などを頂いた。
(2) 社内のコンプライアンス浸透活動への協力
名古屋製作所 岡崎工場(2 回)、水島製作所(2 回)、三菱ふそう川崎製作所、東京三菱自動車
販売(株)(当時)などの実情視察を行うとともに、その現場で社員との意見交換等を行ったほか、
松田委員長には社内報の特集記事にご登場頂き、コンプライアンスの重要性について語って
頂いた。また、役員に対しては役員研修(2005 年 7 月)において、松田委員長から「企業倫理委
員会から見た三菱自動車のコンプライアンス」と題して講演頂いており、このように直接役職員
に語り掛けることで、社内のコンプライアンス浸透活動にもご協力頂いた。
4. 品質への取り組み
(1) リコール判定の会議への出席
委員会の初期段階において、品質統括本部が主催するリコール判定の会議に委員がオブザー
バーとして出席し、検討の実態を直接確認するとともに、「世間の常識」とのずれから生じる疑問
点等について、CSR 推進本部を通じて検討・改善の申し入れを頂き、当社の市場措置判断を技
術者の視点ではなく、お客様の視点に変えていく端緒となった。
(2) リコール業務プロセス改革への助言
品質は、お客様の安全・安心に関わる事項であり、委員会においては重要なテーマの一つとし
て継続的に取り扱われてきた。当初はリコール業務プロセス改革に力点が置かれ、その後は品
質監査部による監査結果のフォローや品質向上の取り組みに軸足を移してきたが、その後も状
況の変化によりリコール業務プロセスを見直すに当たっては、委員会の指導・助言を頂いてきた。
例えば、答申書において、「リコールが隠れない」システムの強化を提言され、これを受けて当社
は、「不具合発生時の予見可能性の判断」に一般消費者の視点を取り入れるなどの改善を行っ
てきた。
5. まとめ
2004 年当時、社会の批判の的となっていた当社の、委員会の委員就任を敢えて受諾頂き、当社
の信頼回復に向けて有益な指導・助言を頂いたほか、社外には当社の再生に向けた真摯な取り
組みを伝え、社内にはコンプライアンスの重要性を説くなど、各方面でご尽力頂いたことについて
は、松田委員長並びに各委員に対して感謝の念に堪えない。
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また、その後 10 年の歳月を経て、2014 年に優先株の処理完了や復配など、当社が財務面での
念願の再生を果たして、「持続的成長」と「企業価値の向上」を目指す新たなステージに立てたこ
とは、委員会の「社外の目」としての継続的な指導・助言によるところも大きい。
この新たなステージに向けて、当社はガバナンス体制の再構築が必要と判断し、企業倫理委員
会については 12 年の長きに渡る功績に対して、会社から改めて感謝の意を表明した上で、この
たび本年 6 月をもって、これを終了することとした。
しかしながら、一方で本年 4 月、当社製軽自動車の型式認証取得において、当社が国土交通省
へ提出した燃費試験データについて、燃費を実際よりも良く見せるため、不正な操作が行われて
いたことが判明した。また、国内法規で定められたものと異なる試験方法がとられていたことも判
明した。これにより失った信頼・信用の大きさは 2004 年当時よりもはるかに深刻であり、当社は何
度もお客様の信頼を裏切った会社として、お客様や世間から厳しい目で見られており、会社全体
を改革する必要に迫られている。
当社は予定していた監査等委員会設置会社への移行を中止し、日産自動車株式会社との資本
業務提携の実現に向けた協議を踏まえ、コーポレート・ガバナンス体制を再構築していくが、今後
も企業倫理委員会によるご指導・ご助言を忘れることなく、新しい体制のもと、信頼回復に向
け、引き続き企業風土・意識の改革に取り組んでいく所存である。
以上
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