日本の山旅 - コロミコ・トレック

日本の山旅 2016年6月のお便り-その2
**5 月 の 山 旅 レ ポ ー ト ・ 新 コ ー ス 下 見 山 行 記 **
日 本 の山 旅リ ピー ター の 皆さ ん、 6 月の お便 り そ の 2 を お 送 り し ま す 。
これまで私は雨乞岳周辺は何度も歩き、七人山のブナ林の素晴らしさは
知っていた。一般的には武平峠からクラ谷経由で往復するのが一番無難な
コースだが、これは沢の往復が長くて退屈。またコクイ谷~雨乞岳~クラ
谷を大周遊するコースは長時間の健脚向けで山旅ツアーとしては少々無理
がある。そこで以前から気になっていた三人山から東雨乞岳に至るブナ尾
5 月 の山 旅レ ポー トと 山 旅の 合間 に 来年 の新 コー スの 下 見に 1人 で 歩い
根コースが良ければ、丁度良いブナ森と沢の周遊コースが出来るはずとプ
た 山 旅記 、ご 覧く ださ い 。
ランを練った訳だ。ガイドブックにも、地図にも載っていないこのルート
■ 伊吹山と御在所岳、七人山ブナ林:新コース下見山行記
が本当に素晴らしいものであるか、また正しいルートファインディングで
● 伊 吹山 は頂 上よ りも 北 尾根 コー ス をメ イン に・ ・・
人を案内できるか、すべてこの日の下見山行にかかっていた。だから何が
伊 吹 山は 初め ての コー ス なの で、 私 は伊 吹山 北尾
何でも自分の目で確かめねばならないのだな。
根 と 雨乞 岳の ブナ 森周 遊 ルー トの 下 見、 ベス トコ
郡界尾根の入口は「雨乞岳→」という小さな手書きのプレートがあるの
ー ス 発掘 のた めツ アー の 2日 前に 横 浜を 出発 。週
み、一般コースではないので、知る人ぞ知る登山口という感じ。よく見る
間 予 報 で は ツ ア ー が 始 ま る 12 日 か ら は 殆 ど 好 天
と確かに道があり、すぐに小沢渡渉点の対岸からいきなりの急登となるも
の 見 込み だっ たが 、私 が 歩く 2日 間 は大 雨予 報。
のの、確かなフミアトと赤テープが付けられているので、これが郡界尾根
で も 自分 一人 で山 を歩 く 時は 雨で も 平気 なの で 、 予 定 通 り ま だ 暗 い 3 時 、
ルートと確信、まずは一服峠目指してグングン高度を稼ぐ。やがて植林帯
伊 吹 山北 尾根 の国 見峠 を 目指 し、 大 雨の 中を 出発 した 。
を抜け 2 本の杉の巨木を過ぎるころから自然林となり、最後のひと登りで
花で有名な伊吹山は、今では頂上近くまで車で入れるので、ほとんど観
いっぷく峠と思われる尾根に到着、ここからいよいよ三人山へと続く郡界
光地化してしまい、これまで山旅ツアーに取り入れることを敬遠していた。
尾根が始まるところだ。ここから三人山を越えて東雨乞岳までの未知のコ
しかしネットで調べてみると、北尾根のコースが本来の自然道が残り、山
ースが、予想通り素晴らしいブナ森の自然道が続き、正しいルートさえた
専のツアーも組まれているようなので、ここをメインにコースを組むのが
どれば一般の人を無理なく案内できるかどうかがまず第一のポイントだ。
ツアー仕様となるだろう。北尾根は伊吹山頂上駐車場からドライブウェイ
予定ではこの尾根を三人山から東雨乞岳まで登り、七人山からコクイ谷へ、
を 1 キロほど下った所から始まり、御座峰、大禿山、国見岳から国見峠ま
そして沢谷の乗越からこの一服峠まで登
で片道約4時間の縦走コースとなっている。車の回送は不可なので、この
り返すというのが新周遊コースとなる。第
中の良い部分のみを往復というのが妥当なプラン。ツアーの下見といえど
2 のチェックポイントは一般コースの沢
も、この伊吹ドライブウェイの通行料3千円を払うのは馬鹿らしく、また
谷乗越からこの一服峠まで戻るルートが
たったこれだけの距離でこれほどまで高額な通行料を取ることに腹が立つ
見つけられるか、またそこからどれほど時
ので、私は反対側の国見峠から往復することにした。
間がかかるものかということだ。
天気予報通り雨は依然降りやまず、何とか見つけた国見峠の駐車場から
三人山へ向かうコースはいきなりの下りとなり、アップダウンもあるが、
まずは国見岳へ。さらに大禿山を越え縦走中間点の御座峰まで行ったとこ
実に気持ちの良い自然道の尾根道が続いていた。アセビやシロモジの新緑、
ろで、すでにプランは固まった。国見峠側からは植林帯や3つの山の登降
そして何といっても雨のモヤに煙るブナ林の美しさは格別、これは素晴ら
が結構ハードで、花もあまりないので、この半分はツアーには不向き、や
しい新ルートになりそうだ。そのうちシャクナゲの大木が群生する尾根と
はり花や景色の良い部分はドライブウェイ側からの往復が良いと判断。
なり、真紅の蕾や満開の花も。やがて三人山と思われるピークの少し先に
一般的なプランとしては最大で御座峰まで、又は時間と体力に応じて途中
絶好の休憩場所を発見、シャクナゲも展望もここが一番のようだ。この郡
のピークまで往復というプランがベストだろう。この部分は一般道なので、
界尾根の一番の難所は三人山から東雨乞岳への標高差400㍍の最後の急
あとは本番で縦走路入口だけを確認すれば大丈夫、ということで依然降り
登だ。この部分さえ一般の人でも無理なく歩け、しかも難コースでなけれ
やまぬ雨の中を戻る。とにかく今回は大雨の中を感動もなく一番辛い部分
ば、今回の周遊コースはほぼ完成、メドが立つ。360 度大展望の東雨乞岳
のみの骨折り損となってしまったが、これも下見山行の大きな成果の一つ
の頂上はおそらく暴風雨、休む間もなくクラ谷目指して下ることになるだ
であり、歩いてみた甲斐は十分あったというものだ。帰路、雨の中でふと
ろう。万一沢が増水して不可の場合、またこの尾根に登り返せばよい(か
見つけた山シャクヤクの三分咲き。中をのぞくと、1 日も早く陽の光を浴び
なりしんどいが)ということで、三人山を後に予定通り東雨乞岳へ。最後
て外に出たい花芯が実に新鮮、これがこの日唯一の安らぎであった。
の登りの前にいったんコルまで下るので、標高差はさらに大きくなるが、
● 雨 乞岳 、三 人山 から 七 人山 ブナ 森 周遊 コー ス完 成
雨に煙るブナ林はさらにその美しさを増す。道も急登ではあるが階段もな
残る 1 日は雨乞岳・三人山~七人山ブナ森周遊ルート確認、開拓のメイン
い自然道で歩きやすい。頂上が近づくあたりから笹の藪漕ぎを覚悟してい
エベント。彦根の宿を早朝発で御在所岳への最短ルートで行けるはずが、
たが、なんと刈払いされていて歩きやすい。このコースを歩く地元の山の
途中の崖崩れのため、国道線が通行止め。急遽方向を変えて西の八日市側
会ボランティアの人たちが頑張ってくれたのだろう。こんなマイナーなコ
から武平峠を目指すことに。結局湯の山温泉経由よりもこのルートの方が
ースを大切に思う人たちに感謝感謝。
雨乞岳には近道ということで、結果オーライで登山口に。その頃大雨はま
ようやくたどり着いた東雨乞岳頂上はやはり暴風雨、休む間もなく七人
すます強まり暴風雨状態となったので、山支度(大雨仕様)を車の中で済
山のコルにひた下る。これでようやく新コース周遊ルートのメドが立った
ませ、完全装備で出発。ここまでひどい雨では絶対に人を連れては行けな
というものだ。一番大変なここまでの登りさえ何とか頑張れば、あとは大
いし、こんな時に雨乞岳に入る人などまずいないというものの、とにかく
丈夫、これ以上大変なところはない。ツアー当日天気が良ければこの頂上
まだ未知の部分を完成させねばならず、雨ニモ負ケズ三人山を目指した。
でたっぷりと昼食、昼寝タイムを楽しめることだろう。
七人山コルへの下りも、以前のような深い笹薮はなくなり、かなり楽に
まわすと、対岸の上方にかすかな目印テープを発見、さらに斜面を上の尾
なった。これは刈払いにもよるが、鹿による食害によって一帯の笹が枯れ
根まで上り詰めてみることにする。ようやく尾根にたどり着いたものの、
たためだろう。確かにしかの害は大きいが、本来の自然林を荒廃させる笹
そこは郡界尾根の末端部・一服峠とは様子が違う。しかしどことなく見覚
が枯れるということは自然にとってむしろプラスになるのではないか。ブ
えのある尾根だった。右側に続いている尾根道を見ると、何とそれは今朝
ナやリョウブの皮を食い枯らすよりも、笹を食べ枯らすほうが遥かにまし
通った三人山へ続く尾根道であった。おそらく郡界尾根であっても、そこ
といえるかもしれない。もしかしてこれが害獣鹿の唯一の自然に対する貢
はいっぷく峠からかなり三人山方面に歩いたあたりであったようだ。案の
献なのかもしれない。
定、そこは峠からひと山越えて、かなり下った所にあった鞍部であった。
稜線上では暴風雨だった雨も、七人山のコルまで下る頃には大分小降り
になってきた。一般コースはここからクラ谷コース下ることになるが、ブ
そこから目的の一服峠への登り返しに30分程かかり、ヘトヘト状態でよ
うやく峠にたどり着いた。
ナが一番素晴らしいところは七人山周辺だ。ここを訪れることなしにクラ
これで一つのルートは分かったものの、このコースで一般の人を案内す
谷を武平峠まで長いコースを下るのはあまりにもったいない。この地を散
るなどとんでもないことだ。どれほど無駄な体力を消耗することか。この
らない一般の人の殆どはクラ谷コースを雨乞岳まで往復するが、これは長
ルートはまず没だ。朝来た一服峠で休みながら考える。左下にはクラ谷方
いだけで歩くことのみに専念、ブナ森の自然道の素晴らしさは少しも味わ
面に続くフミアトと赤テープが見られ確認できる。おそらくこれを下れば
えない。今回の三人山からの周遊コースに七人山ブナルートを加えた新コ
一般コースの沢谷乗越あたりに出るに違いない。下りで 10 分から 15 分と
ースこそは、他の誰も真似のできない平野ガイドならではの特上の自然林、
いうところだろう。しかしその時私の体力気力は殆ど限界状態。クラ谷分
自然道周遊コースなのだ。
岐ではなく、沢谷乗越あたりに必ずこっちへ向かう入口があるはず、とあ
この七人山のブナ林は、以前から私が一番気に入っているところで、今
とは本番にかけることにした。
回の新コースの後半のハイライトともいえる穴場なのだ。一般の人にはコ
こうして私の2日間の雨の下見山行は、全精力、体力を使い果たしなが
ルからの往復のみでも十分価値があり無難なところだが、それでは飽き足
らも、大成功、大収穫にて無事終了、ツアーに先駆け、湯の山温泉にチェ
らない私は、七人山からクラ谷へ下るルートを何度か歩いたことがある。
ックイン。出発の時に家に忘れた大事なポーチ(全貴重品入り?!#、2日
途中のブナ林は藪が少なく、ふかふかの腐葉土の上を快適に歩ける素晴ら
前に気が付いて大至急送ってもらった)を受け取り、早速露天風呂で疲れ
しい別天地なのだ。しかしクラ谷へ下るルートは、一歩間違えば急な崖や
を癒す。そういえばこの2日間、ポーチを忘れたことを気にしたり心配し
ガレ沢に阻まれ立往生することもしばしばある。一番簡単にクラ谷へ下れ
たりしている暇はなく、ひたすら山歩きに専念していたのだな。
るのは、七人山頂上から真南、以前自分で立てた目印の枯れ枝方向に下り、
■ 伊 吹 山 と 御 在 所 岳 、 七 人山ブ ナ 林
沢に降りる急斜面の比較的安全そうなポイントを選んで下れば、20 分ほど
天気予報通りに前日までの大雨はすっかり去り、久々の快晴が 3 日間続く。
でクラ谷の一般コースに合流する。このルートは十分知ってはいるが、グ
1 日目伊吹山はドライブウェイでまずは北尾根入口へ。遠く御嶽山や乗鞍岳
ループによってはそれでは物足りない。次のルートは、まずはしばらく快
方面の山並みの大展望の爽快な尾根歩き。北尾根の終点・国見岳は遥か彼
適なブナ林の鹿道を辿り、あるところで南西に向きを変えて沢に降りるル
方、中間点の御座峰のかなり遠くに連なっている。そしてその手前の大禿
ート。このほうが面白い。とにかくこの領域は皆の体力経験、天候と時間
山までもいくつかのピークがあり、見るからに大変そうなアップダウンの
により、いかにでもバリエーション・ルートを考えられる、ということで
連続の尾根道が続いている。
結局この日は米原着が 1 本遅い便になった事、
私はクラ谷を駆け下りた。
途中の関ケ原古戦場で寄り道したこともあって、2 つ目のピークの手前の森
①5月12日発: 3 名にて実施
今回の下見最後のポイントは、一般コースの沢谷乗越あたりから一服峠
の中で昼食、往路を引き返した。花もミヤマキンポウゲの群落やラショウ
に登り返すルートを見つけること。ネットの情報ではこの部分が定かでな
モンカズラ、イブキハタザオなどが観られ、皆も大満足。その後車で頂上
く、どの辺から峠へのルートが分かれているか、現場でないと分からない。
駐車場駐車場に移動して、伊吹山は 3 つの周遊コースのうち、最短の中央
私はまずコクイ谷分岐あたりからその入口を探しながら歩いた。右手の山
コースを往復。一般観光客で大賑わいの伊吹山だけでなく、静かな北尾根
に向かって古い山道があったので、古びた目印テープを頼りに登ってみた
を歩けたことで中身の濃い山歩きが出来たと皆満足、最短ルート:国道 365
が、道は途中で途切れ小沢にぶち当たり、これは違うと元の場所に引き返
線で湯の山温泉へ。
す。このときすでに唯一便りの地図を落としてしまっていたので、一服峠
2 日目の七人山周遊ルートは下見の甲斐あって、ほぼベストルートで周遊。
の位置関係がイマイチ分からない。とにかく右側の尾根を目指せは郡界尾
天気も上々で、3 人山のシャクナゲ、東雨乞岳のミヤマリンドウなど花とブ
根末端の峠に出るはず、と今度は急斜面の藪をかき分け尾根を目指して登
ナ新緑の写真を撮りながらゆとりの山行となった。七人山からの下りはブ
ってみる。20 分ほど藪漕ぎで何とか尾根に出るが、どうやら郡界尾根とは
ナ尾根の山道があまりに素晴らしく、つい行き過ぎて倉谷の支流に降りて
違うと判断して、元の場所に戻ることに。ところが無理やり藪漕ぎで登っ
しまい、一つ尾根を乗越してクラ谷本流に降りるというブッシュウォーク
たルートは、同じルートを戻ることは殆ど不可能に近い。ほんの少し左に
の体験サーピスがプラス。最後の課題、沢谷乗越から一服峠への分岐点も
逸れただけで、全く違う沢に降りてしまい、結局元の場所に戻るのになん
難なく分かり、そこからほんの10分で峠に到着、これで周遊新コースは
と 1 時間もかかってしまった。とにかくこの辺の沢は奥深く、複雑で決し
100%大成功となった。
て侮れない。思わぬ時間を費やしてしまったので先を急がねば。
3日目の御在所岳は、これまでの2山とは全く趣の異なる山で、上部の花
やはり峠への入口はクラ谷分岐から沢谷乗越までの間にあるに違いないと、
崗岩の巨岩郡は圧巻。かなりの標高差はあるものの、やはり変化に富んだ
再び一般道を武平峠に向けて歩き出す。しかし、ふと最初に入ったフミア
表登山道が大正解だった。ただし3日目の山と日照りの暑さで皆結構疲れ
トがまた気にかかり、もう一度奥まで詰めてみようと思い再びクラ谷分岐
切り、帰りは頂上からリフトとロープウェイプで下山というプランに皆大
へと引き返す。あの時に行き詰まった沢まで戻り、周囲の斜面の様子を見
賛成、ホテルの温泉で汗を流しゆとりを持って湯の山温泉駅で解散となり、
メデタシメデタシ。私はといえば、登山口に車を置いてあるので、最短コ
とある。やはりかつてグループを案内しかなり難渋したあのコースに出た
ースの一の谷新道を駆け下り、何とか皆を送る4時にぎりぎりセーフで間
のだ。これを左・杉峠方面に行ったら雨乞岳から東雨乞岳に戻り、とんで
に合い、湯上りでさっぱりとした皆さんを無事駅まで送ったのだった。実
もない遠回りとなってしまう。たから右に行って、かつて歩いたコクイ谷
はこの一の谷新道は、かなりの急降下も含む中級者向けのコースで、水も
への道を辿り、沢の合流点(コクイ谷出会い)からコクイ谷沿いに南下す
食料も殆どなくなっていた私は、前日2日間の山歩きに加えて体力消耗は
ればクラ谷との合流点・コクイ谷分岐にたどり着けるはず、と初めて安堵
ほぼ限界、ヘロヘロ状態で駆け下ったのだった。明日から2本目のツアー
する。ところがこの先、どこでどう間違ったか定かではないが、沢の合流
があるが、何といっても温泉があるから疲れも取れる。しかも湯の山温泉
点に出て二つ目の古い標識と出会う。「神崎川、水晶谷」という聞いたこ
一の宿、露天の岩風呂は最高。だから私は温泉ホテルにもこだわるのだな。
とのない地名にはたと困り果てた。ここで地図さえあれば確信が持てたの
■ 伊 吹 山 と 御 在 所 岳 、 七 人山ブ ナ 林
に、再び頭が混乱するが、意識を最大限に集中して正しいと思う方向に進
①5月15日発: 4名にて実施
翌日からのツアーは二回目なので、前回以上にゆとりを持ってさらに充実
む。やがてもう一つの図入りの標識と出会い、少し状況が分かってきた。
内容の山旅となるだろう。そんな安心も手伝い、ガイドとして決して犯し
どうやらこれはもっと遠回りの沢に出てしまったようだ。コクイ谷への案
てはならない油断と奢りによって大きな試練の山旅となってしまう。
内図には通行止めだの廃道だのとかなり荒れたようなコースとなっている。
今回のツアーのハイライト、2日目七人山ブナ森周遊コースは前回より
しかしこうなった以上、とにかくコクイ谷を目指すほかはない。沢沿に歩
もゆとりの出発。この日はゆっくり歩いても午後四時には宿に戻り、NZ の
ける処を右に左に渡りながら歩くほかはない。ここまで思いのほか時間が
DVD でも観てのんびりしてもらう予定だった。前日までの全力投球の疲れ
かかってしまい、いつの間にか夕暮れも近づいている。沢に入るのをため
と大成功で気の緩みも手伝い、用意しておいた地図とコンパス、そしてヘ
らって渡渉点をあれこれ探したり、高巻いている悠長な時間などもはやな
ッドランプさえも部屋に置き忘れるという油断が大間違いの始まり。どん
い。何としても暗くなる前に一般道に出ねば。とにかく安全でさえあれば
な時でも山を甘く見てはいけない、大自然の偉大さ恐ろしさを決して侮っ
躊躇なく水に入り、一番歩きやすい場所を瞬時に判断して先に進むのみ・・。
てはならないというのは常々身に付いていたはずであった。それを怠り、
ところで今回の参加グループは山歩きの初心者一名も含み、皆道なき道の
軽い気持ちで山に入ってどれほどの天罰を受けてきたか、痛いほどわかっ
難ルートや本格的な沢コースを歩いたことのない人ばかり。一般コースで
ていたはずなのに、まずこの時点でいつも私を助けてくれていた天の神様
は普通に歩けるが、急な斜面のザレ場が極端に苦手な人もいる。しかしそ
の怒りが爆発したに違いない。「まだ懲りないのか、この未熟者め!もう
れだからといってこの場面ではとにかく気力を振り絞って歩くほかはない
いい加減に助けてやらんぞ。」といわんばかりに、これまで体験したこと
のだ。ガイドの力量・経験、そして神を信じて皆が一丸となって全力をた
のないほどの試練を与えられてしまったのだ。
だ振り絞って頑張ることが何よりも大切なこと。ガイドのミスを恨んだり、
ともあれ二本目の周遊新コースは、七人山までは平野ガイドの本領発揮
ルート判断を疑ったり、何でこんな目に合わねばならないのか、などと愚
の完璧なスペシャルコースとして大成功だった。ただ、その日まで持つは
痴をこぼしたりするマイナス想念はさらに状況を悪くする要因となり、ま
ずの天候が予定より早めに悪くなり、東雨乞岳頂上は強風でランチタイム
すます悪い方へ向かってしまうものだ。
なし、早々に通過して昼食は七人山で取ることに。また前回のような景色
私はこれまで、ニュージーランドも含めて様々なブッシュウォークでガ
も見られなかったし、あれほど咲き誇っていたミヤマリンドウも皆萎み、
イドとして様々な難コースを案内してきた。しかしこれほどまで精神的に
頂上での昼寝タイムもなし。それでも皆は普通では絶対に歩けない特上の
打ちのめされたことはいまだかつてない。これまでいかなる難局も天の神
新コースにそれなりに満足してはいたものの、自分としてはイマイチ納得
様に祈りつつ、全身全霊の力を振り絞り、救われてきた。今回も幾度とな
がいかない。時間もたっぷりあるし、ここでもうひと踏ん張り大サービス
く神に助けを求めつつ、神を信じてひたすら頑張り続けた。しかしさすが
しようといたのが間違いの始まりであった。
に今度ばかりは、自分の未熟さ軽率さに神も愛想をつかし本当の天罰が下
七人山でゆったりと昼食タイムの後、スペシャル・ルートに出発。この
ったのではあるまいかと思ったほどだ。
ような道なきルートの場合、必ず地図とコンパスで確認してから歩き始め
しかし、やはり神に見捨てられた訳ではなかった。皆も驚くほどの頑張
るのに、またいつでもそうしないといけないと分かってはいるものの、こ
りの末、遂に一般コースとの合流点・コクイ谷分岐にたどり着いたのだ。
の時に限っていずれも確認せずに(できず?)前回よりももっとクラ谷分
そこから先は一般コースではあるが、すでに薄暗くなった中、初めてなら
岐に近いところに下ってみようと、いつもより左方向に歩いてしまう。少
絶対に分からない一服峠への分岐点も難なく見つけて、元来た一服峠に到
し歩いて、前回歩いたブナ森尾根とは明らかに違う急斜面の下りとなる。
着。そこから雨で濡れて極端に滑りやすくなった急斜面の下りを五人で二
その後「これはいつもよりクラ谷の下流方向に行ってしまったので、右に
つのライトを頼りに、何とか無事に登山口に生還、遭難は避けられたのだ。
巻いていけばいい」となおも斜面を下る。ところが右に行きたいがブッシ
この物語、天からの試練はこれで終わりではなかった。ようやく車に戻
ュと急斜面で危険な箇所も多々あり、思うように右方向に行けないことも
り、大雨の中いざ宿に向かい、武平峠のトンネル出口にさしかかった時、
しばしば。安全なルートを探しながらなおも下るうちに、沢の音が近づい
何と道路のゲートが閉まっていたのだ。(後で分かったが、これは時間に
てきたので、とりあえずその澤を目指して下って行った。これはおそらく
よる通行止めではなく、悪天候・濃霧による通行止めであった)こうなる
クラ谷ではなく、その支沢であろうからなおも右へと巻いていかねばと思
と宿に連絡して迎えに来てもらうのが唯一の手段。ゲートのカギが手に入
うものの、安全なルートを選ぶほど思う方向に進まない。
らない場合は、車を置いて迎えの車で帰る他はない。なかなかアンテナが
やがて本流と思われる沢に降り立つが、流れの方向からこれはクラ谷で
立たず連絡できなかったが、S さんの携帯が何とか繋がり、ようやくホテル
はなく、どうやらコクイ谷へとつながる沢ではないかと思う。ということ
ト連絡がついた。やっと安心して迎えの車を待つが、30分待ってもまだ
はかつてコクイ谷から杉峠経由で雨乞岳を目指した大周遊の難コースに出
来ない。雨の寒さの中、皆の疲労は増すばかり。私はそのとき、もしかし
てしまったのか。やっと登山道らしき道に出ると古い標識があり「←杉峠」
たらゲートは下にもあるかもしれないと思い、も一度携帯を借りてホテル
に電話した。先方から連絡がなかったのは、自分の携帯ではなかったので、
向こうから電話が出来なかったとのことだった。果たしてやはりゲートは
下の御在所岳入口にもあったのだ。そうであればゲートのカギを空ける他
はなく、賢明な宿のスタッフは個人的に知っている営林署関係の係員に頼
み特別にカギを空けてもらえることになったのだ。どれほどの試練の繰り
返しに打ちのめされたことだろう。しかしこれでようやく救われたという
ものだ。厳しくも寛容なる大自然の神の導きに心から感謝、感謝・・・・
*********************************
今回の試練は皆にとっては勿論のこと、ガイドの私にとってもガイド人
生最大の試練であったと思う。これもすべてガイドの私の至らなさ故のこ
とで、参加者の皆さんには心からお詫びせねばと思います。しかしながら
その一方で、今回の体験をどう考えるかは人それぞれでしょう。とんでも
ない体験をさせられてしまった。もうこんな体験まっぴら御免だという人
もいるでしょう。しかしながら、私としては皆さんに今回の体験をプラス
に考え、これからの山旅人生をより素晴らしいものにするための貴重な体
験であったと考えて頂きたいのです。今回のコースは熟達者向けの難コー
スも含まれ、今後一生かけても自分では絶対に歩くことのできない貴重な
体験であったこと。しかもそれを事故やケガなく、皆無事に歩き通せたと
いうことは、今後の山歩きのための貴重な土台となり、大きな自信に繋が
ることと信じます。
*********************************
さて私は明後日、6月20日に東北の山旅に出発です。このお便りでか
なりの時間を費やしてしまい、山の準備は明日1日で急ピッチで済ませね
ばなりません。なので、5月の山旅レポートの続き:伊豆皮子平、伯耆大
山と比婆山、そして大峰山と西中国山地・臥龍山の下見山行などについて
は、次回7月のお便りでお送りします。乞うご期待。
それでは皆さん、これからも日本の山旅で平野ガイドと山と森を歩き、
大自然の気を一杯吸収して元気をもらいましょう。
………
2016 年6月 19日
コロミコ・トレック
平野
洋一
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日本の山旅に関するご質問及びニュージーランド各コースの詳細は
平野ガイドまで何なりとお問い合わせください。
・
■連絡先: 045-481-0571 平野携帯:080-5665-9186
✉ [email protected]
平野ガイドのニュージーランド大自然ウォーク・予告
これまで2年間中断していた平野ガイドのニュージーランド・ハイキ
ングツアーが、昨年から復活することになりました。NZ 環境省から
認可されたオリジナルの各コースを中心に、ニュージーランドの大自
然を知り尽くした平野ガイドならではの大自然ウォークと快適なドラ
イブで皆さんをご案内します。2016/17 これまでとシーズンは11
月下旬から1か月、2月上旬から3月の1か月半を予定しています。