1 語 1 語 ― 2 語 2 語

<第 26 号>平成 28 年 6 月 15 日
湘南養護学校 支援連携部
相談支援係―教師編―
~音声によるコミュニケーションの発信する力を伸ばす~
自閉症療育の現場では、音声によるコミュニケーションを伸ばす方法として1up ルール(ワン・アッ
プ・ルール)という考え方があります。これは、子どもに言葉かけを行うときには、子どもが自発的に
発する言葉数に対して+1語を追加して言葉をかけることで、子どもの理解力と発信する力を伸ばしや
すいという考え方に基づいています。正に、ヴィゴツキーの発達の最近接領域の考え方を具体化した取
り組みの 1 つと言えるでしょう。まずは、子どもがコミュニケーションとして何語文使えるかを調べま
す。子どもが平均すると大体 2 語文程度の発声があるときには、子どもに語りかけるときには 3 語文(2
語文+1 語)で語りかけるようにします。
ただし、これには例外があり、学齢期以降の子どもで理解できる言葉はたくさんあっても発声が全く
見られない場合には、1up ルールは適用されません。また、
「なぜ?」のような5W1H を使った論理的
な説明を求めるような語りかけは高度なので、たとえ単語 1 語であっても慎重に投げかける必要がある
でしょう。子どもに危険があるような状況では、つい早口で矢継ぎ早に声をかけてしまいがちなことも
あるので、言葉かけを見直すより注意が必要です。
1up ルール
子どもの発声語数
タロウくん、ちょっと待って!なんでそんなことするの!危ない
でしょ。断ってからやらないと。いきなりそんなことす△℆☣…
0語
1語
2語
大人の語りかけ語数
―
―
―
1語
2語
3語
1up ルール指示の例
大人「タロウくん、ちょっと待って」
タロウくん:先生を見る
大人「やるのはこっちですよ。
」
例えば、子どもの表出が単語レベルであるなら、大人は 2 語
文(単語+1 語)で話しかけるようにします。いくつかの指示
を出さなければいけないときには、声をかけて子どもの反応が
表れてから、次の指示を出します。
タロウくん:指示通りに移動する
大人「はさみ、ゆっくりね。
」
タロウくん:指示通りに活動する
さらに、1up ルールは、あくまで自発的なコミュニケーションとしての発声に対して適用されるルー
ルなので、エコラリアで3,4語文が言えたとしても、エコラリア以外の発声がなければ、発声レベル
は 0 語とカウントされることもあります。
おはよう
まもなく、新横浜です。We will soon
make a brief stop at Shin-Yokohama.
これだけしゃべれても、コミュニケーション機能を果たしていな
いので、やり取りとして成立する場面を設定して、改めて表出レ
ベルをアセスメントする必要があります。
自閉症の子どもの場合、会話に見えて実はこだわりに他者を巻き込んでいるだけのことがあります。
いつも紋切り的な質問を一方的に投げかけて、それに答えてもらいたいのです。子どもの一方的な質問
に答えるだけに終始せず、言葉のキャッチボールが上手くできるような工夫をします。その上で、改め
て発信レベルを評価します。
また、1up ルールで言葉を伸ばすことや言い方を学ぶことをねらいとするときには、子どもの発声を
繰り返す+1up ルールで返答します。
子ども
大人
「食べたい」→ ◎「ご飯、食べたいね。」“ご飯”=
→ ○「食べたいね。
」
→ △「そうだね。お腹すいたね。
」
→ △「上手に言えました。いいですね。」
◎の返答をすることで、言葉と言葉のつながりや言い方を学びやすくなり、大人が理解したというこ
とを子どもに伝えることができます。正確な発音や言葉そのものの適切な言い方を身につけることがねらい
のときには1up ルールで返答するのがよいでしょう。△の反応については、表現する意欲を伸ばすこと
や他の言葉を教えることをねらいとするのであれば、△の表現がよいでしょう。ねらい(目的)によって返
答の仕方が変わります。ねらいがあっての方法なので、ご注意ください。
私たち大人が外国語の会話教室に通い始めることを想像してみてください。たどたどしく何とか 1 語、
2 語で話したときに、相手がうなずきながら同じ言い方で返答してくれると「伝わったんだな。
」と安心
できます。そして、+1 語で返答されると新しい単語や正しい言い回しも学びやすいでしょう。
こうした返答の仕方は、学齢期以降の児童生徒に対してすべてが当てはまるわけではありませんが、
われわれが普段何気なく子どもに語りかけている言葉のかけ方について考える機会を与えてくれます。
“言われたことは大体理解している”と思われている子どもが、実は言葉よりもジェスチャーなどの視覚
的な情報から指示の内容を理解していたり、口調から情報や意図を読み取っていたりすることもあるで
しょう。言葉かけの仕方を考える一つのきっかけとしていただければ幸いです。
また、AAC の併用については、以下の表を参考にしてみてください。
子どもの実態
5~10 語程度の話し言葉の活用がある。
この表はあくまで目安です。
獲得が推奨されるコミュニケーション方法
話し言葉
模倣は良好で、5~10 語程度の話し言葉の活用がない。
サイン+話し言葉
模倣が未熟で、5~10 語程度の話し言葉の活用がない。
PECS+話し言葉 and/or サイン
「Early Start Denver Model for Young Children with Autism Promoting, Language, and Engagement pp.180
より再編 」
今回ご紹介したのは、ESDM という超早期自閉症療育で用いられる技法です。対象は乳幼児期(9 ヶ
月~5 歳)を対象に行われるプログラムで、高い成果(エビデンス)が示されています。学齢期以降の
子どもと接する上でも参考になることは多いと思い、考え方の一端をご紹介させていただきました。