東京大学農学部公開セミナー 第 50 回 「学」と「業」 講演要旨集 ～～～～～～～～～～ 【 プログラム 開会の挨拶 ～～～～～～～～～～ 】 １３：３５～１４：２５ 『育種学と育種』 データ科学を応用し、品種改良を加速する 生産・環境生物学専攻 准教授 【 休 憩 （ 10 分 ） 岩田 洋佳 】 １４：３５～１５：２５ 環境に優しいセルロースナノファイバーの科学 生物材料科学専攻 准教授 【 休 憩 （ 10 分 ） 齋藤 継之 】 １５：３５～１６：２５ 水産資源の持続的有効利用と水産学 水圏生物科学専攻 准教授 【 閉会の挨拶 司会 日 場 主 共 時 所 催 催 山川 卓 】 教 授 溝口 勝 2016 年 6 月 18 日（土）13：30～16：30 東京大学弥生講堂・一条ホール 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 （公財）農学会 育種学と育種 データ科学を応用し、品種改良を加速する 生産・環境生物学専攻 准教授 岩 田 洋 佳 １ ． 90 億 人 の 食 を 支 え る た め に 2050 年 に は 世 界 人 口 が 90 億 人 を 超 え る と 推 計 さ れ て い る 。今 後 増 加 し て い く 人 口 を 支 え る た め に は 、 2050 年 ま で に 現 在 の 1.7 倍 の 穀 物 生 産 が 必 要 と な り 、毎 年 4400 万 ト ン の 増 産 が 必 要 と さ れ て い る 。こ れ ま で の 40 年 間 の 穀 物 生 産 の 増 加 速 度 は ほ ぼ 一 定 で 毎 年 3200 万 ト ン で あ っ た こ と を 考 え る と 、 今 後 数 十 年 は こ れ ま で に 比 べ て 1.4 倍 の 速 度 で 増 産 し て い く 必 要 が あ る 。水 や 肥 料 な ど の 資 源 が 限 ら れ て い る な か で 、こ う し た 増 産 を 実 現 す る た め に は 、 作 物 の も つ 遺 伝 的 能 力 を 向 上 さ せ る 必 要 が あ る 。な お 、カ ロ リ ー が 足 り て い て も ビ タ ミ ン や ミ ネ ラ ル が 欠 乏 す る「 隠 れ た 飢 餓 」も 大 き な 問 題 と な っ て い る 。健 康 的 で 豊 か な 食 生 活 を 保 障 す る た め に は 、作 物 の も つ 様 々 な 能 力 を 育 種（品種改良）によって高度に改良していく必要がある。 ２．ゲノム解析技術とデータ科学手法を用いた高速育種 作 物 の 育 種 に は 通 常 長 い 時 間 が か か る 。こ れ は 、能 力 の 高 い 個 体 や 系 統 を 選 び 出 す（ 選 抜 ）の に 、栽 培 試 験 を 行 う 必 要 が あ る た め で あ る 。毎 年 収 穫 で き る イ ネ や コ ム ギ で は 通 常 年 １ 回 、収 穫 ま で に 年 数 が 必 要 な 果 樹 で は 何 年 も か け て 栽 培 試 験 が 行 わ れ る 。な お 、イ ネ や コ ム ギ で も 、年 次 に よ っ て 豊 作 ・ 不作などのばらつきがあるため、やはり何年もかけて栽培試験が行われる。 このように栽培試験の必要性が育種の高速化の障壁となってきた。 こうした障壁を取り除く画期的な方法である「ゲノミックセレクション」 が 現 在 注 目 さ れ て い る 。ゲ ノ ミ ッ ク セ レ ク シ ョ ン と は 、DNA 配 列 に み ら れ る 個 体 間 の 違 い（ DNA 多 型 ）に 基 づ き 、個 体 の 遺 伝 的 能 力 を 予 測 し て 選 抜 す る 方 法 で あ る 。ゲ ノ ミ ッ ク セ レ ク シ ョ ン は 、DNA 多 型 を 高 速 に 決 定 す る ゲ ノ ム 解 析 技 術 と 、膨 大 な 数 の DNA 多 型 を 収 量 や 品 質 に 関 連 付 け る デ ー タ 科 学 手 法 が 融 合 し た 新 し い 育 種 法 で あ る 。ゲ ノ ミ ッ ク セ レ ク シ ョ ン を 用 い れ ば 、栽 培 試験を行わずに能力の高い個体を選抜できるため、育種を高速化できる。 ３．ゲノミックセレクションの可能性 ゲ ノ ミ ッ ク セ レ ク シ ョ ン は 育 種 の 高 速 化 だ け で な く 、様 々 な 可 能 性 を も つ 。 例 え ば 、ゲ ノ ミ ッ ク セ レ ク シ ョ ン を 用 い れ ば 世 界 の 様 々 な 地 域 に 適 し た 品 種 を 日 本 で 作 り 出 す こ と も 可 能 で あ る （ 図 1）。 食 料 問 題 解 決 の た め に は 、 不 良 環 境 に お け る 生 産 性 の 底 上 げ が 重 要 だ と い わ れ て い る 。ゲ ノ ミ ッ ク セ レ ク - 1 - ションにより不良環境における収量向上が実現できる可能性は高い。 ま た 、ゲ ノ ミ ッ ク セ レ ク シ ョ ン は 、新 品 種 の 親 と な る 品 種 の 組 合 せ（ 交 配 組 合 せ ）の 選 択 に も 利 用 で き る 。交 配 組 合 せ は 、育 種 家 の 勘 や 経 験 を 頼 り に 選 ば れ る こ と が 多 か っ た が 、コ ン ピ ュ ー タ 上 で シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 っ て 合 理的に選ぶことができる。これにより、育種を効率化できると期待される。 ４．新しい育種システムを構築するために ゲ ノ ミ ッ ク セ レ ク シ ョ ン は 様 々 な 側 面 か ら 育 種 を 合 理 化・効 率 化 で き る 手 法 で あ る 。今 後 は 、各 々 の 作 物 の 特 性 に 合 わ せ て 、同 手 法 を 実 際 の 育 種 に 実 装 し て い く こ と が 重 要 で あ る 。こ こ で 非 常 に 重 要 と な る の は 、作 物 の 収 量 や 品 質 に 関 わ る 性 質・特 徴（ 形 質 ）の デ ー タ を で き る だ け 多 く 蓄 積 し て い く こ と で あ る 。デ ー タ 科 学 に 基 づ く 同 手 法 は 、デ ー タ が 蓄 積 さ れ れ ば さ れ る ほ ど そ の 能 力 を 発 揮 す る 。 こ の 10 年 で 大 幅 に 効 率 が 向 上 し た ゲ ノ ム 解 析 技 術 に 比 べ 、作 物 の 形 質 を 計 測 す る 技 術 の 効 率 は 高 く な い 。ド ロ ー ン に よ る 計 測 な ども活用し、形質データの蓄積の効率を高めていくことが重要だろう。 育 種 は 、人 間 が 有 史 以 前 か ら 行 っ て き た 重 要 な「 業 」の 一 つ で あ る 。そ の 長 い 歴 史 を も つ 業 が 、今 、近 年 急 速 に 発 展 し た 生 命 科 学 や 情 報 科 学 を 原 動 力 に し て 新 し い 進 化 を 遂 げ よ う と し て い る 。こ の 進 化 を 成 し 遂 げ る こ と が で き れ ば 、 90 億 人 の 食 を 支 え る 農 業 生 産 の 実 現 に も 大 き く 貢 献 で き る だ ろ う 。 図 1. ゲノミックセレクションを用 いれば、DNA 多 型 に基 づいて世 界 各 地 の不 良 環 境 における能 力 を予 測 でき、予 測 値 をもとに各 不 良 環 境 に適 した個 体 を選 抜 できる。 - 2 - 環境に優しいセルロースナノファイバーの科学 生物材料科学専攻 准教授 齋 藤 継 之 １．セルロース利用の意義 本 公 開 セ ミ ナ ー で は 、鋼 鉄 の 5 分 の 1 の 重 さ で 5 倍 強 い と も 言 わ れ る 木 材 由 来 の 新 素 材“ セ ル ロ ー ス ナ ノ フ ァ イ バ ー ”に つ い て 紹 介 す る 。昨 年 改 定 さ れた内閣の日本再興戦略の一つとしてセルロースナノファイバー関連の研 究 推 進 が 宣 言 さ れ 、経 済 産 業 省 主 導 の「 ナ ノ セ ル ロ ー ス フ ォ ー ラ ム 」に 国 内 170 社 の 企 業 が 参 画 す る な ど 、近 年 セ ル ロ ー ス ナ ノ フ ァ イ バ ー へ の 注 目 が 高 まっている。 セ ル ロ ー ス と い う 物 質 自 体 は 、高 校 の 教 科 書 で も 取 り 上 げ ら れ て お り 、ご 存 知 の 方 も 多 い の で は な い だ ろ う か 。セ ル ロ ー ス は 、グ ル コ ー ス が 直 鎖 状 に 連なったシンプルな分子構造を有しており、樹木の主成分（乾燥重量の約 50％ ）と し て 地 球 上 で 最 も 多 量 に 蓄 積 し て い る バ イ オ マ ス（ ＝ 持 続 的 に 再 生 産 さ れ る 有 機 資 源 ）で あ る 。我 々 人 類 は 、材 木・ 衣 類 ・紙 等 と し て 古 く か ら セ ル ロ ー ス を 利 用 し て い る 。し か し 、石 油 等 の 枯 渇 資 源 に 依 存 し た 暮 ら し を 脱 却 し 、自 然 と 持 続 的 に 共 生 す る 循 環 型 社 会 を 構 築 す る た め に 、セ ル ロ ー ス を よ り 高 度 に 利 用 す る こ と が 今 ま さ に 求 め ら れ て い る 。こ の 社 会 的 要 請 に 応 え る こ と は 、自 然 環 境 の 保 全 と 人 類 の 欲 求 と の 間 で 発 展 的 な 共 生 を 追 求 す る “農学”の使命の一つとも言える。 ２．樹木中のセルロース構造 次 ペ ー ジ の 図 １ を 見 て い た だ き た い 。樹 木 中 の セ ル ロ ー ス は 、精 緻 な 階 層 構 造 を 形 成 し て い る 。ま ず 、ま っ す ぐ な 分 子 鎖 が 数 十 本 束 に な り 、ナ ノ フ ァ イ バ ー 状 の 構 造 体 を 形 成 す る 。こ の 構 造 体 は 、組 織 学 上“ セ ル ロ ー ス ミ ク ロ フ ィ ブ リ ル ”と し て 定 義 さ れ て き た 。さ ら に 、100 億 本 に も 至 る 無 数 の セ ル ロ ー ス ミ ク ロ フ ィ ブ リ ル が 整 列 し 、強 固 に 結 束 す る こ と で 、チ ュ ー ブ 状 の 繊 維 質（ 細 胞 壁 ）を 形 成 し て い る 。こ の チ ュ ー ブ 状 の 繊 維 質 が 、ギ リ ギ リ 肉 眼 で も 見 え る 木 材 パ ル プ 繊 維（ 紙 を 構 成 す る 繊 維 質 ）で あ る 。想 像 し て み て い た だ き た い 。テ ィ ッ シ ュ ペ ー パ ー の 毛 羽 立 っ た 繊 維 １ 本 の 中 に 、世 界 人 口（ 約 70 億 人 ） を 超 え る 数 の ミ ク ロ フ ィ ブ リ ル が 、 ぎ っ し り と 堅 く 詰 ま っ て い る わ け で あ る 。木 材 パ ル プ 繊 維 １ 本 の 引 張 強 度 は 、鋼 鉄 の 約 ２ 倍（ 最 大 で 1.7 GPa） に も 達 す る 。 す な わ ち 、 パ ル プ 繊 維 １ 本 の 中 で 、 無 数 の ミ ク ロ フ ィ ブ リルが文字通り強固に結束（水素結合）している。 - 1 - ３．木質素材からセルロースナノファイバーへ セ ル ロ ー ス ナ ノ フ ァ イ バ ー と は 、木 材 を 水 中 で 繊 維 質 に ほ ぐ し た も の（ 製 紙 原 料 と な る パ ル プ 繊 維 ）を 、さ ら に 細 か く ミ ク ロ フ ィ ブ リ ル レ ベ ル に ま で ほ ぐ し た 新 素 材 で あ る 。木 材 を 繊 維 質 に ほ ぐ す プ ロ セ ス（ 蒸 解 ）は 古 く か ら 確 立 し て お り 、現 在 製 紙 産 業 で 流 通 し て い る パ ル プ 繊 維 は キ ロ 100 円 程 度 の 安 価 な 素 材 で あ る 。 し か し 、“ 無 数 の ミ ク ロ フ ィ ブ リ ル が ぎ っ し り と 堅 く 詰 ま っ た ”パ ル プ 繊 維 を さ ら に 細 か く（ 例 え ば 平 均 繊 維 径 が 100 ナ ノ メ ー ト ル 以 下 と な る ま で ） ほ ぐ す た め に は 、 従 来 30,000 kWh/ton も の 大 量 の エ ネ ル ギ ー を 消 費 す る 粉 砕 処 理 が 必 要 で あ っ た 。結 果 と し て 、従 来 の セ ル ロ ー ス ナ ノ フ ァ イ バ ー は 非 常 に 高 価 で 、繊 維 径 も バ ラ つ き が 大 き く 、工 業 利 用 は 極 め て限定的なものであった。 当 研 究 室 で は 、TEMPO 触 媒 酸 化 と 呼 ば れ る グ リ ー ン ケ ミ ス ト リ ー（ 環 境 に や さ し い 化 学 反 応 ）と コ ロ イ ド サ イ エ ン ス（ 微 粒 子 分 散 系 の 科 学 ）の 知 見 を 組 み 合 わ せ る こ と で 、従 来 よ り も 効 率 的 に セ ル ロ ー ス ナ ノ フ ァ イ バ ー を 生 産 す る 手 法 を 近 年 見 出 し て い る 。こ の 新 手 法 に よ り 、木 材 パ ル プ 繊 維 の 粉 砕 工 程 に 要 す る エ ネ ル ギ ー 量 が 従 来 の 100 分 の 1 以 下 と な り 、得 ら れ る セ ル ロ ー スナノファイバーは３ナノメートルの均一な繊維径となる。 本 公 開 セ ミ ナ ー で は 、セ ル ロ ー ス ナ ノ フ ァ イ バ ー の 生 産 法 や 基 本 特 性 、応 用事例等について概説する。 樹木中のセルロース構造 直鎖状のセルロース分子が数十本束になって ナノファイバー を形成 3 nm 0.5 nm 木材パルプ繊維 （細胞壁） 製材 セルロース 分子鎖 セルロース ミクロフィブリル ► 高強度 (2~3 GPa), 高弾性率 (110~140 GPa) 20~40 µm ► 熱安定性 (No Tg & Tm, Td 300 ºC, CTE 0 ppm/K) ► 耐薬品性, 絶縁性, etc. … セラミック材料？でも軽くてしなやか 蒸解 （木材を水中で 繊維質にほどく） ■ 解きほぐせず、成形加工難 図１ 樹木セルロースの階層構造と工業利用 - 2 - 水産資源の持続的有効利用と水産学 水圏生物科学専攻 准教授 山 川 卓 １．ヒトと自然の関わり方 水 産 業 は 、地 球 上 に 数 あ る 産 業 の な か で も 、天 然 の 野 生 生 物 を 資 源 と し て 利 用 す る 最 大 規 模 の 産 業 で あ り 、こ の 有 限 な「 宇 宙 船 地 球 号 」の 中 で 我 々 人 類が今後どのように持続可能な社会を構築していくことができるかを考え る 際 の 雛 型 と し て 、最 も 示 唆 に 富 む 産 業 で あ る と い え よ う 。そ の 生 産 性 は 自 ず と 自 然 の 再 生 速 度 に 規 定 さ れ る た め 、ヒ ト と 自 然 の 関 わ り 方 に つ い て 正 面 か ら 向 き 合 い 、如 何 に す れ ば 自 然 生 態 系 の 恩 恵 を 持 続 的 に 享 受 し 続 け て い け る か を 真 摯 に 考 え て い く 必 要 が あ る 。こ こ で は 、水 産 資 源 の 持 続 的 有 効 利 用 に向けて科学（水産学）が果たしてきた役割と方向性を紹介する。 ２．水産資源の基本的特徴 水産資源は、①自律更新性 ②無主物性 ③不確実性という特徴をもつ。 石 油 な ど の 非 再 生 資 源 と 異 な り 、① 雌 親 が 卵 や 子 を 産 む こ と で 自 律 的 に 更 新 （ 再 生 産 ）さ れ る 。こ の た め 、漁 獲 圧 を 調 節 し 、再 生 速 度 と 減 耗 速 度 の バ ラ ン ス を 適 切 に 保 つ こ と が で き れ ば 、将 来 に わ た る 持 続 的 利 用 が 原 理 的 に 可 能 で あ る 。し か し 、農 作 物 な ど と 根 本 的 に 異 な る ② の 特 徴 に よ り 、そ の バ ラ ン ス は 損 な わ れ や す い 。天 然 の 魚 は 、水 中 を 泳 い で い る 状 態 で は 誰 の も の で も な い 無 主 物 と み な さ れ 、漁 獲 行 為 に よ っ て 最 初 に 手 中 に 収 め た 者 が そ の 所 有 権 を 主 張 で き る （ 無 主 物 先 占 ）。 こ の た め 、 漁 業 を 完 全 な 自 由 競 争 に 委 ね る と 、早 い も の 勝 ち の 漁 獲 競 争 に よ っ て 乱 獲 に 陥 る 。こ れ は 、Hardin の「 共 有 地 の 悲 劇 」や 社 会 的 ジ レ ン マ と 同 型 の 問 題 で あ り 、自 由 な 経 済 行 為 に 伴 っ て 生じる共有資源の劣化という外部不経済をいかにシステム内に取り込んで （ 内 部 化 し て ）制 御 す べ き か と い う 命 題 に 繋 が る 。ま た 、③ 環 境 の 影 響 を 受 け て 資 源 は 年 々 変 動 し 、魚 は 移 動・回 遊 す る 。そ れ は 漁 業 者 に と っ て 大 き な 不 確 実 性 で あ り 、目 の 前 に 魚 群 が 来 遊 し て い る 今 の こ の チ ャ ン ス に で き る だ け 多 く 獲 っ て お こ う と 、漁 獲 競 争 に 拍 車 が 掛 か る 。将 来 の 状 態 が 不 確 実 な た め、現在価値に比べて将来価値が大きく割り引いて評価されるのである。 ３．水産資源の科学的管理 水 産 資 源 管 理 で は 、ヒ ト の 健 康 管 理 と 同 様 に 、現 状 診 断 を 行 っ た う え で 治 療（ 管 理 ）が 行 わ れ る 。ま ず 、年 齢 、成 長 、自 然 死 亡 、再 生 産 な ど の 生 物 的 特 性 や 、資 源 量 、漁 獲 率 な ど の 資 源 特 性 値 が 、科 学 的 に 推 定（ 資 源 評 価 ）さ れ る 。次 に 、資 源 評 価 結 果 と 管 理 目 標 を 比 較 し て 、資 源 の 現 状 を ど う み る か 、 望 ま し く な い 状 態 に あ る と す れ ば 何 が 問 題 な の か 、と い う 資 源 診 断 が 行 わ れ る 。そ し て 、資 源 の 合 理 的 利 用 や 目 標 と す る 状 態 へ の 回 復 を 目 指 し て 、漁 獲 - 1 - 規 制 等 の 資 源 管 理 措 置 が 実 行 さ れ る 。こ れ ま で 、余 剰 生 産 モ デ ル や 成 長 生 残 モ デ ル な ど の さ ま ざ ま な 資 源 動 態 モ デ ル が 開 発 さ れ る と と も に 、最 大 持 続 生 産 量（ maximum sustainable yield: MSY）の 概 念 が 、国 際 的 な 資 源 管 理 の 協 議 の 場 や 、わ が 国 の 漁 獲 可 能 量（ total allowable catch: TAC）管 理 に お け る 中 心 的 概 念 と し て 用 い ら れ て き た 。総 じ て 、歴 史 的 な 乱 獲 に よ っ て 資 源 が 大 き く 減 少 し た 魚 種 が あ る 一 方 で 、適 切 な 管 理 の 導 入 に よ っ て 資 源 が 回 復 あ る い は 適切な水準に維持されてきたものもあり、個別の丁寧な評価が肝要である。 ４．不確実性への対処法 多くの水産資源において、 十年～数十年の時間スケー ルで生じる地球規模での大 気－海洋－海洋生態系の構 造転換（レジームシフト） に伴って、資源水準が大き く変動することが明らかに さ れ て き た （ 図 １ ）。 エ ル ニ ー ニ ョ /ラ ニ ー ニ ャ の サ イ ク ルや地球温暖化によっても、 資源状態や生産性は大きく 変わりうる。そのような中 長期的な不確実性に対処す るための管理方式として、 フィードバック管理や順応 的管理が提案されている。 図１．レジームシフトに伴う主要浮魚類の漁獲量の長 期 変 動 。 ア リ ュ ー シ ャ ン 低 気 圧 指 数 （ ALP I ） が 正 値のときには日本周辺の気候は平年よりも寒冷傾 向に，逆に負値のときには温暖傾向になり，それ に伴って各資源が変動する。 こ れ ら は 、 対 象 と す る 系 (資 源 、 生 態 系 な ど )の 状 態 が 、 管 理 行 動 の 投 入 や 外 的要因の変化によってどのように変わるかを継続的にモニタリングしなが ら 、管 理 の 内 容 と 程 度 を 適 応 的 に 調 節 し て い く 方 法 で あ る 。将 来 予 測 に 不 確 実 性 が あ る こ と を 前 提 に 、系 へ の 入 力 に 対 す る 出 力 の 変 化（ 応 答 ）を モ ニ タ ー し て 学 習 し 、そ の 変 化 に 逐 次 的 に 対 処 す る 。例 え ば 、現 状 の 資 源 量 が 目 標 資 源 量 よ り も 多 け れ ば 、 事 前 に 合 意 し た 漁 獲 制 御 ル ー ル (harvest control rule:HCR)に 従 っ て 漁 獲 量 を 増 や し 、少 な け れ ば 漁 獲 量 を 減 ら す 。そ の よ う な 現 実 へ の 対 処 の 一 方 で 、資 源・生 態 系 の 動 態 を 模 し た 仮 想 現 実 モ デ ル を コ ン ピ ュ ー タ 上 に 作 成 し 、そ れ を 用 い て 一 連 の 資 源 管 理 実 験 を 繰 り 返 し 行 っ て 適 切 な HCR を 探 る 。 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン で は 仮 想 し た 真 の 資 源 状 態 が わ か っ て い る た め 、資 源 評 価 や 管 理 の 失 敗 /成 功 を 判 断 し 、管 理 シ ス テ ム 全 体 の 性 能 を 評 価 で き る 。さ ま ざ ま な 不 確 実 性 を 想 定 し た シ ナ リ オ を 設 定 し 、 不 確 実 性 に 対 し て 頑 健 な 管 理 方 式 を 開 発 す る 。こ の 一 連 の プ ロ セ ス は 、 現 実 世 界 と 仮 想 世 界 を 並 行 さ せ た PDCA(Plan-Do-Check-Act)サ イ ク ル と み な す こ と が で き る 。 - 2 - プロフィール い わ た 岩田 ひろよし 洋佳 生産・環境生物学専攻 生物測定学研究室 主な研究活動 農 学 と デ ー タ 科 学 の 融 合 と 発 展 が 我 々 の 研 究 室 の 使 命 の 一 つ で す 。現 在 私 は 、 ゲ ノ ミ ッ ク セ レ ク シ ョ ン と よ ば れ る 手 法 を さ ら に 発 展 さ せ 、能 力 の 高 い 品 種 を素早く作り出すための育種システムを開発するための研究に励んでいま す 。最 近 で は ド ロ ー ン 計 測 な ど の 新 技 術 も 続 々 登 場 し 、毎 日 心 を ワ ク ワ ク さ せながら研究を進めています。 さいとう 齋藤 つぐゆき 継之 生物材料科学専攻 製紙科学研究室 主な研究活動 鋼 鉄 の ５ 分 の １ の 重 さ で 、５ 倍 強 い と も 言 わ れ る“ セ ル ロ ー ス ナ ノ フ ァ イ バ ー ”に つ い て 研 究 し て い ま す 。セ ル ロ ー ス ナ ノ フ ァ イ バ ー と は 、製 紙 用 の 木 材 パ ル プ（ 紙 を 構 成 す る 繊 維 質 ）か ら 製 造 さ れ る バ イ オ マ ス 由 来 の 新 素 材 で あり、少しずつですが、実用化され始めています。 やまかわ 山川 たかし 卓 水圏生物科学専攻 水産資源学研究室 主な研究活動 水 産 資 源 の 持 続 的 利 用 を め ざ し て ，資 源 お よ び そ れ を と り ま く 生 態 系 の 動 態 や ，資 源 評 価・管 理 手 法 に 関 す る 研 究 を 行 っ て い る 。効 果 的 な 資 源 管 理 の た め に は ，資 源 や 生 態 系 に 関 す る 自 然 科 学 的 な 研 究 に 加 え て ，社 会 科 学 的 な 側 面も含めた総合的アプローチが必要であり，それに向けて奮戦中。
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