光計測・光操作を駆使した精神疾患研究:アパシーの神経基盤 田中謙二

光計測・光操作を駆使した精神疾患研究:アパシーの神経基盤
田中謙二(慶応大学医学部 精神・神経科学教室)
オプトジェネティクスは神経科学に登場した革新的な実験技術であ
る。自分の興味のある細胞の活動を光照射のオン、オフで操作でき
る技術で、神経科学コミュニティーに爆発的に広がった。オプトジ
ェネティクスの登場当初(2005 年)はこの革新技術をどのように
自身の実験に組み込むかが話題の中心であり、とりあえずオプトジ
ェネティクスを用いた操作に成功しさえすれば論文に掲載すること
が出来た。登場から 10 年が経過した現在、オプトジェネティクス
を使うことは大した評価に繋がらず、この革新技術を用いて何を解
くか、その姿勢が問われるようになった。
本講演では、意欲・アパシー研究にどのようにしてオプトジェネテ
ィクスを活用するか、姿勢の一例を示したい。意欲とは何か、意欲
の障害(アパシー)とは何かという問いは、特定の行動がどのよう
な神経基盤に成り立つのかという問いへ変換できる。そこでオプト
ジェネティクスを活かしたいと願うのだが、では、どうやって活か
せばよいのだろうか。発表者の提案は、十分な活動観察ののちにオ
プトジェネティクスを導入しましょう、というものである。どの領
域の、どの細胞が、どんなタイミングで活動するのか、これを意欲
行動中に観察できて初めて光操作が有効な実験手段となる。領域を
絞る、細胞種を限定する、活動のタイミングを調べる、いずれも簡
単な技術ではないが、これらをあわせた十分な観察実験結果を土台
として光操作という介入が成り立つのである。