荻 巻 野 俊 頭 郎 253 表面科学 Vol. 37, No. 6, pp. 253-257, 2016 言 オープンサイエンス時代における日本表面科学会 荻 1.は じ め 野 俊 郎 に 本号の特集は,研究論文のオープンアクセスにかかわる意義と動向である。インターネット の普及により情報流通が容易になり,成果の発信の形態が大きく変わろうとしている。これに は,論文購読料の高騰などの理由もあるが,技術的には情報革命のもたらした研究情報流通の 急速な拡大であり,同時に社会に開かれた研究への要求の高まりによる。以前から発見や発明 が社会をにぎわすことはあっても,研究論文そのものが社会の関心を呼ぶことはほとんどなか ったが,オープンアクセスあるいはオープンサイエンスの流れが急速に進んでおり,成果の公 開性が本会会員においても本会自体においても求められている。また,論文不正が社会の大き な関心を呼び,研究者倫理が厳しく問われる時代になっている。こうした状況について本会が 現在どのような位置にあるかを率直に見ると,時代を先取りしたオープンサイエンスを有する と同時に,公益社団法人として社会へ責任を負うべき立場から見て不十分な点も見られる。本 巻頭言では,研究論文と社会との関係について,オープンアクセス化を中心にして,本会の考 え方を示す。通常のページ数を超えて企画されているのは,単なる巻頭言ではなく,本会の中 で議論していただくためのたたき台を提供するということも含まれているからである。オープ ンアクセス化には様々な側面があり,研究者(著者),研究者の所属する機関,ジャーナルを 発行する学会によって利害は必ずしも一致しない。ここでは,主として日本表面科学会におけ るオープンアクセス化の指針について考えを述べる。なお,本巻頭言を書くにあたって,本号 にオープンアクセス化の意義や現状・展望について解説していただいた林和弘氏,谷藤幹子 氏,天野絵里子氏の記事 1∼3)をあらかじめ読ませていただき,参考にしたことをお断りしてお く。 2.オープンアクセス化の流れ オープンアクセス化は,当初は個別機関の取組みから発生したが,現在は世界的な潮流にな っており,日本でも大学独自の情報発信として,国としては公的資金による研究成果の公開性 への要求などから関心が高まっている。日本学術振興会の科学研究費補助金(科研費)のホー ムページ 4)を見ると,強制するものではないとしても,科研費による研究成果のオープンアク セス化を期待している。日本学術会議においては,平成 28 年度からの 5 か年の科学技術基本 計画において,オープンサイエンスの推進が謳われている 5)。この計画では,オープンサイエ ンスをオープンアクセスや研究データのオープン化を含む広い概念として位置付けており,知 The Surface Science Society of Japan in the Open-Science Movement Toshio OGINO(Yokohama National University)
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