ループ利尿薬増量の立場から 賴 建光

ループ利尿薬増量の立場から
賴 建光 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野)
効果はプラトーに達し,それ以上の利尿効果は発揮し
ループ利尿薬の作用機序
ない。この限界用量を最大有効量(maximum effective
浮腫性疾患の治療において,原疾患の治療に加えて利
dose)と呼ぶ。
尿薬を適切に用いることは臨床上きわめて重要である。
なかでもループ利尿薬は,その強力な Na 利尿作用から
ループ利尿薬の最大有効量
浮腫の治療に最も頻用される薬剤である。
ループ利尿薬はヘンレの太い上行脚に存在する Na /
腎機能が正常な健常人における研究では,フロセミド
K /2Cl 共輸送体(NKCC2)の阻害作用によりその利尿
は 10mg という低用量から利尿効果を発揮しはじめ,静
効果を発揮し,最大有効量使用時には糸球体で濾過され
注での最大有効量は 40mg 程度である。経口投与した場
た Na の 25%程度まで Na の再吸収を抑制できる(図1)
。
合の生物学的利用率は約 50%程度のため,経口での最
フロセミド,アゾセミド,トラセミド,ブメタニドなど
大有効量は静注の約2倍(80mg)程度となる。最大有効
が代表的な薬剤だが,薬剤間で利尿効果に大きな差はな
量以上の投与はそれ以上の利尿効果を及ぼすことはな
く,現場ではフロセミドが用いられることが多い。
く,逆に副作用の発現リスクを高めることになる。
ループ利尿薬はその大部分(98%以上)が蛋白と結合
心不全,肝硬変,腎不全の患者では,腎血流量の低下,
しており,糸球体からは濾過されずに近位尿細管におい
近位尿細管での分泌低下,レニン−アンジオテンシン系
て尿細管腔に分泌される(図2) 。ループ利尿薬の作用
の活性化などによる Na 再吸収の増加などの要因により,
は用量依存性で,その作用部位への到達量に依存してい
フロセミドの最大有効量は増大する。
る。高用量までは直線的な用量−効果関係にあり,増量
経験的に導き出されるそれぞれの疾患におけるフロセ
によって効果が増強するが,ある一定の用量以上では
ミドの静注での最大有効量は,おおむね以下のとおりで
+
+
−
1)
ある。
肝硬変(正常腎機能):40mg
心不全(正常腎機能):40 〜 80mg
ループ利尿薬
ネフローゼ症候群(正常腎機能):120mg
3Na+
∼
慢性腎臓病:糸球体濾過量(GFR)の低下の程度に応じ
て最大有効量は増大していく
2K
+
・中等度の GFR 低下:80mg
Barttin
K+
Cl−
CLCNKB
ROMK
血管側
尿細管腔側
Na+
2Cl−
K+
NKCC2
・高度の GFR 低下:200mg
・乏尿性急性腎障害(AKI):500mg 程度まで増量可能
K
−
Na+
NHE3
H+
Na+
難治性浮腫の治療における
利尿薬の選択と有効用量の決定
3HCO3−
図1.ヘンレの太い上行脚における Na の再吸収機構
浮腫の治療の原則は,厳格な水分・塩分制限と利尿薬
尿細管細胞の管腔膜側に存在する NKCC2 により尿細管腔内の Na は細胞
の使用である。利尿薬としては,通常はループ利尿薬が
内に輸送され,血管側に存在する Na-K-ATPase により血管内へと輸送さ
れる。この NKCC2 は,ループ利尿薬により阻害される。
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第一選択として用いられる。前述のように,ループ利尿
Fluid Management Renaissance Vol.5 No.2 2015
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