超並列粒子コードを用いた ジオ・スペースプラズマ理工学シミュレーション 代表者氏名:三宅 洋平(神戸大学計算科学教育センター) 共同研究者:小路 真史、梅田 隆行、石井 克哉(名古屋大学) 川口 伸一郎、木倉 佳祐、松原 琢磨、鬼頭 沙希(神戸大学) 本研究は、ジオ・スペースプラズマ環境に関する理工学問題について、大規 模プラズマ粒子シミュレーションによって取り組むことを目的とする。本研究 で用いる粒子シミュレーションは、並列プロセス間の動的負荷分散処理や、マ ルチカラースケジューリングに基づく共有メモリ並列化など、次世代の超並列 計 算 機 環 境 を 想 定 し た 最 適 化 を 精 力 的 に 進 め て い る 。H27 年 度 は 演 算 の SIMD ベ クトル化の観点からプラズマ粒子計算の最適実装手法の検討を実施した 。 工学的観点からは、近年かぐや衛星で発見され、月火山活動の重要な証拠と して注目されている月縦孔地形周辺のプラズマ電気環境を大規模粒子シミュレ ーションにより再現し、将来の着陸探査に先駆けて必要となる表面近傍電界分 布を予測した。その結果、月面の帯電現象に関して、①縦孔地形によって生じ る 日 向 と 日 陰 の 間 に 40 V 超 の 電 位 差 が 生 じ る こ と 、 ② 同 じ 日 向 の 条 件 で あ っ て も、縦孔の内部では外部に比べて高電位に帯電すること、 ③縦孔内部の強力な 電 場 に よ り 、10 -1 10 0 m サ イ ズ の 帯 電 ダ ス ト が 月 の 重 力 に 打 ち 勝 ち 浮 遊 し う る こ と( 通 常 の 昼 側 月 面 で は 10 -2 m サ イ ズ の ダ ス ト し か 浮 遊 条 件 を 満 た さ な い )、 が確認された。今後は、縦孔の底部に存在が示唆されている地下空洞を含めた シミュレーション解析により、より現実性の高い電気環境予測を実施する。 一方、理学的な問題としては、月に局所的に存在する磁気異常と太陽風プラ ズ マ の 電 磁 的 相 互 作 用 現 象 に つ い て 取 り 扱 っ た 。 Reiner Gamma と 呼 ば れ る 月 磁 気 異 常 を モ デ ル ケ ー ス と し 、月 上 空 数 100 km ま で の 空 間 に お け る 小 型 磁 気 圏 形 成 過 程 を 、3 次 元 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ っ て 自 己 無 撞 着 に 再 現 し た 。特 に 磁 気 圏 境界層における電子ダイナミクスによって決定づけられる電流構造に着目して、 詳細解析を実施したところ、電子ドリフト運動の構造により磁気圏層間側、す なわち磁気異常上空の南北両半球において渦的 な電子構造が見られた。特に赤 道面における電子電流には、電子-イオン間の荷電分離によって発生する電場 と 磁 気 異 常 磁 場 に よ る E×B ド リ フ ト と 、磁 気 圏 境 界 層 付 近 で の 電 子 圧 力 の 急 速 な減少に伴う反磁性ドリフト電流が大きな役割を果たしていることが明らかと なった。これらの結果は小型磁気圏の構造、ひいてはその周辺でのイオンのダ イナミクスにも大きく影響を及ぼすという点で、月プラズマ科学上、きわめて 重要な成果である。
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