「RANS」における中性子回折実験の取組み

「RANS」における中性子回折実験の取組み
池田義雅*、高村正人*、竹谷篤*、須長秀行*、大竹淑恵*、
浜孝之**、鈴木裕士***、熊谷正芳****、大場洋次郎**
*理化学研究所、**京都大学、***日本原子力研究開発機構、****東京都市大学
Auther e-mail address: [email protected]
要旨:
近年の省エネルギー技術開発の流れから、自動車業界においては燃費性能向上のため軽量高強度の金属素材
としてマルテンサイト組織を活用した複相組織鋼など高張力鋼板が注目されている。しかし高張力鋼は延性が乏しく、
応力―ひずみの関係が特異なため、従来より多用されてきた軟鋼と比べても高い加工技術が必要とされ、強度と成形
性を両立した素材開発や塑性加工シミュレーションの高度化が望まれている[1]。優れた高張力鋼板を得るために金
属のより深い理解を目指して、金属結晶のミクロな組織の研究が盛んにおこなわれている。結晶組織を見る方法とし
ては回折測定が用いられ、波長と回折角から格子面間距離分布を得て、その積分値から集合組織、ピークのずれか
ら残留ひずみ、ピーク幅の変化から転位密度と結晶子サイズの情報をそれぞれ得ることができる。しかし回折測定に
一般的によく用いられる X 線や電子線といった放射線は鉄に対する透過性が低く、サンプル表面~100μm 程度の深
さまでしか結晶構造を分析することができない。そこで金属に対して透過性の強い中性子線を用いて回折測定を行う
ことで、数ミリ以上の厚みを持ったサンプルの内部の結晶構造を測定することができる。
中性子線は重元素に対して透過性が高く、水素、ヘリウム、ホウ素といった軽元素の可視化に優れているため、金
属素材やコンクリートの内部を非破壊で観察することが可能であるが、これまでの中性子線源には実験用原子炉や大
型加速器など、大規模な装置が用いられてきたため、実験室レベルの頻度の高い手元での利用が困難だった。理研
ではこれを解決するため、手元で役に立つ中性子源を目指して小型中性子源システム RANS:Riken Acceleratordriven compact Neutron Source(図 1) を開発し、2013 年より稼働を開始した。現在ものづくり現場での利用といった実
用化を目指して、いくつかの測定システムを開発中である。RANS では 7MeV まで加速した陽子を Be ターゲットに当
て、生成した中性子をポリエチレン減速材に通すことで meV から MeV までの広いエネルギースペクトルの中性子を
得られる。このうち金属結晶の格子定数をカバーする波長(~10nm)のエネルギー領域(~10meV)を用いて、2014 年夏
より回折実験の試みも開始し、BCC 鉄サンプルに引っ張り変形を加えた前後の引っ張り方向に対する集合組織の変
化とらえることに成功した。さらに全方位に対する変化を観測するために極点図の作成を目指して実験を重ねている。
今後小型中性子源を用いた中性子回折実験の手法の確立と産業利用への橋渡しを目指して小型中性子源を利
用した測定システムの高機能化と精度向上を図っていく。金属結晶の解析手法として中性子線が普及することで、今
まで見えていなかったサンプル内部の結晶構造の解明から、金属材料塑性加工分野での新たな進展に繋がることが
期待される。本講演では理研における RANS を用いた中性子回折結晶解析実験の結果と今後の展望について紹介
する。
図 1 RANS 全体写真
参考文献
[1] Takamura, M., Ozaki, T., Miyoshi, Y., Sunaga, H., & Takahashi, S.: Proc. ICTP 2011, (2011), 591.
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