列車運行実績データと自動改札データを用いた旅客個人ごとの不効用の推定 (指導教員 富井 規雄 教授) 富井研究室 1131010 飯村 彩希子 1 はじめに 都市圏の鉄道では,ラッシュ時に慢性的に発生する小 規模の遅延が問題となっている。そのため,鉄道会社は 遅延を防ぐために鉄道ダイヤの改善に努めている。ダイ ヤ改善には,列車の運行状況,乗換客の数など,旅客流動 を詳細に把握した上で分析を実施する必要がある。列車 の運行状況は日々異なるため、その日の旅客流動を反映 したデータが必要となる。そこで本研究では,同日の旅 客の発駅や着駅、到着時刻などの利用状況を記録した自 動改札機データと列車の運行実績データを用いて,旅客 の乗車した列車を推定し、旅客個人の不効用を推定する。 2 解決すべき課題 自動改札データからの旅客流動の予測 自動改札データは 30 分毎の各出発駅から到着駅で退 場した人数を記したデータであり,旅客がどの列車に乗 車したかは分からない。そのため,旅客個人の不効用を 推定するには、旅客個人の経路を予測する必要がある。 2.1 2.2 旅客個人の不効用を一目で把握できるような表示方 遅延が生じた時の旅客への影響を旅客個人ごとに定量的 に明らかにする。不効用は以下の式で計算する。 Disutil = T ime + 2 × W ait + 600 × T rans+ ∑ (1) (InterT ime × CongF ormula) 総所要時間と乗換による列車の待ち時間、乗換回数、混 雑による不効用をすべて時間 (秒) に換算する。 4 実行例 以下の旅客を対象にプログラムを実行した。 • 2012 年 10 月 01 日と 2012 年 10 月 05 日 • 東京メトロ東西線 (B 線) 区間で発着した旅客 • 始発から 10 時までに着駅に到着した旅客 以上の条件を満たす旅客の中から上位 6 万人を総不効用 の高い順に並べたグラフを以下に示す。色が濃い方が 10 月 1 日で色が薄いほうが 10 月 5 日である。10 月 1 日 よりも 10 月 5 日のほうが列車が遅延している。(オレン ジ:混雑による不効用, 青:総所要時間) 法の考案 旅客個人の不効用を算出し、旅客の不効用を項目別に 一目で把握できるような表示方法を考案する。 3 アプローチ 3.1 経路探索ネットワークを用いた旅客流動の予測 図 1 10 月 01 日の旅客の不効用 3.1.1 経路探索ネットワークの構築 日ごとの列車の運行を記した列車運行実績データより 経路探索ネットワークを構築する。ノードは各路線の各 駅の各方向の数だけ用意する。アークは走行アーク、停 車アーク、乗換アークの 3 種類である。乗換アークを引 くとき、乗換駅だけを見るようにして、時間短縮を行う。 3.1.2 旅客の乗車列車の推定 旅客の乗車列車を以下のように推定する。 図 2 10 月 05 日の旅客の不効用 1. 登録されている到着時間の 30 分前に存在する到着 駅ノードを候補として抽出 2. 乱数を用いて旅客をノードに割り当てる 3. 着駅からダイクストラ法で最短経路を求める 3.1.3 旅客の到着駅での路線方向の決定 ノードを抽出する際、旅客が到着駅で降り立った方向 がその後経路探索をする上で重要な鍵となる。そこで、 どちらの方向から到着したのかを知るためのテーブルを 駅の対ごとに用意しておく。それを手掛かりとしてノー ドを抽出する。 旅客の不効用の可視化 経路探索ネットワークに実績データの遅延情報を加え て算出した旅客個人の不効用の内訳をファイルに出力し、 3.2 図 1 と図 2 を比較すると、10 月 1 日よりも 10 月 5 日 のほうが混雑による不効用が増加していることがわかる。 この結果から,列車が遅延すると,混雑不効用が大きく なることがわかる。 5 終わりに 自動改札機データと列車運行実績データから,旅客 の乗車した列車とその混雑度を推定し,個々の旅客がこ うむった不効用を推定するアルゴリズムを構築した。ま た,このアルゴリズムを現実のデータに適用して遅延の 影響に関する分析を行なった。 今後の課題として,乗 車列車推定アルゴリズムの高速化が挙げられる。
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