痔核の現在の治療 三菱神戸病院 外科担当科部長 出口 浩之 近代においては、痔疾患に対しては焼却、腐食、結紮、切除術などが行われ、様々 な術式の工夫がなされてきましたが、実際はつい最近まではその治療は切る手術一辺 倒であったように思われます。一般的に痔の手術は痛い、辛い、入院が長い、という悪 いイメージが強いと思われますが、それは事実であるばかりでなく、術後の疼痛や出血が なくなった以後も肛門の変形、狭窄、あるいは逆に肛門の弛緩などの後遺症が残ること も実はまれではありませんでした。そのうえ再発も比較的多く、より低侵襲でよりよい治療 効果のある方法が求められてきた歴史があります。 このような歴史を受け、痔核を切らずに治す方法として硬化療法という療法が確立さ れ、すでに平成 7 年より保険診療が認められています。保険診療が認められた当初は パオスクレーという硬化剤により治療が行われていました。これは主として出血に対して は非常にいい薬なのですが、効果の持続期間が短いことと脱出を伴う痔核には効果が ないことが欠点でした。そのため、ジオンという薬が開発され、この薬剤を痔核の至適な 部位に注入することで痔核組織と結合組織に無菌性炎症を起こすこし、その修復過程 における組織の退縮・硬化・牽引作用により出血性の痔核はもとより脱出する痔核にも 大変有効な治療効果を発揮します。何よりも術後の出血や疼痛がほとんどなく、当日か ら経口摂取、翌日から入浴も可能です。現在のところ当院では術前一日を含め、2泊3 日の入院スケジュールで治療を行っています。長年の外科臨床医の治療経験から、今 や痔の全体の7割は切らずに治る時代になったと思っています。なお、脱出や陥頓、壊 死を呈する痔核は準緊急的手術対象となり、従来と同様、手術治療が必要で、つまり 硬化療法の適応外となります。 以上簡単ではありますが痔核の現在の治療について紹介いたしました。痔疾患にお悩 みの方、あるいは痔以外の肛門に関する長年の懸案の症状をお持ちの方は一度外来 で診察させていただいたうえで、至適な治療法を提示いたします。きっとお役に立てると 思います。
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